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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第2話 勇者、右と左を間違える。

「さてと」

 色々と思うところはあったが、考えても答えは出そうにはない。

気分を切り替えようと、今度は今後の経験値の割り振り方について考える。

王都を出てからも街道に出る魔物は経験値に変えながら、溜まった経験値を割り振っていた。

とりあえずは負債を完済し、レベルが上がらないぎりぎりのところまで経験値は振った。これで必要な時にはすぐにレベルを上げることができる。

レベルをあげるタイミングは慎重に考えなければいけない。心剣を解放するだけでもステータスは上昇するのだから。

ステータスを一時的に下げ、経験値を上げる心剣もあるが、あれは装備している間はその心剣以外の武器の攻撃力をゼロにしてしまう。

よって、身一つで倒さなければいけないのだが、今使えば普通に攻撃力不足で倒せなくなるだけだった。

そうして残った経験値は約25000程度。

「うぅーん、どうするか……」

このあたりの魔物はそこそこ強いので経験値的には悪くはないのだが、如何せん、遭遇できる数の方が少ない。

エルミアにはしばらく留まる予定なので、またしばらく自由に振ることができる経験値を手に入れるのは難しくなる。
そう思うと、候補を絞ったにも関わらずにどうにも踏ん切りがなかなか付かず、挙句の果てには『ご主人様はヘタレですか?』とミナリスに冷たい声を掛けられた。
ちょっと泣きそうになった。チビってはいない。

「というか、最近、ミナリスの態度がなかなか厳しいんだよなぁ」

 以前と同様、奴隷と主人という立場を崩さないにも関わらず、下手に出ているのに威圧されるというか、時々逆らっちゃいけないオーラを感じるというか。
卑屈に従えとは欠片も思っていなかったが、これはこれでどうなのか。

小さくため息をつきながら焚き火の火を突く。

一度目では魔王討伐の旅の最後の方ぐらいしか周りに目を向けていなかった。
飯なんて食べられればなんでも良かったし、景色なんて見て回る余裕はなかった。

そんなこんなで街で売っていた用途のよくわからない謎のおもちゃを買おうとしたり、いかにもぼったくりな屋台の食べ物などに惹かれたりすると、『ご主人様は馬鹿ですか?』とミナリスに冷たい笑顔で怒られることになった。寒村で暮らしていた価値観からか、お金はあると言っても無駄遣い関連は許せないらしかった。

最近ではいい笑顔を見せてくれる時など、思いついた復讐方法について話し合っている時か、実践できそうな拷問案を適当に見つけたゴブリンなどを相手に試したりしている時、あるいはたまにあるやたらと機嫌のいい日か、MP酔いで頭がくるくるパー状態になっているときだけだった。

それはさておき、流石にそろそろ決めておかないとズルズルといってしまいそうだった。

と、そうなってもウンウンと悩んだ末、以前から考えていた三つの心剣から解放したのは【逆境者の拐刃】。

 今後、しばらくの間はステータスでは下回る可能性が高いので、使い道は多い。
自分よりもステータスが低い相手には他の心剣を使えばいいだけのことなので、これといった副作用やデメリットがないというのも大きい。

経験値15000を消費し、これで残った経験値が10000。
後は適当に敏捷かMPを強化する心剣を解放しようかと思ったが、やめておいた。

この残った1万を使えばここから20前半程度までレベルを上げることができる。
何かあった時に臨機応変に対応するためにも、必要に迫られるまでは自由に使える余地は残しておいたほうがいいだろう。

「これでよしっと」

 ふと手元を見ると砂時計の砂が落ちきっていた。
思ったよりも時間が経っていたらしい。

「ご主人様、交代の時間です」

交代を告げるためにミナリスを起こそうとしたが、ミナリスはそれよりも先に体を起こしていた。

「なんだ、起きてたのか」

「はい……、…………ご主人様、なんだかんだと独り言が多いですよね」

「なっ!?」

 いや、それは、仕方ないじゃん、ひとり旅が長いと独り言も多くなるんだよ。
 一人暮らしが長いと独り言が多くなるのと一緒なんだって。

「別に昼間は構わないのですが、夜は気をつけていただかないと気になって眠れません」

 無表情なポーカーフェイスは、スキルを使ったものだろうか。これはあれか、相当苛立っているのか。

「す、すいませんでした……」

「いえ、気をつけて下さるのなら問題はありません」

 冷たくあしらわれてスゴスゴと毛布を被って瞳を閉じる。

 なにか、段々と力関係が逆転し始めているような気がする。
基本的な方針や大事な選択は余程のことがない限り従順に従ってくれるのだが、それ以外の基本的な生活の部分が……、いや、蔑ろにされているとか、そういうわけではない。ないのだが、むしろ、冷たい態度で言ってることは心配から出た、気を回した注意なのは分かっているのだが、なんだけれど、なぁ……。

