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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第12話 自己を見る傍観者の轆轤

ちょっと残酷な表現が入ります。

「あらよっ、と。ドット、一匹そっち行ったぞー」

 幅広の両手剣でゴブリンを切り裂いたバルカスの脇を抜けるようにしてほかのゴブリンが後衛のテリーの下へと向かって走る。
 しかし、そのゴブリンの行動はバルカスの声に反応したドットが妨害に入ったことで防がれた。

「すっ、っと。テリー!!」

 ドットはゴブリンが振り下ろした、そこら辺に落ちている木の枝ような粗雑な棍棒の初撃を受け流し、二撃目を弾くようにして距離を取る。

「わかってる!! 凍てつく氷の礫よ、『アイスバレット』!!」

 ドットの声に応じたテリーが、孤立したゴブリンに向けて氷の弾丸を弾き飛ばす。
 それを避けられなかったゴブリンは、カエルが潰されたような声をあげて体に大きな穴を空けて倒れた。
その間にバルカスがもう一匹のゴブリンを薙ぎ払い、いったん戦闘は終了した。
それぞれがゴブリンの討伐部位である耳を切り取り、一か所に集まる。

森に入ってからしばらく時間が経っていた。
日はすっかり頂点を過ぎ、バルカス達が狩ったゴブリンの数はこの戦闘でちょうど二桁に入った。

「思ったよりも数を稼げたな。流石にそろそろ飯にするか」

「ふぅ、やっと休憩ですか」

「相変わらずテリーは体力ないっすねぇ。さっき偵察に出たときに少し先に開けた場所があったんでそこまで移動しますか」

 ドットを先導にバルカス達は移動する。
移動先で適当に腰を下ろしたバルカス達は最下級の道具袋から干し肉と黒パンを取り出した。

「しっかし、なんで森に入ってからすぐに殺しに行かなかったんすか? あのガキどもの杖を奪いに行くんっすよね?」

「バーカ、どうせならアイツラが狩ったゴブリンの討伐部位もぶん捕っちまえば一石二鳥だろうが。それにある程度ゴブリンを狩って帰らねぇと不審がられるしな、んぐっ」

 バルカスはパサつく黒パンを水筒の水で流し込み、硬めの干し肉に歯を立てる。

「今日中に街に戻らないと勝負に負けるんだからここらへんから遠くには行かねぇよ。奥に行かなくても十分魔物も沸いてくるからな」

「確かに、魔物との遭遇率は高かったですね」

「知らなかったのか? 数年前にこの森の奥の山の麓近くにあった村がはぐれ魔族に乗っ取られてエルミアの街を攻めようとしたんだとよ。実際にそうなることはなかったんだが、住人は洗脳されていたらしくてどうしても呪いを解けず、見境なく暴れようとするんで結局は領兵が全員皆殺しにするしかなかったって話だ。それで村がなくなったところに、追い打ちをかけるようにあの噂(・・・)が広まったからな。ギルドが定期的に魔物の駆除に派遣する以外に冒険者がほとんどこの森に来なくなったから、魔物の数が増えてるんだろうよ」

「そんなことが……、あの噂とは?」

 干し肉を食べながらバルカスが言った言葉にテリーが首をかしげる。

「テリーは魔道具以外の情報にも、もっと耳を傾けた方がいいっすよ。さっきの話に出た村の村人たちの亡霊がこの森を彷徨っていて、出会うと解けない呪いを掛けられるっていう噂が流れてるんすよ。それで段々人が寄り付かなくなったらしいっす」

ドットの言葉にテリーが嘆息する。

「くだらないですね、アンデットが現れるというならともかく、亡霊に呪われるとは」

「まぁ、別にその噂だけが原因ってわけじゃねぇ。ここら辺の浅い場所はゴブリンかグリーンボアしか出ないからな。珍しいものもないし、村がなくなって、依頼で森に入る冒険者もいなくなった。低ランクのうまくない魔物ばかりのくせに出て来る魔物の数も多くなったから、戦闘訓練をしたい駆け出しの冒険者もこの森を避ける。ここでなくてもゴブリンやグリーンボアの出る森はエルミアの近くにはたくさんあるからな」

