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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第6話 勇者、テンプレを大いに警戒する

 朝食を取り終えた俺たちは町を出る旅人のように朝早くから動き始めた。
行き先は冒険者ギルド、目的は当然、冒険者として登録することだ。そして、冒険者としての身分証を手に入れること。

冒険者ギルドは依頼人と冒険者の仲介を受け持つ機関だ。
王国、獣国、帝国、法国のどの国にも存在し、どの国にも属さず、自由と力と冒険を象徴とする組織。
冒険者の最低限の身分を保証し、依頼者と冒険者の間にトラブルが起きないように管理する組織。
まぁ簡単に言えば、『国を跨いだ人材派遣事務所』だ。

冒険者などと言えば聞こえはいいが、その言葉で想像される仕事ばかりをこなすような、ロマンあふれる仕事ばかりではない。

薬草採取から街の清掃、家賃の回収に浮気調査。
運び屋のように手紙を届ける仕事や護衛依頼。
ようするに、依頼さえあればなんでもやるフリータ―というのが正しい認識だった。

いくつもある単発の仕事の依頼を受け、契約している時間以外は相手に縛られることもない。
当然、常に雇われているわけではないから定期的に仕事が回ってくるわけではないので収入や生活は不安定になりがちな職種だ。
とはいえ、そういった雑用めいた仕事をすることになるのは最初のうちだけだ。冒険者の主な仕事はなんといっても魔物を倒すこと、そしてその素材を手に入れること。
ゴブリンやガルムのような弱い魔物で戦闘の経験を積んで行けば、すぐに稼げる仕事である魔物の討伐の依頼を請け負うようになってくる。

もちろん、最初から危険度の高い魔物の討伐依頼を受けることはできない。冒険者はその実績ごとにランク分けされ、冒険者の力量に見合った仕事しか受注できないようになっているからだ。
 Gランクとも呼ばれる、冒険者になるための年齢に達していない見習いを除き、実質的な一番下であるゴブリンやガルムなどの魔物の討伐依頼を受けられるFランク、そこから実績を上げ、力をつけていくことで一つずつランクが上がって行き、最高位がSSランクとして位置づけられている。

そして、確認されている魔物には同じようにFランクからSSランク、そのランクの中でも+、無印、-、と三段階の討伐難易度が設定されており、討伐の依頼はそのランクに応じたものとなっている。

つまり、ランクが低いうちは危険度が高く、割のいい仕事は受けられないことになっている。

 SSランクの冒険者ともなると完全に伝説の人物扱いを受ける。だが、そういった人物のように、強力なドラゴンなどの討伐や高難易度のダンジョンの奥、守護者の討伐を成功させるなど、冒険者として成功し、有名となれるのはほんの一人握りにも満たない。

この世界で現存している仕事の中で、冒険者という職業の死亡率は極めて高い。
大抵が、そこにたどり着くまでに命を失うか、あるいは自分の限界を見定めて無理が出ない範囲でとどまる事を選ぶ。それでも、冒険者となるものが絶えないのは偏にそういった英雄たちに憧れるものが絶えないのと、その職に就くしかない状況まで追い込まれている人間が多いというところにある。

冒険者になるのに必要なのは、年齢が14歳を超えていることと、一食分の食事代程度、大銅貨にして数枚の最初の登録料だけだ。
コネも大金も生まれも経歴も必要がない。
 登録料さえ最初は金がなければ最初はツケにすることができる。
つまり、本当に食い詰めてなにひとつ持たない孤児ですら、冒険者になることはできる。

だからこそ、騎士だったり、兵士だったり、商人だったり、職人だったり、そういったある程度安定した身の危険の少ないマトモな就職先を得られなかった、あるいは拒んだ人たちの受け皿として機能しているのが冒険者という職種の一面でもある。

 ここで最初に話を戻すが、冒険者としての身分証を手に入れることは俺たちにとって多くの面でメリットがある。

まず、その名通り身分の保証。
この大陸を席巻しているのは、人族至上主義の王国、獣人至上主義の獣国、実力至上主義の帝国、宗教国家である法国。そして、それぞれの隙間を縫うようにいくつかの少数民族国家などの小国が存在している。
それらの国を跨いで移動する場合などにそこそこのランクがあれば冒険者ギルドがその身分を保証してくれるので国境を越えるのが楽になる。
また、ある程度の大きさの町では一つの町に身分のない人間が長居することはできない。十日以上町に滞在したければ何かしらの身分の証明が必要になるので容易く手に入れられる冒険者ギルドの身分証は都合がいい。

