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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第2章 エピローグ


その日、エルミアの町は日が昇る前から上を下への大騒ぎだった。

それも仕方がない話だった。町の要ともいうべき研究施設が根こそぎ吹き飛び、必死に火を消し止めてみれば跡地からはアンデッドの群れがが這い出して来る。

魔物の中でも、完全に生態系の外にいるアンデッドを見たことのあるものは案外少ない。そのため、町は一気にパニックに陥った。

それでも、直前の爆発で町のほとんどの人間が起きていたこともあり、アンデッドに極めて有効な神聖魔法や光属性の魔法を扱える教会の術者や、冒険者や領兵がすぐさま事態の鎮静化に当たったため、起こった災害に対し、人的被害は驚くほど少なく済んだ。

魔道具の研究施設が吹き飛んだことによる町全体の損失はその比ではなかったが、この上死者まで大量に出ていたら本当に取り返しのつかない損害を町は被ることになっていただろう。

事態が終息した後、この騒動に何一つ動かなかった領主一家の屋敷にはエルミアの町の行政を担当している人間が押し掛けたが、当主とその妻は王都から長いこと町に帰ってはいない。
代理として街を治めていたエルミア家の一人娘・ユーミスの個人邸宅にも人が群がったが、本人どころか使用人も含めてもぬけの殻。

 エルミアの町は、王都へと事態の説明と対応を求める使者を立て、怪我人の治療や、研究所跡地の浄化など忙しく動き回ることとなった。

 それから数日。

爆発したのがユーミスが直轄している研究所であること。
そこから大量のアンデッドが湧きだしたこと。
領主代理であるユーミスが失踪したまま姿を見せないこと。

この3つの事実から、町にはこんなうわさが流れていた。
いわく、『エルミアの領主代理のユーミスは、魔道具開発に夢中になるあまり、違法な人体実験を秘密裏に行わせていた。そのことに怒った神が研究所を焼き尽くし、犠牲となったアンデッドを解き放って戒めとした。ユーミスが使用人もろとも失踪したのは、使用人も実験の材料とし、自身は爆発に巻き込まれて吹き飛んでしまったからだ』という物だった。

そのほか、ユーミス洗脳説、ユーミス魔族説、魔道具の暴走説などなど、尾ひれを大量につけながら熱の醒めない噂は町をめぐっていく。


          ☆


あちこちでいろんな噂を流してやったら、しばらくして帰ってくるころには、さらにいろんな尾ひれがついて手元に戻ってきた。
人間の想像力とは本当にたくましいものである。

ちなみに俺としては『ユーミス、魔族のそっくりさんと入れ替わられて本人は殺されていた説』が面白かった。

 そして、混乱する街を一通り眺めて満足した俺たちはそのまま町を後にした。

 それから4日、俺たちはシュリアの暮らしていた村へとやってきていた。
転移陣は時間経過で魔力切れと共に自壊するようになっていたため、全てのアンデットが町へと転移したわけではない。
放っておいてエルミアの町が襲われることになっても勝手にやってくれという感じだが、シュリアの村がそれでアンデッドの巣窟と化すのはしのびない。

俺たちは村の周囲のアンデッドを掃討し、今は村の跡地に3人で佇んでいた。

「不思議な気分なのです。たった3年で、こんな風になってしまうなんて……」

 シュリアの村は最初はユーミスの兵士たちに、その後は人ならざる者たちに荒らされ、数年前まで普通の村だったとは思えないような有様と化していた。

その有様は、一度目の世界で数年後に訪れた時に見たものと何も変わらなかった。
 いや、時間経過で発散されていくはずの負の魔力が鮮明な分、今の方が悪いかもしれない。

「アンデッドの負の魔力は物の劣化を早めるからな」

「それじゃあ、せっかく置いたこの墓標もすぐにボロボロになっちゃうです?」

 村の跡地とも呼べるような場所の中心、そこには俺たちが用意した石の墓標が置かれている。墓標と言ってもその下に誰かが埋まっているわけでもないが、その周囲にはまばらながら紫色の花が咲いている。
シュリアがここで育てていたという、あの花だ。

そのシュリアはその墓標の前でしゃがみ込んでこちらを見上げている。

「いや、周囲のアンデッドは全部駆逐したし、ここらに漂っている魔力も少しずつ拡散していくから安心しろ」

「そうですか、よかったなのです」

 返事をするシュリアは丈の短い着物のような服を着ていた。派手すぎない程度の花柄と、濃紫から紅に徐々に色合いが変わるそれは妖艶な雰囲気を身に付けたシュリアによく似合っていた。元の世界の服装で言い表すならミニスカ振袖という言葉が似合いそうだった。
下ろしていた髪は花の髪飾りでサイドポニーにまとめている。

