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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第15話 ミナリス、フラグを立てる

ちょっと箸休めの回です。
ミナリス全開です。次につながるので読み飛ばしはおすすめしません。
「はい、こちらが報酬になります。おめでとうございます、これでパーティランク、個人ランク共にEランクに昇格になりますね」

「ありがとうございます」

 バルカスたちを殺してから10日、現在の私は一人、ご主人様の命令で適当に討伐系の依頼をこなして冒険者のランクを上げるために動いています。
今日もレッサーエイプという、毛むくじゃらの魔物を狩って帰ってきたところです。

「そういえば、カイトさんの調子はどうですか? お怪我をされて宿で療養しているということでしたけれど……」

「大丈夫ですよ、順調に回復していますから」

 そう言ってニコリと笑う。
 目の前の受付嬢は、初日に色々と突っかかってきた空気の読めないメス豚でしたが、その後は意識を改めたのか、ご主人様に色目を使うことはなく普通に対応してくれます。
どうにも冒険者の恋人がいるそうで、そちらの方面でも色々と役に立つことを教えてくださるので、メス豚から豚はとってあげました。

報酬を受け取ってギルドを出ると、市場で野菜や肉などを買っていく。ここではある意味、魔物と戦うときよりもずっと真剣に食材を選ぶ必要があります。
ご主人様の口に入るものなのだから、手を抜くなんてことは絶対にありえません。お金を無駄遣いするのは論外ですが、食材に関しては常識的な範囲であれば一番質のいいものを選んでいます。

「おや、ミナリスちゃん。今日もご主人様のために買い物かい?」

「ええ、その通りです。おじさん、こちらの野菜と、それからあちらの野菜、それにその野菜もまとめて買いますから、銅貨5枚分負けてもらえますか?」

 もちろん、だからと言って安く買えるだけ安く買う努力は惜しむつもりはありませんが。

「こりゃまいったね。昨日も買ってもらったし、銅貨3枚はまけてあげるよ」

「ありがとうございます。これ、お金です」

 丸袋の中から取り出した巾着袋。その中から食材分の硬貨を取り出して渡す。

(いいお野菜が買えました。やっぱり大きな町だけあってここまでの町と違って質のいいものも多いですね)

 いい状態のいくつかの野菜を丸袋の中にしまい、店のおばさんに軽く会釈をしてから店を出る。
そうして泊まっている宿に戻ると、そのまま借りている二階の部屋へと上がった。その部屋の中、ベッドの上でご主人様は横になって静かに目を瞑っていました。

当然、怪我等はかすり傷一つ負っていません。ギルドに報告しているのはご主人様が情報収集に力を注ぐための方便です。

さらりとご主人様の黒髪を撫でる。
いつ見ても愛らしい寝顔で色々しちゃいたいなぁ、と言う誘惑に駆られますが、この状態でもこれ以上の刺激は向こう(・・・)にいるご主人様にも伝わってしまうでしょうからこれ以上は手を出せません。

「まだ戻ってきていないみたいですし、先に夕食の支度を済ましますか」

 名残惜しい気持ちを抑え、一階に下りていつものように厨房を借りて料理を始める。
今日のメニューはパンとスープにするつもりです。もちろんここも手を抜けない。

王都を離れてからご主人様にはたびたび剣の稽古をつけてもらっていますが、その度に戦闘で大切なのは情報収集とその判断なのだと何度もご主人様に教えられました。なのでその教訓を生かし、ご主人様の好みを食事のたびにバレないようにひそかに観察して徹底的に情報収集をして、料理に役立てています。

とはいえ、ご主人様の好みにあっているかの判断は分かりやすい。

例えば、

 好きなメニューを告げると微かに目元と口元が緩み、声のトーンが上がります。食事をするときも長く味わうためなのか、スプーンに乗せられれる量が普段の5分の4程度に抑えられ、なのに、やはり好物は早く食べたいのか、普段より噛む速度が少し早くなって、一口と一口の感覚も短くなって、ああもう、その微妙に漏れ出した必死な仕草が可愛すぎて可愛すぎて全くあれは一体何の罠なんでしょうか!! こちらが必死に我慢しているというのに、なんですかあの無防備さはっ!! 

