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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第6話 勇者、チンピラを苛める

 石の蓋を押し上げてどかし、俺は明るく広い外へと出た。

「俺はっ!! じぃーゆぅーうぅーだぁああああああああっ!!」

 長く暗い地下通路を踏破し、やっとお日様が拝める場所まで来ると、太陽の光を目一杯に浴びるように体を広げながら思いっきり叫んだ。

 ここは王都の端にある人気のない雑木林の奥。

 長いあいだ閉じ込められたカビ臭い石の通路の空気を体から追い出すように、木と土、陽の光の匂いを取り入れながら深呼吸する。

 一度目から考えて(というか、二度目が始まってからまだ一日も経っていないのだが)、3ヶ月ぶりの太陽だった。殺されたあの場所、龍堂澱に逃げ込んで潜伏し続けている間は一度も陽の目を見ることがなかったのでこうして太陽をその目で見るとほろりと涙が出そうになる。

「あぁ、太陽は、偉大だった……」

 青空の下の素晴らしさにひとしきり感動したあと、さて、と頭を切り替える。

 目標は決まっている。俺を騙して裏切った奴ら全てに苦しんで苦しんで、その尊厳を最大限に踏みにじってやった上で、復讐を果たすこと。

 とはいえ、今の俺ではそれをやるには力がたりない、時間がたりない、準備が足りない。

 流石にLV1、スキル補正なしの縛りプレイで500人以上もの騎士を相手にするには持久力が足りなさすぎる。

 とりあえず、あの場にいた王女と騎士たちしか俺の顔はわからないのだから、魔王を倒して顔が売れてから追われた時と違い、この王都を離れてしまえばそうそう警戒しなくともいいだろう。
少なくとも、顔を覆い隠すような丈の長いローブを着なければ飯屋にも宿屋にも、それどころか街自体にも入れないなんてことはないはずだ。

 ちらりと、もう一度太陽に目線を戻せば、日が少し傾いている。初めて召喚された時のことを思い出せば、おそらく昼を過ぎて一時間といったところだろうか。

「城の宮廷魔術師の腕前じゃ、俺のことを詳しく聞けるようになるまで回復させるのに丸1日ぐらいかかるだろうし、まぁ、寄り道しなければ余裕か」

 のんびりと歩き出した俺は、大通りに出て久しぶりの王都の街並みを眺める。

 正直なところ、この王都の住民たちも国と教会の宣言をそのまま信じて敵意を向けてきた連中だった。

 王女や騎士たちのように顔を見たら即ぶん殴りたくなるんじゃないのかと思ったが、どうやらそんなこともないようだった。ほとんどが関わりのない、裏切りを主導したわけでもないただの民衆だったからだろうか。

 もちろん、「あぁ、こいつら不幸になればいいなぁ。明日にでも転んで石に頭を打ち付けて植物状態になればいいのに」と自然に考えるレベルで嫌いだが、そっちにリソースを割くよりももっと殺したい相手がいるのである。要するに優先順位と比較の問題なのだろう。

 自分の考えについてのそんな考察に一つ区切りをつけると、まずはじめにしなければいけないこと、軍資金の調達について考えを巡らせる。

 それについては目処は付けてあった。

 懐かしい制服のポケットに入っているのはずしりと重い、王女からかっぱらってきたネックレスだ。王室ゆかりの品という面を差し引いてもミスリルや色とりどりの魔石、所有者に若干の敏捷補正が掛かる祝福など、それ自体の価値もなかなかのものだ。

 これを売れば十分当面の活動資金にすることができるだろう。もちろん、売り方に注意は必要だ。今の格好はどう見ても貴族に見えない上、そもそもこれほどのものを買ってくれといったところで買い取れるところなどいくつもない。

 そんなわけで、向かうのは大通りに面したこんなところで店を構えている連中ではない。

 日陰モノが生きるために生まれたような場所、王都の端で一角を占める『スラム街』だった。

 記憶を頼りに適当な路地に入り込み、寂れた方、不潔な方と進んでいけば、やがて先ほどの場所と同じ街なのかと思うような場所に出る。

 薄汚れたボロボロの家の壁はひび割れや欠損が目立ち、公衆衛生の概念を鼻で笑うようにそこらじゅうに糞尿やゴミの臭いが漂っている。道端に座り込む人間の目は暗く落ち窪み、あるいはギラギラとした視線で獲物を物色している。

 観察するような視線、値踏みするような視線が半数ずつ、時折混ざる馬鹿にするような視線は、スラムの新人だろう。どこの街のスラムも、見た目だけで相手を判断しようとするような素人が長く生きられるような場所ではないのだから。

「おい、珍しい格好のにーちゃん。一人でこんな場所にどうしたよ?」

「………」

「おっと、運が悪かったなにーちゃん。残念ながら今から前も後ろも通行止めなんだ。通りたかったら通行料が必要なのは常識だよなぁ?」

 ニヤニヤと笑いながら5、6人が周りを取り囲む。

「毎度思うがこのテンプレ……、いや、話が早くなるからいいんだけど」 

 この格好で一人はカモに見えるのは仕方がないとは思うが、どこの街でも初めてスラムに顔を出すとこういう輩が湧いて出てくるのは一体どういう理屈なのだろうか。

 逃亡中に詳しくなった各町のスラムが色々と、裏の方面で便利なのは知っているので、この二度目の世界でもスラムを利用しないという方向にはいかないだろうが、どこの街でもこのテンプレをやらかさないといけないのかと思うとちょっと萎える。

