挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

58/113

第27話 勇者、魔術師を叩き潰す 2

『オーバーリミット』。

 壊れないギリギリではない、壊れることを前提として、怪我の代償にステータスを大きく上回る力を一瞬だけ引き出す。
 そして、その怪我をしていく端から【翠緑の晶剣】でその傷を癒し、絶大な戦闘能力を得る。

 それが俺が今使える奥の手の一つだ。

「私の記憶を戻したことが不利に働きましたね。知っていますよ、『オーバーリミット』の弱点は」

「…………」

だが、ユーミスの言うとおり、これには当然欠点がある。

常に癒しの力を使う関係上、どうしてもMPの消費が激しくなる。そして、【翠緑の晶剣】は治癒力を大幅に高めているに過ぎないので魔力とは別にエネルギーを消耗する。それが、この奥の手を使ったあとに異常に腹が減る理由だった。

 レベルが上がれば体のエネルギーの許容量が増えて、『食い溜め』というスキルも手に入れられるのだが、今それをやろうとしても太るだけだ。

なので、この奥の手はそう長い時間は使えない。
魔物の大群を相手に使ったときは抑え気味に使ったにも関わらず、7分程度で相当消耗していた。
全力で使っている今は良くて3分が限界だろう。

 その上、『テネブリズイグニス・ジャイアント』の炎にもMPを奪われている。

 残りのMPは約3割、MP酔いの兆候も見え始めている。オーバーリミットは、もう使えない。

「はっ、それはお前も同じだろう? ユーミス」

 だが、それはユーミスにも同じことが言える。

 『地獄炎炉デモンズファイア』は発動するのに必要なMPが効果と威力を考えたときとても少ない。
 だが、ゴーレムのコアを破壊されたとき、呪い返しのように激しい苦痛とともにごっそりと術者のMPを削っていく。

 密かに魔力を奪う効果も付与されていた呪毒、高威力の『三雷閃(トライ・ライトニング)』に『多重雷閃マルチプルライトニング』。

そして、『テネブリズイグニス・ジャイアント』のコアの破壊。

 今のレベルのユーミスが扱うには魔力の消費が大きい。見た目ほどの余裕はないのは向こうも一緒だ。

「それでも、まだ魔力も4割は残っています。『オーバーリミット』も限界のようですし、もう一体の『テネブリズイグニス・ジャイアント』も残っています」

「…………」

「あいも変わらずあなたは愚かなまま、もし私が記憶を取り戻していなければ、その力に警戒してあなたに回復の余裕を与えてしまったかもしれませんが」

 オーバーリミットを使っている間、治癒の力を発現しているために纏うことになる淡い緑の光。それが消えたのを確認して勝利を確信したような余裕の笑みをユーミスが浮かべる。

「最大出力でいきなさい、ゴーレムよ」

「『るぼぉおおおぉ』」

 ユーミスの言葉に、剣を持ったゴーレムが、先ほどコアを砕いたゴーレムと同じように纏う炎の出力を上げる。
あれでは普通の心剣で打ち合っても数合と持たずに残りの魔力を吸い尽くされるだろう。

 そして、動きを止めた俺への一撃のために魔力を練り始めている。呪文は詠唱していないが、ユーミスの周囲に集まっていくのは水と風の魔力。
あいつがこの状況で使いそうな魔法は予想がつく。

「本当に、お前は何も変わってないな、ユーミス」

 小さく呟いた言葉が、ドシドシと地面を揺らしながらこちらに向かってくるゴーレムの足音にかき消される。
「確かに俺は愚かだったけどな、お前も十分愚かな人間だろ」

そう、これはまったくもって予想通りの展開。
だから、当然ユーミスの選んだ札を潰す札をこちらも伏せてある(・・・・・・・・・)

「こい、【吸着剣】」

手にするのはこの戦闘を予期した時に獲得しなおした心剣。
形は通常のロングソードであり、真ん中で赤と青に綺麗に色分けされている。
その能力は指定したものを周囲に寄せ集めるというもの。

それを見て、ユーミスが不思議そうな顔をする。あいつもまた【吸着剣】の能力を知っているが故に、『この状況で何を』と考えているのか手に取るようにわかる。

だが、ここでこちらの意図に気が付けない時点で、既にチェックメイトだ。

近くに迫ってきたゴーレムに目を向け、タイミングを図り、俺は心剣を地面に突き立てた。

「っ、なっ!?」

「『ぶばぁああぁああっ』」

 俺が剣を突き立て罠を作動させるのに合わせ、ちょうどゴーレムが居た場所が崩落した。
地面の支えがなくなったゴーレムがどこか間抜けな声を上げながら深さ7メートルの落とし穴へ落ちていき、その穴に貯められていた水を盛大に飛び上がらせる。

「落とし穴っ!? それに水……?」

 俺は、吸着剣を引き抜いて、ゴーレムに最後のとどめをさすために駆け出す。

「っ!? やはり愚かですっ、ただの水でゴーレムの纏う呪炎が弱まるとでも思ったのですかっ!?」

「バカはお前だユーミス。言っただろ?」

 水しぶきが落ちきり、姿を顕にしたゴーレムはほとんどその炎を纏っていなかった。

「お前が『地獄炎炉(デモンズファイア)』を使うのは分かってたって」

「そんなっ、まさかっ聖水!?」

 呪いの力を持つ火に水をかけたところでなんの意味もない、しかし、教会の祝福を受けた聖水ならば話は別だった。
あの炎自体はゴーレムよりもアンデッドの性質が強い。ゆえに、聖水を浴びればその呪いの火は力を弱める。

