挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

閑章

64/117

第1話 勇者、熱烈な自己弁護をする

「…………」

 エルミアを離れ、シュリアの故郷からも離れた俺たちは次の目的地へ向けて旅を続けていた。今はちょうど日も暮れてきたので野営の準備をしている所だ。

 エルミアの町ではユーミスの屋敷から装備品以外にも色々と道具を拝借してきている。
 魔物避け・生物感知の結界具も拝借してきたので、今はもう夜の見張りをするために罰ゲームのようなあのファジー草を飲む必要もない。

「あの……、ご主人様」

「ん? なんだ?」

「あっ、いえ、何でもないです」

「そうか」

 何かを言いかけたミナリスが口を閉じる。
 このところ、こんな会話が増えている。理由は分かっている。

 俺がグレンとのことを、いや、正確にはレティシアのことを何も話していないからだ。

 俺の記憶を全てではなくとも持っているミナリス達も、グレンの、というよりレティシアについての断片的な知識は知っているだろうが、共有した記憶はあくまで復讐に関係する怒りの記憶。

 一応、アイツ(・・・)のこともあるから、ある程度の情報は伝わっているだろうが、レティシアとの記憶の大部分はこの世界で心から笑っていた記憶だ。つまり、そう言った記憶についてはほとんど伝わっていないだろう。

 二人も、特に隠してもいないのでレティシアのことを俺が大切に思っていることも知っているだろうし、二人とも復讐の共犯者とはいえ、年頃の女の子だ。いわゆる人の恋バナのようなものに興味があるのは妹様がそうだったので知っている。
 ミナリスもシュリアも基本的に純粋でいい子なので、この二度目の世界でまず結ばれることが無いレティシアとの記憶について聞きだすのはためらっているのだろう。
 それでも、今後の復讐に知っておいた方がいい情報もあるだろうことも確かなので、結果、ミナリスとこのような会話が増えているのだ。

 ただ、それを分かっていながら話をしていないのは、どうにも恥ずかしさが立って自分からは切り出せずにいたからだ。

 ヘタレというなかれ、だって面と向かって好きだった、いや、好きな人との出会いの話とか恥ずかしいでしょうよ。しかも、恋人だとか夫婦だとか、そういう関係にしっかりとなったわけでもなかったし。
 さらに言えば、直接聞かれたわけでもないのに、自分からいきなり語り出すとかどうよ? しかも、好きあっていたとは思うけど、精々キスどまりだったし……。
 あとやっぱり恥ずかしいし。

 ……あっ、違うぞっ、そういう意味でもヘタレじゃないしっ!! ただ本当にタイミングが悪かったんだよっ、そういう関係になる前に色々起こっちゃったせいだっ、俺はヘタレじゃないっ!!

「今日はあったかいシチューとか食べたいのです。お肉たっぷりだとうれしいのです」

 俺が胸中で誰とも知れない相手に熱い自己弁護を重ねていると、シュリアはその空気を変えるように言った。

 ……でもまぁ、そろそろ潮時だろう。

「そうだな。折角だから、さっき狩った『グレイトフル・ボア』の肉を使ったシチューにするか。今日の晩飯は俺が作るよ」

「え? ご、ご主人様がですか? おっしゃっていただければ私がおつくりします。そ、それとも、その」

「いや、別にミナリスから料理番の役目を奪ったりしないから涙目になるなって。ただ、この料理は俺が作りたいんだよ」

 少し涙目になるミナリスの頭をポンポンとなでる。
 どうにもミナリスは、自分の作る料理にアイデンティティを抱えてるみたいだ。ミナリスの料理は美味いし、別にいいけど。

 俺は鍋と携帯かまどを取り出すと、いくつかの野菜と水を用意する。
 それから解体して丸袋にしまっていた『グレイトフル・ボア』の肉を心剣で骨ごと裁断し入れる。
 こいつはまずい肉ばかりのボア種の肉の中、他を寄せ付けないほど圧倒的にマズイ肉だった。それも火を通すとどんどん筋張って固くなり、旨みが消える。

 それを知っているのか、ミナリスは少しオロオロとしている。だが、実はこの肉には秘密があり、骨ごとぶつ切りにし、早摘みのリコルの果実酒と一緒に煮込むと全く別物と言っていい肉に化ける。
 そのネタばらしは微妙に困ってるミナリスの姿が面白いので後にすることにしよう。

 そして最後に幾つかの調味料と件の果実酒をいれた。

「あとは煮込むだけだ。まぁミナリスの料理と比べられるようなもんじゃなくて悪いが……。さて、出来上がるまでちょっとの間、俺の話聞いてくれるか? レティシアの話だ」

「そ、それは、……はい」「シュリアも聞きたいのです」

 二人とも少しためらいながらも確かに頷いた。

 いつまでもウジウジとしているわけにもいかない。届かず失ってしまった日々を思えば今もまだ少し胸が疼くが、こんな調子ではまたアイツに『情けないやつじゃの』とからかうように笑われるだろう。

「と言っても、まぁ、そんなに話すようなこともないんだけどな、あの火炎竜の子供、グレンはそうだな、レティシアのペットみたいなもんだ。俺に会うより少し早くレティシアが拾ったとか言っていたけど、あの様子だとまだレティシアと出会ってはいないみたいだったな」

