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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第7話 勇者、冒険者に登録する

 ギルドの中に入ってみると、やはり俺たち以外の冒険者はまだほとんど訪れていないようだった。

食事処や酒場といった様相のギルドの中は相当広い。
それでも冒険者も多いこの街では繁忙期は手狭に感じる程の人が集まるのだが、チラホラといる冒険者は数の少ない(・・・・・)依頼の紙が貼られているクエストボードを眺めている。
クエストが張り替えられるのは昼過ぎからだったからだ。なぜそんな時間帯かというと、ギルドに併設されている酒場を繁盛させるためというなんともな理由からだった。

基本的にクエストの受注は早い者勝ちである。クエストの張替えのタイミングで割のいい仕事を手に入れようとすると必然、昼時にギルドに来ることになり、そのままギルドの酒場で飯代を落として行ってくれるということだった。朝にしないのは朝より昼の方がガッツリと腹を空かせて大量の注文してくれるからであり、朝と昼を兼ねて食べる人間も多いからである。
ほとんどの冒険者が昼よりも多少前ぐらいの時間帯に動き出すのは依頼を受けていなければ時間に融通が利くために怠惰の誘惑に抗えないせいだが、それに合わせるようなこのシステムが助長している部分も結構あるのだろう。結局は自己管理の範囲なのでギルドが悪いわけではないが。

「さて……」

軽くギルドの中を改めて見回したあと、改めて受付へと向かう。受付はベニヤ板のようなモノでできた仕切りがあり、そのブース毎にひとり、受付の人間が座っていた。

 冒険者ギルドに並ぶ受付には二種類の人間が座っている。いわゆる美人な受付嬢と言われる部類と事務方の人間とは思えないほど筋骨隆々の威圧感を発する人間だ。
 冒険者はその敷居の低さから、学、というより教養や礼儀といったものに疎い人間も多く、力の論理で生きている人間も多い。
 すべての冒険者がそうというわけではなく、ランクが上がってくるほどに多くの経験を積み、人脈や人付き合いの有用性に気が付くため、そういった人間は少なくなるが、残念ながら全体的には粗野な人間が多いのが現状だ。

そこで、手綱を握る意味でそういった手合いが強く出られない相手として、そのような人選が意図的に行われていた。

何人かいる美人の受付嬢は、その緩和材らしい。依頼に来る人材まで威圧してしまっては問題なのと、色々と若い(・・)新人のうちはそちらのほうが上手く手綱を握ることが出来るからだ。

「おはようございます、今日はなんの御用でしょうか」

 二番目に近い受付に進むと女性の受付に営業スマイルで声を掛けられた。
ミナリスが軽くジト目になっていた気がしたが気にしない。
何が悲しくて朝からあんなむさ苦しい男のそばに行かねばならないのか。別に顔などどうでもいいが、誰でも選べるこの状況で近寄るだけで体感温度が5℃は上がりそうな大男を選ぶ必要性は見出せなかった。ホモではないのだ、俺は。

「俺と彼女の冒険者登録をお願いしたいのですが」

「冒険者登録ですか?」

チラリと受付嬢の視線が品定めでもするかのように上から下に走る。
人を見る視線が露骨すぎる。新人だなこれは。

「失礼ですが、冒険者に登録可能となるのは14歳からになっています。それまでは見習いとなりランクなどは上がりませんが、街の雑用など危険のない街の中での依頼のみ受ける事ができます。入街税の免除などの特典はつきませんが、代わりにギルドで開催している初級冒険者の育成コースに無料で参加することが…………」

「あ、いえ、14は超えてます。俺は、17歳ですし、彼女も16歳です」

 ほんの一瞬言い澱んだのは、体感的には二十歳を超えているからだが、ステータスに表示されていたのは17歳だったのでたぶんこっちであっているのだろう。

「え?」

 ぱちくりというのはまさにこれというような、見事なキョトン顔を見せられる。この反応は一度目でもう慣れた。
経験が浅いのか、こんな態度を見せることもそうだが、俺にしか視線を向けていないのが露骨に出ていた。誰をどう見てどう判断したのか丸分かりである。もちろん俺の顔が若作りなわけじゃない。まさに日本人マジックだった。
 正直もう慣れきっているのでなんとも思わないが、隣でスキル『鉄面皮』を使ってまで、おそらく笑いをこらえているのであろうミナリスは後でゆっくりとお話する必要がありそうだ。

