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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第4話 勇者、吐き気を催すお世辞の味を知る。

「申し訳ありません、ブラックオークが出たと、街道の途中で聞いて急いでここまで駆けつけてきたのですが……、まさか倒される直前だったとは……」

 少しゆっくりとした穏やか口調で話しながら、申し訳なさそうに頭を下げるのは、ひと目でよく魔力の込められているとわかる白木仕立ての杖を持ち、仕立てのいい魔術師用のローブを身にまとった妙齢の女性。

明るく、それでいて濃い新緑の色をした髪は頭の右側で木彫りの花を象った髪留めでまとめられ、脇腹のあたりまで垂らされている。どこか優しげで儚そうな印象をしたその女性の髪は半分程度まで顔を出した太陽の光を反射してキラキラと光っていた。

ユーミス・エルミア。
名前のとおりエルミアの街を治める領主の娘、貴族であり、魔法の研究者。
自身も相当の使い手であり、一度目の魔王の討伐の旅で魔術師として活躍した人物。

「お二人共、魔術ではなく刃を武器とする冒険者の方のようでしたから、ブラックオークが相手では危ないと……、いえ、これは言い訳ですね。状況の確認もせずに、本当に申し訳ありませんでした」

「いえ、まぁ、状況的に仕方ない部分もありましたから」

本当だよ人の獲物横取りしやがってこのゴミムシッ、と叫び出しそうになるのを堪え、吐き気のするような笑顔を作る。

 今はまだ、復讐の時じゃない、王女の時とは違い今は事情がわかっている。焦ってはダメだ。

まぁ、事情が分かっていたところで俺の帰る場所を粉々に破壊した王女や、王に王妃、その周りの騎士どもは我慢できずに殴りつけていた可能性が高いが。
最初のあれのおかげでほんの少しだが、溜飲が下がって冷静になれたのは確かだった。

「それにしても、魔法もなしにどうやってブラックオークをここまで? 失礼ですが、その……」

 今、俺とミナリスの格好は王都で買った初級冒険者セットの革鎧に黒のローブを羽織っただけの姿だ。

普通の町人の姿で街馬車も使わない二人旅は目立つので用意したものでもあるが、一見してわかる程度の質でしかない。少なくとも、相応の実力者といったふうには見えないだろう。

「あぁ、それは……」

「もしかして、その不思議な形の剣に、なにか秘密があるのでしょうか? ああ、いえ、冒険者に手の内を聞くのはマナー違反でしたね」

「いえ、これは形状は特殊ですがただの業物というだけです。俺たちが相対していた時にはもう、ほとんど瀕死のような状態でした。手傷を負わせるのも難しく、相手が体力切れで倒れるのを狙うので精一杯でしたので」

「そうなのですか。…………誰がブラックオークをここまで追い詰めたのかはわかりませんが、いつまでも追ってこないところを見ると、返り討ちにあったのでしょうか……」

 ユーミスは少し悲痛な面持ちで考えるような仕草をしたあと首を振った。

「どちらにしろ、魔物を掠め取ったような形になってしまったのは変わりませんね。ブラックオークの素材は全てお渡しします。その上でお願いしたいのですが、このブラックオークをそのまま私に譲っていただけませんか?」

「このブラックオークを?」

「はい、この場で買い取らせてほしいのです。金貨5枚でいかがでしょうか。私は第2級の道具袋を持っていますから、運搬もこちらで請け負いましょう」

 道具袋は魔道具版の丸袋のことだった。能力によって等級が決められ、いちばん性能のいいものを第特級、その下を第一級から、一番質の悪いものまでで第10級と段階分けされている。
第2級の道具袋となると、八畳一間のアパート一室分ぐらいの容量で重量を20分の1程度まで抑える事ができる代物だ。