 さらに、街に入るたびにかかる入街税の免除。
これはある意味当然だった。依頼のために街を出たり入ったりすることが多い冒険者が、そのたびに金が取られてしまっては金がかかりすぎるからだ。

そして最後に、冒険者には多種多様な人間がなる、これが俺たちにとってはおおきい。
住んでいた街を追われた没落した貴族が。
裏の世界から足を洗ってきた脛に傷のある人間が。
果ては身分を隠したい王族などの立場のある人間が。
そういった素性を隠したい人間が名前を変えて登録していたりする。そのために冒険者はその素性を問わないのが暗黙のルールとなっていた。つまり、素性を明かさない人間が多くいる職業でもある。王国に追われているはずの俺たち、と言うか俺にとっては容易く紛れ込むことのできる職種なのだ。
木を隠すなら森の中が一番である。

一つ目と三つ目のメリットは俺たちの目的を考えれば確実に役立つだろう。ミナリス的には二番目も重要らしい。
それに、どうなるにせよ、少なくともユーミスがこの町にいる以上、十日以上の滞在するのはおそらく確定なのだから何かしらの身分証の獲得は必須だった。

「それにしても、なぜこんな朝早くからギルドが開くのに合わせて向かうのですか?」

 日も顔を出してまもなく、いまだ店も開店の準備をしているような時間帯の大通りを歩いているとミナリスがそう疑問を口にした。

「言っただろ、『テンプレ』を避けるためだよ」

 そう、冒険者登録といえば、テンプレの宝庫だ。
登録してきた新人に野蛮な先輩冒険者が絡んでくる。その後それをあしらうとギルドのお偉いさんに目をつけられ、迷惑を押し付けられたり、絡まれたり、監視されたり、色々とパターンはあるが、どれもろくなことにはならない。
善行系主人公たちはむしろ進んで巻き込まれに行くが、そんな糞の役にも立たない奴隷になるのは一度目の時だけで十分だ。

「いまはまだ、そんなアホな目立ち方をするわけにはいかないからな。とにかくまずは絡まれないようにするのが一番だろう。そのために朝早く人が少ない時間に登録を済ませるんだ」

「はぁ、それはまぁ、そういう話も聞いたことはありますけど……」

ミナリスはしっくりとこないようで軽く首をかしげる。
この世界でも新人冒険者が成りあがる英雄譚の出だしでは、大抵冒険者登録の時に突っかかる当て馬役が現れるので、そういう展開について知識はあるのだろうが、納得はできていないようだ。

まぁ、確かにそんなことが起きる前提での行動は疑問に思われても仕方がないだろう。だが、俺は一度目の時に王都で冒険者登録した時にそのテンプレを引き当てている。突っかかられたところを軽くあしらったら、実力はあるが粗暴で問題があった冒険者というお決まりのパターンで一瞬でギルド長との対面と相成った。勇者以外の仮の身分を手に入れるための行動だったが、まさかそんなテンプレが起こるとは想像しておらず、速攻でばれるハメになるとは思ってもいなかった。

 と、そんな事を考えている間にエルミアの冒険者ギルドである木造の建物が見えてきた。
表には翼を模した盾と剣の紋章が看板として下げられ、建物は他と比べても別格の大きさを持っている。
建物のそばまで来るとすぐには中に入らずに建物の中の気配を探る。

「よし、思った通りに人は少ないな」

「……そこまですることですか?」

 呆れたように言うミナリスだったが、分かっていない。
本当に分かっていない。

「いいか、ミナリス。もはやあれは呪いなんだ。スラム街に入れば確実にチンピラに巻き込まれるように、俺みたいな異世界から来た人間が冒険者として登録しようとするとだいたいそういうのに巻き込まれる。意識して避けられるならそれに越したことはないんだ」

「はぁ、なるほど。そういうものですか」

 ミナリスが信じていなさそうなのはわかったが、ミナリスもそれ以上何か言う様子はなかった。そんな様子を見ていると自分でも考えすぎな気もしてくる。
いや、考えすぎなら考えすぎで構わないのだ。それならそれで何も起こらずスムーズに事が進むというだけの話である。

俺はミナリスをつれて冒険者ギルドの中に入ると、そのまま冒険者ギルドの受付に向かっていくのだった。
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