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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第16話 ある少女の日常

新キャラです。
この話で前置きは終了なので、しばらくシリアスモードです。
「シュリアお嬢様、お食事をお持ちしました」

「……ありがとです」

 部屋の中に響いたノックの音と声に、シュリアは読んでいた小説に栞を挟んで閉じました。
外を見れば朝食を食べた頃よりもずっと日は高く上っている。

想像していたよりも読んでいた小説が面白くて集中し過ぎたです。

最近、巷で女性に流行っているという妖精の血をひく伯爵様と奴隷の少女が色々な柵や問題を超え、猛烈な恋に身を焦がすという内容の恋愛小説、まだ読み始めたばかりですが、早く結末がどうなるのか気になるです。
え、えっちぃところは、その、恥ずかしくてちょっとしか読めないですけど……。

「こちら、ムルー牛のステーキ、ポートテのポタージュ、ナルナ草のサラダになります。デザートには冷やしたコリンの実を用意してますので、後程お持ちします」

部屋の大きめのテーブルに広げられた料理に、窓際の椅子から立ち上がって席に着きました。
ソーリィさんは屋敷で働いているメイドさんで、シュリアがこの町に来た3年前からずっとお世話係をしてくれている人なのです。

あまり無駄口を叩かず、メイドとしての一線を絶対に越えてはこない人で、普段からずっと無表情な人ですが、丁寧にお世話をしてくれる優しい良い人。

「ソーリィさんも一緒にお食事にしないですか?」

「いえ、私は一介のメイドですから。ユーミス様の妹君であるシュリア様とご一緒するなど恐れ多いです、お許しください」

 そう言ってソーリィさんは小さく頭を下げる。
ソーリィさんはユーミス姉様の腹心の部下で、今はシュリアの世話をしながら、領内の仕事も手伝っているすごい人なのです。そして、ユーミス姉様と一緒に育った幼馴染でもあるのです。

人間ながらエルフの血が先祖返りで濃く出たシュリアとは違い、大人の女性の魅力に溢れた体と、怜悧でかっこいい顔立ち、青に近い紫の髪を後ろで束ねた凛々しい立ち姿は、大人っぽくて少し羨ましいです。
もう14になるのにいまだ子供っぽい姿のシュリアとは大違いなのです。せめて、もう少しお胸を分けて欲しいです。
あとは身長も。

「料理長が味付けを少し変えたそうですが、お味の方はいかがですか? シュリアお嬢様」

「おいしいです、シュリアだけ申し訳ないくらいなのです」

「そうですか、それでは、シュリア様からお褒めの言葉を戴いたと伝えておきます」

 そうしてシュリアがデザートのコリンの実を食べ終え、少しだけ窮屈な食事を終えると、ソーリィさんは自分の部下を呼んで食べ終わった食器を下げさせて一礼する。

「あの、いつものものは……」

「あぁ、新しいぬいぐるみですね。少々お待ちください」

 そう言ってソーリィさんは一度部屋を出ると、少ししてまた戻ってきました。

「こちらでよろしかったでしょうか」

「……ありがとなのです」

ソーリィさんが買ってきてくれたのは、大きなクマのオバケのぬいぐるみでした。
 ツギハギだらけの黄色や赤の体に、チャックの口、目は両方茶色のボタン、可愛いのです。
両手に抱えるようにしてぬいぐるみを抱きしめると、良質な布と綿のふわふわとした感触が返って来ます。

「では、私共は部屋の前で待機しております。何か御用がおありでしたらお声がけください」

『それでは失礼します、シュリアお嬢様』といつもと全く同じ言葉を告げ、ソーリィさんは綺麗な所作で部屋の外に出ていきました。

シュリアはひとしきり新しいぬいぐるみをモフモフして、スリスリして、一緒にベッドでゴロゴロして堪能したあと、ほかのぬいぐるみのように部屋に飾りました。

「この子はとっても気に入ったので、ここにするのです」

大きなベッドの枕のそばに立てかけるようにしてぬいぐるみを置いた。

「…………さて、今日もやるです」

ふんすっ、とシュリアは握りこぶしを作って、自分に言い聞かせるようにわざと声に出して言います。

始めるのは日課の筋トレです。

貴族の、それも領主様のお屋敷だけあって、日々の食事は大変おいしく、量も多くあります。なのに、ただの村娘だったシュリアがそんな贅沢な食事を食べ、なおかつ部屋から一歩も出ない生活を送れば、きっとブクブクに太ってしまうと思ったからです。
部屋から出られないストレスと運動不足の解消のために日課にしました。ただ、これもエルフの血なのか、一向に筋肉はつかないのです。いえ、お腹とかがパキパキに割れてしまっても困るのですけど。

