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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第8話 勇者、ちょうどいいとテンプレに突っ込んでいく

裏切られ、戦場から逃げ出したばかりの俺は傷を癒すためにも一度も立ち寄ったことのない街で身を潜めていた。
多少傷も癒えてきたころ、何が起きたのかを知るために情報集めにと正体を隠して入った酒場であいつらとは知り合ったのだ。
 一番体格のいいリーダー格の男がバルカス、小柄で出っ歯気味の男がドット、細身の魔術師風の男がテリーという名前だったはずだ。

その日、上手い獲物を狩れたのだと、酔っぱらって陽気になっていたアイツらが、一人で辛気臭く飲んでいたのが気に食わないと酔い潰すような勢いで酒を進めてきた。
流石に不安で心細かったこともあり、明るく騒いでいた男たちの存在はありがたかった。気付けばそのまま辛い現実を忘れるように一緒に酒を飲み、夜に酒場であえば共に酒を酌み交わす仲になっていた。秘密を抱えている様子の俺に何かあったら頼ると良いとまで言っていた。

だが、数日通い詰めたその酒場である日、俺が勇者だと言うことがバレた。

魔王になり替わった人類の裏切りものと責められて、何を言っても敵意しか向けられない状況に酒場を飛び出したところでバルカス達は現れた。
酒場の中での出来事を聞いていたらしいバルカス達が隠れ家に匿ってやると言うのでついて行った先で、俺は眠り薬と痺れ薬の両方を入れられた水を騙されて飲まされた。その時点で俺は国からギルドを通して大量の懸賞金が掛けられていたのだ。

心剣で耐性があったおかげですぐに動けなくなることは避けられたが、俺を殺そうと追ってくるバルカス達から隠れながら次の日を迎えた。
人目を避けて街を出る途中、最後に見かけた彼らは頼ってくれていいと言ったその口で、次あったら殺してやると息巻き、いかに俺が悪人にふさわしい奴に感じたかと積極的に噂をしていた。
それからずっとバルカス達と出会うことはなかった。

(あぁ、こんなところで合えるとは思わなかったな)

その男たちを見ながら、少しの間考えにふける。

(……そうだな、復讐しちゃダメな相手じゃなくて、殺したい相手なんだから、問題ないよな?)

 裏切り者の元・仲間たちよりは恨みの程度が低く、わざわざ探し出そうとは思わなかった程度の人間。
だが、こうして出会ってしまえばどうでもいいとは言えない相手。もちろん、せっかく与えられた幸運を見逃すなど、ありえない。

「ミナリス、アイツラを殺すよ。もちろん、本命には支障が出ないようにだけど」

「……分かりました、ご主人様」

 それだけでミナリスにはいろいろと通じたようで、納得したように一つ頷いた。
ミナリスも、この微妙に中途半端な復讐心を共有しているのだろう。追体験での記憶も細かいところは完璧ではないようだったが、復讐心の共有の方はきちんと機能しているようだ。

さてどうやるか、と考えながら男たちに会話を盗み聞く。

 併設された酒場で朝食をとり始めた三人組はすこし高めのメニューで祝杯をあげているようだった。ここに来る直前まで夜を徹して酒を飲んでいたようで、酒が抜けきらない赤ら顔で陽気に話し込んでいる。

どうやら、オークの討伐の帰りにオーラルラビットを見つけ、やっとのことで仕留めてきたらしい。
 オーラルラビットは大きく裂けたような口を持った体長50センチ程度の小さな角を持つ兎だった。
戦闘能力は皆無な上、防御力もないがやたらとすばしっこく、体毛を周囲の色に溶け込ませる固有スキルを持っているために倒すのがやたらと難しい。
そしてなによりもレアキャラなのだ。警戒心が強く、索敵能力にも優れているので本当に極まれにしか見つかることがない。そのために戦闘力がないのにも関わらず、討伐ランクはEランクとなっていた。
しかしながら、オーラルラビットの肉は珍味、内蔵は薬に、角や爪が高価な魔道具作成の触媒に、毛皮は高級家具の材料にとその全てが高値で取引されていて一匹捕まえるだけでもひと月分の稼ぎになるほどだった。

