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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第24話 勇者とシュリア、開幕を告げる

 結局、屋敷の中を隅から隅まで探してもソーリィは見つからず、特別に与えている個室にもその姿はなかった。

普通なら共同の相部屋を使わせるところを、貴族出身ということを理由に密会するのに都合がいいので一人用の個室を与えていたことが仇となった。
だれもソーリィがいついなくなったのか知らないのだ。

(いえ、落ち着くんです私。そもそも昨日の夜は私の部屋で一緒に寝たじゃありませんか。ちゃんとソーリィの方が先に疲れて意識を失ったのをちゃんと覚えてます。なのに……)

「…………残る手がかりはこの手紙のみ、ですか」

 手元には、一枚の封がされた手紙。
真っ赤に染められた封筒はそうでなくとも不吉なものを感じさせる。

それでも、ソーリィについての唯一の手がかりになるかもしれない。
胸に嫌な予感を抱えながら、封を解いた。

中には、我が家の家紋入りの水色の便箋。
音声再生機能付きの手紙だった。

「『さぁ、親愛なるユーミス姉様。劇の舞台は今夜、日が沈んだ後に。ソーリィを取り返したいなら、なりふり構わず全力で来ることをオススメするです。場所は夕暮れ時に東門の街道に後で迎えを寄越すです。それでは、ごきげんよう』」

 聞こえてくるどこか楽しげな声は間違いなくシュリアのもの。
その自然な声は、私が餌として与えてきた紛いものと違い、生きている人間の肉声だった。

それは、シュリアが生きているということの証左であり、あの夢がただの夢でないことの証明。

「っ、なぜっ、生きている……っ」

 予感はあった。だが、理性がそれを打ち消していた。
ありえない。どうすればあの場で魔法の力を失った非力な少女が生き残れるというのか。

あの悪魔が、シュリアの味方についたのだろうか。……ありえない。
悪魔との契約にはそれ相応の手順がある。たとえあの悪魔が望んだところで、シュリアとあの悪魔が契約することはできない。
そして、悪魔は人間と契約しない状態では誰かに何かをすることはできない。つまり、あの悪魔がシュリアに協力しているということはない。

だから、悪魔がシュリアの命を見逃すというのはまずありえない。

だが、現実として、シュリアは生きて、こうして私に牙を剥いている。

(いえ、そんなことは後回しです。今はとにかくソーリィを……っ!!)

「……ロンベルトを呼びなさい」

 しばらくして、どこか野卑な雰囲気を持つ巨漢が現れた。

「お呼びですかい、お嬢様」

 領兵の中でも私が自由に動かすことができる50人弱からなる直轄の精鋭部隊。いわゆる汚れ仕事を担当する私兵だ。

戦場で腕を鳴らした元傭兵や冒険者などから構成されたそこそこ腕の立つ使いやすい便利な駒。

 研究に邪魔だったり、何かと周りを嗅ぎまわろうとしたりする者の暗殺だったり、村の殲滅の際にもこいつらを使った。
餌さえ与えておけば従順に動くので、こういう時には重宝する。

「ロンベルト、仕事です」

「へいへい、もちろん今回も報酬の方は……」

「心配せずとも、一人につき金貨1枚出しましょう、いいから早く部隊全員を招集しなさい」

「全員ですか?」

 ロンベルトは驚いたように目を見開いた。
汚れ仕事として全員を動かすことはほとんどなく、暗殺の際に動かすのは精々が5、6人だ。それ以外は諜報部隊としてしか扱っていない。
だが、そんなことは分かっていても、イラつく気持ちが抑えられない。

