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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第10話 ネズミは鳴く。

ヘイト回? らしきものです。 
ちょっと気分の悪くなる会話があります。
 
 バルカス・ドット・テリーの冒険者三人は宿に戻ると色々限界に近かったようで三人ともベッドで昼過ぎまでいびきをかいて寝ていた。
それも当然である。オーラルラビットを狩った喜びと波の峠を越えた時間帯になってしまっていたハイテンションで眠気を感じていなかっただけで、オークの討伐を数日かけてこなし、オーラルラビットとの追いかけっこ、そして休まず徹夜酒のあとに新人冒険者との言い争い。
一度宿に戻る頃には強大な波になって襲ってきた眠気に抗えるはずもなかったのだ。

「しっかし、面倒なことになりましたね。バルカスさん」

 のそりと疲労の抜けた体で起き上がったバルカス達は普段から利用している行きつけの酒場で改めてオーラルラビットを狩れた祝杯を飲み直していた。

いまだ日が高いというのにパラパラと人が集まり始めた酒場、木で出来たジョッキでビールに似た安酒を煽るバルカスにドットが話しかける。

「あん? 何のことだ?」

「何って、あのガキのことですよ。今更ゴブリン狩りなんてしょっぱい仕事、Dランクパーティの俺たちがするような仕事じゃないでしょう」

 ドットの言葉を引き継ぐようにテリーが告げ、肉と屑野菜を炒めた酒のつまみを指先で摘み上げる。

「ぷっ、アハハハハッ!!」

「? 何か変なこといったか、俺」

「さぁ?」

 突然笑い出したバルカスに、ドットとテリーは疑問符を浮かべる。

「いやぁ悪い悪い、お前らにはもう話した気になってたわ。全然しょっぱい仕事なんかじゃねぇよ、オーラルラビットなんか目じゃねぇ。おそらく金貨何枚クラスの大仕事だ。いやぁ、久々にいい獲物が俺の鼻に引っかかったぜ」

 笑うバルカスに得心が言ったというようにドットとテリーも破顔する。

「おっ、マジっすか。良いっすねぇ、これでまたしばらくうまいもん食えますねっ。オークの討伐報酬とオーラルラビットの代金だけじゃ、ツケを返したら半分ぐらいしか手元に残らねぇっすから」

「金貨かぁ……、ちょうどほしい魔道具があったんですよね」

「テリー、相変わらず魔道具が好きだなぁ。たまには女の一人も買ってみたらどうだ、んん?」

 ニヤリと笑みを浮かべたバルカスにテリーは肩をすくめた。

「俺は商売女は好きになれないんですよ。二人とも知ってるでしょう、俺の趣味」

「はっ、嫌がって泣き叫ぶ女を無理やり、ってのが好きなんだっけか? 分かんないっすねぇ、抵抗されたらウザいじゃないっすか」

「そこがいいんですよ。というか、女のうなじにしか興味がないなんて言っているドットも十分変態だと思いますがねぇ」

「本当に二人とも変態だなぁ、女なんてヤレれば何でもいいじゃねぇか」

「「いや、壊すまでやらないと満足できないとか言うバルカスさんには言われたくないっすよ(ですよ)」」

「おっと、言われちまったか」

 ゲラゲラと下品な笑い声で笑う声が上がる。とはいえ、こんな時間からわざわざ安酒を飲みに酒場に集まっているのは同類のような連中ばかりだ。
三人の笑い声はその場にいたほかの連中の笑い声に紛れ、会話の声も話している三人以外の人間の耳に入ることはない。

「それで、獲物はどっちなんで? 馬鹿丸出しで絡んできたガキっすか? それとも獣人奴隷を連れた自称剣士のひょろガキ?」

「馬鹿丸出しのガキの方だ、あの杖、相当の代物だな。ありゃどこかの貴族の坊ちゃんだろ。何番目かは分からねぇが、従者も連れずに冒険者登録に来てんだ。確実に上の二人じゃねぇ、あの杖が手切れ金って感じだろうな」

「あぁ、そういえばペラペラと自分のこと話してくれてましたね。あのバカさ加減にも貴族っぽい傲慢さが見え隠れしてましたが」

「あの獣人の奴隷を連れたガキの方もやたらと丁寧な感じだったな、あの年で奴隷を連れてるということは富豪の息子か貴族の隠し子か」

「あっちの方はダメだな、金目のもんは持ってねぇよ。まぁ、どっちにしろ、生きていられると困るんだ。いくらか現金でも持ってるんだろうし、せっかくだからあの兎族の奴隷の体、試させてもらおうぜ」

