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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第三章

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第2話 勇者、無関係な孔明を罵る パート1

倒す倒す倒す。

『ギャルォア!?』『ボグッ!?』『グゥェエエ!?』

「っ、宿れ翠緑『癒しの緑』」

 突っ込んだ魔物の群れを心剣で切り払いながら、放置するには多い傷は腰に吊るした【翠緑の晶剣】で治す。

(これじゃあ遅い、まだ、もっと早く……)

「はぁ、はぁ、はぁ」

 何度も魔物の体を裂き、貫き、切り飛ばす。

 こんなのはただのゲームと同じだ、敵を倒して経験値を稼ぐだけの単純作業。
 放課後に友達とやったゲームと何も違いはない。
 この勇者の体はレベルさえ上げれば馬鹿のような化物に作り替わっていくのだから。

 だから、一体でも多く経験値を手に入れたい。

 剣の振りが遅いから、腕の力が弱いから、身のこなしの速度が足りないから、俺はまだ、元の世界に……――。

「ガルウウゥ!!」

「づぁっ!? ぐっ、らぁあっ!!」

 ……余計な思考を混ぜすぎた。
 左の肩口を噛まれた痛みで自身に喝を入れ、再び戦闘への集中力を引き上げる。

 後ろ手を回すように体に食らいついているベイオガルムを切り裂いて緩んだ口から肩を話すと足でガルムの体を蹴り飛ばした。

『ガルゥウウウッ!!』『ギャウラッ!』『ガルガッ!!』

「ふぅー、まだ足りない。もっと強くならなきゃ、帰れない。宿れ森を守護せし翠緑の光膜『癒しの緑』」

 取り囲むようにこちらを睨む魔物の群れ。
 長い詠唱で消費魔力を抑えながら、【翠緑の晶剣】で噛まれた傷をある程度まで癒す。

「父さん、母さん、舞。絶対帰るから待ってろよ」

 丸袋から取り出したMPポーションを飲み乾し、細かい傷にHPポーションを振りかけて体力と一緒に回復させる。

 空き瓶を放り捨て、俺は目の前の魔物の群れに再び突っ込んでいった。


          ☆

 
 ベイオ・ガルムの群れを殲滅した俺は返り血をローブに付与された『クリーン』の魔法で綺麗にし、自分のステータスを確認していた。

「まだ、125レベルか」

 レベルが上がってきてからある程度の攻撃では怪我をしなくなった。
 それに加え、最大HPも、休憩することで回復する速度も上がってきているのでこうして夜な夜な魔物を狩るようなことをしても体力が持つ。

 このHP、思ったよりも複雑な数値のようで、怪我や毒などで削れるほか、体力を消耗しすぎたり病気になったりしても減っていく。
 おそらく、『これだけ喰らっても大丈夫』という数値ではなく、生命力のような総合的な生きる力を示したものにすぎないのだろう。

「休憩時間当たりの回復量がまた伸びてる、もう少し狩りのペースを上げるか」

 ファジー草の煎じ茶を飲みながら、ステータスを確認していると、その回復量が若干増えてきているのが分かる。

 ポーションでの回復は緩やかなものだし、大量に飲んだからと言って効果が増すものでもない。だから、時折普通に休憩して自然に回復するのを待たなければいけないのだが、これなら少し休憩を減らしてもっと回転率を上げていってもよさそうだ。
 戦闘中でも、ポーションの効果で回復は続くのだから。

 ポーションの在庫自体も、丸袋を手に入れてからは市場を困らせない程度に大量に確保してあるから問題ない。

(少し、疲れたな)

 俺のレベルはこの世界でも一流と呼べる。だが、それでも俺ぐらいの強さの人間はほかにもいて、そのレベルでは魔王を倒せないから俺が呼ばれたのだ。

 立ち上がった俺は一つため息を吐いて、いつまでこんなと、続きそうになる考えを振り払った。

 考えてもどうにもならないことを考える時間なんて俺にはない。ただ、強くなることだけが、今の俺が優先して時間を費やすべき事柄なのだから。

「早く次の魔物を探しに……っ、なっ!?」

 と、その時だ。

 地面が口を開く。
 まさにそんな表現がピッタリとあてはまるように地面に突然大きな穴が開いた。
 バッ、と手を伸ばすが穴は大きすぎてその縁に指の先さえかからない。

「うっ、おっ、ぁああぁあああああぁああっ!!」

 一瞬だけ時間が止まったような、そんな時間が引き伸ばされるような時間を味わった後、胃がせり上がるような浮遊感に抗う術もなく暗い地の底に吸い込まれた。

(マズイマズイマズイッ!!)