「……いけません、思考が暴走してますね」

買ってきたトロトロ鳥を捌き、野菜の下処理をしながら色々と思考を続ける。

料理も工夫しますが、ご主人様が直接口に入れるスプーンなども調整しています。
大きさや底の深さ、曲線の角度、持ち手の太さや形の加減など、完璧なものを目指すための要素は思ったよりも多い。少しずつ調節していき、今のご主人様が使っているスプーンは29代目のスプーンです。

28代目までのスプーンはきっちりと保管されています。個人的にはやはり一番思い入れのある初代スプーンと、次代の製作までの期間が一番長かった第17代スプーン、鮮度のいい第28代スプーンが最近のお気に入りです。
コレクションには宿でご主人様が使っていた布団も加えたいところなのですが、さすがにこれは盗んだりするわけにもいかないのでどうするか大変悩んでいます。
 取りあえず今はご主人様に気が付かれないように2,3日に一度の割合で私が使っていたものとご主人様の物とを入れ替えることで我慢を……。

「って、ダメです、また思考が料理から明後日の方向に跳びました」

一度頭を振って思考を切り替え、目の前の料理に集中しなおす。
ご主人様は肉よりも野菜が多めのスープが好きだ。それに野菜は細かく切るよりもできるだけ何がどの野菜か分かるような大きさにした方が好きなようでした。
水を張った鍋に下処理を終えた野菜を入れ、野菜から出る灰汁を取り除いて、ヤギのミルクとバターを溶かす。そのままいくらか煮込んで、最後に塩で味を調えればスープは完成だ。
 母が教えてくれた、いわゆる家庭の味と言うものでしたが、ご主人様の世界の「くりーむしちゅー」と言う料理に近いらしい。ご主人様のお気に入りの料理の一つだ。

「これでよし、後は……」

 スープが完成する時間に合わせ、スライスした黒パンを軽く火であぶり、その上にチーズをのせて溶かしたものを二人分用意する。

 出来上がった料理に満足気に一つ頷いていると宿の女将さんが近くに寄ってきました。

「ほぅ、毎日たいしたもんだね。これもご主人様の分かい?」

「はい、そうです」

「……大変だろうが、頑張りな。ほら、こいつを分けたげるよ」

 そう言って女将さんはコリンと言う名の赤い色の果実を一つ渡してくれました。果実は高いので嬉しいですが、何のことだかよくわかりません。

「? はぁ、ありがとうございます」

 それでも貰えるものは貰えるものとして受け取り、せっかくですのでその場で二人分に切り分けます。ご主人様に習った『リンゴウサギ』なる切り方で、コリンの実をウサギを模した形にしました。

(ご主人様が、ウサギを、食べる……。くふふっ、ふぁ、良い響きです、いつか私も……)

 鍋に平らな蓋をして、その上にチーズをのせて焼いた黒パン、リンゴウサギのコリンの実を乗せ、2階の部屋へと戻りました。スプーンやスープを入れる深皿はご主人様からいただいた丸袋の中に収納してあるので部屋の中で取り出せばいい。

「ん、ミナリス、ただいま」

「ああ、お戻りになられたのですね、ご主人様」

 部屋に戻ってみるとちょうどご主人様がベッドから起き上がったところでした。

「お食事の用意できてますよ、今日は『くりーむしちゅー』を作りました」

「おおっ、相変わらずうまそうだなぁ」

 野菜を多めに取り分けたスープをご主人様へと渡す。

「「いただきます」」

 ご主人様に教えられた食事の前の挨拶をして、私は料理に手をのばしながらさりげなくご主人様を観察する。ご主人様は美味しそうに私の料理を食べてくれている。どうやら今日の料理もご主人様の好みに沿うものでよかったようです。嬉しい。そしてあのスプーンが羨ましい。

 ただ、平静を装ってはいますが、最近のご主人様はそこそこ機嫌が悪い様子です。
2日前に私がいない時に一人で魔物を狩りに行って、夥しい血の匂いをさせて帰って来た日から機嫌が悪くなったようです。たぶん、その日に何かあったのでしょうが、これは大分キテいる感じがします。

