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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第二章

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第1話 勇者、熱くて苦くて寝ずの番

王都を離れてから既に一ヶ月が経った。

俺はミナリスと二人、のんびりと街道を歩いていた。
歩く、歩く。ただひたすらに歩く。

「やはり、何かにゆっくりと食わせて殺すのが一番ではないですか?」

「ミナリスは好きだなそれ、俺は殺し方よりもいかに相手が苦しむかを考える方が大事だと思う。体の痛みだけじゃ屈しない奴やそもそも痛覚を切れるような奴もいるからな。それじゃあ意味がない。そういう意味では、意識がないときに殺すのが一番ダメだな」

「それは、そうですね。苦しんで悔やみながら死んでもらわないと。そうやって歪んだ表情で……」

そんな雑談を交わしながら二人は街道を歩いていく。

ちなみに、獣耳と尻尾は今は隠していないため、歩くたびにひょこひょこと耳が揺れていた。

もちろん、これは王都を離れたからこそのことだった。
オロルレア王国の気風として獣人を嫌う傾向にあるのは確かだが、国の人間すべてが獣人を毛嫌いしているわけではない。実際、国境付近の街や村では獣人の冒険者なども多く出入りしているし、市民権を得て普通に生活もしている。

本当に獣人を心の底から嫌っているのは、王都に住んでいる王族を筆頭とした特権階級にある貴族たちぐらいのものであり、それも獣人を直接見たこともなくただ自分たちよりも劣る存在だと決めつけて嫌っている人間がほとんどだった。

 王都での獣人の扱いが悪いのはそのせいであり、逆に、そういった状況だからこそ、好事家な貴族には周りには秘密で入手できる裏からの獣人がよく売れるのだ。

そういう意味では、ミナリスはとても運が悪かったと言える。ミナリスが生まれた村は獣人嫌いが集まった中でも相当閉鎖的な村だったのだろう。

そんなわけで、街道を歩いて王都から離れてくると、それでも数は少ないものの獣人の冒険者ともすれ違うこともあった。

なお、獣人嫌いという個人的な思想さえなければ、ミナリスはかなりの美人なのだ。

ここらへんに来るとそういった偏見(獣人嫌い)もほとんどなくなり、時折すれ違う商人や冒険者たちの男たちがミナリスに見蕩れては、首元の奴隷紋に気がつき、最後には恨みがましいような視線を俺に向け、ミナリスから絶対零度の視線を受けてスゴスゴと立ち去るサイクルが出来上がっていた。

連れに女がいるとそちらからも絶対零度の視線を向けられるなんともマゾ向けな仕様だった。

「それにしても、人とすれ違うことが多くなってきましたね」

「あぁ、そろそろエルミアにつくからな。あそこは王都並みに人が多いし、研究用に魔物の素材の採集の依頼も多い」

「なるほど、だから冒険者のような格好の人間が多いのですね」

 幾つかの小さな町に寄りながら、目指している学術都市『エルミア』まで王都からもう少しというところまで来ていた。

左右を森の木々で囲まれたこの道をそのまま歩いていけば後2、3日程度でたどり着くことができるだろう。

道には晴れ晴れとした日差しが降り注ぎ、のどかな風景が広がっている。元の世界では興味もなかったが、森林浴というのはこういうのをいうのだろうか。

そんなことをぼんやりと考えながら、道を歩いていった。


               ☆


「…………」

 夜、簡単な野営の準備を済ませた後はミナリスの作った料理に舌鼓を打つと、ローテーションで火の番をしながら早めに休み始めた。

「ん、ぅん……」

 火のそばで毛布をかぶりながら、ミナリスが一つ寝返りをうった。

俺も疲れていないわけではなかったが、街道とはいえ、いつ魔物が襲って来るかはわからない。その上、俺たちは二人組の旅だ。人数が少ないと魔物も襲ってきやすい。

一度目の逃亡生活は結界を張って眠っていたので、野宿でもこういう番をする必要はなかったが、今はMPが乏しすぎてそもそも十分な強度で朝まで維持できるような結界を張ることができない。

「うげっ、熱っ、苦っ……」

 火で温めたお湯に煎じた薬草を溶かした飲みものを口にする。
舌を刺激する強烈な苦味と、火傷しないギリギリの温度で眠気を追い払いながらも耐え切れずに渋い顔をした。

ファジー草という名のこの薬草は、煎じてお湯に溶かして飲むだけですぐにそこそこの疲労回復と眠気覚ましの効果が出る不思議植物なファンタジー薬草だった。

 どこにでも大量に自生するのでどの街でも安く手に入る駆け出し冒険者の強力な味方なのだが、コーヒーと抹茶と100%のチョコレートの苦味だけを抽出して濃縮したような、ただただ苦いだけの強烈な味な上、日が落ちてから煎じ、その場ですぐお湯に入れて飲まないと効果が出ない。

その上、お湯の温度もかなり熱い状態じゃないとこれまた効果が出ないという罰ゲーム仕様な飲み物だった。

それでもこれがなければ、魔物よけの結界を張れる希少な上に相当高価な魔道具を持っているか、中堅でも上位に食い込むレベルの魔術師に頼るか、何人ものパーティを組むなりしてローテーションのみで十分な休息を取れるようにする必要があった。