どさくさ紛れにユーミスの家から拝借してきたもので、魔力を注ぐことで防護膜を生み出す魔法が付与されている。
他にも、『自動着脱』『自動サイズ調整』『体温保持』『認識ズラシ(タイプ・人間)』が付与されていた。最後の一つは、シュリアの本当の姿を知らないもの、知っていてもシュリアだと知らない相手にその姿を典型的な人族の姿に見せかけるというものだった。
ミナリスが昔使っていた幻術魔法と似たような魔道具だ。

おそらく獣人や亜人などの愛妾を堂々と囲うためにエルミア家が開発していたのだろう。
和服も十分目立つが、褐色肌のエルフよりはずっとマシなので見つけた時にこれ一択となった。能力の関係上、シュリアには直接接近して戦闘することはほぼないだろうし、幸い、素材がいいのでそこらの金属鎧よりも防御力にも長けている。

俺とミナリスも装備を一新した。さすがは領主一家だけあっていいものが倉庫の中でホコリをかぶっていた。
武器屋のオヤジの装備も悪くはないが、さすがに素材の格が違いすぎる。
 なのだが……、領主の家に保管されていた数あるよろしい装備の中で、ミナリスが選んだのはなぜかフリフリなメイド服(・・・・)だった。

 ヘッドドレスから立ち上がるウサ耳と、下ろしていた髪を頭の高い位置でくくったポニーテール。

 全身にフリルをあしらいつつ、大きさを強調するかのように胸の谷間を強調するデザイン。

 ある種、メイドらしい清楚さと、男の情欲を誘う色気をギリギリで両立させる製作者の腕は見事だった。

 もちろんただのメイド服ではない。鑑定を掛けてみれば『防御力上昇』『敏捷力上昇』『魔力増強』『気配隠蔽補助』『感知系能力補助』『伸縮自在』『着衣形態変更』『体温保持』と、ただ目立つからやめろとは言い辛い性能を持っていた。なぜメイド服なのか本当に意味がわからない。

素の防御力だけでもそこらの金属鎧どころではないものがあるし、なかなかお目にかかれるレベルの装備ではないため、最後には認めざるを得なかった。

シュリアの装備もミナリスの装備も、ファンタジーの七不思議であるビキニアーマーと並ぶ謎仕様だが、存在しているのだからしょうがない。
一度目の世界でもいくつかこの手のものがあったのでもう慣れたが、やはりあれが金属鎧以上に防御力に秀でているとか、解せん。

俺の方はというと、そこそこ質の良い普通の皮鎧に装備を更新した。
良い装備はまだあったが、俺は自分の装備に当てがある。装備はそこまでのつなぎで構わない。
それに、他に残されていた男物の装備が装飾の多い貴族感丸出しな金属鎧ばかりだった。重量はともかく、動きを阻害されるような鎧など邪魔なだけだ。見た目的にもとても遠慮したい。

「それで、もういいんですか?」

「はい、大丈夫なのです。いつまでもこうしていても仕方がないのです」

 静かに立ち上がったシュリアはミナリスの言葉にコクリと頷く。

「…………」

「どうかしたのか? ミナリス」

「いえ、その、シュリアには申し訳ありませんが、この町を見て私の村のことを思い出しまして……。あのゴミクズ共の村はこれよりずっと悲惨な場所に変えようと思ったら、こう、なんと言うか色々湧き上がってきちゃいまして」

少しだけバツが悪いような、それでいて思い浮かべる想像に愉悦を湛えた表情。
小さく口角を上げたその顔は色気にも似た暗さが宿っている。

「ふふっ、別に気にしないのです。シュリアが大切なのはこの場所だけ。この場所に生きてきた人たちだけなのです。シュリアの大切な人たちをあんなゴミ虫と重ねてみることなんて絶対にないのです」

