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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第17話 幽霊勇者、予想外の連続に陥る

ミナリスが冒険者ランクを上げた二日前のの昼過ぎ、ユーミスの個人邸宅。
その使用人などが出入りする裏口に俺はいた。

「ふぅ、侍従長ったら本当に人使い荒いですよね」

「ねー」

「こらっ、聞かれたら大目玉よ。嫌だからね、連帯責任で仕事増やされるの」

「「はーいっ」」

 おしゃべりをしながら出てきた三人組のメイドはドサドサッ、と建物の外にある日常生活で出るゴミを入れておく瓶にゴミを捨てていく。

(それじゃあお邪魔しますかね)

 メイド達が仕事をしているのを横目に空いている裏口から屋敷の中に侵入する。
霊体になっている現在、わざわざ出入り口を使わなくとも普通の壁なら壁をすり抜けることも可能なのだが、そこはユーミスの邸宅、壁には付与魔術による強化が施されている。

この【心火の霊剣】を使って作り出したこの霊体は魔力そのもので出来ているようなものらしく物理的な防御はほとんど、というか全く意味を成さないが、その分魔法的な力の抵抗の影響をそこそこ強く受けるため、こうして侵入したほうが楽なのだ。

裏口をくぐるとユーミスオリジナルの対侵入者用の感知結界が貼られているのが分かる。
この結界に引っかかるとすぐにユーミスに連絡が行き、侵入者のことが伝わる。そしてすぐに低級の防御・足止め特化のゴーレムが5体程召喚され、襲いかかってくる。
 だが、これがどういう術式なの魔法なのか、どういった条件で反応するものなのか俺は一度目の時に聞いている。

だから、最大限の警戒を持って構築されるこの結界がこの霊体に何の効果もないことも知っているのだ。

全身を不可視の実体化しないこの状態の俺を感知できるのはそれこそ『心眼』や『緋の瞳』などの最上級スキルや固有スキルを持っているような存在だけだ。

 それを今、アイツは確実に保持していないことも知っている。その力は俺が鍛えてやったものなのだから。

(考えてみればここに来るのは初めてだな……)

 豪華な調度品などで飾られた廊下を歩く。霊体の足では何の感触も帰っては来ないが、実体化させればすぐにでもフワフワとした感触が帰ってくるだろう。

(さてと、どこから調べるか……)

 ここに来たのはユーミスを苦しめるのに一番いい方法は何かを考えるためだ。
ユーミスが異常な程に新たな魔道具を作りだし、エルミアの街にある石碑に名前を刻むことに執着しているのは知っている。それを求め、夢を見るような狂気の目をしたユーミスの顔を俺は憶えている。

だが、なぜそれをそこまで求めるのかがわからない。幼い頃からの夢だったからというのはわからなくもないが、あの目にはそれ以外の、夢ということ以上の即物的な欲望の火が見え隠れしていた。

それを知ることが今回の行動の一番の目的だ。それ以外にも弱点となりうるものがないかを探ることができればなおいい。
そう、ただ八つ裂きにするだけならばいくらでもできるのだから。

(まずはあいつの執務室みたいなところを探すべきか)

 ユーミスに関する秘密があるのならきっとそこだろう。日記か何かあれば、ユーミスの欲望の底を知ることが出来るかも知れない。
この世界の習慣上、上位の人間が利用する部屋は建物の中でも上層の階というのが常識であるので、階段を見つけて邸内を登る。
さすがは領主の娘の個人邸宅だけあって建物は広い。
 
「あら? いま、何か……」

 と、途中でメイドと階段ですれ違った時のことだ。
途中で足を止めたそのメイドがこちらを振り返ったのを見て体をこわばらせる。

青に近い紫の髪を後ろでポニーテールにした、20代過ぎの女性が不思議そうにこちらに視線を彷徨わせている。

(っ、気取られたか!?)