 バルカスの言葉にテリーは納得したようにうなずいた。

「なんにしても、あいつらがこの森を指定してくれた助かったぜ。この森でならヤっちまってもほかの場所以上に誰にもバレないってこった」

「なら、もうそろそろいいんじゃないですか? 連戦続きで思ったよりもMPの消費が大きい。休憩したらさっさと殺しに行きましょう。……あの獣人奴隷が泣き叫ぶ姿を早く見たいですし、最後には殺すのだから、楽しむ時間が惜しいですしね」

 下種な笑いを浮かべるテリーにドットも追従する。

「男二人を殺した後は、使われなくなった猟師小屋にあの奴隷を引っ張ってかなきゃなんねぇっすからねぇ。流石に魔物が寄って来るかもしれない状況じゃ楽しみ辛いっすし」

「おいおい本命はあくまで杖だっての忘れんなよ?」

「「分かっている(ますって)」」

「ったく、返事ばっかり上手くなりやがって。分かってると思うが、まずは不意を突いてあの魔術師のガキを殺す。仲間がやられたのを見れば経験不足のひよっこじゃあすぐには対応できねぇだろ。動揺しているうちに、一応剣士らしいあのヒョロ餓鬼の足を使い物にならないように潰せ。あ、出来ればそっちは生かして置けよ」

「ん? 一息に殺さないんで?」

「やれやれ、分かってないですね、ドット」

 わざとらしく呆れたように言うテリーにドットが不思議そうな顔をする。

「どういう意味っすか?」

「「あのひょろガキの前であの獣人奴隷を犯してやった方がおもしろいじゃねぇか(でしょう)」」

 ガッハッハ、とバルカスの笑う声とクックック、とテリーの笑う声が重なる。

「いやいや、俺っちにはさっぱりわかんねぇッス。まぁ、二人がそう思うのは納得っすけどね」

「どうせならご主人様を裏切って俺たちに命乞いでもしてくれりゃあ最高なんだがなぁ」

「そうしたら、最後はあの獣人奴隷にひょろガキを殺させるのはどうでしょう」

「お、いいねぇ。まぁ実際は裏切り防止の命令がされてるだろうから無理だろうがなぁ」

「二人とも本当にそういうの好きですねぇ。うなじは傷つけないでいてくれれば何でもいいっすけど」

 今度はドットの方がやれやれと肩をすくめる。それ以上に特に何も言わないのはドット自身はどっちでもかわまないと思っていたからだ。
殺してしまわないことで危険度は増すが、所詮は昨日登録したばかりの新人でしかない。注意を払うべき魔術師さえ殺してしまえば、特別警戒する必要もないというのが、三人の共通認識だった。

「んじゃあ、これを喰い終わったら行くと」

 と、その非常事態に唯一声を上げることが出来たのは斥候職のドットだけだった。

「やば……」

 ドットが必死に上げようとした声はその役目を果たすことはなかった。それは、例え三人が最大限の警戒心を払っていようとも防ぎきれなかったであろう速度で忍び寄っていた。
そよ風と言っていい程度の強さの風が運んで来たのは三人を絡めとる麻痺の霧。
一気に三人の周囲に広がったその半透明の白い霧に一気に体の力を奪われて地面に体を横たえた。

「これ、は……、麻痺ど……く……」

(まずいっまずいっ!! 麻痺蛾パラズ・モスか!? なんでこんなところにっ、いやっ、アイツらの鱗粉にこんな即効性は……!?)

 三人を襲った霧は、現れたときと同じくらいあっさりと消えて行った。今はもう三人を取り巻くように漂っていたそれは霧散しきっている。

「く、そ……、体、が……」

「バルカ、スさん……、マズイッス、指の一本、も、動かせ、そうに……ない」

「待って、ろ、俺が解毒薬を飲んだら、すぐに……」

 位置が悪かったのか、それとも個人のレベルの差か、指一つ動かせない様子のドットとテリーと違い、バルカスはいくらか行動できるようだった。
バルカスは言うことを聞かない体を叱咤して無理やり右腕を動かし、なんとか腰の道具袋まで手を伸ばす。
じれったいほどゆっくりと動く手に苛立ちと焦りを感じながら緊急用の解毒ポーションを手にする。

(くそっ、もっと早く動け俺の体……っ!!)

