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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第9話 勇者、 思わぬ伏兵に会う。

結局、勝負は明日、同時に取り決めた森に入り、日没までにどれだけの数のゴブリンを狩れるか、ということで話は決まった。

ただひとつ、誤算だったのは勝負自体には介入する気はなかったのにも関わらず、少年側の一員として巻き込まれてしまったことだ。

少年一人に対し、三人組のパーティでは公平ではないと少年が言い出したためだ。冒険者たちも、仮にこの話が広まった時に新人一人に三人で挑みかかって寄って集って、という評判は避けたかったようで、提案者として否応なしに巻き込まれた。

1対1でやれよと言えば、冒険者たちが不正をするかもしれないから、3対3が望ましいんだと少年が主張する。それでも嫌だと突っぱねても良かったが、その頃には僅かにだがほかの冒険者たちも集まりだしていた。
それ以上目立つのは本意ではなかったので仕方なしにそのまま承諾した。

だが、俺とバルカスたちの間にまで深い確執があったとは思われるのは困るのだ。
俺たちが疑われることのないようにしておきたい。

だから、ギルドの受付嬢の目の前で、数はカウントするが、賭けの対象になっている報酬は冒険者たちは三人分なのに対し、こちらは少年の分だけということにしてくれと条件をつけた。

つまり、冒険者たちが勝てば少年の報酬だけを冒険者たちが受け取り、少年が勝てば冒険者たちの報酬を総取りする。これで、俺たちには直接的な利害関係は発生しない。

少年に有利な条件にドットとテリーは少し渋ったが、俺たちは一応、巻き込まれただけの完全な部外者だったし、なにより、こちら側の全員が今日登録したての新人だった。何年も冒険者をやっているこの三人組との勝負ならハンデとしてこれぐらいは、と言ったら大人しく引き下がった。

そのかわり、少年の取り分は働きにかかわらず俺たち三人が狩った数の人数割りにすることになった。俺やミナリスの取り分だと偽られることのないようにということだった。

話をしている間、特に口を挟むこともなく考え事をしているようだったバルカスの視線はチラチラと少年の杖と、それからさらに、ミナリスにも注がれるようになっていた。

なにをかんがえているのか、まったくもってわかりやすい男だった。

ミナリスが下種な視線にさらされているのは気に食わなかったが、それを上回るバルカスの単純さに思わず笑いそうになるを堪えることになった。

そうして、明日の夜にこのギルドでふたたび落ち合うことを約束し、バルカスたちと別れたのがついさっきのこと。

バルカスたちも再びギルドの酒場で飲み直すつもりはなかったようでオーラルラビットの換金を終えるとそのままギルドから出て行った。
こちらの仕込みに気が付いた様子も全くなく、また別の場所で飲みなおそうかと話している。

「さて、俺たちも行くか。明日の為に色々と考える必要もあるしな」

「はい、ご主人様」

「あ、ちょっと待ってくれないか」

 俺たちも明日の準備のためにとっととギルドを離れようとしたのだが、少年に引き止められた。

「巻き込んでしまってすまない。君も俺と同じだと思ったから、咄嗟に頼ってしまった。明日のことについても話したいし、お詫びに朝食がまだなら奢らせて欲しいんだが……」

 思わずキョトンとした表情をしてしまった。
正直、自分から冒険者に突っかかっていった少年と同一人物とは思えない。思い返せば俺たちに協力を願い出てきた時も下手に出てきていた。悪意は感じないが何か裏があるのか、そもそも俺と同じとはどういう意味か、と少し少年に対する警戒度を上げかけて気がついた。

おそらく、この少年も俺が貴族か何かと勘違いしているのだろう。俺と同じ、とは多分そういう意味で言ったのだ。

(それで俺たち、正確には俺に対して親近感を持ってるって所か)

立ち振る舞いや雰囲気などから貴族の出であることは分かっていた。没落して冒険者にというパターンではなさそうだから、家を出ることが決まっている三男以降(長男は後継として、次男はその保険かつ補佐となるのが普通だからだ)なのだろう。

冒険者が奴隷を買うことは珍しいわけではないが、今日登録したばかりのひよっこが奴隷を持っているのは冒険者として以外のなにかで奴隷を買うだけの金があるということにほかならないのだから。

「いや、俺たちはもう朝食は済ませてある。それに気にしなくてもいいさ、困ったときはお互い様だからな」

 そう言って小さく笑って肩をすくめてやる。
いちいち訂正するのも面倒なので、不都合もないのでそのまま勘違いしていてもらうことにした。

「そうか、もし明日の勝負に勝てたらその時こそ、報酬としてご飯を奢るとするよ」

 そう言うと、少年は冒険者登録に戻っていった。
俺たちも少年が受付嬢と話をしているのを見たあと、ギルドに用がないのでそのまま建物を出て行く。

「しかし、そうか、駆け出しが奴隷を連れてるとなれば貴族の出と取られてもおかしくはないか」

 ミナリスの奴隷紋を隠さないようにしたのは、俺の奴隷であることを分かりやすく示して、絶対に出て来るであろうミナリスに悩殺されて寄ってくる男への対策にするためだったが、そのせいで貴族の出身と勘違いされることになるとは思っていなかった。