こんな時間にギルドにやってきたのもそのためだったらしい。
昨日の夜遅くにオーラルラビットを狩り、町に戻ってくる頃には空が白じみ始めるのにいくらもない時間になっていたようだ。当然、そんな時間帯にギルドが開いているはずもなく、宿に戻って寝るよりも、ギルド近くの行きつけの酒場で時間を潰してからギルドが開くのに合わせて来るのを選んだようだ。どうやらギルドからいくらか金を借りていたようで、早くオーラルラビットを換金したかったらしい。

「…………」

 上質な獲物に浮かれている彼らの様子が、初めて酒場で出会った時の、一度目の時の記憶を刺激され、少し不快だった。

と、見てもいない魔物図鑑をめくりながら様子を伺っているとさらにもうひとりギルドの中に小柄な少年が入ってきた。
見た目的には俺と同じくらいの年齢に見えるが、実際は少し年下なのだろう。
明るい金髪をしたその少年は茶色のローブの下に革鎧を着込み、一本の杖を手にしていた。

キョロキョロと周りを見回した少年はそのまま近くの受付のカウンターへと向かっていった。
もちろん、筋骨隆々の男の受付ではなく、おっとり美人といった感じの受付嬢のもとに向かった。

 ちょうど冒険者三人組のうち、バルカスだけが先に食事を終えたようで、少し酒に酔った赤ら顔のまま、ウキウキ気分丸出しでカウンターへと向かっていき、

「ほうほう」

 案の定、少年と冒険者三人組がかち合った。

冒険者登録に来たらしい少年と酒で赤ら顔の冒険者が言い合いをしている。
どうやら、テンプレに巻き込まれたのは俺ではなくあの少年だったらしい。

「な、ミナリス。結構起きるんだよ、こういうことはな」

 色々な状況はさておき、ニヤリとミナリスに向けて笑ってやると、ムムムッ、という擬音語が聞こえてきそうな顔をする。

「ぐ、偶然です。それに、私たちは巻き込まれていないので、私の負けではないです」

 いや、別に勝負しちゃいないのだが。
しかも、勝っても特に嬉しくないという。

気を取り直し、言い争っている内容に耳をそばだてるとどうやら絡んでいるのは冒険者達のほうではなく、冒険者登録に来た少年の方のようだった。
少年はいわゆる冒険者という職に夢を見ているようで、『冒険者が朝から酒を飲んで』とか、『そんなんだからランクが上がらないんだ』とか、それはもう本当に初対面か疑いたくなるような突っかかり方をしていた。

当然、そこまで言われて自制するようなやつでもなかったし、いい事があった上に酒も入って上機嫌だったところに水を差されればイラつきもする。
若干威圧的と言える態度で冒険者の方も『てめぇみたいなガキが』とか、『冒険者ってのはそんな夢のある家業じゃねぇんだよっ』とか、逆に突っかかられたのにも関わらずテンプレなセリフを吐いている。
やはりテンプレは呪いか。

ギルドの目があるからこそ口喧嘩で済んでいるが、そうじゃなければすぐにでも取っ組み合いの喧嘩になっていたかもしれない。
ギルドの方も、この程度の言い争いなら日常茶飯事なところもあるので口で喧嘩している間はちょっかいを挟むことはない。

「カイトさん、ミナリスさん。お待たせしましたーっ」

 と、よほど焦っていたのか、隣のブースの目の前で起きている喧嘩にも気が付かずに受付嬢が俺たちを呼ぶ。

「空気読めよ……っ!!」

「あの女……、磨り潰してひき肉にしてやりましょうか」

 喧嘩の様子を探っていたところに声をかけられたため、受付嬢ともバッチリと目が合ってしまった。流石に気がつかなかったと素知らぬフリをするわけにもいかない。

「……いや、むしろ好都合か」

 もうちょっと離れて様子を見ておきたかったが仕方がない。あの少年が少し邪魔だが、こうなったらあの喧嘩をそのまま利用してやろう。
近づいて巻き込まれるならそれもよし、それを口実にこっちからも口を突っ込んでうまく誘導してやれば、色々と下準備をする手間がいくらか省けるだろう。
なんにせよ、まずはギルドカードの受け取りだ。

