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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第26話 勇者、魔術師を叩き潰す 1

ビチャビチャと、雨のあとの地面を駆け回るような音が響いている。
 ただ、そこはそんなのどかな光景はかけらも転がってはいなかった。

「いでぇ、いでぇよぉ」「ごふっ、うぅぐ」「うぇえええ、ぇえええええ」「右腕がないぃいい、両足も、どごぉ?」

そよぐ夜風に交じるのは鉄錆の匂い、煌々と光る月に照らされた地面は赤い血だまりができている。
痛みなのか、肉体の反射行動なのか、痙攣する体で血が跳ねる水音がする。壊された(・・・・)人間たちがあげる苦痛のうめき声と重なって、ユーミスを叩きのめす前奏曲にはうってつけだった。

転がっているこいつらも一応、周りを踏みつけながら生きてきたユーミスが積み上げたものなのだから。

とはいえ、こいつらもまた、ユーミスにとってはただの駒でしかなく、壊れてしまえば捨てるだけのものでしかなかったようだが。

「灰塵に帰すは地獄の炉、奪いつくす暴虐の熱火、『地獄炎炉(デモンズファイア)』」

 ユーミスが手を軽く振り、ほとばしる闇色の炎が倒れていた領兵たちを飲み込む。

「あづいぃ!? やげっ、ごぁああっ!!」「あぁあ、あったかい、コレで死、ね……」「ヴァァアア……」

「あぁ、とどめさしちゃったよ。まぁどうせ直ぐに出血多量で死んだだろうけど」

 俺が手足を切り飛ばした奴らはすぐ死なないように重要な血管は止血替わりに肉やら骨やらを潰してあまり血が流れないようにした。
ミナリスとシュリアにはそこまでの殺しの技術はないだろうから30分と経たず出血多量で死んでいただろうが、俺が丁寧に達磨状態にしてやった奴らはあと2、3時間は生きてただろうし、1時間以内なら後遺症だって残らずに回復しただろう。

まぁ、そんな風になった手駒が有用かどうかと言われればどう考えても否ということになるので、どっちにしろ末路は同じだっただろうけども。

「それだけじゃありませんよ、この『地獄炎炉』は……」

「言われなくてもわかってるよ。その言い方だと、やっぱり別件保存なわけか。あくまで主体になってるのは二度目のお前ってことだな」

上書きされているならわざわざ俺が知っている魔法の説明などするはずがない。
別の世界の、それも未来の知識だ。それも俺が心剣でコピーを取っていたと思われる魂のデータだってまるごとそのままというわけではないだろうから、その意味でもそちらのほうがしっくりくる。

復讐をより完璧に仕上げるのに記憶を取り戻してもらうのはプラスにはなるが、それは逆に今のユーミスを強化することにもなっている。今のユーミスは、俺とともに開発した魔法の知識があるのだから。

「死霊と炎と土の混合魔法『地獄炎炉(デモンズファイア)』。人体と土塊と炎を材料に生み出すフレッシュゴーレムとアンデッドを混ぜたキメラ種『テネブリズイグニス・ジャイアント』を生み出す魔法だ。最初から分かってたよ」

 眺めているとうめき声上げていた領兵たちが、闇色の火をまとわりつかせた黒い骨となりより集まっていく。

「っ、わかっていたからといってどうこうなるものでもありませんよ? 未来の私はあなたの悪足掻きじみた逃亡劇に相当手間をかけさせられたみたいですからね。そのお礼も兼ねて、今すぐこの場で塵も残さず殺してあげましょう」

「おいおい、いいのかよ。俺を殺しちまったら大事な大事なソーリィちゃんの居場所がわからなくなっちまうぞ?」

「問題ありませんよ、「死霊魔術」を使えば死んですぐなら情報を抜き取るぐらい造作もありませんし。異世界人の体に興味はありますが、ソーリィに手を出した以上は一秒でも早くこの世界からあなたを抹消しないといけませんから。あなたに、そこの獣人に、シュリア。汚物はまとめて消毒しなければいけないでしょう?」