===============================

 ソーリィ=ルーエル 23歳 女 人族
HP:310/310 MP: 222/222
レベル:23
筋力:183
体力:143
耐久:144
敏捷:208
魔力:119
魔耐:122
固有技能:『直感』
スキル:『痛覚耐性 Lv2』『気配察知 Lv1』『気配隠蔽 Lv1』
    『剥ぎ取り Lv3』『暗視 Lv3』『剣術 Lv2』
    『鉄面皮 Lv1』『思考加速 Lv1』

状態:良好

===============================


 慌てた鑑定をかけてみるが、表示されるステータスにこちらを見抜く類のスキルは見受けられない。おそらく、固有スキルにある『直感』というスキルが原因なのだろう。

「…………気のせい、ですか」

 ひとしきり不思議そうに首をかしげたソーリィという名のメイドはそのまま一階へと降りていった。

(っ!! あれは……)

「あっ、ユーミス様。おかえりなさいませ」

「ええ、ただいまソーリィ」

 階段の下、そこにいたのはクズ虫ことユーミスだった。

「今日は役所の方で過ごされる予定だったのでは……?」

「少し息を抜きに戻って来ちゃいました。あとは領主の裁可の判を押すだけの書類ですから、この屋敷でも仕事は出来ます。しばらくしたら書類が届きますからそれまで一緒に休憩にしましょう? 私の寝室にいつものお水を持ってきてもらえますか」

「っ、は、はい。いまお持ちします」

「ふふふ、それじゃあ先に行ってますから」

(へぇ……、これはあいつのプライベートな現状を知るチャンスかもしれないな)

油断しすぎたと思うと同時に良い相手を見つけたとも思う。ユーミスと話している姿を見て思い出した。あのメイドはユーミスの腹心で、領地を出る際に領主としての仕事を任せていたエルフの血を引いている妹の補佐をさせていたメイドのはずだ。

現在でもある程度の事情に精通しているはずだし、休憩に同席させるぐらいなら、愚痴のような形で面白い本音なんかが聞けるかもしれない。

 これは二階を見る前に少しこいつの様子を観察してみるべきだろう。
俺は口の端を釣り上げながら、ユーミスたちの後を追った。


          ☆


…………そう、俺はちょっと面白いモノが見れればいいなと思っただけなのだ。

 内心、ほくそ笑みながら、現状気に入らない相手だの、悩みだのを軽く盗み聞きできれば、程度の軽い覚悟でしかなかった。

だから、こんなものを見る羽目になるとは微塵も思わなかったんですよ。ええ。心構えが足りんかったです。

だって、こんな…………。



「んぁ、ふふふっ、ここが弱いんですよね、ソーリィ?」

「ひゃうんっ、そ、そこはダメですユーミスさ、ひゃあっ、ああっ、んっ、んんっ」

「あぁ、可愛い声ですよ、ソーリィ。我慢しないで声を出してもいいんですよ?」

「んぅ、あぁあっ!!」



(こんなっ、豚の交配を見る羽目になるなんて……っ!!)

 いや、同性だから交配とは言わないのだろうか。
これが関係ない可愛い女の子同士なら役得なのだろうが、こいつらではただのグロ画像だ。気持ち悪い。

 思えば、寝室で休憩などという話が出た時点で変だと考えるべきだった。とはいえ、こんな真昼間から気持ちの悪い乳繰り合いを始めるなど完全に想定外だ。
ちなみに、『いつもの水』とやらはどうやら粘性を持ったローションのようなものらしかった。
ネトネトとした2匹の蛆虫が絡み合っているように見えて気持ち悪いことこの上ない。

(いや、よく考えろ。ユーミスがガチレズだとは思わなかったが、悪い情報でもない)

 甘ったるい香の焚かれた部屋、カーテンも扉も締め切って何をするかと思えばこんなこと。

一度目の世界でもこの世界基準でかなりのイケメンに言い寄られたりもしていたが欠片も心を揺らした様子はなかった。それは要するに、こういうことだったのだろう。

つまり、豚の好みは女の子だったということだ。

「ああぁっ、んっ、んぅ」

(うぅ、だめだ、もう限界だ……)

 これ以上は精神的ダメージが大きすぎて強制的に本体の元に戻されてしまいそうだ。
予想外のダメージにゲッソリしながら扉をすり抜けて外に出た。

(気を取り直して執務室っぽい場所を探すか)

