挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

4/126

第4話 勇者、お手紙を書く

====================================



 これを読んでいるとき、あなたは老衰以外で一度死んでいるでしょう。

 いえ、冗談ではないのです。

 どんな死に方をしたのかは分かりませんが、あなたは確実に一度死んでいます。

 正確にはHPがゼロになって一度死んだ後、気がついたら転移直後に戻っているはずです。

 あなたが今まで体験していたのは【チュートリアルモード】です。

 異世界に転移された人間は世界を超える際に通る力場で、この世界、地球で言うところの『異能』を得ることになるでしょう。

 これは、たいてい現地の人間が持つ者に比べて強力なものなことが多いですが、あなたが死んでしまったように、多くの人間はどんな能力があろうと割と即行で死んでしまいます。

 それはもう、本当にサクッと死んでしまいます。

 どの異世界に飛ばされるのかは地球の神様である私にも分かりません、手出しもできません。それでも事前に注意深く生きるように説明しても常識どころか条理も違う世界に適応出来る人間は少ないようなのです。

 なので、地球から呼び出される人間に事前説明するのはやめにしました。

 そのリソースを使って付けたのが【チュートリアルモード】です。

 説明もなしによくわからない状況に放り込まれるのが大変なのはお察ししますが、百聞は一見に如かずということで、地球の神様として送り出す最後の手土産(チート)がその【チュートリアルモード】になります。

 転移後、天寿をまっとうする以外の方法でHPがゼロになり死亡が確定すると、転移直後まで時間がさかのぼります。

 その時までに稼いだ経験値やスキルなど自身に帰属されるものは、体験時間を経験値に換算した分だけ差し引いて引き継がれます。

 要するに強くてニューゲームです。
 素質があがったり、才能が開花したりするわけでもないので、頑張らないとやっぱりすぐに死にますが、痛みとともに、「死に易さ」だけは体験されていると思います。これが地球の神様の精一杯のチートです。

 地球の人間たちは魔力関係の要素が薄く、そもそもが個体として非常に非力です。はっきり言えば雑魚以下です。素体として、人間としての差はほとんどありませんが、世界を超えた『異能』があって初期値はせいぜいがスライムを倒せる程度でしょう。異能がなければ何かしらの武道の達人でも村人A程度の力しか持ち合わせていません。

 ですので、生き延びたかったら頑張って考えて鍛えてください。

 たいていの世界は、地球よりも危険が身近にあります。

 非力な神様で申し訳ありませんが、どうか幸せな人生を。


                                    女神より

====================================


「なるほど、ほんとに強くてニューゲームだったわけか」

 メール型のアイコンをタップして出てきたのはまんま手紙のようだった。

 いろいろ気になることは書いてあったが、どうやら神様というのは実在しているらしい。レベルや何やらも、元の世界、地球でも存在はしていたようだった。

 地球の神様は、チートじみた才能をもらってもなお死にやすい人種らしい地球人のために、説明なしで放り出す代わりに「実地で体験しろ、一回は帳消しにしてやるから」という方法をとったということなのだろう。

 実際それで俺は助かったようだし、いろいろな疑問にも説明がついた。

 レベルが戻ったことも、というか、ぶっ飛んで下がったのも長々と生きたことが原因なのだろう。

 …………なんにしても。

「くはっ」

 ああ、感謝しよう。

 これで俺は、あの時の誓いを果たせるように動ける。

「クハハハハハハハっ!!」

 笑いが止まらない、止められる気がしない。

 本当は次があるなんて思っていなかった。

 それでも胸に抱いた焦がれるような復讐心と憎しみは嘘じゃなかった。

 じわりと湧き上がる実感に、ゾクゾクと体を走る歓喜が止まらない。

 これは夢じゃない。時間制限もない、これでちゃんと復讐の末に殺せる。

 そうしてひとしきり笑ったあと、冷徹に頭が回り始める。

 何をしよう、何から始めよう。

 今すぐにでもひねり潰したい奴らが何人もいる。

 足元にはそんな(かたき)の一人がいる。

 今は口の中を火で焼かれ、何度も靴で踏みつけたせいで身にまとったドレスはボロボロに汚れている。

 従順にしようが反抗しようが関係ないということがやっとわかったのだろう。ただ憎々しげに王女はこちらを見上げている。

 そう、これだ、これなのだ。俺は復讐がしたいのだ。

 ただ衝動に任せて命を奪うだけなら、すぐにだってできるだろう。

 俺のレベルが下がったように、あいつらのレベルも下がっているのだろうから。

 俺にはチュートリアルで得た知識と経験がある。

 スキルとしての能力は失っても体を操る技術は失っていない。

 いくつかの使える心剣の効果で今でも50レベル近くステータスがあり、未だ周りで呻くだけの実戦経験もなさそうな騎士どもなど、10人以下なら正面から相手にしても何の問題もない。

 少しの間潜伏してレベルを上げ直せば、旅に出て強くなる前のクソ野郎どもなど暗殺して回れるだろう。

「ダメだ、ダメだよなぁ、それじゃあ」

 俺が苦しんだ一年間。

 ひび割れ、悲鳴を上げながら壊れて剥がれ落ちた心の破片で作り直された復讐心。

 その時間を掛けて粘度を増したドロドロとへばりつくような熱の塊が、ただ殺すだけでは満足しない、許さないと叫んでいる。

 顔を見るのも不快だが、これではまだ全然釣り合わないのだ。

 だから、まだこいつは殺さない。

 だから、ここで終わりになどしない。

 ちゃんとゆっくり考えよう、時間があるのならあっさり殺して終わらせなどしない。 

 苦しめて、辛い思いを経験させ、後悔と苦痛の毒沼に沈めてやろう。

 もっと、もっと、もっと、もっと苦しんでもらわなければいけない。

 そうして初めて、本当の復讐が完成するのだから。

「あぁ、今は殺せないかぁ。折角治療したのになぁ。いろいろ殺し方考えてたのに」

 思わずため息をつく。非常に残念だ。

 小さな肉食虫に意識があるまま体を食い尽くさせたりとか、すぐに発芽、成長して宿主もろとも樹木になる種を植え付けて体の感覚も何もないまま思考だけの存在にしてやろうとか、いろいろ考えてたのだが。