 耳元を空気が切る音がする。
 混乱する頭でとにかく足から落ちないと、と宙で体勢を整える。
 落ちていく先に遠く地面が見える。だが、ぐるぐると回る思考はそれ以上に益のある考えを生み出すことは出来ず、俺はとんでもない勢いのまま、地面に足をつくことになった。

「づぅぁあああぁああっ」

 ドッシーン!! と文字でも浮かんできそうな衝撃に全身が痺れる。
 反射的に落ちてきた穴を見上げるとはるか遠くに穴の入り口が見えた。
 その高さは、俺の世界での高層ビルを思い起こさせるほどの距離があった。

 しかも、その穴はまるで生きているかのようにゆっくりと小さくなっていく。
 そしてついには最初からそこに何もなかったかのように跡一つ残さずに消えてしまった。

「うぉおおおい、どうすんだこれ」

 予想外の出来事に呆然としたまま動くことができなかった。だが、状況はそんなことを許してはくれなかった。

「ギャルルァ!!」「ブモォオッ」

「っ!? なっ!!」

 耳に届いたのは魔物の唸り声。
 とっさに襲い掛かってきた魔物を切り付けて難を逃れ、周囲の状況を確認する。

 落ちてきた場所はコンクリートのような壁に囲まれた立方体だった。
 壁自体が軽く光を放っているようでその場はまるで昼間のような明るさを保っている。
 そして、周囲を魔物の群れが取り囲んでいた。それも、そこにいるのは俺にだけ敵意を向けているガルム種とオーク種の入り混じった群れ。

「まさか、ダンジョン、か? ぐっ!!」

 力任せに振るわれるオーク種の錆びの浮いた鉈を心剣で受けとめた腕にズンッ、と重い力がかかる。

 鍔迫り合いのようになった状態から力を剣の上を滑らせるようにして流してその首を切り裂く。

「ブラァァ……!!」

 ドシンッとオーク、おそらくはソルジャーオークが倒れるのを確認しつつ、周囲に視線を巡らせる。
 やはり、魔物の群れはガルム種とオーク種が仲違いもせずにただこちらにだけ敵意を向けている。
 それぞれ上位種はいるようだったが、他の魔物を完全に押さえつけられるような突出した上位種の存在は見受けられない。

 ここはダンジョンのようだった。

 この帝国に入るときに皇帝から修行に適した各地のダンジョンについて教えられている。だが、このあたりにはダンジョンはないはずだ。今向かっている場所にある迷宮都市のダンジョンが一番近いはずだった。
 つまり、ここは未発見のダンジョン。

「ガルラァ!!」「ギャルルァ!!」

「くっ!! 数が多すぎ……!!」

 襲い掛かってくる魔物は一体一体はそこまで強くなかった。直前まで戦っていた森の魔物よりも幾分かは上ではあったが、これぐらいなら今まで攻略してきたダンジョンの魔物たちとそう大差はない。
 だが、開けた場所で四方を取り囲まれたまま、この数を一人で相手にするのは厳しい。

 跳びかかってくる魔物をいなしながら、俺は逃げ道を探す。部屋には前後と向かって右の3方に通路の入り口があった。

(迷ったときは取りあえず右っ!!)