 正直、グレンについて話せることはほとんどこんなものでしかない。具体的な能力については記憶の中で見ているだろう。

 だから、二人が知りたがっているのは俺の中で、この世界で唯一の優しい記憶。

 後になればなるほど、レティシアとの記憶には余計なものが混じり始める。だから、レティシアのことを話すなら、初めて会った時のことを話すことにしよう。

 それなら、話し出すのはきっとこんな日がいい。

「俺がレティシアと出会ったのもこんな良く晴れた一日の終わりのことだったよ。この世界に来てだいたい一年が経とうとしていた頃、帝国北部、獣国との国境の境目付近の僻地を旅しててな。あの頃はまだ、この世界で言う平均的なAランク冒険者の端に掛かるかってぐらいの力しか持ってなかった。そりゃ、奥の手の一つや二つはあったが、正直大手を振っていられるほどの力もなかったから、表に出ないようにして力を溜めてた」

 王都近くのダンジョンをクリアし、エルミアの町で大量のアンデッドを撃退した後。
 帝王の協力を得て、帝国に設置された伝説級のアーティファクト『転移門』を利用して旅路を大幅に省略しながら、色々なダンジョンを回っていた。
 そしてその頃の俺は溜め込んでいた望郷の念や、色々な不安を発散できず、けれど見ないフリをして過ごすのにも限界が来ていた。
 そしてそんな不安をかき消したくて、どうしようもなく焦りまくって無茶なレベリングを繰り返していた。

 俺はその頃のことを思い出しながら、グルグルと鍋をかき混ぜて語りだす。

「あの頃の俺はどうしようもなく、この世界にいることが苦痛だった。なんで俺がと何度も思った。勇者っていう役割に興奮したことも、まだ大切な仲間で友人だと思っていた仲間や、この世界で知り合った人を守りたいと思っていた気持ちも嘘じゃない」

 けど、と俺はあの頃に感じていた感覚を思い出しながら言葉を続ける。

「確かにそれも嘘じゃなかった。ただ、それだけで誤魔化すのは限界に近かったんだ。召喚されてから一年、ゲーム感覚の、理由のない希望じゃ不安を押し殺せなくなって来てた」

 ゲームや漫画や小説で異世界に行き冒険をする主人公を何人も見てきた。
 だから、そういうものに親しんできたからこそ、ここはゲームの世界だと、そんな風にしか感じられなかった。
 いや、正確にはゲームの世界だと思おうとしていたのだろう。

 だって、ゲームの世界にはきちんとクリアの方法が作られているから。

 勇者だのなんだのと煽てられたところで、いつ元の世界に帰れるのかなんてわからない。普通に考えればわかることだ。魔族だの魔王だのと言っても、国の対応を見ればその実態は一つの国であることぐらいは分かる。

 たった数人で一つの国を、その王様を倒す。
 元の世界じゃ絶対にできるわけがない、そんなの子供でも分かる。

 俺にはまるで、一匹だけで虫かごに押し込められたセミのような気持ちだった。
 時間が経てば経つほど、俺の人生を丸ごと、閉じ込められて吸い殺されているような気がして。

 だから、あの頃はただその虫かごから逃げ出せるだけの力を求めて焦っていた。

 何も考えないように、何も気付かないように、絶望しないで済むように。
 いつか帰れる日まで、心が折れずに済むように。

 無意識の底で、俺はこの世界がゲームであることを望んでいた。それが俺にできる精一杯の防衛手段だった。
 けど、一年も過ごせばここがゲームの世界じゃないことぐらい、嫌でも思い知らされる。
 殺し殺されが当たり前にある空気の中で、俺は技術を磨いていたのだから、いつまでもゲーム感覚でなんていられるはずもない。

「とにかく、強くなりたかった。少しでも早く強くなって、魔王を倒して、元の世界に帰りたかった。だからあの日も、俺は夜に一人パーティを抜け出して魔物を狩っていたんだ」

 街に着けば鍛錬、旅をしている間は魔物が出ることを願い、ダンジョンにたどり着けばただひたすらに戦闘を行い、パーティが寝静まれば一人で狩りを行う。

 休みの時間を削って。
 食事の時間を削って。
 睡眠の時間を削って。

 頑強になった体をいいことに、人間らしいことを極限までそぎ落としながら、そんなことをただ繰り返す毎日。

 そのくせ、困っている人を見れば黙って見過ごすことができないくせに、助けるためにかけた時間に後になって焦りを覚える。

 自分の中があちこち矛盾だらけになっていく日々。
 勇者としての人助けと、強くなるということのために自分を削り落としていく日々。

「そんなときにさ、何の脈絡もないほど突然に地面に穴が開いて地の底まで真っ逆さま。場所は未発見のダンジョン、まぁ人を小馬鹿にした性格の悪いダンジョンだったよ、俺がレティシアと出会ったのはその時だ」

 きっと、それが俺にとって、この世界が本当に始まった日だった。
 この世界に殺されているんじゃなくて、この世界で生きているんだと考えられるようになれた、その分岐点。

「今、シュリアが着ている服は『着物』って言うんだが、それ、俺が元いた世界の、俺が生まれた国の民族衣装なんだよ」

「この服がなのです?」

 シュリアが服の腕の袖をぴらぴらと揺らす。

「そうだ。初めて会った時のレティシアも細部はだいぶ違うが似たような恰好をしててな。俺はそれを見て驚いて目を丸くしてたよ、あの頃はこの世界にも着物が広まってるなんて事すら知らなかったからな」

 俺は、あいつと、レティシアと初めて出会った日のことを思って、心に暖かさと羨望の痛みがよぎるの感じながら、努めて冷静に話し始めるのだった。
  
今章は前半の内は海人くんの回想が主になります。
裏切られる前の基本的に善良型の海人くんになります。

復讐パートをお望みな方はしばらく退屈かもしれませんが、ここで入れないと入れるところがないのでご容赦ください。
それから、色々伏線もあるので、あまり読み飛ばしはお勧めしないです。回収できるのは予定ではだいぶ先になりそうですが。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