挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

41/121

第11話 とある少年の末路

翌日、前日と同じようにミナリスが作った朝食を取り、準備を整えてミナリスを連れて宿を出た。
今日は早起きなどする必要はないので、普通に日が昇ってそれなりに時間が経ってからの起床であり、そうして宿を出る頃には街はすでに動き始めていた。

国内各地の多くの場所から人間の集まるその街は、日が完全に登り切る頃には多くの店が開き始め、昼も近くになると何を売っているのかわからない怪しげな露天商から、駆け出しの商人、掘り出し物を売っている中古品を扱う人物など多くの人間が商売に動き出す。

日本のようにかっちりとした時計などない世界なので、何時頃からとかほとんど体内時計や日の高さを見るくらいでしか今の時間を測る方法などないのだが、街全体で見れば、店の出る時間と数が大体毎日同じになるのだから不思議だった。
 まぁ、それを測る俺自身も今は時計など持ち合わせていないので正確なところはよくわからないのだが。

今日の勝負の集合場所は街の東門だった。
宿から東門まではそう遠くはないのだが、その短い距離でも数多くの露店の前を歩くことになった。いろいろ興味を惹かれるものもアリはしたが、今日ばかりは全部後回しだ。
寄り道はせずに事前に取り決められていた集合場所へと向かう。

「ん、一番乗りじゃなかったか」

 だが、たどり着いた東門ではすでに人影があった。
まだそこそこ距離があるので向こうは気が付いていないようだったが、昨日の少年が一人立っているのがこちらから見えた。なにやら東門の門番をしている兵士と話している様子だった。
 異世界万歳とばかりにびっくりカラーな髪色が普通なこの世界だが、そんな群衆の中であっても鮮やかな少年の金髪は見つけやすかった。

「一番乗りしたかったのですか?」

「ん? いや別に? ただ、俺たちもそこそこ早めに出てきちゃった自覚があるけど、それよりも早いとは思わなくてさ。張り切り加減がなんとも、あの……」

 あれ、そういえば名前も聞いてなかったな。まぁどうせ今回限りのつながりだろうから最後まで少年で構わないだろう。

「まぁいいか、どうでも。ほら、行くぞ」

「はい、ご主人様」

 それから少し距離を詰めたあたりで少年の方もこちらに気がついたらしく、どこかほっとしたような表情でこちらによってきた。

「おはよう、遅かったじゃないか。集合場所を間違えたかと思ったよ」

「遅い? いや、むしろ早いほうだと思いますが」

 ミナリスの言うとおりだった。多くの冒険者が狩りに出かける時間帯と比べ、今は若干早いと言えるような時間帯だった。というか、昼よりも前ということしか時間については決めていなかったため、遅いも早いもない。

「何を言ってるんだ、昨日よりもずっと遅い時間じゃないか。だいたい、奴隷の分際で気安く話しかけるな。しかも見たところ獣人じゃないか、あまり近寄らないでくれ、獣臭さが移る」

 苛立たし気なその言葉はするりと少年の口から出た。
 顔を顰めながら少年がミナリスを見るその目は、自分で勝手に貼り付けたラベルで世界をランク分けして蔑む目だ。
世界の敵とレッテルを貼られた俺に向けられた数多の目と。
 ミナリスを獣人として蔑んだ彼女の村に住む村人たちと。
 何一つ変わらない胸糞悪い、どこまでも当たり前の瞳。

この時点で少年の評価はクズ確定だったが、恐ろしいことに少年はそこで止まらなかった。

「そうそう、それよりも今日の話だ。なんで昨日は先に帰ってしまったんだ? おかげで連携の訓練ができなかったじゃないか!」

「…………はい?」

 いきなり何の話だ、唐突過ぎて意味が分からない。

「だから、連携の訓練だ。互いの力量も知らないのにいきなりパーティとして動けないだろう?」

 やれやれといった表情で告げる少年。
そもそもどうしてパーティとして一緒に動くことになっているのかがまずわからない。なんだこいつ、想像以上に頭がお花畑満載だ。
 唖然とし過ぎて黙っていると、少年は何を勘違いしたか得意げな様子でさらに言葉をつづけた。

「まぁ、君たちは出来るだけ突出して敵を引き付けていてくれればいいさ、僕のところに来ないように抑えていてさえくれれば僕の魔法でとどめを刺してやる。あぁ、君はあまり前には突出しすぎないでくれよ? 威力の調整は少し苦手でね、そこの奴隷はともかく君まで巻き込んでは申し訳ないからな」

