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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第5話 勇者、古傷をほじくり返す

 ご機嫌ハナマル状態で手紙を書き終わる頃には部屋の中には俺以外に動いてる人間はいなくなった。

 痛みに呻いて暴れるので王女の手足は砕いてある。それでも絶え間なく襲う激痛に耐えかねたようで少し前から意識を失っていた。

 相変わらず騎士たちは随分と痛みに呻いていたが、そのうち痛みに耐え兼ねて自分から意識を手放そうとする人間が増えた。
 そのせいか、どいつもこいつも死んだ魚の目で頭が飛んじゃっているか、気を失っているかでうめき声は大合唱からは止まってしまった。

「っ、おろろ、この感覚も久しぶりだな」

 作業を終えて立ち上がるとくらりと視界が揺れる感覚がした。MPが急激に減っている証拠だ。

【火蜘蛛の脚剣】で字を書きながら、アレシアが死んでしまわないように【翠緑の晶剣】でHPを回復していたせいだろう。【火蜘蛛の脚剣】はほとんどMPを消費しないが、【翠緑の晶剣】の治癒はそこそこMPを消費する。

「ステータスオープン」


===============================

 宇景海人 17歳 男 
HP:531/545 MP: 81/412
レベル:1
筋力:224
体力:324
耐久:545
敏捷:587
魔力:117
魔耐:497
固有技能:「心剣 ▽」「他言語理解」
スキル:『拳打 Lv1』『魔力操作 LV1』『天駆 LV1』
状態:良好

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確認してみれば、MPが残り2割を切っている。やはり、現状のステータスでは心剣を乱用するのは厳しいようだった。

回復や消費軽減系のスキルをもう一度手に入れて鍛え直さなければ以前のようには戦えないだろう。やはり、レベル上げなどは早めにやっておくべきか。

「まぁいいや、さてと。そろそろ行くか」

 とりあえずここでやることは終わったのでとりあえず城を抜け出して街に行き、いくつか準備をしてこの街を出ることにしよう。

「……無駄です、あなたはこの城から出られません」

「ん、意識が戻ったのか」

「城の中には500人以上の騎士たちが常駐しています。あなたは拷問の末に殺されるでしょう」

 強引にダメージと回復を同時に強制されて、一時的に体の感覚が麻痺しているのだろう。アレシア王女には痛みに声がかすれるような様子はない。

 そのせいか、その瞳にはこちらを馬鹿にするような強さがあり、敵意が戻ったのがわかった。

 あれだけ痛めつけてもそんな意志を持てるのはさすがは王女といったところだろうか。未だ混乱しているのもあり、半分は虚勢なのだろうが、時間を置けば本当に回復してまだまだ楽しませてくれるだろう。俺としては大変ご機嫌だ。

 そんなことを考えて黙っていたのを見て、優位に立ったと思ったのか、アレシア王女がさらに声を張り上げる。

「異世界の野蛮な民が思い上がるからそうなるのです。えぇ、楽には殺しません、私が受けた屈辱の何倍もの痛みと苦しみの中で殺してやりましょう」

 ギラギラと憎しみと言う名の熱がこもった視線。

 そう、これが欲しかったのだ。それはヤられたという自己認識があって初めて出来る視線だからだ。

 苦痛と嫌悪と屈辱の汚泥の底へ突き落とすことができたと認識させてくれる視線だからだ。

 だが………、

「まぁ、泣いて縋りつきながら許しを請うのなら、助けてあげなくもありませんよ。お前のようなものでも勇者としては役に立ちますから、そうして恭順を誓うのなら私たちの民の前では勇者として華々しい姿で居させてあげましょう、光栄でしょう?」

 ハッ、と鼻を鳴らし、本当に優位に立ったと確信したように見下しているというのが丸分かりな言葉と視線を送ってきた。

 そんな王女を見て、俺は、

「はぁああ~~~~~~………」

 心底、がっかりとした深く深く、とんでもなく深いため息をついた。

 こんなのに容易く騙された以前の自分の間抜けさ加減が悲しくて落ち込んでしまいそうだ。

 そんなことする気はさらさらないが、泣いて縋り付いて許しを請ったとして、この王女は俺を助けたりはしないだろう。その無様な姿を見て自分の優位を確認したいだけで、どちらにしろ利用するだけ利用した後は拷問の果てに殺す気満々という様子が簡単に見て取れた。

 扱いやすいヒロインをチョロインさんということがあるが、この王女さまに簡単に騙されてた昔の俺はそれこそ超チョロインさんだったようだ。

 そしてもうひとつ、やはりこの程度の苦痛では復讐の満足度が全然足りないのがはっきりしたのだ。

 まだまだ「俺を利用する」なんて考えが出てくるのに、殺して終わりにしてしまうのでは満たされない。それではダメなのだ。

 利用するなんて考えない、ただ、俺を蹂躙したいとしか考えられないほど俺の手でこいつのようなやつらを徹底的に貶めてから殺さなければ、きっとこの復讐心は満足することはないだろう。

 復讐する相手は多く、満足する復讐を遂げるには一人一人にとても時間と手間ががかかるだろう。

(まぁ、そのほうがいいか、それだけ長く、この復讐を楽しむことができる!!)

