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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第3話 勇者、手慰みに足蹴にする

「ぁぁ……、うぅ、がぁ……」

「ひぐぅ、……ご、ぁ……」

 数分後、部屋の中が言葉ではなく呻き声だけになり、何をやってもいい反応が返ってこなくなった頃に俺は動きを止めた。

 目の前には誰だかわからなくなるほど顔をボコボコにされ、指の関節を全て逆向きにへし折られ、遂に耐え切れなくなって虚ろな目で口の端から泡を吹いたアレシア王女様がうずくまっている。

「さて、改めてどうなってんのかね」

 復讐心はこの程度で収まるものでもなかったが、反応がない相手をいたぶっても意味がない。

 ひとしきり暴れたことでなんとか落ち着きを取り戻すと冷静になった頭で、手に持った短剣をそのまま突き刺してしまいたい衝動に耐えながらアレシア王女に治癒魔法をかける。

 手から少量の魔力を吸い取り、淡い光を灯しているのは【翠緑の晶剣】。エルフの森で条件を満たして手に入れた心剣の形態の一つだった。

 刃渡り15センチ程度の緑がかった水晶のようなもので出来た短剣で、魔力を込めることで対象を癒す効果がある。

 といってもすぐに完治するようなものではないのでその間に疑問に思っていることを調べることにする。

「しかし、気のせいかと思ってたけど体が重いのはなんでなのかね」

 曲がりなりにも戦闘行為を行ってわかったのは、明らかに身体能力が低下していることだった。なんでそんなことになっているのか、考えを巡らせる。

「あぁ、もしかして呪いが残ってるのか?」

 直前まで自分を貫いていた、『不死者殺しの宝剣』。あれは相手に傷を付ける度に基礎能力値を低下させるデバフ効果を与える力がある剣で、教会が秘蔵していた教剣であり、あの時は装備していた俺の心剣の効果で無効化していた。

 俺の固有の技能、『心剣』は数多の条件を満たすことで多くの形態を得る自分専用の武器を操れるというものだった。

 4年の修練は伊達ではなく、いくつも扱えるようになった剣の中には自らの状態異常を治すものもある。なので、対応する剣がなんなのか、まずはそれを調べなければならない。

「ステータスオープン」

 呟いた声に反応するかのように青い半透明の板、ステータスボードが浮かび上がる。

 それは呼び出した当人の能力を書き記したもので、鑑定系のスキルや魔法を使われない限り自分以外には見えない非物質の魔力体だった。

 そして、そこには、驚くべき情報が記載されていた。


===============================

 宇景海人 17歳 男 
HP:531/545 MP: 347/412
レベル:1
筋力:224
体力:324
耐久:545
敏捷:587
魔力:117
魔耐:497
固有技能:「心剣 ▽」「他言語理解」
スキル:『拳打 Lv1』
状態:良好

===============================

「………なんだこりゃ」

 ついにバグったのかと思って目頭を抑えてて一度ステータスボードを消し、顔を振ってからもう一度唱えなおす

「ステータスオープン」

===============================

 宇景海人 17歳 男 
HP:531/545 MP: 347/412
レベル:1
筋力:224
体力:324
耐久:545
敏捷:587
魔力:117
魔耐:497
固有技能:「心剣 ▽」「他言語理解」
スキル:『拳打 Lv1』
状態:良好

===============================

「………なんで?」

 おかしい点がいくつもあって、思わず漏れたのはそんな疑問の言葉だった。

 まず一つ、年齢。

 俺がこの世界に呼び出されたのは約4年前、17歳の高校2年生の時、今の年齢は21歳だ。
 なんだろう、若返りの秘技でも発動したのだろうか、違うか。

 まぁ、特にこれは問題がない。

 次に、レベル。

 魔王を倒し、その後も戦い続けた経験値は圧倒的であり、レベルは300を超え、400に迫ろうというところまで育っていた。魔王討伐の旅に付いてくる前、王国最強の騎士とされていた騎士団長のLVが121だったこと、魔王を討伐する頃には270程度まで上がっていたことも合わせて考えれば、それがどれだけ突出しているかもわかろうというものだった。

 もちろん、レベルが上がればステータスにも影響する。
 レベルが下がるなんて話は鍛錬をサボり続けたり老いて衰えたりするぐらいでしか聞いたことがなかったが、300近く一気に下がるなんてことは噂ですら聞いたことがない。
 というか、レベル1とかこの世界でなら赤ちゃんぐらいだ。
 初めてこの世界に来た時の俺ですらレベル3はあった。

 それが、レベル1である。それに合わせてステータスも劇的に低下していた。

 そして最後が、スキルである。
 完全に才能や、勇者補正のような特別な条件で所有している固有技能と違い、獲得法が確立していて向き不向きはあれど習得するだけなら時間をかければ可能なのがスキルである。