(……つまりなんだ? 俺たちを肉壁として利用したいって言ってるわけか? こいつ)

 しかも、俺たちを突出させて危ない囮は全部任せて、その上、自分はミナリスを巻き込むのはお構いなしに魔法を使うと?
…………俺の中で少年の評価が最低値まで落ち切ったと思ったら、更に底が抜けた。
 ちょっとびっくりだ、まさかどうでもいいと思っていた少年の評価がここまで下がるとは思っていなかった。

「………」

 スッ、とミナリスから表情が消えた。
いい加減自力で表情を制御しきれずにスキルを発動したのだろうが、どうにもミナリスはこのスキルに頼りすぎなところがあるな。後で少し注意しておいたほうがいいかもしれない。

 それにしても、あぁ、やはりこの少年の名前を聞いておけばよかっただろうか。…………いや、やはり名前など聞く必要はなかったか、どうせすぐに意味のない情報になるのだから。

「(いいぞ、殺しても)」

「(よろしいのですか?)」

「(あぁ、身元がバレないようにあの毒を使ってくれ、利きの時間も考えろな? 楽しむ余裕までは流石にないから、そこは忘れるなよ)」

 少年の態度は貴族の坊ちゃんとしては当然と言ってもいい態度だった。彼はまだ家を出ていないのだろうし、奴隷や獣人を下に見るその態度も分からなくはない、だが、そんなことは関係がない。
 正しいか正しくないかなんてことを考えるのは一度目の時だけで十分だ。道徳的に考えてとか、相手にも事情があったとか、そんなことはどうでもいい。重要なのは俺がどう思うかなのだ。

そして、少年は俺の共犯者に侮蔑の敵意を向けたのだ。そうでなくとも俺の奴隷と認識しているはずのミナリスを勝手に傷つけるとのたまっている。
そんな奴のために我慢する理由などかけらもない。だから、ミナリスがやりたいのなら、やればいい。ミナリスが血に溺れるようなら止めるが、理性的に動けるのなら殺意を抑える理由などなにもない。

「(つまみ食いくらいなら許してやるさ。何より、大事な共犯者を虚仮にされて黙って放置するのは俺の精神衛生にも良くない)」

「(っ、か、感謝します、ご主人様)」

 少年にきつい言葉を掛けられて怯えるフリをしながら、少し顔を伏せるようにしていたミナリスの口がハッキリと吊り上がるのが見えた。鉄面皮のスキルは許容量を超えた感情を隠すことはできない。
…………そんなに『やってよし』の許可が嬉しかったか、ミナリス。

許可を得たミナリスが静かにその魔力に殺意の色を帯びさせていく。

「……………と言うわけだ、僕の凄さがわかったかい?」

「へぇ、それはすごいですね」

 ミナリスが魔法を構築を始めている間、少年の方はというと、何が楽しいのか、ぺらぺらと自分が使える魔法について話すのに夢中になっていた。
当然興味などありはしないので完全に右から左に聞き流しながら『ええ』とか、『それはすごい』とか適当に相槌を打っていた。
 少年が自分に酔っているその裏で小声でミナリスとやり取りをしていたわけだが、ミナリスが魔法の構築に集中するのには都合がいいのでそのままのせて置いてやる。

「そうだろう、だが、僕の凄さはこんなものじゃない。いずれはこの王国で、いや、他国でも知らぬ人間がいないぐらいに――――……」

「(……『氷塵針毒』)」

 そして最後に小さく呟いた言葉に、音もなくミナリスの魔法が完成した。ミナリスの殺意を込めたその凶器は俺たち以外のその場の誰にも気付かれることなく宙を走る。

「んっ、なんだ? 虫か?」

 油でも差されているのかと思うほどによく回っていた口が止まる。
少年が首筋に手をやるが、そこには何の傷跡もない。いや、正確には傷跡はあるがそれこそ虫に刺された程度の小さな傷だった。
 『氷塵針毒』。
 それはその名が示す通り、毒を凍らせた極小サイズの針を作り出す、ミナリスが作り出したオリジナルの混合魔法だ。
 『幻炎毒鬼』で生み出した毒を、比較的ミナリスの適性が高かった水術魔法と闇術魔法の合わせた氷を生み出す合成魔法にさらに上乗せした魔法。

