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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

33/119

第3話 ミナリス、黒豚に金貨の夢を見る。

「ブルォオオオッ!!」

===============================

 ブラックオーク 魔物 男 
HP:534/2172(1974) MP: 121/221
レベル:54
筋力:801
体力:424
耐久:1712(1465)
敏捷:314
魔力:41
魔耐:33
固有技能:『黒皮膚』
スキル:『生命力強化 Lv2』『硬化術 Lv2』
    『威圧 Lv2』『状態異常抵抗 Lv4』
『食事療法 Lv3』『悪食 Lv3』
状態:出血

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「やっぱり、たまたま体がおおきくて黒いだけのオークってことはないか」

「冗談言っている場合ではありません、ご主人様」

 0.1%もないだろうとわかっていた希望的観測は、確率論に従うまでもなくノーという事実を突きつけた。

「ブルルォォオオオオッ!!」

「伏せろっ!!」

 ブラックオークが邪魔だとばかりに横になぎ払おうと振りかぶった右の拳を見て叫んだ。

ゴウッと空気の唸る音と、バキバキッ、と太い木の幹がへし折れる音がする。

「ちっ、場所が悪い、街道に戻るぞっ」

 いつかの呪いの武器持ちのゴブリン同様、まともに食らったらやばい。今のミナリスなら防御を完璧に行えれば数撃は耐えられるだろうが、剣の方が保たないだろう。
 俺も当然まともに喰らえばやばい。

敏捷が低く脳みその方も弱いので避けるのは難しくない相手だが、周りの木々が邪魔だ。
ブラックオークもそれは同じだろうが、木々ごとお構いなしに押しつぶせる向こうとは違い、こちらは木々を無視して逃げ回ることはできない。なら、自由に避けるだけのスペースがある街道に戻ったほうがやり易い。

「まださっきの集団が街道にいるようですっ、そこに出ましょう。囮になってくれれば儲けものですっ、っ!!」

「ブラララアアッ!!」

 ブラックオークが今度は左の拳を上から下に振り下ろした。
 襲い来る落雷のような一撃を、ミナリスが横っ飛びに避ける。

「ちったぁ、大人しくしろっ!!」

 丸袋から取り出した投げナイフをブラックオークの眼球めがけて飛ばす。だが、顔を背けたブラックオークの頬に弾かれた。

「ブルゥッ!!」

「かすり傷もつかないのかよ」

ミナリスに調合してもらった毒を塗りこんであったのだが、これでは何の効果もない。

それでも牽制代わりのナイフをまた数本投げ、【逆境者の拐刃】を作り出す。
飛来するナイフを鬱陶しそうにブラックオークが払ったのを見て俺とミナリスは街道へと飛び出た。

「ブルゥウウウウッ……」

 そのすぐ後を追うようにしてブラックオークも森からその威容を露にする。

「なっ、ありゃブラックオークっ!!」

「ひっ!! なんでこんなところにっ!!」

 冒険者からか、盗賊からかは分からないが、その感想には同感だった。

対してブラックオークは獲物が増えたとでも思ったのか、嬉しそうに喉を鳴らしている。

 俺は両腕に構えた【逆境者の拐刃】をブラックオークへと向ける。

【逆境者の拐刃】は元の世界でいう一対のトンファーのような形状をしている。
トンファーなら打撃のために突き出ている部分は、鎌の刃をそのまま外側に向けたような、内側にえぐれた刃になっている。流れるように内側に緩い曲線を描く外側の刃はギラりと光り、一メートル程度の拐刃の刃がない内側、三分の二あたりの位置にある取っ手がついている。

その二つの刃は鮮やかな赤を基調に青と黒が散りばめられ、鋭い刃が今か今かと獲物を求めているようにも見えた。

「グピョヤッ!!」

 恐怖にブラックオークの前で体を硬直させた男がその硬い腕で叩き潰された。全身の骨を砕かれたようで倒れたままピクリとも動かない。格好からしておそらく冒険者側の一員だろう。