 二度目なのは自分だけなのだから、仕方がないとは思うのだが、こういう展開にドキドキするのは、初めてか、精々2回目までが限度なのだ。

 それ以上はただただ面倒なだけなのである。

 それまで周囲にいたスラムの人間は巻き添えを食らうことを恐れてさっさとこの場を離れている。スラムで長生きできるのはああいう人間か、力と頭の両方がキレる(・・・)人間だけだ。

「一応聞くが、お前ら、俺の敵か?」

「はぁ? 何言ってやがんだ?」

「いいから答えろ。お前らは別に復讐対象じゃないし、構ってこなければ殺すのも面倒だから放っておいてもいいんだが」

「なんだお前、スラムに一人で来るとか馬鹿かと思ったが本物の勘違い野郎か? この状況で意味がわからないとか、本物のカモだぜこいつぁ!!」

 リーダー格らしいハゲ頭に褐色肌の男がゲラゲラと笑うと、その取り巻きたちもそれに追随するように大合唱を始める。

「いいから金目のもん全部置いていけよ、そしたら殺さず奴隷にして売ってやるからなぁっ!!」

「そうか、それがお前らの答えか」 

 そのチンピラどもは一斉に殴りかかって来たので、とりあえず踏み込んで、全員の足首から下を【火蜘蛛の脚剣】で切り捨てる。

「へ? ギャアアアアアァァァッ!?」

 突然両方の足の先をなくしたチンピラは対応できる訳もなくそのまま舗装もされていない剥き出しの地面に全員あたまから突っ込んだ。

「な、なんだこれっ、いでぇ、いでぇよぉおおおっ!!」

「があぁぁああっ、なにが、ぐぅあがががああっ!!」

 返り血を浴びるのは嫌だったので、剣自体が高温を発している【火蜘蛛の脚剣】で切ったから傷口もこんがりと焼けて血が噴出すこともない。触れたものにすばやく熱が伝わるのもこの剣の特徴だった。

 今着ている制服は一度目のときは普段使いにそのまま使っていたが、旅に出てすぐに夜盗に襲われ、撃退したときにボロボロにしてしまった。

 それで捨ててしまった後、布繕いの効果を持った剣を手に入れて落ち込んだのは苦い思い出である。

「ふむ、今度は成功したな。ステータスオープン」

 そのままチンピラの叫びを無視して後ろにたつと自分のステータスを確認する。

===============================

 宇景海人 17歳 男 
HP:531/545 MP: 75/412
レベル:1
筋力:224
体力:324
耐久:545
敏捷:587
魔力:117
魔耐:497
固有技能:「心剣 ▽」「他言語理解」
スキル:『拳打 Lv1』『魔力操作 Lv1』『天駆 LV1』『暗視 Lv2』『飛脚 LV1』
状態:良好

===============================

 予想通り、『飛脚』のスキルを手に入れられたようだった。『暗視』のスキルは地下通路を通るときに手に入れた。

 『暗視』はその名前のままの効果で暗いところが見えるようになり、『飛脚』は足に魔力を込めることで一時的に敏捷の値を上昇させるスキルだ。

 実は、二度目が始まってすぐ、つまりほんの数時間前に王女の首を掴んで持ち上げたとき、騎士をすり抜けるのにも使おうとしたのだが、失敗して足に少し反動が来ていた。

 成功すればHPへのノックバックは発生しないはずなので、『飛脚』を獲得することができなかったのだろう。

 休憩を取ったわけではないのでHPは回復していなかったが、時間経過で回復するMPは、3割程度あったものが『飛脚』にMPを使ったせいでまた2割を切ってしまった。消費が強い飛脚のスキルを鍛えなおすのは大変そうだ。

「とはいえ……」

 一気に魔力を消費したわけではないので気分が悪くなったりはしないが、体感的には二度目が始まったのは四半日ぐらいしか経っていないのである。

 頭では理解していても今まで手足のように扱っていたスキルが使えないというのはどうにも慣れない感覚だった。

「あ、おい、逃げるなよ。お前リーダーなんじゃないの?」

「ぎゃあああああああああぁあぁぁっ!!」

 足を失い、這うようにして逃げだそうとしたチンピラの一人の腕を【火蜘蛛の脚剣】で地面に縫い付けた。

「ぐぅがぁあ、あづいぃ、いだ、ぐああああぁっ!!」

「ふむ、これはありだな、返り血を浴びないのがポイント高い」

 暢気にそんなことを言いながら、今もなお悲鳴を上げ続ける男を観察する。

 切り裂かれたときとは違い、貫かれたまま傷口を焼かれた男はやがて体を焼かれる痛みに涙と鼻水と唾液を撒き散らす。

「火玉を作らないなら魔力はほぼ消費しないし、刃渡りもないから取り回しがしやすい、なにより血が流れないから簡単に死なない。今まで火種を作るぐらいにしか使ってなかったけど、こうなると便利な心剣だなぁ」

「ば、化け、化けものぉ……」

「あが、あぁあああ……」

 上機嫌に笑ってやると動けないチンピラどもはひどい顔で股の間をびちゃびちゃに濡らしていく。

「あぁ、きったない絵面だなぁ。あいつらならともかく、お前らのそんな顔見てもなぁ」

 やはり、俺の復讐対象は前回俺を直接裏切ったものたちなのだろう。こいつらをいじめてもぜんぜん楽しくない。

「もういいや、じゃあな」

 それだけ言って【火蜘蛛の脚剣】に魔力を注ぎ込むとぽんぽんと首を刈っていく。

 一度剣を振るうたび、肉のこげる匂いとゴトッ、ボトッ、といった音が響いていく。

「さて、そろそろ追うか」

 そんな風に独り言をこぼし、その場を去った後には足首から下と首から上を失った胴体、誰のものなのかも分からなくなった足と、恐怖の表情で固まった顔が、傷口が黒く焦げるまで焼かれたまま放置されているのだった。

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