「かしこまりました。それでは、こちらの水晶に触っていただけますか?」

 そう言って出されたのは『年読み玉』と呼ばれる野球のボールぐらいの大きさの水晶玉だった。その名の通り手に持った人物の年を読む魔道具で、詳しい仕組みはわからないが14歳に満たないと赤に、それよりも上だと青に発色するのだ。

「こちらに触れていただくと、14歳以下の場合ですと赤く発光し、それ以上だと青に発光します。この年齢制限は各国と結ばれた協定で決められたものなので、いかなる身分の方であろうと従って頂くことになりますのでご了承ください」

 最後にわざわざこんなふうに明言するということは俺を貴族か何かが勇み足を踏んでいるとでも疑っているのだろう。

一度ミナリスの、正確にはその首筋にある奴隷紋を見たようなのでまず間違いない。
基本的に奴隷は高い。着ている服も王都でそこそこの値段の服を買っているので仕立ては良い。要するにあまり金に不自由はしていないように見えるはずだ。だから、『年読み玉のことも知らないか、それも権力で押し通せると思っている世間知らずな貴族のバカ息子が無理を通そうとしている』とでも思ったのだろう。

実際、そういったことも珍しくはないらしい。特権階級そのままに育てられてきた豚が、外の世界でもそれが通じると勘違いしたまま我儘を撒き散らすのだ。
 ただ、その判断が妥当であると分かっていてもそんなものと同類に見られているかと思うと多少は不快な気持ちになるのは変わらない。
笑顔のまま対応しているが、こちらを侮っているような様子が透けて見える。

ミナリスもそれを見透かしたようで『鉄面皮』を解いた表情は少しだけムッ、としたような雰囲気が漂っていた。

(って、落ち着け俺、むしろ好都合だろう)

見た目が若い俺たち二人がある程度侮られるのは想定していたはずだ。そもそも、この場所には自分たちの強さを誇示するために来たのではないのだから、変に注目されたくないという目標は達成できている。とはいえ、イラッとするものはイラッとするのだが。

 心を落ち着けて受付嬢から受け取った年読み玉を受け取ると、それは確かに手の中で青い光を発している。

「ミナリス」

「はい」

 ミナリスに年読み玉を放ると片手で受け取った。
その手にある年読み玉も青い光を放つ。

「っ、失礼しました。しかし、その年読み玉はギルドの備品でも貴重なものですから丁重な扱いをおねがいします」

 少しムッ、としたような態度で受付嬢が答える。
 どうやらこの受付嬢、やたらとプライドが高いらしい。受付嬢を任されているということは経験はなくともそこそこ仕事のできる人材なのだろうが、正直軽い威圧ぐらいかけて脅してやろうかと思った。
まぁ、そこまで直接的な行動に出ると戦闘要員であるムキムキマッチョな受付員が飛んでくるのは想像に固くないのでそんなことはできないが。

「あぁ、すいません、そんな貴重な代物には見えなかったもので。ギルドの冒険者に対す(・・・・・・・・・・)る対応(・・・)と同じような扱いで構わないのかと思いました」

「……っ」

 ニコリと笑って、毒を差し込む。
魔力も発していなければスキルを使っているわけでもなく、間接的に見透かしてるぞ、と言葉で告げてやれば、流石にこちらの意図に気が付いたようだった。

「いいから、早く登録用紙を持ってきてもらえませんかね、受付嬢さん」

「は、はい、いまお持ち致します」

受付嬢は少し慌てた様子で奥へと引っ込む。

「ご主人様、なにか、やり方が温くて逆に欲求不満になりそうです。もう少しやっても良かったのでは?」

「いや、何のために朝早く来たと思ってるんだ。受付嬢を物理的に威圧なんかしたら台無しになるだろ」

「それまぁ、そうなのですが。見る目のない豚に侮られたと思うと……」

何やらいつもより若干ミナリスさんの態度が厳しい気がする。俺もあの受付嬢の態度にイラついているのは一緒だったが、正直言うと邪魔さえされなければどうでもいいというのが一番の感想だった。