 どちらにしろ、そういった能力のある心剣は封印されてるみたいなのでどうしようもない。

 取り敢えず今は時間が必要だ。

 じっくりねっとり、復讐を遂げるための準備を始めよう。

 もちろん、その準備も楽しんで。

「まずは……」

 ザッと【翠緑の晶剣】で王女を喋れる程度まで口の中を治す。

「なぁ、ちょいと頼みたいことがあるんだ」

「……お前のような化けモノの頼みなど、誰が聞くものですかっ」

 本当、こうして見るとアレシア王女はいい復讐対象だ。

「クッ、アハハハッ」

「な、何が可笑しいのですっ!!」

「いや、本当に思い通りの反応してくれると思ってなぁ。その気持ち絶対になくすなよ、復讐がつまらなくなるからな」

 ニヤニヤと笑いながら見下ろすとアレシア王女がさらに敵意を目に込めてこちらを見上げている。

「この、狂人めっ!! 何故ですっ、私が一体何をしたと…」

「したんだよ、お前が知らなくても、俺は知っている。裏切られた痛みを知っている。騙された痛みを知っている。欺かれた痛みを知っている。お前らを信じた馬鹿な俺が受けた痛みの全てを、俺は覚えている。覚えているんだよ、アレシア=オロルレア王女」

「うっ、ぐっ………」

 マグマのように焼き尽くすような憎しみが込められた視線と、氷の刃で切り裂くような冷徹な声の温度。

 王女には言葉の意味がわからなかったのだろう、それでも俺が本気で憎んでいることは悟ったようだった。

「さぁ、話は戻るけど頼みごとだ」

 パンッ、と王女の前で手を合わせた。

 先程までの様子など微塵も感じさせない完璧な作り笑顔。

「頼んでみたけど聞いてくれないなら仕方ないよね、そのために口の中の治療までしたのに悲しいけど、嫌だって言うなら仕方ないもんな?」

 予想通り? 知らない知らない、頼みごとを聞かないって反発するなんてチラッとも考えてないです。

「な、何を……?」

 さっきまでとガラッ、と変わった様子に王女は戸惑いよりも先に不安が湧き上がったようだった。なかなかいい勘をしている。

「ふむ、前に書くのは胸が邪魔になるな」

「きゃっ!? やめ、やめなさいっ!!」

 アレシア王女を足蹴にして俯せになるように蹴り飛ばすと、背中側のドレスをビリビリと破いて背中を露出させた。

「しかしあれだな、初めて見たときは美少女に見えたのに今はなんも感じないってのも不思議なもんだな」

 肩先までかかる綺麗な白銀の髪と金の瞳、人形のように整った顔とプロポーション。

 テンプレよろしくオロルレアの美姫と呼ばれるだけはある美少女だった。

 一度目の世界で初めて見たときは現代日本で見たどんな女の子よりもかわいい女の子に見え、たまたま着替えを覗いてしまった時はドキドキしたものだった。

たが、それよりも際どい姿を見下ろしていてもピクリとも心は動かない。

「無理やり婦女子の貞操を奪おうなど……っ、やはり異界の民など野蛮で下賎な畜生が……」

「はぁ? 何言ってんの? 性格ブスはお断りに決まってんだろ、勘違いすんな自意識過剰だ気持ち悪い」

言われて想像してしまい、本気で気持ち悪くなったので不機嫌に吐き捨てた。

「なんっ……!!」

「お前が頼みを聞かない、っていうから伝言の代わりに手紙を書こうと思ったんだよ」

「……ま、まさ、か」

「ほら、伝言頼むのに口が利ければ楽だろう? でも、聞いてくれないんじゃ、仕方ないからそれでもいいように書くしかないよな?」

 これから何するか分かったらしいアレシア王女にご名答とにっこり笑って言ってやる。

「さぁ、動かないようにしてくれよ? 綺麗に書けなくなっちまうからさ」

「いや、いぎゃあああああああああぁぁぁっ!!」

取り出したのは【火蜘蛛の脚剣(きゃくけん)】。

20センチ程度の短い刀身の割に幅が広めの刃を持った刀身を含めて朱色に染まった心剣。

今を二度目とするのなら、一度目では火種を起こす程度しか用途を持たなかったその心剣は、だからこそ、今回の用途にはふさわしいものだった。

「ふん、ふ~ふふ~ん♪」

「うぎゃ、ぎゃああっ、あづぃいいっ!! やめ、やめでぇえええっ!!」

 そうして、鼻歌を歌いながらアレシア王女の背中に手紙を焼き刻んで書き込んでいく。

「だれが、だれがだずげでェエエぇぇ……」

「アハハッ、誰も助けてなんかくれないよっ、お前らがそうなるように色々小細工して仕組んだように、俺も全員チカラでねじ伏せて潰したからなぁ」

 アレシア王女が周りでうめき声を上げる騎士たちに向けて手を伸ばすが、騎士たちは全員、肘と膝の関節を逆方向に曲げているので動くこともできない。意識は飛んでいないはずだが、そもそも自身の体が上げる痛みの悲鳴で王女の声など届いていないかもしれない。

「さあさあ、まだ半分も書き終わってないんだ。これからゆっくりいろんなことも考えないといけないんだから、動かないでくれよな」

 そう言うとニッコリと笑うのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