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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第23話 勇者とシュリア、はじめの一歩

「うっく、あぁあっ」

 あぁ、また、この夢。
夢と分かっていても不快極まりない光景が目の前で広げられている。

「さぁ今日のお薬です。きちんとこぼさずに飲んでくださいです」

「くぅ、こんなことしても、無駄ですっ!! 私が、あなたたちに屈することは、ありません……っ」

「そんなこと、どうでもいいです。貴方も私を騙した。必要なのは、ただそれだけのことなのです」

 そこは薄暗い洞窟のような場所でした。薄くヒカリゴケの茂った洞窟のなか、大きな岩を横一閃に切り裂いたようなベッドの上にソーリィが横たわっている。

手と足につながれた、まるで奴隷にでもつけるような粗雑な鉄の枷が痛々しい。

そこに、穏やかな笑みを浮かべたシュリア、だと思う少女がいつもの近づいていく。
その姿は記憶に残っているものとは全然違う。金色の髪は白に近い銀に、肌は透けるような白から日差しの強い気候の地域に住む人間のような褐色の肌。
記憶と違わぬところと言えばその顔の造詣とあの濃い色をした赤い瞳だけです。
そして、そのシュリアの隣にはいつものようにどこかで見たような黒髪黒目の少年と、茶髪のウサギの獣人らしき少女が佇んでいました。

シュリアはソーリィの口に枷を嵌め、強制的に開かされた口の中へ黄緑色の液体を流し込んでいます。
むせそうになるソーリィをあらかじめ予期していたように口を塞いでその液体を飲み込ませていく。

「んぁあっ、いたっ、けほっ、けほっ!!」

 それが終わるとシュリアは口枷を乱暴に取り去りました。

「さて、昨日で両腕まで終わりましたから、今度は左足からですね」

「はい、どうぞ」

「ありがとうなのです」

 ウサギの獣人から、シュリアはまたいつもの杭を受け取った。中央に穴があり、先端のとがった部分が任意で開くらしい黒い杭。

また、あの光景を見るのかと思うと目を逸らしたくてしかたがありませんでしたが、この夢の中では目を瞑ることも出来ませんでした。

「ひぐっ!? ううぅ、あぁあああぁああっ!!」

 目の前でグリィッ、と綺麗なソーリィの足に杭が突きこまれた。

「ぁああっ、んっ、うぅあっ!!」

 そのまま立て続けに更に3本、突きこまれる杭にソーリィが甲高い声を上げる。
苦痛交じりのその声は、まるで私と閨にいるときのような艶やかな嬌声が混じっている。

「こんなことされて気持ちよさそうによがるなんて、ソーリィは変態さんなのです」

 そんなソーリィの痴態にシュリアがクスクスと笑う。

「んっ、はぁ、それは、あの薬のせいで……」

「ちゃんと痛みも残るように調整してもらってるのですよ。つまり、ソーリィ自身が苦痛よりも快楽を優先している証拠なのです。さぁ、これからが本番なのですよ? 昨日みたいに気絶なんてつまらないことはやめて欲しいのです。苦しんでもらわないと、わざわざ時間をかけている意味がないのです」