 軽く肩をすくめてやればニコリと笑うユーミス。
しかし、その余裕の仮面の下はどうやら俺たちへの怒りでいっぱいのようだった。そうでなくっちゃ、こちらも最大限楽しめない。

「『グボォオオオオオォオ!!』」
「『ブゴォオオオオオォオ!!』」

 声にならない咆哮を上げ、のそりと燃え上がる2体のゴーレムが立ち上がった。
それは生者を冒涜するような姿。
黒く染まるどろりと溶けかけた人骨が寄り集まり、青紫の粘つく炎を纏いながら、5、6メートル級の人型の巨体を晒している。その姿は主を守るゴーレムというよりも、悪魔に召喚された下僕のようだった。
全身を覆う薄い青紫炎のせいか、それともその禍々しさ故か、実際の大きさよりもふた回りは大きく見える。

「じゃあ、予定通りコイツは俺一人で叩き潰すから。ミナリス、シュリア、下がって次の準備に掛かっててもらえるか?」

「分かりました、ご主人様、やり過ぎないようにお気をつけてくださいね」「海人様、勢い余って殺しちゃ、めっ、です。壊すときはシュリアもやるです」

「……お前ら、もうちょっと俺のこと信用してくれてもよくね?」

「「復讐心が疼いてるのが伝わってるから無理です」」

 …………確かにそう言われてしまうと何一つ抗弁できないが。
 裏切りの心配などがないという点で復讐心の共有や互いに敵意を持てないなど、【復讐の聖剣】の制約はいろいろ優秀だが、こういう時に困る。隠し事が一切できない。強がっても意味がない。

「あー、もういけいけ。ちゃんと加減するだけの理性は残ってる。せっかくの食材を下ごしらえの段階で食べちまうような、そんなもったいないことしねぇよ」

冗談っぽく肩を竦めて、軽くシッシッと手を振るとミナリスがシュリアを抱えて壁の中ほどに突き刺した剣を足場に去っていった。

「さぁて、いっちょはじめるとしますか」

「いいのですか? せっかく3対1という状況に持ち込んだのに、行かせてしまって。その弱体化している状態で私に勝てるつもりですか?」

「当たり前だろ? 第一、お前だって弱体化してるだろう。別に記憶を手に入れたからってレベルが上がるわけでもステータスが増強されるわけでもないんだから」

(まぁ、技巧は大幅に上がったみたいだけどな)

 覗いたステータスでは技巧はB+。
元々の素養にシュリアから奪った才能を上乗せしているせいで、レベルの割に魔法系のスキルも軒並み『術魔法』の上位、『魔導』になっている。
まだまだスキルレベルは低いが、十分驚異だ。
だが、所詮はその程度でしかない。

「だから、お前もあの二人を追わなかったんだろ? 少しでも有利になるように」

「……傲慢ですね、そうして一人になって最後は私達に殺されたくせに」

「だったら一度目の時、俺がお前と一緒に仕掛けてきたあの殺人狂の暗殺野郎のゴルドをぶち殺した後、どうしてお前らは常に4人以上で仕掛けてくるようになった? わざわざ雑魚を仕掛けて消耗を誘った上で、決して3人以下の人数じゃあ俺に仕掛けてこなくなったんだ?」

 俺があのクソ王女、アレシアに真実を突きつけられ逃げ出した後、それまでステータスと技術、自己暗示にも似た思い込みで誤魔化してきた、殺人への、この世界の生き物を殺すということに対する迷いが本当に一切消えた。
必要な相手を斬ったことを当たり前と受け止められるようになった。

魔術師と暗殺者。
ステータスの差で正面から力比べでは分が悪いと思ったのか、コイツは暗殺者のゴルドと手を組んで俺を襲ってきた。ゴルドが手数の速さで俺を押さえ込んでいる間に、ユーミスが呪文詠唱で威力を高めた魔法を準備して俺を制そうとしたのだろう。きっと、それは、俺が無意識に抱え続けていた殺人に対する忌避感を抱えていたままなら成功したのかもしれない。
 なにせ、脱出するとき、アレシアに喰らった炎弾には強力なステータス低下の呪いの効果が残っていたし、傷も完治はしていなかったのだから。

