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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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閑話 勇者の知らぬ間に予約された修羅場と強固になる包囲網

それは、ご主人様がシュリアを連れて帰ったきた日。
私はやれることもなかったなのですっかりと慣れた宿の調理場で夕食の用意をしながら二人を待っていました。

「お帰りなさいませ、ご主人様、それから初めましてですね、シュリア」

「はじめましてなのです。ミナリスさんですよね?」

 そんな挨拶を交わして、私とシュリアは最初の挨拶を笑顔で交わしました。こちらの意図が全く伝わっていないわけではなさそうな様子ですが、それでも目を逸らしたりなんてことはしません。
 話に聞いていたよりもずっと強かな印象ですね、裏切られた経験が彼女を変えたのでしょうか。

ただ、エルフの先祖返りと聞いていたのですが、この肌の色はどういうことなんでしょう。確かに耳はエルフと同じものなのですが、エルフの肌は誰もが透き通るような白さを誇ると聞きます。それともその先祖返りというのが関係しているのでしょうか?

……いえ、違いますね。ご主人様経由で伝わってきた記憶の中では確かに白い肌をしていたようですから、あの後にさらに何かあったということなのでしょう。

 そんな思考を巡らせる私とシュリアの間にチリチリと走る火花に、ご主人様は気付かないようで、『うまくやれそうでよかったよ』などと微妙に的外れなことを言っています。
少し毒気を抜かれそうになりながら、最近はそう言う鈍感な所まで可愛く見え始めて困ります。

「それでは、まずは夕食にしましょうか。用意は出来ていますから」

 私はそうご主人様とシュリアに提案した。
初戦は引き分けというところでしょうか。


           ☆


 その後、全員お腹を空かせていたのでまずはご飯にして、今日は早めに休んで細かい話は翌日にするということなりました。
ご主人様は快適な睡眠にかなりの執着があるようで、最初に奮発して泊まっていた宿に居続けることになりました。
シュリアも増えるので、ちょうど空きがあった部屋に広い四人部屋に移りました。どうせ明日には町を離れる計画でしたので、最後の贅沢だそうです。

私は同じベッドで寝ますと進言しましたが、『それだとベッドが狭いだろうがッ!!』と激しい顔で一喝されてしまいました。
微妙に顔を赤らめていたので、私と寝ることが嫌というわけでもなさそうでしたが、それ以上に広いベットでのびのびと寝たいという心情が伝わってきました。
たしかに、一人用のベッドで二人で寝れば、満足に寝返りを打つ幅もなさそうです。

うぅ、本気で怒っているわけではないのは分かりましたが、初めてご主人様に叱られました。
最後に『やっぱり睡眠に関することだけは絶対に譲らん、贅沢と言われても譲らん』とまで言っていました。ご主人様のお心を測りそこねた私の失敗です。猛省しないといけません。

しっかりとした女アピールは、これだと踏み込み過ぎているみたいです。甘やかすだけだと男が逃げると教えてくれた冒険者のお姉さん、どうか加減を教えてください。そんなことはないとわかっていても、ご主人様に嫌われるのだけは絶対に嫌です。

そういうわけで、ご主人様は今安らかで無防備な顔をして寝ています。でも、だからといってちょっと邪なだけの純粋な思いを持って触れようとしたり、悪意や敵意を持って近づこうとすると目を覚ましてしまうのです。
色々とチャンスそうに見えて全く隙が無くて、色々ともだえる日々です。

 いつもなら明日に疲れが出ない程度に、気配を殺して触れずにたっぷりとその顔を焼き付けてから眠るのですが、残念ながら今日は他に用事があります。

「……行きましょうか」

「……はいです」

 夜が深くなり、町のすべてが寝静まったころ、ゆっくりと起き上がった私たちは互いに静かに頷いて部屋を出ました。

シュリアの話についてはご主人様にあらかじめ聞いていました。そして、ご主人様を通じて、私の中にもシュリアの記憶と感情が流れ込んできて。

胸の中を掻き裂く暗い憎悪。
それは確かに、今私の中にあるものと比べて遜色のないほど強いもの。

 だから、共犯者として彼女を迎えることに異論はありません。異論はありませんが、初めて直接会ってみれば色々と、お話をする必要があるのはすぐにわかりました。
向こうも同じことを思っていたようです。

