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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第13話 自己を見る傍観者の轆轤 2

今回、お食事中の方に厳しい表現が入ります。ご注意ください
「さてと、俺の方も準備しないといけないな」

 ミナリスがバルカス達の準備を整えてくれたので、改めてこちらも準備を整えておくことにする。
これから必要になる心剣は二つ。【魔畜の卵剣】と【水妖精の雫刃】の二振りだ。

まずは【魔畜の卵剣】をその手に取る。
心剣を構築する際、上手く構築しないと漏れ出た魔力が特有の発光を示すのだが、良い演出になりそうなのであえて雑に作り出してやると、ブラックライトのような黒い光の胞子が散る。

「――――畜生の声とつまびらけ、『卵魔の花』」

 ゆっくりと魔力を流し込んでやると緑色の花のつぼみのような刀身に生物の血管のような筋が走り、ドクドクと脈動する。そうして徐々に黒と紫の斑に染まりながら膨らんでいく刀身はバルカス達の不安をかきたてるように大きさを増していく。

「な、なんだそれは……」

「ん? もうちょっと内緒だ内緒」

声をかけてきたバルカスにわざとらしく答える。
ミナリスの麻痺毒が完全に上書きされたようでバルカス達はピクリとも体を動かせないようだったが、口は元のように回るようになったようだ。
不気味な威圧感を少しずつ増していく【魔畜の卵剣】にバルカス達の表情にはどんどんと不安と恐怖が入り混じっていく。

少なくとも自分たちにとっていいものでないということはビリビリと肌で感じてくれているようだ。
わざと少しずつ魔力を流すことで時間を掛けて膨らみ続けたつぼみが、弾ける様に獣声(・・)と共に花開く。



『ッジャリャルアアァアッ!!』



「「「っ!!」」」

 黒板をガラスで引っ掻いたような、そんなどこか無機質に甲高い獣声。そんなに大きな音ではなかったが、不意打ちで聞かされたバルカス達は音に思いっきり顔をしかめている。
一方、俺の方はと言うと、

「んぅううっ、やっぱり嫌な音ですぅ」

「ミナリス……、俺は良いって言ったのに」

 直前にミナリスが後ろから引っ付くようにして耳を塞いでくれていた。街ではちょうどいい耳栓が見つけられなかったので、ミナリスには自分の耳を塞いでおくように言って置いたのだが……。

「えへへ、だーめでーすよぉー、ご主人様は私のご主人様なんですから。こういう時はちゃあんと命令してください。えいっ、えいっ」

「あっ、こらっ、引っ付くなっ。胸が当たってるだろっ」

「何言ってるんですか、当ててるんですよ?」

 んふふ~っ、とMP酔い丸出しで色っぽく笑うミナリス。

「いいからちょっとおとなしくしてろな」

「あんっ、役に立ったんだからご褒美くれてもいいじゃないですかぁ~」

「あぁ~、はいはい、後でな。ほら、飲んどけ」

 ぺいっ、とミナリスを引き剥がして慣れてしまった手つきでその口にMPポーションの瓶を突っ込みながら、MP酔いMP酔いと心の中で呟いて努めて冷静さを装う。普段よりも深めにキマってるようだが、ミナリスもこれでしばらくすればいつもの様に戻るだろう。

「……な、なんなんですか、こいつらは」

「わ、訳が、分かんねぇッス」

テリーとドットが困惑した様子で呟いていたが、その声には怯えが混じっていた。理解できない相手に、何をされるか分からないという不安が声に色濃く表れている。
ただ、バルカスの方は、俺とミナリスの場にそぐわないやり取りよりも【魔畜の卵剣】から、ちょうど顔の目の前に現れたその生物に意識を独占されているようだった。

「さてと、調子はどうだ、スラ吉」

「キュピィッ!!」

 妙にかわいい声を上げて返事をしてくれたのは、【魔畜の卵剣】の獣声と共に吐き出されたスライムのスラ吉だ。『使役紋』を通してなんとなく絶好調と告げているのが分かる。
スラ吉を吐き出したと同時にその開かれた【魔畜の卵剣】の花の刀身は、今は萎れるようにして淡緑色のつぼみに戻っている。