 元の世界で妹がよく言っていた言葉に従って右側の魔物を突破することを決める。

「ブロァアア!?」「ギャルゥ!!」「ガラァア!!」

「ぐっ、邪魔だどけっ!!」

 倒したオークの巨体を利用し、時に傷を負いながら魔物を払いのけて何とか包囲を突破して右側の通路へと飛び込んだ。
 そうなってしまえば特に怖いこともない。

「宿れ森を守護せし翠緑の光膜『癒しの緑』」

 詠唱することでMPの消費を抑えつつ、俺は襲ってくる魔物を死体の山へと変えていった。
 そのまま逃亡して挟み撃ちにでもなったら今度こそシャレにならないからだ。

 そうしてしばらく戦い続け、いい加減血の匂いで鼻が馬鹿になりそうになってきたころ、俺は魔物の群れを殲滅し終えた。

「はぁ、はぁ、ツイてない……」

 周りに魔物の気配がないことを確認して心剣をしまうと俺は少し休憩してから通路を歩き始めた。

 素材を回収していこうかとも思ったが、これだけの数の魔物を解体するのは疲れるし面倒だったのだ。

「しっかし、本格的に化物じみてきたなこの体」

 手首を回したりして体に異常がないか確認しながら歩いていく。
 一応、紐なしバンジーをリアルで実行したのだ。元の世界の常識なら一瞬でグロ画像に早変わりしてしまうのは確実な落下距離。
 しかし、骨折どころか捻挫もしていないようだった。

「まぁ、魔物と戦ってる時から分かってたけど、死ぬかも感覚は最初の頃のダンジョンボス戦以来だな」

 それでも、ダンジョンのボスと戦う前にはきちんと心の準備をする余裕がある。
 しかも、今回は不意打ちの上、魔物なんて非現実的な危機じゃなく、高所から落下。

 最近はレベルの低い弱い魔物の攻撃だと傷一つ負わず、その気になれば片手で大樹を引き抜けるほど力を出せるこの体があっても、咄嗟の時は元の世界で刷り込まれた常識が強く恐怖心を抱いた。

「元の世界に帰るころにはこれ以上の化物になってるんだよな……、気を付けないと」

 元の世界に戻ってもこの力を持ったままになるなら、何かの拍子にその欠片でも露見させてしまえば確実に大騒ぎになる。そんなのは御免だった。

「ってうおっ!?」

 ガコンッ、と音がして観音開きに床が端から端まで穴が開いた。
 だが、先程とは違いダンジョンだと警戒していたおかげで寸前に背後に飛びのいて避けることができた。

「こっちじゃなかったか」

 飛びのくとすぐにしまった落とし穴を見て、俺は元来た道を引き返す。
 元の場所に戻ってきて、またしても右の道を選んで進んでいく。

「ち、こっちも外れか」

 だが、再び選んだ道も落とし穴が設置されていた。こちらも直前に背後に飛びのいたので実害はなかったが、俺が離れると再び落とし穴は閉じてしまった。

 仕方がないので再び道を戻り、最後に残された方の通路を行く。嫌な予感を抱え、道を歩いていくのだが……、

「なんだこれ、クソ野郎かよ」

 嫌な予感は的中した。
 飛びのいた場所にガコンと大きな穴がまたしても開く。
 いきなりモンスターハウスにご招待の上、どこの通路を行っても巨大落とし穴とは。クソゲー決定である。

「まぁ今の俺なら助走をつければ飛び越えられるか」

 落とし穴が開いた距離は10メートル近い距離があった。跳べれば世界新記録どころの話ではないが、今の俺なら特に問題はない。

「誰が落とし穴になんて落ちてやるかよ。せーのっ!!」

 ダッ!! と勢いよく落とし穴の手前でジャンプしたのだが、そろそろ落とし穴を飛び越えられるかといったところで何かに宙で激突した。

「がっ!?」

(壁ッ!? コレッまさか絵か!?)

 予想外の事態にまたしても余裕が奪われる。

(とにかく壁を蹴って離脱を……っ!!)

「んなっ!?」

 だが、それよりも早くまるでこちらの行動を読んでいるかのように俺の頭上にハエタタキのような物が現れ、振り下ろされる。

「こっ」

 どう考えても避けられるタイミングではなく、俺は負け惜しみとばかりやり場のない怒りを叫ぶしかなかった。

「こうぅううめめぇええええええええっ!!」

 咄嗟に出てきた全く関係のない偉人への風評被害な叫び声とともに、俺は再び穴の底に落ちて言った。
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