あれだけのことがあった日の夜にやるのは酷じゃないかという意識もありましたが、その目を見た瞬間にそれが杞憂だというのも分かりました。

だって、そこにあるのは疲労感なんてものではなく、ただこれからのことを考えている光でしたから。
 肉体的な疲労はまた別なので、眠ってしまう様ならまた今度にと思いましたが、幸いそういった様子は見受けられませんでした。

外に出ると、半分に欠けた月が昇っています。冷えた夜の空気は少し肌寒く感じました。

「さて、私はこういう場の経験がないので何を話せばいいのかよく分からないのですが……」

「そんなの、シュリアも同じなのです。修羅場の経験が何度もあるのなんて自慢にならないのです」

「私は一応、それっぽいのが原因で、ご主人様の下にたどり着くことになりましたけれどね」

 ご主人様のことを考えると、クスッと思わず笑いが漏れる。

「まぁ、だからといって許す気なんてかけらも起きませんが」

「当たり前なのですよ、それとこれとは別の話なのです。それに、あれは修羅場とは言わないのですよ、どうしようもない下衆共に優しさを踏みにじられただけなのです。修羅場はもっと純粋な思い同士のぶつかり合いなのです、『愛の舞踊場』でも『男爵一家と花の園』でも……」

「ち、近いです近いです」

 ふんすっ、と何か微妙に違った方向の怒りを見せながら寄ってくる。ご主人様に聞いていたよりもずっと、感情だけでなく表情が豊かに動いている。これもご主人様から聞いた悪魔の魔力の影響なのでしょうか。

「それに、今回のコレも、修羅場とはちょっと違うと思うです。こんな感情で向かい合う修羅場とかありえないのですよ」

「それはまぁ、確かにそうですね」

 これは、修羅場というよりもちょっとしたルール確認の場なのですから。
だって、どちらも離れられず、どちらも害を与えられなくて、どちらも気持ちを消せない。

なにより、自分の世界に裏切られて復讐を誓った私たちが、唯一本当に互いの傷に寄り添える大切な共犯者を傷つけることなんて出来るわけがない。

 だったらもう、後は一緒に手を組むしかないでしょう。直接会うまでは『誰も彼もがご主人様に惚れるわけじゃない』という希望を持ってましたが、まぁ、無理ですよね。

渇望を満たす力を与えてくれた相手で、世界で初めて救ってくれた相手で、復讐を共有してくれる相手。

そんなの、惹かれないわけがないのですから。

(まぁもしはっきりと惹かれていなくても、仲間外れなんて絶対に嫌ですし、戦力を増強する意味でも無理やりにでもこちらの方でも共犯者にしてしまうつもりでしたけどね)

 なぜなら、シュリアを相手にするよりもずっと意識しなければいけない相手が私たちにはいるのだから。

「とりあえず、当面相手にするべきライバルは……」

「あの、魔王さんなのです。ズルいのです、一度目からの積み重ねなんて」

 シュリアは小さく口を突き出してわかりやすく拗ねる。

「大丈夫です、以前村に来た冒険者のお姉さんが言っていました。『所詮は遠くにいる女より身近にいる女を男は選ぶ』って」

「なのですなのです! 色仕掛けで落とすのです。メロメロにしてしまえばいいのです。男なんて結局体が目当てだって書いてあったのです!」

「それとなくしないと駄目ですよ。露骨すぎるとご主人様は絶対に拒絶してきます。そして、一度拒絶されるとそこから抜け出すのが大変になるそうです。あくまでさり気なく、少しずつハードルを引き下げて行きましょう」