「ええ、全員です、今回はいつもの暗殺ではありません。ソーリィが人質に取られました、目的はその奪還です」

「なぜ、俺たちに? 人攫いなら普通の領兵の出番じゃねぇんですか?」

「それだと、糞どもをその場で甚振ることができないでしょう。私はすぐにでも八つ裂きにしたくてたまらないのですよ」

 目を細めるようにしてロンベルトを睨みつければ、感情の高ぶりに呼応して密度の濃い魔力が漏れ出す。

「いいから、最高戦力を整えなさい。時間は今夜です」

「了解ですよ、お嬢様」

沈黙は金とばかりにすぐにロンベルトは部屋を出ていく。
そして一人になった部屋で考えを巡らせる。

「…………」

 わからないことが多すぎる。
シュリアがどうして生きているのか。そして、あの夢はなんなのか。

どう考えてもあの夢とこの状況は繋がっているのだろう、けれど、ソーリィは昨日まで特に変わった様子は見せなかったし、拷問の跡も残ってはいなかった。

 ちらりと外を見れば、いまだ日は高い。
 歯ぎしりしたくなるような気持ちで、私もまた、ソーリィを攫ったと思われるシュリアとその一味を虐殺する準備を始めるのだった。


            ☆


準備を整え、戦闘への意欲を高めている私兵部隊が東門の街道に集まっていた。
名目は街から東北にある森調査を兼ねた軍事演習だ。レッドキャップが出たらしく調査を派遣したところ、異様な変死体を発見したため、強力な変異種が生まれたのではないかという話だった。

それを討伐するということを口実にしているため、個々人で手足から頭まで覆ったフルプレートな完全武装から、最低でもお高い金属鎧を身にまとった集団が町から出るのも特に不審がられることはなかった。

そして、ソレはある種唐突にその場に現れた。

「アレは……、あの時の」

 その北東の森へと続く道をこちらに歩いてきたのは、手紙を渡して忽然と消えたあのヌイグルミ。

「『クシシッ』」

 少し離れた位置で足を止めたヌイグルミは、馬鹿にするように手招きして、さっさと歩き出してしまった。

「追いますよ」

「へい」

 ヌイグルミを見失わないように街道を進んでいく。
背後からはピリピリとした空気が伝わってくる。実際のところは私の表情と雰囲気から気を抜けないというのが正しい。

敵の強さは不明であり、その上、人質を取られているという不利な状況、突然現れた魔物ともつかない自ら動く人形。

理解不能が一番危険であると裏の仕事をこなしてきた私兵たちはいつ攻撃を受けても対応できるように周囲を警戒していた。

 やがて森の中に入り、1時間ぐらい歩いた先で、そいつらは待ち構えていた。



「ご機嫌よう、ユーミス姉様。そして皆々様方。心より歓迎申し上げるのです」



 それは、鈴の音を鳴らすような声。

まるで境界線のように森が途切れ、ここが戦場だとばかりに広く円形に下草すら生えない剥き出しの土の地面があった。

その闘技場の中心、葉の一つもつけていない枯れた大樹から伸びる太い枝に3つの影が腰掛けている。

その影のうちの一つ、銀の髪を夜風に揺らし、黒のワンピースのような服に身を包んで、酷薄な笑みを浮かべたひとりの少女が笑う。

「シュリア……、なのですか?」

「そうです、ユーミス姉様。どうにも死ねなかったので、こんなに素敵に生まれ変わったのです」

 クスクスと笑う少女に、以前の面影は見受けられない。

 そのあどけない容姿も、その身にまとう雰囲気も全くの別人のようだった。
変わっていないように見える顔立ちやその声音すら、こうして直接対面して見れば全くの別人のもののような気さえしてくる。

月の光に照らされ、指先で自らの唇を触りながら赤い瞳でこちらを見下ろす姿はまるで淫魔のような妖艶さに満ちている。
以前の光に満ちたあどけなさは、かけらもその瞳に残されてはいない。

「今夜は本当に綺麗な青い月が登ってるのです。でも、幕間は終わり、月を眺めるのはまたあとにするのです。きっと、赤い血はこの空によく映えるのですよ」

 まるで冷たい氷の舌で背筋を舐められる様な寒気に襲われる。

 シュリアが地面に降り立つと、後の二人も追うようにして地面に降り立つ。
すると中央に座していた巨木がまるで時間を早回ししたかのように黒い土となって一瞬で腐り落ちた。