 そんなことを考えているうちに、意識はゆっくりと沈み込んでいった。


             ☆


「ご主人様、眠ったようですね」

私はご主人様が眠ったことを確認して、いつもどおりさらりとご主人様の髪を梳くと、スキルの鉄面皮を外した。

「あぁああぁ、もう、ご主人様の声はどうしてこうも耳に心地よく響くのでしょうか。あれでしょうか、セイレーンか何かの血でも混ざっているんでしょうか」

 絶対にご主人様を起こさないように小声で身悶える。
スキルを解除したせいで自分の顔が緩みまくっているのが分かる。

「いずれどうにかして音声を記録することができる魔道具を手に入れましょう」

大丈夫です、これは無駄遣いではありません、とても有意義なお金の使い方になります。

 ……ただ、それとは全然関係ないですが、今度、ご主人様が何に使うかわからないようなガラクタに興味を示しても何も言わずに黙って眺めることにしましょう。

私は、音声を記録できる魔道具を手に入れるチャンスが巡ってきたときのためにご主人様を懐柔することを心に決める。

ただ、屋台の買い食いについては難色を示さずにはいられない。ご主人様のご飯を作るのは私の役目なので譲れない。

 私が作ればもっと安く作れる上に、材料の質もきちんと吟味できるのに、作るといっても『屋台で買うからいいんだ』などと、妄言を……。

いえ、まだ私の料理の腕が足りていないのでしょう。もっと、料理の腕を磨くしかありません、いつか聞いたように胃袋を掴み、私以外の料理にうつつを抜かされないように努力するしかありません。

「……ですが、ご主人様の使用した、使い捨ての容器は惜しいですし、料理のレパートリーを増やすためにも、イヤでも、せめて普通の酒場や食事処ならともかく、屋台では食材や調理法に不安が……」

 そんな風に目の前で起きていたとしても聞き取れないほど極小の声で独り言を漏らしながら、途中で私も独り言が多いのはご主人様と同じだと気がついてちょっと嬉しくなった。

でも、ご主人様が夜に独り言を漏らし続けていると気になって眠れず、きちんと休めないことも多い。
ご主人様をそんな私個人の理由で諌めるのだから私自身も独り言には気をつけなければならない。

 そんなくだらない事をぐるぐると思考しながら焚き火の火に薪を追加したり、あるいは燃える薪を崩したりして火の世話をしながら夜は明けに向かっていった。


         ☆


「ご主人様、起きてください」

「んっ、……敵襲か?」

 夜が明ける少し前、空は白み始めたばかりで地平線にも太陽の影が見えないような時間帯。

スッ、とミナリスが漲らせた戦意に刺激されるようにして目が覚めた。

「違うと思います、ただ、もう少し先で戦闘音がしています。もしかしたらここまで戦い寄せてくるかもしれません、最低でも様子は確認しておくべきでしょう」

 『聴覚強化』のスキルを使うために耳に魔力を込めたのだろう。ミナリスのウサミミがピクピクと動いている。

 元が人間の俺の耳では『聴覚強化』のスキルは覚えられず、虫の声や葉擦れの音で詳しい判別はできないが、それでも金属と金属のぶつかり合う音が微かに響いているのが耳に届く。

「方向は前からか……、普通ならスルー確定なんだけどな」

思わずため息をついた。

関係のないところでわけのわからない神様に触れて祟りをもらうのは避けたいところだったが、残念ながら方向が悪い。
 俺の耳では距離までは分からないが、音が聞こえてくるのは前方、学術都市エルミアの方向からだった。

放っておくにしろ、何らかの形で関わるにしろ、まずは様子を見て情報を得ておかなければ後手に回る可能性がある。

知らないままでいるということが致命的な弱点になりうるのは一度目で嫌というほど思い知らされている。

「行くぞ」

「はい」

 野営のために出していた荷物を丸袋に放り込むと、俺は状況に合わせていつでも心剣を出せるように準備しながら音のしている方へと慎重に足を進める。

ミナリスも段々と音が近づいてくると剣に手をかけ、自分に幻術をかけ直した。
ちなみに手にしているのは王都で買った数うち品の八本目だ。ダンジョンで既にガタが来ていた七本目は更に少し魔物を切り殺したあたりでご臨終していた。

「……冒険者と、あれは野盗か?」

 争っているのは人間同士のようだった。

 馬車を包囲するようにあまり綺麗とは言えない格好の男たちが展開していた。そして、その馬車を守るように、冒険者らしきものたちが応戦している。

護衛任務を受けた冒険者が野盗と戦う、特になんということもないシーンだった。

「ふむ、このままだと冒険者たちの方が潰されて終わるな」

 冒険者たちもそこそこの腕のようで倍近い盗賊相手に踏ん張ってはいるが、それもそろそろ限界だろう。

「決まりだな」

「ええ、そうですね」

 ミナリスと軽く頷き合うと、気がつかれないうちに右手の森の中へと足を踏み入れた。

全部無視して横を素通りしても良かったが、それがのちのち足かせになる可能性もある。どちらかに肩入れするなどそれ以上に論外だ。
 盗賊が勝っても冒険者が勝ってもどうでもいい。正直どう転んでも関わるメリットがない。

森の中を回って行けば問題ないと、削られた睡眠時間にちょっとイラつきながら道ではない木々の隙間を進んでいく。

 そして、右ではなく左を選ぶべきだったと思うのはその瞬間。

「ブルルルルォォオオオオオオ!!」

「つ、ついてねぇ……」

「まぁ、ツキがあればこんな人生にはなっていませんね」

 現れたのは、豚の顔と体を持った巨体を持つ魔物。
 オークと呼ばれるその魔物は小柄なゴブリンとは違い、人と同程度の大きさを持ちながら人を凌駕する膂力を発揮する魔物。

しかし、見た目はオークと呼ばれるその魔物は、それとは決定的に違うということを示すようにその全長は通常のオークの倍近い大きさと、物理耐性に優れる黒鉄色の肌を誇る、オークの変異種。

………通称、ビッグオークとも呼ばれる『ブラックオーク』がそこにいた。
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