そうしてひと汗かいたら、部屋に備え付けられているシャワーを浴びに行きます。
村にいたころはシャワーなんて贅沢なものはなかったので、日中暖かいうちに川で水浴びをするぐらいしかできませんでした。
元の生活に戻った時、馴染めるようになるか心配です、でも、やっぱり気持ちよくてやめられないのです。

「……きもちよかったのです」

「あらあら、はしたないですよ。シュリア」

「ね、姉様なのです!?」

 お風呂を出るとシュリアがいつも座っている窓際の椅子にユーミス姉様が座っていました。
端正な顔立ちに柔和な微笑を浮かべ、濃い新緑をした綺麗な髪が嵌め殺しの窓から差し込む光をキラキラと反射している。
対するシュリアはバスタオルを一枚巻いただけの姿。

「ごっ、ごめんなさいですっ」

 慌てて着替えを掴んで服を着る。

「急がなくても大丈夫ですよ、それに、私が来たタイミングが悪かったせいでもありますから」

「そ、そんなことはないのですっ、ユーミス姉様が忙しいのはシュリアも知ってるのです」

 何とか見苦しくないように服を整えて、シュリアはユーミス姉様の前に座った。

「今日は、ちょっとおいしいお菓子が手に入ったから一緒に食べようと思ってきたのよ? それから、いつもの手紙を持ってきたの。後でゆっくりと読むといいわ」

「! いつもありがとうなのです」

 シュリアは姉様から渡された『音声再生機能』付きの手紙を大切に受け取り、机の引き出しへと閉まった。今すぐ開けて聞きたい気持ちもありますが、せっかく姉様といるのだから後にするです。

「この手紙も、今回で最後よ。そろそろ魔法の効果が完成するわ。そうしたら家族とも直接会えるようになるわ」

「本当にありがとうなのです、毎回『音声再生機能』付きの手紙、助かるです」

「いいのよ、貴方にはこの三年間、ずっと寂しい思いをさせてきたのだから。それに、『音声再生機能』付きの手紙を作り出したのは私の祖母よ? 私用に月に何枚かもらうくらい問題ないわ」

 そう言って姉様はいつものように魅力的に微笑む。何度見ても見惚れてしまいそうな優し気な微笑だった。

「さぁ、そろそろいただきましょう? せっかくのお茶が冷めてしまうわ」

「はいです、姉様」

 そうして、シュリアは姉様と一緒にお茶を楽しみました。姉様は忙しい方なので長い時間をご一緒することは出来なかったです。それでも、こうして時々シュリアのもとを訪れてくれる。
出会ってから、まだ3年しかたっていないけれど尊敬している、とても優しい自慢の姉なのです。


     ☆


 シュリアがユーミス姉様の妹だと知ったのは3年前のことです。

シュリアが育った村はこのエルミアの町から東北にある、周りを森に囲まれた山のふもとの小さな村です。

 母様(ははさま)と二つ下の妹、そして私の3人の生活。

父親はいない。そのことについて母様(ははさま)は絶対に口にしようとしなかったのです。
それでもシュリアたちは特に飢えることもなく生活していくことが出来た。シュリアにエルフの先祖返りの強力な魔法の才能があったからなのです。

金糸の髪とやたらと白い肌、成長の遅い体、そしてエルフ特有の尖った耳。母様の婆様にエルフの血が混じっていたそうで、そのおかげだろうと言っていたです。

魔法になる前の魔力を直接見ることのできる固有スキル『緋の瞳』もありました。『緋の瞳』は魔法を扱うのにとても便利だったのです。

村はもともと元冒険者の開拓者が開いた村で獣人やエルフやドワーフのような亜人に対する偏見もなく、平和な村でした。シュリアは魔法の力を使うことで冒険者の真似ごとをしながら日銭を稼いでいました。
裕福ではないです、でも、幸せな日々。