「す、スライムか?」

「そう、変異種でも上位種でもない、ただのスライムだ」

 バルカスが口にした言葉には困惑が乗せられていた。
返事を返した通り、スラ吉はただのスライムだ。目も鼻も口もない、青く色づく半透明のゼリー状の体。小さめのバランスボール程度の大きさは、平均よりも少し大きめのサイズだが異常と言うほどでもない。ただ一つ、明らかに野生のスライムと区別できる点が、そのプルプルボディの表面に一つだけ浮かんでいる魔力で刻まれた『使役紋』だ。

スラ吉は地面できゅぴきゅぴと鳴きながら、ぽよよん、ぽよよんという感じで震え続けている。いつ見ても不思議だが、いったいどこで声を出しているのだろうか。

「よし、それじゃあちょっと大変だろうけど準備はいいか?」

「きゅぴっ、きゅーぴ!!」

 任せて、と告げるスラ吉の頭……かどうかはよく分からないが、体の上部をを軽くなでる。手の平にはひんやりとしたもちもち肌の気持ちいい感触が返ってきた。

 【魔畜の卵剣】の構成を解くと、今度は【水妖精の雫刃】をその手に取る。
 それは刀身のない、小さめの鍔とさらしのような群青色の布を巻いただけのような柄。

「よろしく頼むぞ、スラ吉」

「キュピィッ!! ウウ~、キュッ!!」

 スラ吉は元気よく返事をすると少し踏ん張ったような雰囲気を出しながら、2体に分裂した。

 俺は分裂した方のスラ吉の体に【水妖精の雫刃】を近づけ、スラ吉の体で【水妖精の雫刃】の刀身を作り出した。スラ吉の体と同じ、青く色づく半透明の刀身は元になった体積の10分の1程度の体積まで減っている。

「な、なんだ、何をしようとしているんだ」

「さぁ、なんだと思いますか?」

 バルカスの呟きに、どうなるか知っているミナリスがクスクスと笑いながら答える。

「すぐにわかるよ、これで準備は終わったからな。今の俺の魔力だとこのまま刃を維持するのが結構辛いんだ。だから、もう待たせないさ」

 口の端を吊り上げながらまずはバルカスに歩み寄ると【水妖精の雫刃】を右手で振り上げる。

「ま、待て……、たのむ、ま……っ」

「安心しろよ、ただ殺すなんてそんなことはしないから」

 恐怖にひきつった顔をするバルカスに軽く微笑んでやり、弧を描くように心剣を振り抜き、続けざまに残りの二人の首も落とした。


           ☆


「安心しろよ、ただ殺すなんてそんなことはしないから」

 見上げた顔には狂喜に染まる笑みが浮かんでいた。視界の端でどこかゆっくりと見える青水晶のように見える刃が自分の首を刈り取るように振り下ろされていくのが見えた。

(畜生……っ、こんな、こんなガキにこの俺が……っ!!)

ゴロンッと体と切り離された首が転がっていくのが分かる。あの兎族の獣人奴隷に無理やり飲まされた何かの毒のせいか、そこまでされても痛みを感じることはなかった。

 こんな状態になっても今はまだ目は見えていた。俺に続いてテリーとドットの首が落ちていくのが見える。
斬首刑を下された罪人が、刑を執行されてから少しの間、まるで生きているかのように口を開いたり、瞬きしたりすることがあると聞いたことがあるが、どうやら本当のことだったようだ。

だがそれもあと数秒で完全に暗闇に囚われることになるのだろう。パーティを組んでから何年も死線をともに潜り抜けていた仲間たちが死んでいく姿を見ながら、痛みも何もないせいで現実感の薄い死の感覚が近づくのを――――、

「ん……、なんだ。おい、どうなってんだ!?」

 一秒、二秒、三秒、時間は過ぎていくが意識は途切れない。
もしかして俺の首は落ちていないのかっ?