だが、結果は、前提から瓦解した。

その状態でも俺はゴルドを圧倒し、ゴルドは時間を稼ぐ盾として役割を果たせなかったからだ。

それまで単純な速さでは俺に分があったにも係わらず、老獪さの滲むフェイント、惑わし殺すことに特化した暗殺技術に翻弄され、実力的には拮抗していると言っていい状態だった。

けれど、全くと言っていいほど相手にならなかった。
剣速は遅く、バレバレのフェイントはただの隙になった。相手の目線や呼吸だけでなく、筋肉の動き、力の流れが手に取るようにわかり、虚実の入り混じる剣はただの隙だらけの剣術と成り果てた。

傷を負わないわけではなかったが、それは猫に追い詰められた鼠が噛み付いたようなもの。猫にとっては痛くとも、死に繋がるような痛手にはならない。もしあの時、俺の身体の状態が万全だったならユーミスもその場で殺していただろう。
だが、ユーミスは形勢不利と見ると高めていた魔力を強引に転移の術式へと改変してその場を逃れていた。あそこでユーミスを逃していなければ、一度目の世界でももう少し奴らを殺せたかもしれない。
 もちろん、こんなふうに復讐をする余裕まではなかっただろうが。

「『別件コピー』だからっていうなら、もう一度今のお前にも刻み込んでやるよ。徒党を組まないと相対することすらできなかったカスどもが」

 両手にするのは【逆境者の拐刃】。

「っ、減らず口を。やれるものならやってみろっ!!」

「ハッ!! さっそく化けの皮が剥がれてきてやがるなユーミスゥゥウウウウウッ!!」

『テネブリズイグニス・ジャイアント』に指示を出し、自らも魔術を練り始めるユーミス。

 まずは小手調べと、素の状態で軽くかけ出し、体同様、青紫の炎に包まれた人骨の剣を振り下ろすゴーレムと刃を合わせる。

「『ウゴカァアアアア』」

「ちっ!! 流石に硬いな」

 ランク付けをするなら文句なくC級上位はあるだろう『テネブリズイグニス・ジャイアント』。
ブラックオークの黒皮膚と遜色のないほどの手応え。純粋な力の方も、【逆境者の拐刃】を使ってなお少しこちらの分が悪い。なにより、体を薄く覆う炎は直接触れるだけでMPを奪う性質がある。
 それを考えると普通の心剣の方がいいのだろうが、それだと今度は火力が不足するようになる。

「『三雷閃(トライ・ライトニング)』!!」

「おっと」

異なる軌道を辿る雷光がこちらに向かってくる。
もう一体のゴーレムも後ろから迫ってきていた。こちらは剣ではなく木槌のような鈍器を武器に選んだようだ。
鍔迫り合いから力を抜き、相手の力を利用して宙で体を捻り、天駆で作った細い棒状の足場を手で掴む。
勢いを殺さずに鉄棒の要領で体を揺らして追撃してくる雷撃を避け、曲芸師のように速度が乗る前のもう一体ゴーレムのハンマーに、数秒だけ持つ固定されていない天駆の足場を挟んで足を付く。

「『ギュウウラァアアァァ』」

あとは、吹っ飛ばされるに任せて空中で一回転して勢いを殺しながら距離を取る。

「ハッ、無様ですねぇ。以前のあなたならこの程度一撃で叩き伏せていたでしょうに」

「そういうお前も、わざわざ『地獄炎炉デモンズファイア』なんて使わずに高威力の魔法を直接叩き込めばよかったのに。まぁ今のお前じゃステータスが足らなくてまともに扱えないだろうけどな」