 落とし穴へと飛び込んだ俺は、動きを鈍らせ、青紫の炎を弱めたゴーレムのコアを貫く。

「ぐああっ、ぐっ、あっ、まだです!!」

 コアの破壊によってMPを奪われながら、それでもユーミスは練り上げた魔力を維持し続けた。そしてユーミスの指示に、砂と変わるゴーレムが一瞬だけ俺の動きを阻害する。

「死ねっ、勇者っ!!」

 最後の力を振り絞るとばかりにユーミスが魔術を放とうとする。

「だから言っただろユーミス」

 そして、ここまでが俺が予想した一連の流れ。
【吸着剣】に魔力をこめ、俺がいる位置とは反対側の落とし穴の壁へと投げる。
ほぼ同時に蓋をするようにユーミスが作り出した風の膜が落とし穴の出口を覆った。

「最初から分かってたって、お前が『地獄炎炉(デモンズファイア)』を使おうとすることも」

 小さく笑った俺は大きく息を吸って、呼吸を止めた。
【吸着剣】が突き刺さるのと同時に、落とし穴の中の水分が分解され、大量の酸素と水素が生まれる。この量が爆発すれば確かにタダでは済まない。

「記憶を思い出せば魔力消費の少ない『水風炎爆』を使おうとすることもな、――――『水素よ、剣に集え』」

「『水風炎爆!!』」

 チリィ、と小さく放電したと同時に、火炎が上がる。しかし、それは爆発ではなく、ただ燃えただけだ。
その炎すら一瞬で消えて、後には何も残らない。

「不発っ!? いえ、でも炎は確かに、どうして……!?」

「アハハハハハハッ!! ざまぁないなぁユーミスぅうう、借り物の知識、人から奪った力。だからお前はそこまでなんだよ糞豚女がっ」

 水を分解して酸素と水素の混合気体に火をつければ爆発が起きる。だが、ユーミスが知っているのはそれだけであり、どうして爆発が起きるのかまでは知らない。
ただ、水を分解して出来た水素と酸素と名付けられた二つに火がつくと爆発するとしか知らない。

爆発が、急激な燃焼反応による衝撃波なのだと分からない。だから、【吸着剣】で『水素と酸素の混合気体』を『水素気体』と『酸素気体』に分離した意味が分からない。

その状態で火をつけても、燃えるのは酸素と水素が接している表面部分だけ。混合気体ほど一気に反応が広がらないから『爆発せずに一瞬で燃え上がる』という結果が生まれる。

 落とし穴から飛び出した俺は【始まりの心剣】を手にユーミスの下まで駆け寄る。

「くっ、まだっ」

「まだじゃねぇよっ、チェックメイトだっ!!」

取り出したのは奴隷などにも使われる魔封じの手枷。
出来た隙を利用して、その枷をユーミスに嵌めてローキックでその足を払い、手にした心剣を倒れたユーミスの手の甲に突き立てた。

「ぐあっ!! ぐっ、あぁああっ!!」

 グリグリと痛覚を刺激するように突き立つ心剣を揺らす。

「クハッ!! ほらほら、どうだ、痛いか? 上手くなったもんだろ、俺も。全部お前たちのおかげだよ。お前がそんな風に苦しそうな顔をしてくれて本当に嬉しい。全部全部お前たちのために磨いた痛めつけるためだけの技術だ、なぁ、分かるか? 今の俺の気持ち」

「ぐっ、うぅ、ぁああっ!!」

 手の甲と足の甲、肘、膝とあまり出血しないように気を付けながらユーミスの体を傷つける。

「本当、楽しい戦いだった。完全に予想通りに動いてくれて、笑いをこらえるのが大変だったんだぞ? 私兵をゴミに変えれば、絶対にあれを作ると思ったんだ。苦しいか? お前、MP酔いで理性が飛ぶんじゃなくて、気分が悪くなるタイプだったもんなぁ。コアの破壊も辛かったろ? 隠したって見ればわかったよ」

「ぐっ、うぅううっ、はぁ、はぁ」

「っといけない。つまみ食いはするなって言われてたんだった。さぁ、しっかりと気を保ってくれ?」

「うぐぁ!! ぐ、う、ああ」

 体の節々の関節を剣で貫かれ、地面に這いつくばるユーミスの手を踏み潰す。骨ぐらいは折れただろうが、これぐらいいいよね? ちょびっとだけ、ちょびっとだけだから。グリグリしてるのもわざとじゃないから。

だから、お願いだから、まだ壊れないでくれよ?

「さて、俺の下準備はこれで終わりだ。ここからが本番だぞ? ユーミス。頼むから、早々に壊れないでくれよ?」

「うぐっ」

 あごの下から頬を潰すようにユーミスの顔を掴む。

「さぁ、お前のプライドはめちゃくちゃに踏み潰してやった。今度はひとつひとつ、念入りに、塵も残さず、お前の全ての夢を、壊してやる」

 堪え切れない感情に、口の端は自然と狂ったように吊り上がっていた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