「な、なんなんっスか!? 俺の首落ちてるんじゃないんすか!?」

「これは、どういうことですか!? 俺は今首を落とされたんじゃ……!?」

 耳に混乱したテリーとドットの声が聞こえてくる。視界の端では地面に転がっているテリーとドットの頭と、切り落とされた首の切断面を何かが覆っているのが見えた。

「ぷっ、アハハッ!! 悪い悪い、そのままじゃ見え辛いよな」

 ゾッとするような声音でガキの笑い声が降ってくる。目の前にガキの足が見えたと思ったら髪を掴まれる感覚と共に視界が持ち上がった。視界がガキと同じところまで上がってからやっと自分の状態に気が付く。

「づっ、がぁ、あああっ!? なんだ、なんだこりゃあっ!!」

 広くなった視界の下側、血を流しながらびくびくと痙攣する俺の体が(・・・・)地面に横たわっていた。

「なんなんだっ、なんだんだよぉぉこれはああっ!! なんで俺っ、首が切り落とされてんのに、そいつは俺の体だろっ!? なんで俺死んでないんだっ!?」

「ハハハッ、すげぇだろ。首を切り落とすと同時にスラ吉に首を覆ってもらったんだよ。流れ出る血を循環させて空気中の酸素を取り込ませながら血圧を維持すれば、そうやって意識もはっきりしたままの生首が出来上がる。肺と声帯の代わりにもなるから、ちゃんと声も出せるだろう? ミナリスの毒のおかげで痛みでショック死ってこともない」

「はあっ!? なんだそりゃあっ、わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ」

「今のお前は首から上だけになってるけど意識は保てるようになってるってことだよ。ほれっ、こんな風にな」

 大仰に肩をすくめたガキが俺たちが先程まで腰を下ろしていた岩の上に俺を置くと、手に持っていた剣をどこかに霧散させ、転がっていたテリーとドットの髪を乱暴につかんで俺の前に突き出した。

目に入るテリーとドットの首から上は呆然とした表情を浮かべている。俺もきっとこんな顔をしているのだろう。
切断された俺たちの首の断面を、スライムらしきものが覆い、ドクンドクンと脈動している青透明な体の中を赤黒い、俺たちの血らしきものが動いているのが見える。
目が回りそうだった、まるで自分が化物に改造されてしまったような気さえしてくる。

「自分の現状、理解できたか? さぁ、人生の最後に、中々見られない面白い見世物を見せてやるよ」

 目の前でゾッとする笑みを湛えながら、命さえ弄ぶ本物の化物がそう告げる。
 そうしてテリーとドットの頭が俺の両脇に置かれた。

「スラ吉」

「きゅぴッ!!」

 ガキの声に返事をするように一つ鳴いたスライムがズルズルと俺たちの体の方へと這い寄っていく。

「お、おい、何するつもりなんだ……」

嫌な予感に、何度か口にした言葉を再び口にする。
 ガキはそれに答えず、穏やかな笑みを浮かべながらスライムの頭を軽くなで、何でもない口調で言った。

喰らっていいよ(・・・・・・・)

「きゅいっ!!」

「っ、やめろぉおおおおおっ!!」

 ガキがその一言を言葉にした途端、待ってましたとばかりにスライムが俺たちの体にのしかかった。

「なああぁ!? やめっ、ああああぁっ、俺たちの体が……っ!!」

 ゴギャ、バギュ、ギョリッ、と俺たちの体をスライムが圧縮していく。

「やめ、やめなさいっ!! それはっ、それ以上俺たちの体が、そんなことしたらっ!! あぁ、やめなさいっ、俺たちを誰だと思っているんですかっ!! やめろっ、今すぐやめろおおおおおっ!!」

「な、なんなんすか、これ……ゆめっ、夢っすよっ!! ギャハッ、ギャハハハハッ、そう夢っ!! 夢なんすよっ!!」
 
 ドットの言葉に、本当にその通りだと思った。
これは夢だ、それも、とびっきりの悪夢だった。

「クスクスッ、どうですか、なかなか出来ない経験だと思いますよ、意識があるまま自分の体が目の前で喰われて行く様を見るのは。こういうのがお好きなのでしょう?」

 兎族の獣人が言っている通り、青く透けたスライムの体の中の様子はよくわかった。俺たちの体がどんな風になっているのがよく見え、スライムの体越しの鈍い音も聞こえる。

 スライムの体の中でグギュッ、とドットの腕が潰される。捻じり切られたテリーの足が中ほどで二つ折りにされている。着ていた皮鎧を剥がされ、剥き出しになった俺の腹が引き破られて飛び出した内臓がクチュクチュと丸められて赤黒い肉団子のように丸められている。
自分たちの体が原形を失っていく度に俺の中で大事な何かが軽く乾いた音を立てて折れていくのが分かる。