「減らず口を……、不愉快です。ゴーレムっ!!」

 いまの接敵で勝てると踏んだか、護衛用に剣持ちのゴーレムをその場に残し、ハンマー持ちの方を突撃させてきた。そしてユーミス自身は再び魔力を練って次の魔法の準備をする。
巨体にふさわしい鈍重な動きでゆっくりと近づいて来るゴーレムから視線は外さずに距離を取る。

「…………」

「分岐する気まぐれなる風の精霊よ、惑乱する軌跡を描く閃光の主よ……」

この詠唱は『多重雷閃マルチプルライトニング』だな。全く予想通りの行動、対応。
あまりの単純さ加減に思わず笑いがこぼれる。
俺は魔物の群れを殲滅した時に試した全力の一歩先、文字通り限界を突破する奥の手を扱うために【翠緑の晶剣】に魔力をこめ始めた。

「それじゃあ、こっちも本番といこうか」

「刹那の時の意識を抱え、永劫不可避の雷道と為せ、『多重雷閃マルチプルライトニング』っ!!」

「…………『オーバーリミット』」

使うぞという自己暗示を込めてつぶやくと、淡く緑に色づいた光が全身を包む。

 色を失い、鈍化する視界の中で雷の出だしを確認する。
 魔法の雷撃は実際の雷とは別物だ。確かにほかの魔法に比べ速度は早いが、物理的な要因で生み出された雷程の速度はない。そんなファンタジーな力であるからこそ、雷撃に不規則な曲線を描かせるなんてことが可能になるのだが。

 地面を蹴り飛ばし、こちらに向かってくる雷撃をかわしながら反転して一体だけ突出したゴーレムへと向かう。
それはステータスの全てを技巧で引き出したもう一歩先、体への負担を完全に無視した身体能力の行使。
 壊れないギリギリではない、壊れることを前提とした体の運用は、怪我を代償にステータスを大きく上回る力を一瞬だけ引き出す。

そして限界を超えたことで断裂する体中の筋肉を【翠緑の晶剣】で常に回復することによって短い間だけ本当の意味でポテンシャルの限界を飛び越える。

「なっ!?」

「『ヌヴァアァアアア!?』」

「遅いんだよ木偶のぼうがっ!!」

 一閃、二閃、三閃、四閃、五閃。

邪魔の入らない一対一の状況、俺に向かって振り下ろされたハンマーが一薙ぎされる間に、ゴーレムの体を削り取る一撃を五回放った。
斬撃というよりも打撃に近い威力を誇るその攻撃が左肩口、右の二の腕、左の腰、右の太とも、左のふくらはぎと、抉りとったような後を残した。

「おらぁああああっっ!!」

「くっ!! ゴー、いえ、はぁっ!!」

 ユーミスは一瞬、もう一体の剣持ちのゴーレムをフォローに寄越しかけてやめ、無詠唱のファイアーボールを放ってきた。

 1対1ではゴーレムの分が悪いのはハッキリしていたが、もう一体を向かわせて自分が無防備になるのを避けたのだろう。
その判断は正解だ。なぜなら、どうせ間に合わないのだから。
このゴーレムは核となるコアを破壊すれば機能を停止し、最後には全て砂へと変わる。
 たとえ今からゴーレムをこちらに向かわせてもたどり着く前に俺がコアを破壊してしまうだろう。

「雑魚が、とっとと沈め!!」

 ユーミスの魔法を避けて、バランスの悪くなったゴーレムに追い打ちを掛けるように足を削り取る。

完全にバランスを崩したゴーレムは、最後の悪あがきとばかりに薄くしかまとっていなかった青紫の炎を豪快に吹き出した。

ゴーレムにとってそれは自爆にも等しい行為。
青紫の炎はゴーレムの命そのものであり、それを激しく使えば稼働時間は極端に短くなる。

「ゴーレムのくせに往生際の悪い」

 俺は青紫色の炎にMPを奪われるのを感じながら、分厚い装甲に守られているゴーレムのコアを破壊するのだった。
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