 しばらくはお楽しみしてるだろうから、半実体化していろいろ探るのも楽だろう。
まとわりつく気持ち悪い映像を振り払うように一度顔を振り、階段を二階に上がった。

とりあえず手近な部屋に入っては出て、入っては出てを繰り返す。

そして、やっと本命らしき部屋を見つけた。

(この部屋だけわざわざ物理結界が二重に張られてるな……。盗み見対策の付与がされた魔道具か何かが室内にあるせいで詳細はわからんけど、部屋全体でなにか効果のある魔法陣が仕込まれてる)

 ちょっと厳重すぎる気もするが、それだけ隠したい何かがあるんだろう。
盗み見防止の魔道具を使っていることからして、感知系の能力の魔法陣ではないはずだ。
盗み見防止の魔道具と干渉を避けるためにもその手の能力ではなく直接侵入者に対して害を及ぼすタイプの魔法陣なのだろう。

よほどこの部屋に入らせたくないと見える。

物理結界には霊体の俺は当然引っかからないので、注意すべきは部屋の中の全体に効果を及ぼしているらしい魔法陣に対してだ。
とはいえ、部屋の中に入らなければどうにもならないので、霊体の表面を変質させて魔力の抵抗値を上げておく。
魔力の密度から言って、魔法陣の効果をすぐに受けることにはならないはずだ。最悪、中に入ってしまえば魔法陣がどんなものかも判別をつけられるだろうから、危なそうならば出直して対策を考え直せばいい。

(さてと、一体どんな秘密を隠してるんですかね?)

 扉をすり抜けるように感知結界をくぐり抜け、部屋の中に入る。
どんな魔法が張り巡らされていても大丈夫なようにと警戒しながら入った。のだが、そこにあったのはユーミスの執務室とはとても思えない部屋。

随所にぬいぐるみが飾られ、仕事に使うような大きな机は置かれていない。
見る限りはただの客室のように見え、中にはひとりの少女、たしか、ユーミスの妹がいた。

本来ならそれはそれでユーミスを苦しめる材料として、価値のある人材かと考えるところだったが、この部屋は明らかに変だった。

(おいおい、何だこれは……。どういうことだ? この魔力の質は間違いなく契約呪印だ、なんでこんなもんが……)

 魔法陣は予想していたような侵入者を排除する類のものではなく、部屋の中の特定の対象に一定の効果を持つ呪い(・・)の定着を強制させるものだ。

(しかも魔力の流れからいって対象になってるのは、あの妹ちゃんじゃねぇか。どうなってるんだこれ?)

 契約呪印は基本的に魔族の専売特許である力だ。維持は問題ないが発動は悪魔由来の魔族特有の魔力を使うので、人間には扱うことができないものだ。

それがユーミスの個人邸宅に仕掛けられていることもおかしいし、わざわざ他人に隠しながら維持している魔法陣の効果の対象が、ユーミスの妹であるのも意味がわからない。

(とりあえず、詳しいことは魔法陣に鑑定をかけて…………)

 と、そう考えたときのことだ。

「…………」

(ん……?)

 窓際の椅子で手紙の便箋を開いていた少女が虚空を見て傾げるようなポカンとした仕草で、緋色に染まった瞳でこちらをジーッ、と見ている。

(……緋色? いや、おい、まさか)

 右へ左へと移動してみると、少女の視線も俺に追従するように動く。そしてその瞳に不信を抱いた。
俺は、気のせいという一縷の望みにかけて少女へと鑑定をかけてみるが、

「……幽霊さんです?」

(……今日は予想外が多すぎるな)

===============================

 シュリア 14歳 女 人族(エルフ返り)
HP:332/332 MP: 525/525
レベル:31
筋力:133
体力:213
耐久:194
敏捷:288
魔力:549
魔耐:522
固有技能:『緋の瞳』
スキル:『気配察知 Lv1』『気配隠蔽 Lv1』
    『水術魔法 Lv1』『風術魔法 Lv1』
    『瞑想 Lv3』『剥ぎ取り Lv3』

状態:良好(契約呪印進行中)

===============================

(コイツ、なんで『緋の瞳』なんて持ってるんだ?)

 なにやら、俺が知らないことは想像以上に多そうだった。

これは明らかにおかしい。なぜなら、俺の記憶の中にあるこの少女の瞳は決して赤い色などしていなかったのだから。

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