「もうすでに何人かには知られてしまっていますが……、隠すようにしますか?」

「……いや、別にそのままでいい。貴族だと勘違いされて困ることはあまりなさそうだからな。奴隷じゃないと知られた時に想像できる問題の方がウザい」

 少し考え込んで、そう結論を出す。

「ミナリスが奴隷じゃないとわかったら、まず間違いなく有象無象な男どもが群がってくるぞ。冒険者なんかは特にだ。仕事柄、獣人だの亜人だのでウダウダ言うような人間なんてほとんどいないからな。お前くらい美人ならダース単位で寄ってくる」

「………美人ですか。ご主人様の考えすぎでは?」

 自分が美人だというのを受け入れられていないのか、ミナリスの表情は動かず無表情のままだ。いや、もしかして本当は照れているのだろうか。
スキルを使っての無表情なのか、素で無表情なのか区別が付かない。
 とはいえ、自分の見た目に無自覚なのも問題なので、きちんと自分の容姿については理解していて欲しい。

「いや、間違いなくお前は美人だよ。俺の目から見ても可愛いし綺麗だ。そこらの男ひっ捕まえて聞いてみればほぼ全員が頷くだろ」

「……そうですか」

 そこまで言っても、特に表情に変化はない。
特別な感情を持って言っているわけでなくとも、可愛いだの綺麗だのと並べるのは小っ恥ずかしいので元の話題に戻す。

「ただ単に普通に言い寄ってくるような奴らをいちいち追い返すのは面倒だ。流石に全部を殺して回るわけにもいかないし。それに」

「それに?」

「人の奴隷と知ってなお、諦めずに汚い手を使ってくるようなクズなら、殺すときに優秀な実験台として情報を提供してくれるかもしれないだろ? ほら、言葉が通じないゴブリンとかじゃあ確かめられないこともあるし」

直接、無関係な人間を復讐に巻き込むのはやめることにした。
理由はいくつかあるが、そうしなければ、俺の心が持たないと思ったから。自分からそうなってしまえば本当にレティシアに顔向けができなくなってしまうと思ったからだ。
なぜならそれは、レティシアからもらったすべてをゴミのように捨てることと同義なのだから。

だから、復讐に関わりのあることで関係の無い人間を殺すのは出来る限り避ける。

…………だが、それは相手が人間だから選んだ道だ。

そこらの魔物と同じところまで堕ちた本能まみれのクズなら、人間扱いしてやる必要はかけらも無いのだから。
ただ殺すだけではなく、有効活用するべきだろう。


          ☆


 必要になりそうな薬草や毒草などを買ってから宿へと戻った俺たちは、借りている部屋に戻ってからそれらを丸袋の中へとしまって明日に備えて打ち合わせをしていた。

【八目の透本剣】を腰から取り出し、軽く魔力を流して今まで鑑定してきた物の履歴の一覧を表示する。
 その中から最新のバルカスたちの情報を表示させる

===============================

 バルカス 31歳 男 
HP:682/682 MP:569/569
レベル:43
筋力:399
体力:357
耐久:390
敏捷:418
魔力:331
魔耐:391
固有技能:「金脈の嗅覚」
スキル:『剣術 Lv6』『追跡 Lv2』『気配隠蔽 Lv3』
    『暗視 Lv2』『身体操作 Lv3』『剥ぎ取り Lv5』
『強化系魔法 Lv3』

状態:良好(微酔)

===============================


===============================

 ドット 28歳 男 
HP:561/561 MP:348/348
レベル:37
筋力:253
体力:394
耐久:325
敏捷:457
魔力:217
魔耐:317
固有技能:なし
スキル:『短剣術 Lv4』『剣術 Lv1』『追跡 Lv5』
    『隠蔽 Lv3』『暗視 Lv3』『身体操作 Lv2』
    『気配察知 Lv2』『剥ぎ取り Lv6』
    『視覚微強化 Lv2』『偵察術 Lv2』

状態:良好(微酔)

===============================


===============================

 テリー 29歳 男 
HP:415/415 MP:630/630
レベル:39
筋力:94
体力:214
耐久:275
敏捷:247
魔力:549
魔耐:499
固有技能:なし
スキル:『杖術 Lv2』『追跡 Lv1』『暗視 Lv2』
    『水術魔法 Lv5』『魔力操作 Lv3』
    『瞑想 Lv3』『魔法消費軽減 Lv2』
    『剥ぎ取り Lv5』

状態:良好(微酔)