王都を出てからの旅で、ふとしたミナリスとの会話から思いつき、暇を見つけては二人で開発したその魔法は、コントロールが難しいが魔法に込められた魔力が小さく、視覚・魔力の両面で隠密性に優れている。
氷で出来た極小サイズの針は標的に突き刺さればすぐに溶けて、毒となって体を回っていく。ただ、氷の針自体にはさほど硬度も威力もないため、質の悪い皮鎧にすらはじかれてしまう程度なのだ。獣人の拡散しやすい魔力の性質も相まって使える状況はかなり限定されるので、思うほど汎用性のある魔法にはならなかった。
だが、誰にも気づかれずに対象に毒を打ち込めるのはそれを補えるだけの利点だろう。

「お、なんだなんだ、随分と早く集まってるじゃねぇか」

 と、まるで図ったようなタイミングで現れたのはバルカスたち三人組だった。

「くくくっ、先輩を待たせちゃいけねぇってか? よく分かってるな。それに免じて、ここで情けなく地面に額を擦り付けて謝るなら許してやってもいいぜ?」

 死ぬほどわかりやすい挑発だった。
 ニヤニヤと笑いながら告げるバルカスに許す気などかけらもないことは、少年が手にした杖と、ミナリスを見つめる下種な欲望に濁った目を見ればよくわかる。
だが、そのことにも気が付かず、少年はわかりやすい挑発に乗って癇癪を起したようにバルカスに食って掛かる。

「なんだとッ!! 誰がそんな恥知らずな真似をするかっ!!」

「そうかい、なら、さっそく始めるとするか」

 わざとらしく軽く肩を竦めたバルカスがそういった。

「ああ、絶対にお前らにほえ面をかかせてやるっ!!」

「やれるもんならやってみな、精々、ゴブリンに囲まれて殺されないようにするこった。冒険者登録したばかりの新人が粋がってゴブリンなんかに殺されるなんて、よくある話だからな」

「はっ、だれがゴブリン程度にやられたりするものか!」

「いやいや、分からねぇぜ? 一寸先は闇ってのがこの商売だ。いつ死んでもおかしくねぇんだよ」

 含み笑いをしながらそう告げ、冒険者の証であるプレートを門番に見せて東門を潜る。
俺たちがやってきた南側はほとんど森に囲まれた中で門の周囲だけが開けたようになっていたが、それとは対照的に東門を出てすぐは、視界の開けた平原が広がっていた。
そこから北東の方向には相当遠くに小高い山々の姿が見え、そのふもと付近の裾から山に寄り添うように浅い森が延々と広がっている。ここから山のふもとまで直線距離で歩いて3日は掛かる程度の広さがある。

そのまま俺とミナリス、少年、バルカス達三人組はその浅い森のあたりまで、特に会話もなく移動した。

「じゃあ、勝負は今日の日没までだ。それまでにギルドに戻り、報告をして、そのままギルドで待つ。日が沈みきるまでにギルドにたどり着けなくてもアウトだ」

「あぁ、分かっている。さぁいくぞ!! 俺について来れば負けることなどありえないさっ、アハハハッ!!」

(おうおう、かなり毒が回ってきてるみたいだなぁ)

ミナリスが打ち込んだ毒は、対象魔力を喰らって増殖するので、毒が直接的な猛威を振るう前にはかるいMP酔いのような状態になる。動けなくなるまであと1時間か2時間といったところだろう。
 気合十分と言った感じで森に入っていく少年の後ろを歩いて、俺とミナリスも歩き出す。
少年とは最初から別行動してバルカス達を尾行する予定だったが、結局そう切り出して騒がれるのも面倒だったので取りあえず大人しく従うことにしたのだ。森に入ってさえしまえば軽い幻術でもかけて離れてしまえばいい、どうせ、すぐに死ぬことになるのだから。

チラッ、と気が付かれないように確認してみれば違う方向から森へと入っていくバルカス達の姿が確認できた。
その視線は未だに俺たちの方を向いていて、いまにも舌なめずりでもしそうな露骨な欲望の視線を向けていた。

             ☆

その後、元が誰だったのかすら分からないほどにドロドロに腐りきった一人の死体が森に入った冒険者の手によって見つけられた。装備していたと思われる皮鎧から体が触れていた地面付近の下草まで、すべてがどろどろに腐り、悪臭を放っていた。
唯一原型を保っていたのは手にした杖のような木の棒だけだったが、それも触れれば崩れてしまうほど激しく劣化していてどんな杖だったのかも判別できなくなってしまっていた。
新種の魔物の仕業かとエルミアの町に新たな調査依頼が張り出されたものの、それ以降そのような死体が現れることもなく、やがて人々から忘れ去られていった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