けれど、それも長くは続かなかったのです。

妹のシュルミーが病にかかってしまいました。
 命にかかわるものではなく、延々と激しい苦痛にさいなまれ続ける病。

治すために必要な魔法薬はとても高価で、シュリア達家族にそれを買うだけのお金はとても用意できなかったのです。

それでも、シュリアは少しでもお金を貯めようと頑張りましたです。けど、薬を買うのに必要なお金には全然手が届かなかった。
 苦しむシェルミーに身売りしようかとさえ悩み始めたそんな時でした、ユーミス姉様が私の村を訪れたのは。

母様はもともと、エルミアの領主様のお屋敷で侍女をしていたらしいです。
そこで領主様のお手付きとなり、シュリアが生まれ、シェルミーも身ごもったですが、正妻である領主様の奥様に嫌われ、ある程度の手切れ金で町を追い出されたらしいです。
そうして幼い私を連れ、行き着いたのがこの村だったらしいのです。

つまり、ユーミス姉様は私たち姉妹の異母姉妹に当たるという話でした。

そんなユーミス姉さまがこの村に来たのはシュリアが魔法の力を持っていたためです。

特別な術式を使い、シュリアの魔法の力を姉様へと移す。シュリアは魔法の力をなくしてしまいますけど、その対価としてシェルミーの病を治すための高価な魔法薬と、家族三人が一生暮らしていけるだけの金銭、それに何かあった時の後ろ盾。

一も二もなくシュリアはその話に飛びつきました。
 魔法が使えなくなるのは少し残念です、でも、家族三人で幸せに暮らせるようになることを思えば迷う余地はなかったです。

 妹のシュルミーが魔法薬を飲んで病を完治させるのを見届けて、シュリアはエルミアのユーミス姉様の屋敷へと移り住みました。

魔法の力を移す術式は色々と制約があるようで、シュリアはそのお屋敷の部屋から一歩も出れず、姉様以外の血のつながりのある人間、つまり、母様やシェルミーと会うことも禁止になってしまったです。

寂しくないわけがなかったです、でも、ユーミス姉様が気遣ってくれて、月に一度は『音声再生機能』付きの手紙を使ってやり取りをさせてくれたのです。母様もシェルミーも字を書けないのでとても助かるです。

それ以外でもこうして珍しいお茶菓子を持って来てくれたりもしました。一つの部屋に閉じこめられているのでは退屈だろうと、わざわざシュリアに文字の勉強をつけてくれて、その上、ソーリィさんにシュリアの好きなぬいぐるみや小説を差し入れる様にも言ってくれたのです。
領主代理としての仕事と、学舎での魔道具の研究で忙しい中、それでもできる限りとシュリアのもとへと訪れてくれるユーミス姉様。
シュリアがユーミス姉様を本当に姉様と思うようになるのに時間は必要なかったです。

魔法の効果がきちんと安定したら、母様もシェルミーもこの町に呼んで一緒に暮らせるようになる。シュリアたちの父親とその正妻の方は、今は領主としての仕事をユーミス姉様に任せ、王都のお屋敷で暮らしているそうなのでエルミアの町に住む程度なら何も問題はないらしいです。
ユーミス姉様はそうなってからでも、いつでもこの屋敷に遊びに来てもいいと言ってくれたです。

何時も安心させるように柔和な笑みを浮かべ、一部屋に長い間、閉じ込められているシュリアに申し訳なさそうに謝る、とても心優しい姉様。

 母様にもシュルミーにも、もうすぐ直接会うことが出来る。

手紙の声だけでは分からないのです。

 シュルミーはどれくらい成長したでしょうか。
シュリアと違ってエルフの血が強く出ているわけじゃないから、シュリアよりずっと大きくなっているかもしれないです。

大好物の母様が作る出来たてのリコルのパイも食べたいです。きっとユーミス姉様も気に入るです。

そしたら、4人で今日の様にお茶をしてもいいかもしれない。

 あぁ、シュリアはとても幸せ者です。

 これが、今のシュリアの変化に乏しい、幸せな日常でした。

そんな時です。シュリアの目の前に不思議な幽霊さん、いえ、精霊さんが現れたのは。
+注意+
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