「ひっ!!」

 その手には大きめのビンに入った黒い液状の何かが入っている。金属の光沢を持つそれは魔法生物のようでシュリアの命令に従って自由自在に行動するようでした。

その瓶をソーリィのそばに置いて、ゆっくりとふたをはずす。

「さぁ、食事の時間なのです」

 シュリアがそうつぶやくと、その黒い液状の何かは自ら瓶の外に這い出し、ソーリィの体を貫く杭へと群がり、その穴の中へと入っていく。

「ひぐんあっ!!」

おそらく、ソーリィの体の中で杭の先端が開いたのだろう。再び上がる嬌声は、ひとつでは終わらない。

「んんああああっあ、んぐっ、おおおっ、あああんぁっ、んんっ、んっ、あ、ああっ!!」

「本当に気持ちよさそうに鳴くのです。骨の中を溶かされながら喘ぐなんてシュリアには無理なのです」

「ユーミス様っ、ユーミス様っ!! ユーミスさまぁあああっ!!」

「痛みと同時にそれよりも少しだけ少ない快感が流れていますから、痛いのと気持ちいいので頭の中は大変でしょうね、おかわいそうに」

「おいおい、お前が作った毒だろうに」

「違います、ご主人様。毒じゃなくて薬ですよ? だって、ただ痛いだけだとすぐに壊れてしまうじゃないですか。もったいない」

 狂ったように声を上げるソーリィのそばで、黒髪の少年とウサギの獣人が楽しそうに談笑している。

 本当ならこの場にいる三人をすぐに消し炭にでもしてやりたいところでしたが、私が見ている夢なのに、なぜ全然自由が利かないのでしょう。

私はただ、いつものように延々とソーリィが苦痛と快楽に喘ぐ様子を見ていることしか出来ませんでした。


          ☆


「っ!? はっ、はぁ、ああ、またあの夢。最悪の目覚めですね」

 ベッドから身を起こした私は額に滲む汗を感じながらため息をつく。時計を見ると、いつもよりも少しだけ起きるのが遅い時間。

「今日で4日連続ですか。いったいなんなのでしょう」

あの日、悪魔の召喚石がただの石へと変わってしまったから数日後からあの夢を見るようになった。毎晩寝るたびに同じ夢を見る。
姿を変貌させたシュリアが、知らない人間とともにソーリィを拷問する夢。
やけにリアルなその光景を夢の中で延々と見せられ続ける。

「あの悪魔、契約違反の上に、私に何か呪いでもかけていったのでしょうか」

シュリアを罠に嵌め、悪魔に差し出した翌日、たっぷりとソーリィと閨で楽しんで日が高く上ってから起きると、黒々と光っていた悪魔の召喚石がそこら変に落ちているただの石ころになっていました。

何があったのかと急いで秘密の地下牢のあるあの家に戻って見れば、地下牢はもぬけの殻、あの悪魔どころか、シュリアの遺体も、それどころか今まで研究に使ってきたアンデッドも綺麗さっぱりいなくなっていた。
一番奥の牢屋の格子が切り裂かれたが、何が起こったのか説明できるものでもない。

一瞬、シュリアが何かしたのかと思ったが、ありえないと首を振った。あの子にあった魔法の力が完全に私の手にある以上、シュリアにはもう何も出来ない。
エルフの先祖返りと言っても魔法の力を失っているなら普通よりもひ弱なただの子供でしかない。悪魔を相手に何かを出来るような力があるわけがない。

だから、おそらくあの悪魔が何かしらの手段で契約を破り、シュリアの全てと、ついでにそのほかのアンデッドも自分のものにしてまたどこかの石に宿ったのでしょう。

悪魔はひとつの契約を終えると任意で世界中の何処かの石に宿りなおすことが出来るそうですから。

「はぁ、いけませんね、こんな顔をソーリィに見せられません」

気を落ち着けようとすぐそばに置いてある水差しの水を飲み終わるころにはソーリィが部屋にやってきた。

「おはようございます、ユーミス様。お食事の用意が出来ています」

「分かりました。今日は一緒に朝食にしましょうか、ソーリィ」

「だ、駄目ですユーミス様。私はメイドです、それが一緒に食卓に着くわけには」

「大丈夫ですよ、今日は部屋で朝食を取ることにしますから、誰にも見られることはありません。食事の量を多めに用意してもらって一緒に分け合って食べましょう、今日は食欲がないのでそれぐらいできっとちょうどいいですから」

 そう言ってソーリィに私は笑いかける。
少々強引でしたけど、ソーリィは困ったようにしながらも小さく頷いて、『今料理をお持ちします』と言って再び部屋を出て行った。

今日はソーリィと少しでも一緒にいたかったのです。ソーリィには夢のことは話していません。無駄に心配させたくはありませんし、夢見が悪い以外には大きな実害は出ていなかったというのもあります。