「さり気なく……、そういえば、本の中でも露骨に男を誘っている女の人は相手にされないことが多かったのです」

「取りあえず目標はいきなり意味もなく抱き付いても振り払われないレベルを目指しましょう。なんだかんだ言いつつも、やっぱりご主人様も男ですから、体のアピールも有効です。あとはMP酔いをうまく利用するんです、本気で嫌がっているわけではないので、ご主人様が『仕方ない』と思える理由があればイケます」

 そう、これは確認済みです。MP酔いのフリをして迫れば邪険に扱われても本気で拒絶はされません。
本当に不快なだけならともかく、嫌がるそぶりを見せながらもちょっと顔が赤くなったりして、初心な所も本当にかわいいのです。あれは本当に卑怯だと思います。

「ぐ、具体的にはなにをするです……?」

「それはその、こう、ハプニングに見せかけて胸を押し付けたり、MP酔いのフリをしてキスをねだったり、……」

「わっ、わわっ、む、胸、それに、き、キス……。うぅ~、ううう~!!」

 ボンッ、と褐色の肌を真っ赤に染めてシュリアが照れる。なんでしょう、この子、かわいいですね。
ですが、これではこちらの共犯者としては少し頼りないですね。ちゃんと調きょ……いえ、教育しましょう。

「そのくらいで顔を赤くしてはいけませんよ。ご主人様がレティシアさんとのことに踏ん切りをつけて、それを癒す時にはもっともっと大胆なことをするんですから」

それに、こうして仕込む側に回れば、それとなく精神的に有利に立て……。

「そ、そうなのです。その時には××××に××××してもらったり、××××を××××で××××したりするのですっ」

「!?」

 耳から聞こえてきた言葉に息が詰まった。

「ああ、縄とか鞭とかろうそくとかで責められるのも……」

「!?!?」

「じ、実はシュリア、今日ご主人様に試された時に足で踏みつけられたのですけど、その、目覚めちゃったみたいなのです。思い出すだけでドキドキして来るのです」

「!?!?!?」

 テレテレと恥じらいながら告げるシュリアに、お仕事ですよー、と『鉄面皮』のスキルを呼ぶ。

 ど、どうしましょう、この子、私よりずっと闇が深いです。い、いえ、愛では負けていないのでそれをご主人様が望まれるのなら受け入れる勇気はあります。

「ご主人様はきっとSの才能があるです。ああいうタイプは本性をむき出しにしたベッドの上では野獣になるのです」

「そ、そうなのですか?」

 確かに、たまに感じる性的な視線はゾクッ、とするような鋭さと野生を感じたような気が……。

「間違いないと思うです! 最初から予定してた演技でもあそこまで板につくわけないのです!! 絶対、ぜぇーったいそっちの素質があるのですよっ!!」

「そ、そう言われると確かにそんな気も……」

 そう言われて思い返す。
 普段は紳士的なご主人様なのですが、たまに私の失敗をからかうときには本当に楽しそうに笑っています。
復讐をしている時とはまた質の違う、悪戯を楽しむような笑みもまたゾクゾクとしたりしてましたけど、まさか……。

(って、い、いけません。主導権を取るつもりが……)

「と、とりあえず、今日はここまでにしましょう。明日からは色々動き出しますから、この話はそれが終わってからにしましょう」

「え? は、はいなのです!!」

 私は再び宿の中へと戻ります。
これは、逃げたのではありません、戦略的撤退です。

 
            ☆


 以後、海人の目を盗んでは、シュリアがユーミスの屋敷から密かに持ち出していた『教材』による勉強会が開かれることとなった。
 ミナリスとシュリアのレベルは着々と上がっている。
本編の間には突っ込めなかったけど、書きたかった。
誰になんと言われようと書きたかったんだ……!!(迫真
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