「嫌です、こんな、こんなこと起きるはずがありません、そうです、ありえませんありえませんありえませんありえません」

 ドットの次はテリーが壊れた。『ありえません』と小さく呟き続ける声が聞こえてくる。

「あぁ、あああ、俺たちが悪かった、悪かったから、頼むからもうやめてくれ……っ!!」

 絞り出すような声音で吐き出す。俺の体が、俺の前で弄ぶように壊されていく。気が狂いそうだった。
俺はここで死ぬんだろう。だが、最後の最後でこんなふうに狂ったまま死んでいくのは嫌だった。

「んんー、だらしねぇなぁ。痛みも何も感じてない癖にもうギブアップか」

「これならまだゴブリンの方が苛めがいがあります」

「だよなぁ」

 そんな風に笑う二人組の背後ではもうどれが誰かも分からなくなった一塊の肉に固まりがスライムの中で浮いていた。
分からない、分からない、分からない。
目の前で笑っている奴らが何なのか分からない。
なんでこいつらは笑っているんだ? この俺がこんな状況になっているのに、何を楽しそうに会話しているんだ?

「キュプッ!」

 プッと吐き出すように俺たちの体を食いつぶしたスライムが俺たちの装備の金属部分の塊を地面へと吐き出した。

「~~~っ、俺たちが、なにしたっていうんだよっ!!」

「はぁ? 何言ってんだお前」

 激情のままに吐き出した言葉は、しかし、目の前のガキに痛痒一つ与えることができない。

「逆ギレしてんじゃねぇよ。俺の前でミナリスを犯そうとしたんだろ? 俺を殺そうとしたんだろ?」

「そ、それは、だからってこんなひどい真似」

「何が『ひどい真似』だ、下種野郎。強ければ何をしてもいいと思ってたんだろ? バレなければ何をやっても構わないと思ってたんだろ? なら、弱かったら何をされても仕方がなくて、バレたら何かされると思ってたってことだよな? これはその通りになっただけだけの話だろ?」

「…………」

「うぬぼれてんじゃねぇよ。なにもひどいことなんかねぇよ。外道が外道らしい死にざまを迎えようとしてるだけだろうが」

今は遠く昔に感じる子供の頃の記憶、村の神父に諭された話を思い出した。
あぁ、これが、因果応報って奴なのか。俺たちがやってきたことを俺たちがされただけ。

…………だから、だからなんだって言うんだ。

「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だっ!!」

死にたくない、しにたくないっ、シニタクナイッ!!
 こんな殺され方で死にたくないっ!!
冒険者になった時から碌な死に方なんてできるとは思っちゃいなかった。でも、だからと言ってなんだこの死に方は。こんな終わり方なんてあんまりだっ!!

「じゃあ、そろそろさよならだな。俺、ミナリス、スラ吉で一つずつな」

「はぁーい、ご主人様」

 獣人の女が声を上げ、道具袋のようなものからさび付いた鉄槌を取り出した。

「夢だぁああああ、夢なんっすよぉおおおおっ、夢ええ「ばいばーいっ!!」がぶ」

 ごうっ、と空気が唸る音の後にすぐ隣でグべチャッという音が響く。振動と共に生暖かく滑ったドットの血が俺の顔にまで降りかかる。

「次、スラ吉、おかわりしていいぞ」

「キュイッ!!」

 ガキの言葉に寄ってきたスライムが二本の触手を伸ばした。

「ありえません、こんなのありえないのです、おかしいです、ありえないのですから、ありえなぐ、ゴボォッ」

 まるで抱きかかえるようにテリーの頭を飲み込んだスライムが、ゴギュ、バギュ、と肉も骨も押しつぶす鈍い音をさせる。まるで食べこぼしたかのように、どちらの物かもわからないテリーの眼球がスライムの体から飛び出し地面を転がった。だがそれも伸びてきたスライムの触手が拾い上げ、スライムの体の中でプチュッと籠った音で潰された。

「嫌だぁ、なんでこんなことになってんだよぉ……っ!! なんで、こんな……っ、ガァッ」

「あぁ、俺も何度も思って何度も叫んだよ。『なんでこんなことに』って。でもな、お前らは知らなくても、俺は知ってるんだ。『なんでこんなことに』って、俺、お前らにも言ったんだぜ?」

 縦に断ち切られる俺の視界が、最後に見たのはそんな何もかもを、自分自身すら蔑んだような嘲笑を浮かべるガキの顔だった。
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