ですけれど、言い知れない不安に、少しでも安心できる時間がほしいのです。私の目標は達成できる目処が見えてきたとはいえ、まだもう少し時間がかかりそうなんですから。

「それにしても、シュリアの目を手に入れられなかったのは残念ですね。魔力を直接見れると言う『緋の瞳』、絶対にいい魔道具の材料になったでしょうに」

 過去にも、龍の目や、氷巨狼の目を魔道具に変えた事例は幾つもあります。今の私なら緋の瞳を使えば、もしかすれば、石碑に認められるだけの魔道具に出来たかもしれません。

本当に忌々しい悪魔ですね。おかげで助かったのは事実ですけれど、おかげでせっかくのチャンスを逃してしまいました。

「まぁいいでしょう。これだけの魔法の力を使いこなせるようになれば、いずれ確実に石碑に認められる魔道具を作ることが出来ますから」

 なくなってしまった物は仕方がありません。それよりも今後どう動くかを考えなければいけません。

「やはり、どうにかしてこの町を離れて修行と素材集めの旅に出たいですね。このあたりでは成長に時間がかかり過ぎますし、本当に質のいい材料もここで待つよりも自分から出向いたほうがよさそうですし」

 ここは交通の要所であり物が集まる町ですが、本当にいいものは王都の方が高く売れることが多い上、そういった素材は王国よりも帝国のほうに集まる傾向があります。

そこそこの物資は集まるので研究材料には事欠きませんでしたが、石碑のための魔道具を作る材料は待っていてはいつになるかわかりません。

 あとは、この町の領主の仕事をどうするかなのだ。王都のお父様とお母様は人脈作りに忙しく、かといって領地を放り出すわけにも行きませんし……、やはり、誰か代官を立てるべきでしょうね。

とはいえ、私は一人娘なので、どうにかしてお父様を丸め込む必要もあるのですが。

「魔王が攻勢を強め始めているなんて話もありますし、いっそのこと伝説に出てくる勇者のパーティにでももぐりこめれば一番なのですけど……」

 それならば、堂々と領地を離れる大義名分が出来るので、趣味のために領地を放り出したなどということにはならない。
お父様も王国貴族である以上は、魔王討伐に参加するとなると反対はできないだろう。

家、と言うか血を重んじているお父様からしたら業腹だろうが、本当に最悪に私が死んでしまっても養子を取るなり、新たに子供を作るなり、いくらでもやりようはあるのだから。
 勇者一行の一員を出した家と言う評判を取るのは容易に想像がつく。

王都の方では一時期、勇者召喚が行われると噂があったはずだが、どうなったのだろうか。

「ユーミス様、お食事をお持ちしました」

 そんなことを考えていると、ソーリィが戻ってきました。

ワゴンに乗せられた食事を部屋に備え付けられているテーブルに綺麗に並べていく。

「本日は、豚の腸の肉詰めの焼き物と、クルック鳥の卵を焼いたものに、白パンになります。デザートにヤギのミルクに甘みの強いチイゴの実を潰して混ぜたものを用意させていただきました」

「ありがとう、今日もおいしそうですね」

 それから、食事をお互いに食べさせあったりして、ソーリィとイチャつきながら食事を終えた。
口移しで一緒に飲んだデザートのジュースはとても甘くてとても美味しかったので、夢中になって飲んでしまいました。

いつまでもそうしていたかったですが、残念ながらそういうわけにもいかないので、外出用の服に袖を通します。

「んっ、今日は役所の方でのお仕事ですね、頑張ってください、ユーミス様」

「ええ、ありがとう」

 部屋を出ようと扉の取っ手に手をかけたところで、ふと気になってソーリィに声をかける。

「ごめんなさい、ソーリィ。ちょっといいですか」

「? はい、何でしょうユーミス様」

「そのメイド服のスカートをギリギリまで持ち上げてくれませんか?」

「えっ!?」

 ソーリィの顔に一気に赤みが刺す。
黙って見ていると、ソーリィは恥ずかしそうにスカートのすそを掴んで持ち上げました。

「あ、あの、ユーミス様、これでよろしかったでしょうか?」

 ソーリィがスカートを高く持ち上げたことで、そのスラリとした綺麗な足と下着が露わになる。

綺麗なその足には、夢の中のような傷跡などひとつもありませんでした。そもそも、昨日だってソーリィを閨に呼んで、寝る直前まで私と一緒にいたのに、あの夢の中での様なことが起きているはずがない。