「『クシシッ』」

「クマ、案内ご苦労さまなのです」

 先導を勤めていたクマのぬいぐるみが主人であるらしいシュリアに向かって小走り気味に駆け寄っていくと、シュリアはその頭を優しく撫でていた。

「両脇のお二人は、どこかで見たことがあると思ったら以前、街の外で出会ったブラックオークとやりやっていた人たちですね」

「お、なんだ、覚えてたのか? どうせすぐに忘れたんだろうと思ってたけど」

「ミノムシのような考え足らずの割りには記憶力がいいのですね」

「…………ゴミどもがっ、やはり会話は無駄ですね、ソーリィを返しなさい」

 楽しげに笑い合う黒髪の少年と獣人の少女。
きっと、このふたりがシュリアを手助けしたのだろう。あの時も戦士の姿をしながらブラックオークをたった二人で相手にしていた。変貌したシュリアの姿といい、油断はしない。普通にやれば、ここまで魔法の力を得た私が負けるわけがないのだから。

「ああ、そうでした。今連れてこさせるのです。ネコ、連れてくるのですよ」

 パンパンッ、とシュリアが手を鳴らすと奥の森からあの日、シュリアに買い与えた猫のヌイグルミが出てきた。手にしていたハズのナイフとフォークを腰に差し、小さな手に鎖を握っている。

「『ニシシシシ』」

「うぐっ、あぁっ!!」

「ソーリィっ!!」

その背後に連れられて、ソーリィは四つん這いにさせられながら出てきた。ボロボロになった衣服に、手足には粗雑な鉄の枷が付けられている。
首には獣を調教するときに使うようなゴツい革の首輪が巻かれ、繋がれた鎖の先を猫のぬいぐるみが握っている。

「ネコ、離してあげるです」

「『ニシッ』」

「ヒッ!?」

 いちど小さく猫のヌイグルミが手を離すと、ボロボロになったソーリィの手足を縛る枷の鉄鎖を、猫のぬいぐるみが抜いたナイフで断ち切った。

「ほら、餌はとっとと行くです」

「えっ、あっ」

 シュリアの言葉に促されるように、戸惑いながらソーリィがこちらに歩いてくる。

 一度歩き出すと我慢できなくなったのか、ソーリィが泣きそうな顔で駆け寄ってきました。

「ユーミス様っ、ユーミス様ぁああっ!!」

「ソーリィッ!!」

 ボロボロになってしまったソーリィをできるだけ優しく受け止めた。

「あぁ、ああ、ソーリィ、こんなにやつれてしまっ――」

 違うっ、コレは(・・・)はソーリィではありませんっ!!

「お嬢っ、離れろっ!!」

そう思うと同時、隣にいたロンベルトが声とともに剣を振り下ろすのが見えた。

頭をよぎる『罠』という言葉と同時、ソーリィの形をした何かを引き剥がそうとしましたが、私もロンベルトも一歩遅かった。

「クシシッ!!」

 ソーリィの偽物は、いつの間にか手にしていた反り返った刃に色とりどりの8つ水晶を取り付けた短剣を私に突きたてながら、眼前で、あざ笑うように顔を歪ませた。
ソレは、あの不気味なクマのぬいぐるみと同じ笑い声。

「くっ!!」

後ろに跳んで距離を開けるのをなんの抵抗も見せずいたソーリィの偽物の腕をロンベルトが切り落とした。

「轟け風精霊の恐声っ、『緑雷一閃(ライトニング)』ッ!!」

「クシシシジジィ!!」

追い打ちを掛けるように咄嗟に放った雷撃に焼かれ、遺骸も残さずにその場でゆらりと霞のように立ち消えてしまう。

「あぁ、やはり見た目だけ似せた偽物だとすぐにバレてしまうですか」

 シュリアは何でもないように言った後、再びクスリと笑みを浮かべた。

「クスクスッ、さぁ、これからが本当の始まりですよ? 今日の舞台に上がる主役はシュリアだけじゃないのです」

ソーリィの姿を罠に利用され、頭の中を支配しようとする憎悪をなんとか制御しながら、突き刺さった剣を引き抜く。
 放り捨てたその短剣もまた、霞のように消えてしまった。