「こちらが、ギルドカードとなります。再発行には銀貨5枚ほどかかりますので、無くさないようにしてください」

 受付嬢に渡されたカードは薄黄色の定期入れぐらいの大きさの板状のものだった。プラスチックのような質感のカードだが、これもなにかの魔物の素材を加工して作られたものらしい。

「こちらでカードに血を垂らしてください。それで本人が念じるかとギルド以外では登録された情報を表示できなくなります」

 そう言って渡された針で指先に小さな傷を付けてプレートに垂らす。
それは一瞬、淡い光を放つと元の状態へと戻る。
しかし、心の中で念じるとカードに浮き上がるようにして文字が現れた。

===============================

 名前 カイト
 年齢 17歳
 種族 人族
戦闘職 剣士
冒険者ランク  F
 パーティランク F
所属パーティ 「スコーン・ロード」

===============================

 ミナリスの方も覗いてみると同じような形式で文字が浮かび上がっていた。

「また、こちらが冒険者の階級を示すプレートとなります。Fランクとなりますのでこの紫のプレートですね。どの街でも門番に見せれば入街税を免除されますので、依頼で街の外に出る場合など忘れず携帯するようにしてください」

「目に付くところにプレートをつけておく必要はありますか?」

「いえ、出入りの際に所持していればそれで構いませんので、目に見える場所に付ける必要はありません。ただ、一種のステイタスになりますのである程度ランクが上がってくると日常でも見える位置に付けるようになる人はいます」

 まぁ、元は日本人の俺からすれば、治安がいいと呼べるような街などほとんどない。スラムは言うまでもないが、そういう場所でなくとも腕っ節だけの喧嘩大将みたいなバカもいる。
そこそこ高ランクと判ればわざわざ絡んでくるような雑魚も減るだろうしな。

と、そんな風に話をしている間もすぐ隣ではしょーもない口喧嘩が続いていた。途中から三人組の残り二人もやってきたようで、取り巻くようにして少年と対峙している。

3対1の勝負になってしまった少年が、俺たちが受付嬢と話している間も加勢を求めたそうに軽くこちらを伺っていたのは分かっていた。
年が近く、たった今新人として登録し終えたところなのを知って助けてほしがっているのが見え見えだった。

なので、何も言わず立ち去ろうとする気配を見せてやれば……。

「な、なぁっ、お前たちもそう思うだろう!?」

「え? あ、はぁ」

 慌てた様にして少年の方から掛けてきた声に内心にやりと笑う。
 単純な少年でとても助かった。これで俺もミナリスも偶然にこの件に巻き込まれた第三者だ。

「レアなだけで特に強くも無い弱い魔物を狩って喜んで、朝から酒で飲んだくれてるなんて、こういう向上心のない冒険者がいるから冒険者全体が低く見られるんだ」

「あぁ!? 言わせて置けばこのガキッ」

「ちょっと、バルカスさんっ、これ以上はまずいっスって」

 バルカスを抑えるようにドットが動く。テリーも目線で訴えかけるように、視線を泳がせていた。
 その先ではじろりっ、と受付の椅子に座って半眼になりながら喧嘩を眺めているやたらとゴツイオッサンがいる。
ただゴツイだけではなく、大体がもともと高名な冒険者などが引退後の道としてこの職についているのでその力量も確かなものだった。

「まぁ、さっきから話は聞こえてましたけど、こういうのはどうですか? いまここで魔物の駆除依頼か何かの依頼を一緒に受けてみるんです。一日でどれだけの数を狩れたかの勝負でもすればいいんじゃないですか」

そう言うと両者とも興味を示したようにこちらを見る。

「このまま口喧嘩しててもどっちも収まりなんて付かないでしょうし、ギルドを出た後に殴り合いの私闘なんて馬鹿なことするよりも、こっちのほうが冒険者としての力量を見せられるでしょう? 勝った方が報酬を総取りってことで。コレぐらいなら問題はないですよね?」