(……何を気にしているのでしょう、いくらなんでも考えすぎですね)

 後で神官にでも『悪夢をみる』と言って様子を見てもらいましょう。
それはそれとして、あぁ、顔を朱に染めながら恥ずかしそうにポーズをとり続けるソーリィが愛しくてたまらない。

少しの間その姿をたっぷりと堪能した後、私は今日の予定を消化するために役所へと向かって歩き出します。

把握できる限り、何も悪いことは起こっていない。
私はソーリィと添い遂げる未来を夢見ながら、町の中を歩いていく。


           ☆


(あぁ、いつまで続くのでしょう、この夢は)

そして、更に何度か見続けたある日の夢。

(いつもと同じなら、そろそろ目が覚めるころですね)

いつもと同じような光景を見せられた後、いつものように目覚めるかと思ったその日の夢は、いつもと違う終わり方をした。

「さぁ、準備は整いましたです。愚かなる姉様? まだ、何も終わっていない、姉様が幕を上げた劇の上で人形は踊り続けているのですよ」

 ずっと俯瞰した位置から見ていた私に、初めてシュリアが話しかけてくる。

(っ!?)

間近で見るその瞳は記憶の中の鮮やかな赤ではなく、暗くよどんだ血のような紅の色をしている。

粘りつくようなその視線が嫌でたまらない。けれど、相変わらずこの夢は自分の意思ではどうにも動いてくれない。

「まだ終わらない、終わらせない。最初で最後の幕を閉じに行くです。楽しみに、楽しみにしていてくださいなのですよ」

 ゾッとするような壮絶な笑みを称え、背筋を冷たい何かが上がっていくような間隔とともに私はベッドの上で跳ね起きました。

昨日は確か、ソーリィを閨に呼んだ後はそのまま一緒に眠ってしまったはずです。

あわてて自分の隣を見るが、そこにソーリィの姿はありません。

「『クシシッ、クシシシシシッ』」

「っ、誰ですかっ!!」

 と、混乱する頭の中、見回した部屋はいつもの自分の寝室でした。

いえ、ひとつだけ違うところがあります。

部屋のテーブルの上で、継ぎはぎだらけデザインのクマのヌイグルミが置かれている。あれはたしか、以前にソーリィがシュリアに与えた餌のひとつだったはずです。
特徴的なデザインだったのでよく覚えていました。

(それが、なんでこんなところに……)

「『クシッ、クシシ』」

 驚くことに、声を出したのはそのヌイグルミのようでした。それだけではなく、ただの飾りだと思っていた体のチャックを開いて、一通の手紙を取り出しました。

まるでこちらを馬鹿にしているように綺麗にひとつ礼をすると、手紙をテーブルに置いて勢いよく窓から飛び出していってしまった。

「っ、待ってくださいっ!!」

 慌ててヌイグルミが飛び出した窓に駆け寄りますが、窓から身を乗り出してヌイグルミの行方を捜したときには、もう周囲の家と家との間の角を曲がるところでした。

 訳が分からないまま急速に膨れ上がる不安を抑え、改めて状況を確認しようとします。

赤い便箋に封のされた手紙の表には、『招待状』と書かれている。裏を返して見た差出人の名前には『シュリアと貴方の知らない復讐者より』と書かれていました。

 記されたその文章に、先ほどの夢と現実が結びついたよう気がしました。

「ソーリィッ、ソーリィッ!! どこにいるんですかっ、返事をしてくださいッ、ソーリィ!!」

大きく張り上げた声に帰る声はない。
声を聞いて他の使用人たちがやってきましたが、誰に聞いてもその質問に答えられない。

 その日、私の家の中からソーリィが姿を消しました。
一応、今章はエピローグ含め、この次からカウントして6話で終了します。
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