 だから、とシュリアは続ける。

「ミナリスさんの復讐も、ずっとずぅっと凄いものにするです。当然、シュリアも協力するのです」

 そう言って笑うシュリアはミナリスともまた少し違った情婦が誘うような蠱惑的な笑みを浮かべている。

あぁ、何とも美しく、頼もしい共犯者たちだろうか。

「…………俺も、釣り合えるくらいの人間にならないとな」

まずはユーミスを殺した。恋い焦がれるほど望んだ復讐の蜜はただただ甘かった。

でも、まだ始まったばかりなのだ。
やっと1人目。まだまだ復讐する相手は残されている。

 もっともっと陰惨に。
もっともっと残忍に。
もっともっと兇悪に。

「ご主人様? どうされたのですか?」

「海人様、笑ってるです」

「ん、何でもないよ。さて、そろそろ行くか」

 自然と吊り上がる口の端。

さぁ、次はどんな復讐にしようか。
まだまだ腹を空かせた復讐の火の手は、衰えることなく燃え盛っている。

そう、まだ何人もこの世界に野放しにされている屑共が居るのだ。

そいつらはまだ、俺たちがいる地獄のことすら知らず、きっとのうのうと笑って生きている。

「んーっ、今日もいい天気だ。あ、いいこと思いついた。乾燥した熱い部屋で生きながら干物みたいにしてやるのとかどうだ? そんでさ、限界になった時に空の水差しを差し出してやるんだ」

「ご主人様、でしたら毒だと分からせた上で忍耐力を試すのはどうでしょう」

「あ、シュリアはそれよりしばらくは家畜の糞便を先に用意して、慣れさせておくのはどうかと思うです。それをありがたがるくらいまで……」

太陽は燦燦と降り注いでいる。
今日もまた、絶好の復讐日和だ。

『ギャルルォオオオオオオオッ!!』

と、その時だ。
遠く、上空から大きな影が飛んでくる。

「「「っ!!」」」

 不意に感じる強大な魔力とその鳴き声に、バッと空を見上げた先にあるのは、赤い鱗と翼の巨躯を持つ正真正銘の怪物の姿。

異世界においてその威容を持って君臨する種族。

――――ドラゴンだ。

「あれ、は……」

「ご主人様?」「カイト様?」

 警戒するミナリスとシュリアの怪訝な声に、俺は反応することができなかった。

「グレン……」

 近づくほど、その姿はより明確になる。
 それは、レティシアがいつも連れていた子供の火炎竜の名前。普段はドラゴンパピーの姿でいつも楽し気にレティシアの頭や肩に乗っていた。

「っ!!」

 居てもたってもいられず、俺は天駆で空を駆けた。

『ギャルォオ?』

「あっ……」

 そうしてドラゴンの、グレンの前まで来て、やっと我に返る。
俺は何をしようとしているのか。

唐突に表れた俺を、グレンは胡乱気に見る。
 グレンがレティシアに出会うことになるのはまだもうすこし先のことのはずだ。
それ以前に、レティシアを救えず、ただ助けられただけの俺を、グレンは決して許したりはしないだろう。

『ギャルッ!!』

「っ!!」

 グレンは俺をただの邪魔ものと判断したのか、その口に火の粉を散らす。
それはドラゴン特有のスキル・ブレスの前動作。

 グレンを傷つけることも出来ない俺はとっさに防御の構えを取ろうとした、その時だ。

『ギャルゥ!?』

「なっ!?」

 パァアアアアッ、と強烈な光が俺の胸元から輝きだす。

目が眩むほどの光が視界を覆い尽くし、俺の体から何かが抜ける感覚がよぎる。

「あっ、何……」

 それは、何か途方もない喪失感。

抜けたナニカはその光を放ちながら、グレンの体へと吸い込まれて行った。

『ギャッ!? ギャルゥ!?』

「な、何が……?」

 何が起きたのか分からず、混乱する俺よりもグレンの方がずっと混乱しているようだった。

そうして、『グルルルルゥゥ……』と唸り声を上げたグレンは一度俺を睨みつけると、そのミスリルの剣さえも弾くという硬い鱗で覆われた尻尾を叩きつけてきた。

「くっ!?」

 とっさに作り出した【始まりの心剣】でガードしたが、重量差と勢いに押され、天駆の足場から吹っ飛ばされる。

地面に激突する前に体勢に立て直すが、内心では大焦りしていた。
今の一撃で両手が痺れて回復までに数秒かかる。

だが、俺のその隙をつくことはなく、グレンは不満げに一つ息を吹いて飛び去って行った。

「…………」

「ご主人様っ!!」「カイト様っ!!」

 ミナリスとシュリアが駆け寄ってくる。
けれど、俺はただ、飛び去るグレンを眺めていることしかできなかった。

ということで、2章完結しました!!

みなさんの応援のおかげでやっとここまできました!
話の筋はできているのに、なんで実際に書くとこんなに時間がかかるのでしょうね、不思議です。

海人くんの復讐はまだまだ続くので、お楽しみにしていてください!
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