「は、はい、冒険者の私闘による金銭のやりとりはこの街では禁止されていますが、そういう形ならギルドは口出しをしません」

 先程まで話していた受付嬢に尋ねてみればそう返事が返ってくる。

 『私闘での金銭のやりとりを禁じる』。
 これは田舎などから出てきた自意識過剰な新人が、今回のような経緯で金銭を巻き上げられるという事件が多発したために決められた取り決めだそうだ。犯罪というわけではないが、ギルドからはきっちりと制裁が下される。
 つまり、けじめをつけるのに直接やり合っても、勝っても負けてもどちらも損をするだけとなる。満たされるのは意地だけだ。

「ちっ、まぁ、ちょっとした余興にはいいか」

 酔いも醒めてきたのか、バルカスが少年の恰好に視線をやってから言う。1対1でこの二人が直接やりやってもバルカスが負けることはまず無いだろう。それだけの実力差があるとバルカス自身も分かってはいるだろうが、少年は魔術師の格好をしていた。

魔法は基本的に威力が高い、まぐれ当たりでも軽い怪我で済むとは限らない。物理的には何も得られない勝負でそんなリスクを背負うほどこいつらは馬鹿ではなかったようだ。

「俺だってそれで構わない、むしろ、望むところだ。獲物はなんだ?」

「ハッ、今日登録するFランクに選べるほど依頼があるわけねぇだろうが。コイツだな」

 そう言ってバルカスは一枚の依頼書を剥ぎ取った。

依頼はゴブリンの駆除。5匹以上で達成で、そこからは一匹ごとに報酬を渡される。

「今のお前らのランクじゃあ、これぐらいしか受けられねぇからな」

 そう言ってひらひらと依頼書を振る。

「くっ、確かに俺は今日登録するFランクだけどっ、言っておくが、俺はファイアーランスまで使える魔術師だ。お前らなんかとは持って生まれた素質が違うんだっ!!」

 その言葉にバルカスの目が疑いに少し細まる。
 ファイアーランスはそこそこの難易度の高い魔法だ。殲滅力も威力も消費MPも高く、制御難易度も高め。それをこの年で使えるのなら増長する理由には十分だろう。

……まぁ、それをコイツ自身の力量だけで扱えるのなら、の話だったが。

少年が手にしている杖に軽い鑑定をかけると『炎術魔法補助』の付与がされていた。杖としての基礎的な品質もよく明らかに金貨数枚クラスの武器だ。
バルカスもそのことに気がついたようで、その目が沼底のヘドロにも似た欲望の色が宿っている。

 ふと気になって腰に下げた【八目の透本剣】に魔力を込めてバルカスのステータスを覗き見てみる。

「………へぇ、これは」

「なるほど、こういうことですか」

 互いに注意が向いてる二人に気がつかれないように俺たちは小声で呟く。鑑定の結果は俺とミナリスで共有できるようにしてある。

 ステータスを覗き見たところ、固有スキルの欄にあったのはひとつの技能。

 …………『金脈の嗅覚』。

「なんにしろ、面白いことになりそうだな」

「えぇ、そうですね」

 俺は再びいまだ口論をしている三人の男に視線を向けた。
 バルカス、ドット、テリー。
お前らと同じようなことをしたやつらはたくさんいて、俺はその全部を覚えているわけじゃない。湧き上がる有象無象たちのすべてを覚えていられるほど、一度目の世界での逃避行は楽なものじゃなかった。

だから、これはお前らの運が悪かった(・・・・・・・・・・)というだけの話。

多くの人間がいた中で偶然お前たちが印象深い立ち位置にいたというだけの話。
人口も多いこの町でたまたま俺たちと顔を合わせることになってしまったというだけの話。
正しく公平な理屈で行動をしたいわけじゃない、復讐者に出会ってしまったというだけの話。

俺が地球の全人口73億人の中から、たまたまこの世界に召喚されてしまったのと同じ、ただ運が悪かっただけの話。

だから、これは。
ここで始まりのただそれだけの話なのだ。

「あぁ、楽しみだ」

 そうして、俺は声を殺して気がつかれないように笑った。
心置きなく楽しんで殺してもいい相手が目の前にいるのだ。
良心の呵責もなく殺せる獲物が目の前に存在している、今はただもう、それだけで十分だ。

「本当に、楽しみだ」

 俺の頭の中はもう、目の前の三人をどうやって苦しめて殺そうかと言うことだけで埋め尽くされていた。
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