ブラックオークの鳴き声が森の中から聞こえた時点で逃げ出せば良かったものを、大方、決着が自分たち側に傾いているのに諦めるのを渋ったのだろう。

「ブヒャヒャヒャッ!!」

 ブラックオークは嬉しそうにその男の死体をつまみ上げると足からボリボリとかじりつき、ものの数秒でひとつの死体が綺麗になくなってしまった。

「に、逃げ……っ、ぐぴゃぁ!!」

 ちょうど手近にいた盗賊っぽい男を魔力操作で腕力を強化してブラックオークの右肩のあたりへと投げつける。

「ブルァアアッ!!」

「グペェッ!!」

当然、飛んできた人間砲弾をブラックオークは右腕でフック気味に殴り飛ばす。
バキボキッと骨が折れ、断末魔すら上げられずに死んでいく盗賊の男。

その犠牲をありがたく頂戴して、盗賊風の男を殴ったことで生まれた死角に潜り込むようにしてブラックオークの向こう脛の右側半分をえぐるように刈り取りに行く。

「ブルアァアアァウッ!!」

「ってぇな!! 物理で削ろうとするとここまで硬いのか」

深く抉るつもりで振り抜いた一撃は浅く傷をつけただけにとどまった。

それでも自分に傷が付いたことに警戒したのか、ブラックオークが距離を取る。

ブラックオークはその名のとおりオークの上位種だった。
確か、冒険者ギルドでの討伐ランクはD+ランク、ギルドが定めたDランクの冒険者パーティなら五つ、Cランクの冒険者パーティなら2つは討伐に必要という難易度の区分だった。

一般的な冒険者で一線級と呼ばれるのがBランク、一人前と呼ばれるのがDランクであることを考えるとその強さが分かる。

ちなみに騎士団長率いる騎士たちは、今のこの時期はまだ5人一組のパーティを組ませてCランクというところのはずだった。俺が逃げ出す時に倒してきた騎士たちはE+ランクがせいぜいというところだ。

通常のオークを軽く凌駕する膂力と、それ以上に固有スキル『黒皮膚』による圧倒的な物理防御力。まともな武器では傷一つ付けるどころか、武器の方に傷が付くことになる。

だが、圧倒的なまでに魔法に対する耐性が低い。純粋な魔法を使えば討伐は容易く、そのためあまりランクは高くないのだが……。

「くそっ、心剣の選択を間違えたか」

 今の俺たちには魔法的な攻撃手段がない。
ミナリスの毒術魔法は魔法で毒を生成するものだが、毒魔法はそれ自体には威力がない上、このブラックオークは状態異常耐性も高い。そもそも毒を叩き込む方法もない。
ガスなどで吸引させようとすればむしろこちらが危ない。

 この集団の中にまともな威力の魔法を使える人間がいないのは先程の盗賊と冒険者に分かれて戦っていた時の様子からわかっている。

こちらの攻撃がほとんど通らない以上、敵の敏捷も低いので置いて逃げるのが楽なのだが……、

「ご主人様、どうされますか?」

「なんか弱ってるみたいだし、少しもったいないよな」

 何があったのかはわからないが、ブラックオークはかなり弱っているようだった。

 陽の光で照らされたその姿はそこらじゅうに怪我をおい、その体表に赤い血を流していた。

「くそっ、こんなところにいられるかよっ、引き上げろっ!!」

声を上げたのは盗賊のリーダーだったようでその声に従って数人の男たちがオークが現れた方のとは反対側の森の中へと逃げ込んでいった。

「おい、依頼人っ、馬車は置いて逃げるぞっ!!」

「ま、待てっ!! この馬車には大量の商品が……っ!!」

「んなこと言ってる場合じゃねぇだろうがっ!! 死ぬぞあんたっ!!」

 今度の声は冒険者のリーダーだっだようだ。冒険者たちが依頼人と思しき商人を連れて街道を走り出す。

「おいっ、あんたたちも逃げろっ!! 見たカッコ二人共剣士だろっ、魔法が使えないんじゃあいつの相手は無理だっ!!」

 それだけ言うと後は面倒を見きれないと言うように仲間たちと街道を遡っていった。
仕事柄、常に命の危険に晒されているだけあって判断が合理的で早い。そこそこ経験を積んだベテランの冒険者なのだろう。