「おっ、良いっすねぇ。ちゃんと壊す前に俺の方にも回してくださいよ、バルカスさん」

「最初は俺にやらせてくれないか、一番最初が一番いい声で鳴くんだ」

 バルカス達は再びゲラゲラと声を上げる。
 酒場ではそんなゲスの会話が続けられていた。そこそこ騒がしい酒場の中で、その会話の内容を聞いている人間は、いない。
そう、人間はいないのだ。

「チュッ、チュチュ」

 バルカス達が付いている席の近く、物陰に隠れるように一匹のネズミが居座っていた。
そのネズミの体には、魔力でつけられた普通にはないはずの文様『使役紋』が浮かんでいた。


              ☆


「はっ、やっぱりクズはクズか」

 ミナリスと下見に出た森の中、バルカス達を尾行させ、様子を探らせていたネズミから有益な情報が入ってきた。
 もちろん、ただのネズミなわけがない。
 【魔畜の卵剣】で従属化においたネズミ型の魔物・スモールマウスを調教したものだ。スモールマウスは一応魔物に分類されてはいるが、能力的には普通のネズミと何も変わりがない魔物で特に危険視されてもおらず普通に町中を徘徊している。

【魔畜の卵剣】はおよそ剣と言う形状はしていなかった。握り手と鍔は普通のものだが、刀身の代わりにあるのは花が開く前のつぼみのような形状をしている。HP/MPを除くステータス合計の100分の1以下のレベルの魔物を強制的に『使役紋』を刻んで支配下に置くことができ、MPの最大値が100につき一体、支配下に置いた魔物を【魔畜の卵剣】の中のよくわからない謎空間に入れて置けるようになる。支配下における数もそれと同じだ。また、同じく支配下に置いた魔物の感覚を借り受けることが出来る。


このネズミ1号は初めは能力を試すのに適当に捕まえたものを支配下に置いたのだが、思った以上に役立つネズミに成長していた。
 完全に人語を理解するだけの知能があり、体の構造が違うので発音することはできないが、身振り手振りで『YES』『NO』程度の意思疎通も行える。この大きさだと【魔畜の卵剣】の不思議空間に放りこまなくても済むのでいちいち【魔畜の卵剣】を取り出さなくていいというのもポイントが高い。
また、【魔畜の卵剣】の効果で一時的に視覚や聴覚を借り受けることができる。小さな隙間があればどこからでも建物に入り込むことが出来る立派なリトルスパイの出来上がりだ。
今回はその試運転も兼ねてバルカス達の見張りをさせていたわけだ。

「? どうしたんですか、ご主人様」

「いま、ネズミ1号の方から情報が入ったんだよ。分かりやすく胸糞悪い話をしてた」

「その音声、私も聞くことはできますか?」

「ん? ミナリスもか? まぁ、試したことはないが、【復讐の聖剣】の効果で魔力的なパスが常に繋がってるからやろうと思えばやれると思うが、聞くだけ不快になるだけだからやめておいたほうがいいと思うぞ」

 そう言って軽く肩をすくめるが、どうやらミナリスにはお気に召さなかったようだ。

「ご主人様、そういうのはいけません。私はご主人様の奴隷ですが、同時に共犯者でもあるのですよ? 隠し事をするな、とは言いませんが、そういう配慮はいりません。もし、殺してしまった後で負債が返し切れていないと分かったら、その時はどう欲求不満を解消してくださるつもりなのですか?」

「ち、近い近い」

 ミナリスがズズイッ、と顔を寄せて来る。ただ、言っていることはまったくもってその通りだった。

「まぁ、それじゃあ」

 ネズミ一号から聞こえる声をミナリスにも聞こえるようにしてやると、どうやらうまくいったようだった。
バルカス達は未だに下種な想像で盛り上がっていた。俺は基本的には酔っ払っている間のことは大目に見る主義だが、それを差し置いても今すぐ殺してやりたいレベルの会話が飛び交っている。

会話を聞くミナリスの方はほとんど無表情だったが、その背後に陽炎のように立ち上る圧力がどんどん増していた。
とはいえ、何時までもそんな風にしているわけにもいかないので、そろそろ下見を再開しようと提案しようとしたときだった。

ミナリスの方からネズミ一号の音声を切ったかと思うと無表情だったミナリスの顔がまるで聖母の微笑みのような表情になった。

「ご主人様、5:5の約束でしたけど、せめて6:4ぐらいにしてもらえませんか?」

「…………は、はい」

 そんな風に笑顔を浮かべるミナリスに、逆らう術は俺にはなかった。
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