「なにをっ――――」

 何をしたのですか、と問い詰めようとする声を上げることはできなかった。

「ぐ、ぁああぁああっ!! あた、まが……」

 膨大な量の知らない記憶が脳裏に焼きつけられていく。頭の中に何かを直接流し込まれるような感覚。いや、何かをされているのは頭じゃない、魂とでも言うべきなにかだ。グチャグチャと混ぜものをさせられるような、魂の一部を上書きされるような感覚が体を襲っていた。


         ☆


 どうだろう。うまくいくだろうか?
完全に想定外もいいところな使い道。こんな使い方したこともない。はっきり言ってそんなことが可能なのかもわからない、自分でもただの屁理屈じみた考えだと分かっているので、あくまで出来れば良いな程度のものだった。
もっと早く気がついていれば、バルカスたちで実験も出来たのだけれど、本当に失態である。

「お嬢様っ、くそっ、てめぇらなにしやがったっ!!」

 ユーミスの私兵のまとめ役らしい一人が大声で叫んでいる。

「なぁに、ちょっとばかり思い出してもらえればなぁと思ったんだ」

 ユーミスに突き立てたのは事前に込めれるだけ魔力を込めておいた【八目の透本剣】。

 【八目の透本剣】には相手のステータスを表示、記録する力がある。

では、ステータスとは何か。
 どこから何の情報を引き出しているのか?
 肉体じゃない。肉体だけなら、ステータスに名前が表示されることはない。脳みそだろうか、だが、言葉を理解しない赤ん坊のステータスにも名前は表示される。

なら、きっとそれは魂の情報だ。

魂が実在するのは、この世界では分かっている。その代表とも言えるレイスなどのアンデッドが実在しているからだ。
もし、ステータスが魂の情報を表示したものだとするなら、【八目の透本剣】に残されたデータは魂の情報のコピーだ。なら、ステータスを表示するように、ユーミスの魂に、一度目の魂の情報を直接閲覧させられないだろうか。

いや、死ぬほど都合のいい暴論だとは自分でも思っている。それでうまく一度目の自分を思い出してくれるなら儲け物。うまくいけばいいやと、その程度のレベルだ。

 どちらにしろ、やることが変わるわけじゃない。選ぶ過程に誤差が入るだけだ。ただ、思い出してくれるなら戸惑いが減る分、混じりっけのない良い表情で鳴いてくれるだろう。

そして様子を見る限り、それはうまくいってくれたようだ。

「はぁ、はぁ、なんです、か、なにをしたのですか、この記憶は、いったい……」

「それは、お前自身が一番よくわかってるだろう?」

「…………宇景海人、異世界から訪れた勇者、確かに殺したはずです、いえ、殺した? でも、これは確かに私の記憶じゃ」

 漏れ聞こえる言葉は、確かに、俺を俺と認識しているが故の言葉。

「…………あはっ」

 そして沸き上がってくるのは、愛しいまでに圧倒的な歓喜。

「あはっ、アハハハハッ!! ああ、……ああ、ああっ、ああっ!! 嬉しい、嬉しいよユーミス。お前とまたこうして再会することができてっ。一番最後に会ったのは俺が殺された時か、やっと続きを踊れる。開幕だ、開幕だっ、開幕だっ!! これが間抜けな勇者の第二幕だっ!! 出演拒否は許さねぇぞ魔術師ぃっ!!」

 上書きか、それとも名前を変えて保存か。
いずれにしろ、構わない。結局は同じこと。
コイツは思い出した、だから、それでいい。

「……全然意味が分かりませんが、結局は私の夢を邪魔する敵ですか」

「その通りだ!! さぁ、俺は俺の誓いを果たそう!! 必ず殺す! 全員殺す!! まずはお前からだ、ユーミスっ!! 絶望と嘆きと失意の底で、苦痛の果てに死んでいけっ!!」

 
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