===============================


「前衛に万能型の剣士、偵察に素早さ特化した斥候、後衛として火力重視の魔術師ですか」

「改めて見るとバランスのいいパーティだな」

確か、法螺を吹いていたわけでないのなら俺と出会った時はパーティランクはCだったか。
個人までは聞かなかったが、おそらくリーダーCランク、残りはDランクといったところだったのだろう。
もちろん、それは3年近く先の話であり、今の彼らのランクがどうなのかはわからないが、ステータスなどの感じからしておそらくすべてのランクが一つずつ下ぐらいだろう。
つまり、各個人がEランク、パーティーランクがDランク程度だ。

 バルカスの持つ固有スキル・金脈の嗅覚は鑑定をかけて見てみるとどうやら換金価値の高いモノを直感的に見分けることができるスキルのようだった。

この、『換金価値が高いもの』というあたりがまた曲者だった。俺の鑑定のように能力を見抜いているわけでも、物体に内包された魔力量等を鑑定しているわけでも、ましてや目利きの知識を手に入れられるわけでもない。

だからこそ、俺が腰から下げている【八目の透本剣】や、【丸栗鼠の袋剣】のような明らかに能力の価値が桁違いな代物には反応せず、少年の杖に反応していた。
俺の心剣は他人が許可なく手にしても霧散してしまうために換金価値としては全くの無価値なのだ。

「さてさて、どんな方法を使いますかね」

 確認し直したバルカスたちのステータスを消しながらそうつぶやいた。

「まだいくつか、魔物相手にも試してない方法もありますけど……」

「いや、ああいうのはいろんな復讐の手段を考えるのに役立ってるけど、ただ肉体を痛めつけるのがメインだからなぁ」

 言葉による意思疎通ができないため、魔物相手に試せるようなものはそれこそ生存本能に直結した『痛み』を与えるだけのものなのだ。色々と難しいことをやっても深く考える知性がないので効果が微妙だというのもある。

「人相手にはそれだけじゃあもったいない。だから、明日は恐怖を煽りながらの方向性で行こうと思うんだ。だから……して、……っていう風にして最後に殺してやりたいんだよ」

 ミナリスに考えていた案を告げる。

「なるほど、確かにそれはそれで面白そうですけど、そんなこと可能なんですか?」

「たぶん? 一応可能かどうかゴブリンか何かで試しておきたいから、昼飯を食べたら外に行こう」

そう言って立ち上がるとミナリスもまた追従して立ち上がった。

「でも、それだけだと痛みは与えられなそうで嫌ですねぇ。やる前にある程度は痛めつけてもいいですよね?」

「あぁ、ただし、死んだほうがマシ、殺してくれとか、そういうこと思うレベルのは控えることな。あ、もちろんその時は俺も思いっきりヤるからな!」

「えぇー、あの視線に直接耐えたのは私ですよ、ご主人様。一度目の追体験を私がした時、ほとんど伝わってこなかった程度の相手なんですから、不快度数は私の方が上じゃないですか。優先権を主張させてください」

「むっ、それを言われるとあれだが……。仕方ないな、5:5、どっちも平等に、だ。俺だって十分不快だったんだ、それ以上は譲らないからな」

 そんな話をしながら宿の階下へと降りたときだった。

「おや、帰ってきたと思ったらすぐにまた出かけるのかい?」

 そのまま宿を出ようとすると俺たちが泊まっているこの宿を切り盛りしている女将さんに声をかけられた。

「ええ、これからご主人様とデートなんです」

「み、ミナリス?」

 特に表情を動かさないミナリスに腕をとられる。

「(ご主人様、奴隷は所有者によって譲渡することができます。そこそこ資金を持っている貴族や冒険者なら売却を持ちかけてくることもありますから、こうして仲睦ましい様子を見せておくのは虫よけに有効だと思われます。ふつう、お気に入りの奴隷はお金を積まれても売り払ったりしませんから)」

 ミナリスが少し顔を寄せ、小声で俺だけに聞こえるようにそう囁く。

「(むっ、それは、確かに一理あるが……)」

 ちらりとミナリスを見ると安定の無表情である。
 安定の、無表情である。大事なことのなので二回言った。

つまり、これじゃあ返って逆効果じゃないか? あれじゃね、奴隷の女の子に無理やり恋人っぽい振る舞いをさせてる痛いやつ扱いされるだけじゃね?

「(ミナリス、笑え。素なら演技でいいし、照れてスキル使ってるなら照れない許容範囲の行動に抑えてくれればいいから、頼むから早く……っ!!)」

 若干、可哀想なものを見ているような、死んだ魚の目をしてる宿の女将の視線が辛い。
 そしてミナリス、キョトンとするな、頼むから。

 とにかくこの場から一も二もなく離れたかったので、そのまま急いで宿を出た。

まさか、こんな伏兵が潜んでいるとは思わなかった。おそらく宿の女将の誤解は解けていないだろう。
 しばらくの間あの視線にさらされ続けるのかと思うと、少し泣きたくなった。ちびってはいない。
書いてたらちょっと間延びしました。もっと早く、バルカス達の話は終わる予定だったのに……。
もうしばらく続きます。終わったら本題に移行していくはずなので……。
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