道具袋は【丸栗鼠の袋剣】のように無制限にものを入れられるわけではなかったが代わりに持っていてもデメリットがない。
 しかし、丸袋と違い、拡張空間と重量軽減の魔法が付与されているだけの代物であるため、物を入れれば少しずつ重くなる。
取り出す際も、丸袋と同じく口は大きく開くので大きなものを入れるのことはできるが、丸袋のように袋の口を近づけるだけで勝手に吸い取ってくれるわけではないので、物が大きくなると出し入れが非常に面倒になる。
さらに、雑多にモノを入れてしまうと狙ったものだけをすぐに出すのは困難だった。そして例のごとく等級が上がるほど高い。
ベテランと呼ばれるような冒険者の多くはこの道具袋を持つようになるが、そこそこ稼いでいる中級冒険者で一生ものの買い物として背伸びして第5級のモノを買うのがせいぜいだ。

王都でも今の手持ちでも4級ぐらいまでならふたり分楽に買えるだけの金は持っていたが、MPの上限の5%という対価を払うことを考えても丸袋の方が明らかに優秀だったのだ。

戦闘の牽制に使う投げナイフなど、口の部分に手を持っていけば、わざわざなかに手を突っ込まなくとも念じるだけで取り出せる。どれだけ入れても重量は変わらず、入れられる容量に制限もない。道具袋にわざわざ金貨数十枚を出すほどの魅力は感じなかった。

「第2級の道具袋ですかっ、それはすごいですね。あぁ、値段の方もそれで全然構いません。もともと降って湧いたようなものでしたし、俺たちにはこれを運ぶ手段はありませんから。ブラックオークの相場なんてよくは知りませんので、美人に売れるならそれでいいですよ」

 演じているということがバレても不自然ではないようにわざとおどけた調子でそう告げるが、すぐさま後悔した。
お世辞でも冗談でも、こいつらを褒めるような言葉吐いた途端、口の中が腐りきった果物のような、吐き気を催す苦味と酸味の味に覆われた。衝動的に整った顔にブラックオークの顔を叩きつけてやろうかとすら思ったが、そんなことをしては今後に差し支えるのは確実なので必死に自分を抑える。

「クスクス、きちんと相場に色をお付けしてありますよ、なんなら後で街で確認してくださっても構いません」

 これで相場を無視してボッタくろうとしていたなら、多少は感情を表に出せたというのに、相変わらず無関係な人間への外面は完璧だな、コイツは。

「私の名はユーミスと言います。もしもの時はエルミアの学舎を訪ねて頂ければ、面会できるでしょう」

「そのときはよろしくお願いします」

「では、私はこれで失礼します。もう少し先にある星草の採取のためにここまで来たので。依りて集まれ、『創造・土人形(クリエイト・ゴーレム)』」

 ユーミスが魔法を発動させると、地面から砂や石、岩が盛り上がって形を成していく。
最終的に二体のごつい土人形が出来上がると、ユーミスが手渡した道具袋に電撃で微かに黒い煙を上げたままのブラックオークの死体を足から詰め込み始めた。

「1、2……はい、これで金貨五枚です。どうぞ」

 ユーミスはチャリチャリと5枚の金貨を無造作に取り出すと直接手渡してきた。
それを受け取ると小さく一つ会釈し、ユーミスは道具袋をゴーレムに預けたまま街道を街から離れる方向へ歩いていった。

当然、予定外の遭遇に一度距離を置きたかったこちらもエルミアに向けて歩き出す。完全に相手が見えなくなった頃、ミナリスが鉄仮面のスキルを解いた。

「驚きましたね、まさか、街にたどり着く前にあの女に会うとは」

「あぁ、そうだな。完全に意表を突かれた形になったからな」

「しかし、ご主人様も鉄仮面のスキル習得したほうがいいのではないですか? 今はまだ警戒される訳には行かなかったとはいえ、あんな生ゴミのような女にお世辞など吐くからそのような顔色になるのです。…………あんな女に、美人などと」