「こちらが冒険者登録の申請書になります。銅貨1枚で代筆させていただきますが、必要はありますか?」

「いえ、いりません」

 渡された二枚の用紙のうち一枚をミナリスに渡し、適当に空欄を埋める。
俺もミナリスも書き終えるとそれを受付嬢へと渡した。

「カイトさんとミナリスさん、歳は17歳と16歳、種族は人族と兎人族、戦闘方法は二人共剣士ですね。パーティ名は、『スコーン・ロード』? で、よろしいですか?」

「ええ、それでお願いします」

「それではこの内容でギルドカードをお作りしてきます。ギルドカード作成には少々時間が必要となりますので、その間あちらでおかけになっていてください」

そう言って受付嬢に本棚の横に設置されたソファを指し示される。

「本棚には冒険者について詳しい仕組みが書かれた本もあります。必要でしたら後で口頭でも説明させていただきますが、文字の読み書きは問題なさそうですので、待っている間に確認して貰っても結構です。他にも魔物について討伐証明部位や判明している弱点などが記された魔物図鑑、薬草や毒草などについてその植生や分布、採取の際の注意事項などが書かれた図鑑なども置かれているので、お好きにお読みください。では」

 告げるだけ告げて受付嬢は去っていった。
実際、ただ待っているだけなのも暇なので受付嬢に言われた通りに本棚から小冊子を取り出す。

手にとったのは冒険者について書かれたものだった。魔物も薬草や毒草のたぐいも、一度目の時に一般的なものは【八目の透本剣】の鑑定を使った詳細な情報がデータとして剣の中に記録されている。
 一度目の時には勇者とバレて半分特権発動で何もしていないうちから最上位ランクに位置付けられたせいで、冒険者と言う職種の詳しい仕組みを知らなかったのだ。

といっても、これといって目新しい情報はない。

仕事をこなしランクを上げることで受けられる依頼が増える。
冒険者は街の出入りに税を取られない。
国を跨いだ移動も戦時中でもなければ身分をギルドが保証してくれるので楽に通れる。

ただ抜けていた知識も確かにあった。

冒険者のランクは個人に与えられるものの他にパーティとしての総合評価であるパーティランクもあるらしい。
構成員全てがE級の冒険者でも、連携などでD級の冒険者と同等の働きをできるとなればパーティとしてのランクはDとなり、ギルドで受けられる依頼もE級ではなくD級の範囲で受けることができる。

そしてもう一つ、勇者として行動していた一度目の時は知らなかったが、国・ギルドが共同で管理しているダンジョンのなかに入れるのは個人かパーティかいずれかの評価がD級以上の冒険者だけらしい。
これは、悩ましいところだった。
いずれダンジョンには行く事になるだろうが、あまり一気にランクを上げすぎて目立つわけには行かない。どうするかは後でミナリスとも相談しながらどうするか考えるべきだろう。

そうしてある程度目を通し終わると、本の裏に『ギルドのランク別の基本評価』なる7段のピラミッドが描かれていた。登録するともらえるランクごとのプレートの色と大雑把な括りが示されている。
その頂点のSSから順に、

SS (白) :伝説、おとぎ話の英雄
S  (黒) :人外もどきな強者
A  (赤) :超天才
B  (黄) :一線級の人材
C  (緑) :ベテラン冒険者
D  (青) :一人前
E  (灰) :半人前
F  (紫) :ほぼ素人
見習い  :登録不可

と、こんな感じだった。
見習いにはプレートは渡されないので色の表記はない。

それも眺め終わったので閉じた本を本棚に戻す。

(それにしても、順調だな。やっぱり俺の考えすぎだったのか?)

 そんな事を考えた少し後になって、自分が迂闊なフラグを立てたと気がついた。いや、気がつかされた。

「ガハハッ!! 本当に運がいいぜ、オーラルラビットを見つけられるなんてなっ」

「そうっすね、逃げ隠れするのはやたらうまかったすけど」

「早く換金しましょうっ、幾らになるのか楽しみですねぇ」

 ギルドの扉から入ってきたのはやたらと声のでかい三人組の男。
 ちらりと視線を向けた時に、ザワリと電気が肌を撫でるような感覚が駆けた。

「ご主人様?」

 俺の雰囲気の変化を感じ取ったのか、ミナリスが疑問の声を上げる。

「……あぁ、やっぱりテンプレは呪いっぽいな」

 思わず小さな笑いが漏れる。
そいつらは、軽く何度か酒を飲み交わした程度の仲でしかなかった。
ただひとつ、俺にとって重要なことは。

………そいつらが一度目の世界で周囲に同調して俺を犯罪者として襲ってきた男達だったことだ。
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