バルカスは落とさないように気を付けながらその瓶を口元近くへと移動させていく。

「よ……しっ」

バルカスの視界にやっと解毒ポーションの瓶が見えかけた時だ。



「はーい、ざんねーんでしたぁ」



「ぐああぁああぁあっ!!」

ガリンッという音と共に解毒ポーションの瓶ごとバルカスの手は踏み抜かれた。
もちろん、踏み抜いたのは俺だ。たまっていた苛立ちを発散するように思いっきり踏んでやったら、砕けた瓶の破片が手のひらに刺さって、ダラダラと血が流れ出ているようだった。

「なぁなぁ、こういうもうすこしで、って時にこうやって邪魔されるってどうだ?」

「ぐああ……っ、あがぁっ!!」

「っと、返事どころじゃないってか」

解毒ポーションが微かに傷跡から入り、中途半端に傷口のあたりだけ解毒されたのも仇になっているのだろう。体の自由が利く量を摂取したわけではないので麻痺状態は解けずに逆に手の痛みだけがはっきりとさせられているようだ。

「ご主人様、自分だけ先につまみ食いなんてズルいです」

「ん? いやぁ、悪い悪い、実にちょうどいい位置にあったから、ついな」

肩をすくめてその足から手をどける。
バルカスの頭上ではわざと馬鹿にするように明るい口調で会話を続けておく。

「この声……、は……」

地に伏せたまま首一つ動かせないバルカスの視界では目一杯視線を動かしても立っている俺たちの腰のあたりまでしか見ることはできないだろう。だが、ほんの数時間前に聞いたばかりの声を忘れることもないはずだ。

「てめぇ、ら……、な、にを……、ぐああわあああっ!!」

「さっきから、ゴミクズがうるさいですね。耳障りです」

 バルカスの右手を俺よりも容赦なく振り下ろされたミナリスの足が踏みつける。

「黙って聞いていれば誰の前で誰を犯すと? ただでさえ蛆虫にも劣る口で汚物を垂れ流さないでください、このゴキブリが」

「ぐっ、がっ、あぁあアアあぁアっ!!」

俺とは違い、その後さりげなくグリグリと手の甲を踏みにじっているあたりがミナリスの怒りの深さを物語っている。苛立ち最高潮と言った顔をするミナリスの足元からはジャリジャリと砂を踏みにじるような音が聞こえてきていた。

「しかも、私が貴方たちに命乞いをする? その上、ご主人様を裏切って殺す? ……どれだけ私を不快にすれば気が済むんですっ、ええっ!?」

「そ、れは、ゴガッ……!!」

 バルカスが何か言おうと口を開くがミナリスがその前に顎を蹴り上げて黙らせた。
衝撃で無傷の左手が近くに来たのでついでに一度踏みつけてやると、痛みに唸っていたバルカスが更に一つ呻き声を上げた。

「てめぇらっ、こんなことしてどうなるか……っ」

 血を流したことと多少の解毒薬が体を回ったことで、バルカスはいまだ体は動かせないものの、ある程度、喋れるようにはなったようだ。

「はぁ? こんなことしてどうなるってんだよ、豚達磨野郎」

「うぐっ!! やめっ、ががあぁああっ!!」

「ほぉーら、右手が痛いか? ん?」

「もうや、ぐあああぁつ、うぐああっ!!」

 ミナリスの足が退いた右手を、今度は俺がグリグリと踏みつける。
ひとしきりそうしてバルカスに悲鳴を上げさせてやってから、足をどけた。

「んでっ、ミナリスに俺を殺させるって言ったのはお前だったけか? 三流魔術師」

「さ、ん……りゅう、だと……っ!!」

 ちらりとテリーへと視線を向けて鼻で笑ってやれば、こちらも分かりやすく鋭い目つきで睨んでくる。

「そうだよ、さ、ん、りゅ、う。そんなんでよく今まで死ななかったな、ある意味奇跡だよ」

「いわせて、おけ、ば……、ぐはっ、ゴグッ!?」

 動けないわき腹を軽く蹴り上げて仰向けにしてやり、ちょうどミナリスがやっていたように顎も蹴り上げてやる。

「おーおー、悔しい? なぁ悔しい? こんだけ言われてろくに動けもせずに芋虫みたいに地面に転がって今どんな気持ちだ? なぁなぁ、どんな気持ちだ?」

 そう言って笑いながらテリーのそばに近づくと、倒れても手にしていた杖を奪い取り、目の前で叩き折ってやる。より一層強い視線を向けて来るテリーをさらに鼻で笑って腹を蹴り飛ばしてやる。