 ミナリスが最後になにか小さく呟いたが、よく聞こえなかった。聞き返そうかとも思ったが、何やら機嫌が悪そうなので追求はしないことにした。

「鉄仮面のスキルはいらん、復讐対象に会うたびに二人共ずっと無表情でいたら変に思われるだろう。警戒されると動きにくくなる。正直、少し友好的な態度を取るだけでも鳥肌が立つぐらい嫌だが、このぐらいは耐えるさ」

「ご主人様がそう仰るのでしたら、まぁ……。次からは私も愛想笑いぐらいはしたほうがよろしいですか? どんなに調子のいい日でも一気に最悪の気分になりそうですが」

「そうだな、そんときゃどうせ俺も最低の気分だ。どこかで何かパーッ、と豪遊でもして気を晴らすか、一緒に最低の気分のままふて寝でもするとするか」

「一緒にふて寝ですか、……それはそれで魅力的ですね」

「ん、なんだ。退廃的な感じが好きなのか?」

 基本ができる女のイメージなので、余暇に非生産的な時間の過ごし方をするのは好みそうにないと思っていたのだが。

「はぁ、まぁ、もうそれでいいです」

「? まぁ、とりあえず、今回は前者だな。次の街についたら安宿じゃなくて少し高めの宿に泊まることにしよう。長旅を終えた旅人が少し高めの宿に泊まるのは珍しいことでもないしな。あとは、料理もしなくていいようにどこか美味そうな飯屋に」

「いえ、食事は私が作ります。気分転換を兼ねてというのならなおのこと私に作らせてください」

「ん、けど、食事はお前に頼りっぱなしだし、たまには休まなくてもいいのか? 調理場ぐらいは借りられるだろうが、街にいる間くらい普通に飯屋で済ませて構わないと思うぞ」

「料理は私の趣味でもありますから。なにより、私が作った料理とほかの人間が作った料理を比べられるのが嫌です。それとも、その、私の作る料理では不満ですか?」

「……時々、なんか卑怯な言い方するよな、お前」

「あら、知らなかったのですか? 女は基本的にズルさを使う生き物ですよ」

 MP酔いをした時のような色気を微かに滲ませてミナリスが笑う。

「……そのズルさをこじらせて腐らせて、それに振り回されるようになると下劣な生き物に成り下がりますが」

 そう言ったミナリスは直前の笑い顔を消して底冷えのするような暗い炎を瞳に宿す。
おそらく、彼女の復讐相手の一人、ルーシャのことを思い出して言ったのだろう。
ミナリスとの契約を結んだ時に追体験したミナリスの記憶の中の少女は確かにミナリスが言ったような少女だった。

「まぁ、不満なんてないよ、ミナリスの作る飯は美味いしな」

「っ、ストレートに言われると少し照れますね」

「いや、わざわざ鉄仮面のスキルを使ってまで隠すようなもんか?」

 照れたのか、スッ、と無表情になったミナリスに突っ込んでおく。

「ただ、ほかの料理人が作る料理も参考になると思うぞ。基本はミナリスに作ってもらって、たまに外に食べに出ればいいか」

「それは、そうですね。嫌なのは嫌ですが、料理のレパートリーを増やすのは望むところです。一度で完璧に盗んでしまえば、以降はいつでも、それ以上のものを私が作れるようになればいい話ですから」

「お、おう、そうか。いや、まぁ、それはそれでいい、のか?」

 なにか、ミナリスの料理人魂か何かに火をつけてしまったのだろうか。

スキルで作られた無表情の奥に底知れぬ気配を感じた気がしながら、エルミアを目指して歩み続ける。
 そして、落ち着いてきたことで思い出す。

「そういや、まだ朝飯食ってなかったな」

「そういえばそうでしたね、ブラックオークとの戦いで少し疲れましたし、朝食がてら休憩しましょう」

 その日、ミナリスの朝食は貴重な卵を使った少し豪勢な朝食になったのだった。
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