「それで、ご主人様、あまりいい情報は手に入らなかったのですか?」

ご主人様はこの前のレッドキャップとの戦闘で得た経験値で、また新たな力を取り戻したようでした。
 【心火の霊剣】という名の心剣は自由に不可視の生霊と化すことができるものらしいです。
 その力で誰にも気がつかれず、街の重要な施設などに入り込んでこの街の現状を詳しく探っているそうです。その間、ご自身の体は動かせないそうなのでギルドには怪我をしていると告げ、ご主人様の体は宿で横になっているのです。

いろんなところに行く度に、ご主人様は喜んだり、かと思うと落ち込んだりしています。露骨に態度には出しませんが、普段から観察している私からすればそれくらいはわかります。
どうやら、一度目の時に騙され続けた事実に一人落ち込んでいるようです。そんなご主人様もキュンッときちゃうほどそそり、いえ、何でもありません。

「ん? いや、情報はいい感じに手に入ってきてるよ。今日ので推測の裏付けも取れた。ただな」

 ご主人様の顔がゾッと憎しみに染まる。

「ユーミスの屋敷で、衝動的に殺してやりたくなるくらいクソ面白くもない絵が見えてきたぞ。自分がされたわけでもないのに、更にこんな憎悪が上乗せされることになるとは思わんかったわ。やっぱり超ド級のクソ野郎だなアイツ。確認もこの二日で取ってきた」

それは、ご主人様が時折浮かべる汚物に対する感情を抑えきれないときに出る顔。
 手にしたスプーンの先をスープが残る食器の底に数回叩きつける。

「復讐に権利なんてものはない、結局は自己満足のたぐいだからな。だから、俺が満足できない復讐に意味はない、ひとかけらだって、他人にくれてやる気はない。けれどもし、一緒に楽しむ気があるのなら…………」

 暗い笑顔を浮かべ、ご主人様が笑う。

「復讐を選ぶかは本人次第だけど……、一緒に参加してもらったほうが絶対に面白くなる。シナリオはそれまで決められないから、大分アドリブっぽくなりそうだけどな」

「……ご主人様、思わせぶりなセリフは、またあとでお願いしたいです。私はちゃんと一人で冒険者の依頼をこなして来たんですよ? 今日だってEランクにランクアップしてきました。そろそろ私も復讐に関わりたいです、焦らされるのは苦手です」

 この前の失態、ご主人様は良いと言っても自分で自分が許せませんでした。なので、『本番に備えてレベル上げと経験を積む』という、させることがないからとりあえず放置という状態も、甘んじて受け入れていました。
 いつまでもウジウジしていたのを見透かされて、ご主人様が私の気持ちも考えての指示だというのも少し様子を伺えば分かりましたから。

けれど、復讐に関われないのは辛いですし、そろそろ自粛期間は解禁してもいいと思います。このままだと本当に復讐に乗り遅れそうです。
 まぁ、今回の復讐はご主人様のものなので、どちらにしろ今回は裏方に回るのですけど、復讐心を共有している以上、憎くて憎くてたまらないのは私もですので。
手のひらで転がされた感はありますが、ご主人様の手のひらで、いいように……。
いけません、ここはスキル(鉄面皮)の使いどころです。

「悪い悪い、一人でテンション上がってても寒いだけだよな。ちゃんと話すよ。……っていうか、いつの間にか冒険者ランク上がったのか。なら、一度ここでギルドの依頼を受けるのは打ち止めだな。タイミングもちょうどいいし。時期的にはそろそろのはずだから、明日色々と確認したら、基本的なところだけでも決めておこうか」

「……それで、結局なんなのですか?」

「取りあえず、詳しい話は飯食い終わってからな? 聞いたら、たぶん、胸糞悪くて折角のうまい飯がまずくなるぞ」

 そう言ってご主人様は、チーズの乗ったパンの最後のひとかけを口に放り込みました。

「やっぱりうまいな、さすがはハ○ジに出てくるようなチーズパンか。侮れん」

よくわかりませんが、それはそれとして、またご主人様と一緒に行動する時間が増えそうで、しかもやっと復讐に直接関われる。
ご主人様の胃袋も確実につかみつつあります。順調です、極めて順調です。
とにかく今は、目の前の食事を終わらせましょう。話は全部、それからです。
+注意+
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