「や、やめ、で……ぐれ……」

 そうして何度か腹を蹴り飛ばしてやれば心が折れたのかそんなことを言い出した。
そこそこすっきりしたのでこのぐらいでいいかとミナリスの方を見てやれば、ミナリスがドットのことを煽りながら、ドットを反抗心ごと心を折っている最中だった。

「斥候役の癖に襲われるまで危険に気が付かないなんてっ、いる意味あるんですかっ? 先程から見ていれば戦闘でも結局とどめは他人任せ。役立たずの穀潰し、がっ、貴方みたいのをなんて呼ぶか知っていますか? 『寄生虫』っていうんですよ、っと。ああ、ごめんなさい、貴方程度の頭じゃ理解できないから無能なんでしたね」

「ぐ……、こ、の……、やめ……」

 ミナリスはクスクスと上から目線で笑いながら話の所々でドットを小突くように蹴り転がす。笑ってはいても発している怒りは少しも衰えることはなく苛立ちを発散するようにドットを容赦なくけりつける。
最初は反抗的な目をしていたドットもやがて痛みに耐えかねるようにして唸り声を上げるだけになる。
ちょっと激しめだったが、直前になって火に油を注ぐようなことを言っていたクズ野郎共の自業自得である。

「さてと、俺たちを殺そうとしたんだ。当然、こうして逆襲される可能性だって、ちゃんと理解してたんだよな? 殺される覚悟もちゃあんとしてきたんだよな?」

 かなり多めに魔力を込めて、殺気の密度を上げた『魔力威圧』を掛けてやれば、バルカス達の顔色が更にサッと青ざめていく。ここに至ってようやく自分たちが手を出そうとしていたものがどんな相手かを悟ったようだった。
不意打ちで麻痺毒を吸わされなければこんなやつらに、と俺たちを依然として侮ったことでかすかに残っていた反抗心もこれでようやくばっきりと折れたようだ。
そうしてプライドが折れてしまえば、あとはもう情けなく縋ることしかできなくなる。

「お、俺たちが悪かった。い、命だけは……あ、謝るから、ゆるし」

「おっと、その先はまだ駄目だ」

 その言葉はまだ言わせない。
 俺はバルカスの言葉を遮るように言う。

「まだまだ前座なんだ、今後の参考にするためにも、本命の前にやすやすと『許してくれ』なんて言ってくれるなよ。ミナリス!」

「はい、ご主人様」

 ミナリスはそう言って一つ頷くと、『幻炎毒鬼』で元の世界で言う麻酔のような効果を持つ毒を作り出した。
 ミナリスの手のひらの上で浮くのは赤とオレンジのマーブル模様の液体。
 ビー玉程度の大きさの三人分の液球はさきほどの麻痺毒の霧とは違い、動けないだけでなく首から下の感覚だけがなくなると言う毒だ。目で見ることも耳で聞くことも口で話すことも出来るが、自分の意思では体を動かすことがまるでできなくなる。
 元の世界の麻酔と違うところは意識がはっきりしている所だろう。

「さぁ、準備を始めましょうか。ご主人様、飲ませるのを手伝ってもらえますか?」

「ああ、いいぞ」

「お、お前ら何を……っ、があぅ!!」

 バルカス達の口を無理やり開かせてやると、ミナリスがその口に毒を流し込む。

「さぁ、すぐに効いてくると思いますよ。先程の麻痺毒よりもずっと効果が強いので、今飲んだものが効いて来れば麻痺毒の方の効果が消えて元通り自由に話せるようになるはずです」

『幻炎毒鬼』で複雑な毒を作ったことで急激にMPを消費したミナリスが、MP酔いによるいつもの蠱惑的な雰囲気をそのまま三日月形に口をゆがめて笑った。
それはゾッとするような怖気をたたえながら、それでも美しいと心を奪われてしまいそうになるような笑顔。

「くふふっ、楽しみにしていてくださいね。貴方たちには地獄の底を垣間見てもらいますから」

 そう言ってミナリスは心底楽しそうにもう一度綺麗に笑った。
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