ミナリスという思わぬ拾い物になったが、最初に俺が王都で奴隷を求めた理由の一つもここにある。

 苦味と熱ささえ我慢できれば、最低二人いれば交代交代で休みながら旅をすることができるのだから薬草の需要は高い。

 火の番は日が落ちてから、夜半過ぎぐらいまで俺が、それから日が昇って少しするまでがミナリスという区分である。交代までの時間を図る砂時計の砂はまだ大分残っていた。砂の量からしてまだまだ時間はありそうだ。

「ふぅ、苦い、うぇえぇ……」

手元ではパチパチと薪が弾ける音がしている。ミナリスを起こさないように声を潜めながら、それでも愚痴らずにはいられない苦さに独り言をこぼす。

 火が消えないように適当に集めた枯れ枝を放り混むと、飲み物を入れた木のコップを置いてその揺れる炎を見つめる。色々と考えるには都合のいいシチュエーションだ。

 まず思い浮かんでくるのは、王都の城壁での出来事。

復讐に影響のない人間をわざわざ復讐で殺すような真似はしない。
その線引きをしなければ復讐の輪郭が曖昧になる。自分の復讐に確信が持てなくなる。

復讐で殺しているのか、八つ当たりで殺しているのか、その線引き。
それはいつか、じわじわと溜まる毒のように迷いを産むだろう。その迷いを無視し続ければ、誰彼構わず殺すだけの本当の化物になるしかなくなる。
 
 復讐は、感情だ。
うちにある熱で、それ以上自分が壊れてしまわないように、復讐をするしかないのだ。

それを、本能でしか動けない理性をなくした化物になってしまっては、たとえ仇を全て殺すことができてもこの内にある熱は消えずに燃え盛るだけだろう。
二度と人には戻れない。結局、自分が壊れたままになる。それは死んでいるのと何も変わらない。

だから、この一線は曲げる気はないし、それでいいと思っている。俺は俺をやめるつもりはない。
復讐に巻き込むのは復讐に拘りのある人間だけだ。

とはいえ、誰も彼も無差別に殺してしまうような計画を選ぶつもりはないが、全く巻き込まないというのもまた無理な話だ。
 少なくとも、なんの含みもない相手でも、そいつを殺すことが復讐になるのなら躊躇うつもりはないのだから。確実に巻き込まれるものは出るだろう。

そうでなくとも、復讐以外の場面で生き残るために必要があれば顔も知らない相手でも殺すだろう。
 それを躊躇うような精神は既にしていない。そんな精神を持ったままでは裏切られるまでもなく旅の途中で死ぬことになっただろう。

要はバランスなのだ。自分の中で処理できないほどに巻き込みすぎれば化物になり、それを嫌いすぎれば届かなくなる。

それに、今度こそ間違えないと決めたのだ。

「復讐したい相手は世界じゃない。どうでもいい奴らを苦しめても意味がない」

 きちんとそれを言葉にすることでそれを忘れないように刻み込む。

 そう、復讐したいのはこの世界ではない。
俺を裏切った、かつて仲間と信じたものたちだ。救うべきものを間違えた一度目のように、復讐したい相手を二度目でも間違える訳にはいかない。

「あぁ、いっそのこと本当に世界の全てを恨めたら、どれだけ楽に復讐できるかね……」

 思わず自嘲めいた言葉を漏らしながら、そんな楽な復讐の道を夢想する。徹頭徹尾、すべてが敵ならこの世界を滅ぼそうと暴れまわるだけで良かった。選別などせずただ殺し回るだけの化物になれた。

 きっと、レティシアに会わないまま、ただ元の世界に戻ることしか考えずに一度目を裏切られただけで終えていればそうなったのだろう。

 この世界に来たとき、俺にはこの世界がただの作り物にしか思えなかった。
書き割りの風景に、魔王を倒してくれとしか言わない登場人物たち。ステータスにレベル、魔法にスキル、奇っ怪な姿をした魔物に、倒すだけで手に入る経験値とそれに伴い得ていく人間離れした力。
怪我をすることがあっても強力な回復魔法や高価な魔法薬ですぐに痛みは引き、欠損した部位ですら治すことが出来る。

まるでゲームの世界に閉じ込められた気分だった。魔王を倒せばクリアできるだけのゲーム。
そんなものに現実感など伴うはずもなく、そんな世界で裏切られたのならこの世界で生きている人間などただの道具にしか思えなかっただろう。

そんな、絶望しきって、壊れ切った自分が簡単に想像できる。

その行為を楽しむこともなく、喜ぶこともなく、ただただ淡々と死ぬまで世界を殺し回る化物に成り果てた自分だったモノの姿。

きっとそれはとても楽な道だろう。

ただし、復讐の暗い愉悦すら得られない、なんの満足もできない、気分の晴れない自殺めいた自傷行為にしからないだろうが。

「っと、まずいまずい」

 バチッ!と一際大きい音を立てて焚き火が崩れた。
考え事に耽りすぎていたようで、焚き火の勢いが相当弱くなっている。慌てて集めた中でも燃えやすそうな枯れ枝を放り込み直す。

「…………苦っ、あっつ」

口に含んだファジー草の煎じ茶は木のコップにまだなみなみと残っている。

苦味に染まった口内をリセットしようと、王都の道具屋で保存食として売っていた干し野菜を取り出した。

適当な長さの木の枝を手に取ると、【水妖精の雫刃】に魔力を込め、彫刻刀程度の刃を作り出すと、余計な尖がりを切り落とし、先が尖るように削る。

 そうして干し野菜をその先に突き刺すと、目の前の焚き火にかざして軽くあぶり、王都で買い込んでおいた調味料をかけてしゃぶりついた。

いまだ、朝は遠く、まだ夜は長い。
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