 そのときのことを想像して、口の端が思わずつり上がる。

「な、なんなのですっ、その反応はっ!! 騎士がいるのが嘘だと思うのなら……」

「別に嘘だと思っちゃいないよ。これだけ騒いでほかの騎士がやってこないのは勇者召喚の秘密が万が一にもれないように遮音結界、魔力結界、物理結界を幾重にも張って、その上で建物の外で勇者を無事召喚するまでは入ってこないように命令してあるからなんだろ」

「どうしてそれをっ!?」

前に一度聞いたからな・・・・・・・・・・・

 目を驚きに見開いた王女の間抜けヅラを見ながら、一度目の召喚時に聞いた話を思い出す。

「んじゃ、俺、行くから」

 スタスタと召喚の間の柱に備え付けられた燭台をグイッ、と手前に倒す。

 すると、召喚の間の端の方の石畳の一つがゴゴゴッ、と音を立てて開き、そこから地下通路に続く階段が現れた。

「そ、その隠し通路は直系の王族以外の人間は誰も知らないはずなのにっ、何故っ!?」

「だから、前に聞いた、いや、通ったからだよ」

 そう、アレシア王女に騙され、罠に掛けるための転移方陣が用意されていたのもこの召喚の間であり、この抜け道を教えたのもまたアレシア王女だったのだから。

「っと、危ない危ない、忘れるところだった」

 少し復讐の前哨戦のようなことができて満足していたせいか、やらなければならないことを忘れるところだった。

 スタスタと歩いてまずは近くで転がって呻くだけのオブジェと化している騎士の近くによる。

「最初は素手で潰すつもりだったんだけど、折角素晴らしい喉の潰し方教えてもらったんだからやらないわけにはいかないよな? ちょっちMPが心もとないけど、まぁ【火蜘蛛の脚剣】だけなら、なんとかなるだろ」

そう言って、脚剣の先にピンポン玉ぐらいの大きさの火の玉を作り出すと、騎士の口の中に放りこんで破裂させた。

「¢£%#&□△◆■!?」

 威力を極限まで絞ってあるので死ぬことはないが、口内と喉を火で直接焼かれた騎士から言葉にならない悲鳴が上がる。

「ほい、ほいっ、っと」

 続けてほかの騎士たちにも同じように処理すると、騎士たちは呻くことすらもできなくなってしまった。

「最後はお前だな、アレシア。しばらくはまた会えなくなるだろうから言いたいことがあるなら最後に聞いておくぞ?」

「…………、お前の名を、教えなさい」

「いやいや、これから潜伏しようとしてるのに教える訳無いだろ。だから、お手紙(・・・)にも書いたとおり、俺のことは」

 ボッ、と作り出した火の玉を王女の口の中に放り込んだ。



「二度目の復讐者とでも呼んでくれ」



「~~~~っ!!」

意地でも弱みは見せないとばかりに、アレシア王女は荒れ狂う激痛に声も出さずに耐えた。

 指は全部使えなくした。喉もしばらくは治らないだろうし、十分な時間を稼げるはずだ。

「あ、それからこれはもらってくな。軍資金代わりにするわ」

 王女が首から下げていたネックレスを取り上げる。たしか、王室ゆかりの偉い品だと言っていたから、これを金に替えれば当分は困らないだろう。

 アレシア王女は朦朧とした瞳でなおこちらを睨みつけている。甚振りがいのある獲物で良かった。

 最後にニッコリと笑顔を浮かべると、心地のいい視線を背に地下通路をひとり降りていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 俺は薄暗い地下通路を歩きながら、冷えてきた頭で少し前のことを思い出していた。

 ウズウズとする感覚は、古傷がえぐられたせいなのだろう。

 思わずため息をついて、言葉がこぼれ落ちた。

「もっと、よく考えて名乗れば良かった……。ぐぅおおおおっ、なんだよ、『二度目の復讐者』ってっ!! もっとほかになんかなかったのか俺っ!!」

 そう、中二病という名の古傷を自ら抉ってしまったようで、出口にたどり着くまでの間、ひたすら身悶えたくなるような感覚に耐える羽目になるのだった。

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