「とはいえ、せっかくの経験値を逃すのは惜しいしな。ギャラリーも消えてある程度本気で戦っても問題なさそうだし」

 もう一度鑑定でステータスを覗いてみれば、534あったブラックオークのHPは498とその数値を変えていた。
流れ出る血で、そのHPも少しずつ減少し続けていた。

「私は放置して逃げてもいいかとおも……」

「知ってるか。ブラックオークの肉はいろんな研究の触媒になるらしくてな、金貨レベルで高く売れるぞ」

「ご主人様、一応倒しておきましょう。世の中お金でなんとかなることは多いです」

「…………無駄遣いしても大丈夫なだけの金はあるのに」

「それとこれとは別です。お金はあって困るものではありません」

「まぁ、そりゃそうだけどな」

 ここまで来ると経済感覚がしっかりしているというより守銭奴っぽいなと思ったのは黙っておくことにした。

「ブルォオオオオッッ!!」

 警戒して離れていたブラックオークだったが埒があかないと拳を振り上げて突っ込んできた。

「ミナリス、援護を頼むぞ。特徴はあの通りの巨体と異様に硬い黒皮膚、後は状態異常への耐性の高さだ」

「了解しました」

 突っ込んでくるブラックオークのふり下ろした拳に対し、左右の二手に分かれて対峙する。

巨体の足元を潜り抜けるようにして、最初に切りつけた場所と寸分違わぬ場所に再び刃を入れる。

「ブララアァアァッ!! ラァッ!!」

 痛みの声とともに後ろ向きに振り抜かれたブラックオークの裏拳を前に転がるようにして通り抜ける。
そのまま体の向きを変えて追撃しようとするブラックオークをミナリスの投げナイフが顔の眼球を目掛けて飛ぶ。

俺が投げたものと同じように顔を背けてそれを防御しようとしたブラックオークだったが、

「やはり、所詮はオークですね」

「ブルルルォォォオオオッ!!」

 ミナリスが投げた二投目のナイフが、一投目にくくりつけられていた袋を切り裂く。

 袋に入れられていたのはミナリス特性の刺激毒薬だった。ダメージを与えるようなものではないが細かく散った粉末が、ブラックオークの粘膜を強烈に刺激し、ブラックオークは目を抑えながら悶絶する。状態異常というわけでもないのでブラックオークのスキルにある『状態異常抵抗 Lv4』も意味はない。

 ブラックオークは片手で目を抑えながらもう一方の手を振り回す。
 めちゃくちゃに振り回されたオークの拳が馬車を押しつぶし、バラバラに砕けた馬車の破片が飛び散る。

「そんな風にデタラメに振り回しても当たらねぇよっ!!」

ランダムに振り回される拳は脅威だったが、目を押さえている手の側に回れば避けるのは容易い。

巨体なのを利用して足元ばかりを狙っていたが、これで上半身への攻撃もしやすい。

「ブラアアゥアァア!?」

 ここで戦闘を始める前から負っていたらしい脇腹の傷をさらに抉るように両方の【逆境者の拐刃】の先を突き刺してそのまま左右に切り開く。

 黒皮膚の下、赤い体の肉の部分が現れる。

「ミナリスッ!!」

「はいっ!!」

 ミナリスの放った毒つきの投げナイフが突き刺さる

「ブルルラアアアアアアアアアアアアッ!!」

 一際大きい痛みの声を上げたブラックオークは、唸り声を上げながら突き刺さったナイフを引き抜いた。

「状態異常への耐性が高いとは聞いてましたけど、ここまでですか。自信作の麻痺毒だったのですが、自信がなくなります」

「いや、全く効いてないわけじゃないみたいだぞ」

 ナイフを引き抜いたブラックオークだったが、明らかに動きが鈍っている。

その隙をついて鑑定を掛けて見ると、状態に『麻痺毒(弱)」が追加されていた。

残りのHPも残り200を切ったところだった。

「よし、いっきにとどめを…………」



「轟け風精霊の恐声っ、『緑雷一閃(ライトニング)』ッ!!」



 続く言葉を切ったのはバリバリと空気を切り裂く音と弾けるような轟音。

踏み出そうとした俺たちの前を走ったのは緑の雷閃。

「ブルラアァアアアァアッ!!」

「なっ!?」

 突然、戦闘に割り込んできた魔法に思考が追いつかない。

 風属性の魔力を持った雷を受けたブラックオークは残ったHPを全て散らし、命が失われていく痛みに最後の断末魔を上げた。

「この、魔術は……、あの女の…」

「ご主人様、感情(・・)を隠す準備を、それから、あちらを見てください」

 その言葉に、自分の推測が正しかったことを知る。
 ミナリスは既に鉄面皮のスキルを発動しているようだった。



「あのぉーっ!! 大丈夫ですかっ、助けに来ました!!」



少し離れた街道の先からかかる声にゆっくりと顔を向ける。

推測はしていても、心構えするには時間が足りず、一瞬、驚きを表情に出してしまう。だが、すぐにそれもかき消した。

「あぁ、まさかエルミアにつく前にお前の顔を拝むことになるとはな」

思わず嗤いそうになる顔を必死で抑える。

 さぁ、ようやく、一人目だ。
一度目の世界の復讐をするためにやって来たぞ。

――――……魔術師、ユーミス・エルミア。

 どうしてやろう、お前にもやってやりたいことや言ってやりたいことがたくさんあるんだ。
 けど、それでもひとつだけ、確実に決まっていることがあるんだ。

ユーミス、お前は必ず、一筋の光さえ届かない、永久の地獄の底へと叩き落とすよ。
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