 スキルには熟練度とレベルがあり、熟練度をためてレベルを上げればスキルを十全に使いこなせるようになっていく。
 基本的には地味な反復作業で育てていくしかなく、言い換えれば、わかりやすく努力の結果が結実したものであるはずのスキルが『拳打』のみになっている。

 「んな、馬鹿な……、『天駆』っ!!」

 意識は未だ戻っていないようだったが、あらかたの傷が治ったらしい王女の治療を中断して心剣をしまい、地面を蹴って魔力で出来た足場を蹴ってもう一度、宙で跳ねる。  

 咄嗟に選んだスキルは『天駆』。空中で足の裏に魔力で足場を作ることで空中戦を可能にするスキル。

 戦場で助けられたスキルのひとつは確かに発動した。発動はしたのだが……。

「嘘だろ……?」

 そのあまりに稚拙な技の発動に呆然と声が漏れる。魔力消費も展開速度も自分の感覚とは比べ物にならない。

 「ステータスオープンっ!!」

===============================

 宇景海人 17歳 男 
HP:531/545 MP: 297/412
レベル:1
筋力:224
体力:324
耐久:545
敏捷:587
魔力:117
魔耐:497
固有技能:「心剣 ▽」「他言語理解」
スキル:『拳打 Lv1』『魔力操作 Lv1』『天駆 Lv1』
状態:良好

===============================

 ステータス欄を開くと、スキル欄にたった今使った『天駆』と『魔力操作』が登録されていた。

 ステータスボードの『天駆』の文字をタップし、ため息をついた。

 「はぁ、やっぱり……」


===============================

『天駆』 スキルレベル:  1
     
スキル熟練度: 1/10000

空中で魔力を足場にするためのスキル。

===============================

 小さく浮き上がったステータスボードにはそう示されていた。

 つまり、今まさにこのスキルを取得したという扱いになっているということだ。

 ごっそり持って行かれたMPがそれを証明している。

 先ほども言ったように、スキルレベルは簡単に言うとどれだけそのスキルの扱いに慣れているかということである。
 スキルを成功させることで熟練度が増して行き、スキルレベルが上がることでそのスキルを上手く発動できるということである。

 今回の天駆で言えば、レベルが上がれば上がるほど、魔力消費が抑えられ、発動間隔を短くできるという具合だった。

 はっきり言って、レベル1のスキルなどゴミである。どんなものも燃費が悪すぎて実戦では使い物にならないものがほとんどだった。

 一応、天駆以外のスキルも確認してみたが、やはりレベルは1だった。

「呪いの効果……なわけないな、こんなとんでもない効果だったら戦闘にならずにもっと早く終わってた」

 実際、ここで目が覚めるまで、直前の記憶が正しいのなら、『天駆』も『魔力操作』も、それどころかその他の上級スキルだって鼻歌交じりで使える程度のスキルレベルだったからこそ一人で1年以上戦い抜いてこれたのだ。

 レベルやスキルを帳消しにする効果の呪いが付属された剣なんてものがあるなら、それこそ勇者になんて頼らなくても魔王を秒殺……は無理だろうが、楽に倒せるだろう。

「あの時、殺された後、いや、生きてるっぽいから助かったとして、気を失ってる間に新種の状態異常でもかけられたのか?」

 ステータスボードの状態では良好と表示されているが、これは判定が穴だらけなので参考程度にしかならない。本当に悪質な高レベルの状態異常はステータスボードの表記さえ騙してしまうからだ。

 なので、本当に何の状態異常にもかかっていないのかを知るために更にステータスボードに対し、鑑定能力を持った心剣を使用することでより詳細な状態を知ろうとした。

 本当に新種の状態以上なら、きっちりと効果を把握しておかないと解除するため条件なども把握できないからだ。

「さてと、鑑定、鑑……て、い?」

 そうして、ステータスボードに対し、鑑定能力のある心剣を出そうとして、動きを止めた。

「そ、んな、まさか……」

 嫌な想像に顔を引きつらせながら心剣の横にある『▽』のマークをタップした。

 すると、今まで数々の苦難をともに乗り越えてきた数多の心剣たちの名が書き込まれていた。

 ただし、そのほとんどが薄暗い灰色で表示され、その横には南京錠のマーク。そのマークをタップするとその心剣の名と解放必要経験値と表示が浮き上がった。

「嘘だろ……?」

 灰色に表示されている幾つかの心剣を出そうとしてみるが、どれも上手くいかない。

 どうやら灰色ではなく、普通に白いハイライトで表示されている心剣しか使えないようだった。

 再び、目頭を抑えて瞠目し、今度は許容量を超えたらしく苛立ちとも不安ともつかないぐるぐるとした感情を、取り敢えずつい先程から気を失ったふりをして口を開かずに呪文を構築していた王女を蹴飛ばすことで紛らわした。

「ぎゃあああああっ!?」

「本当に不意打ちが好きだな、アレシア。っていうか何のためにお前を癒したと思ってるんだ。俺が痛めつける前に勝手に死んだりはするなよ」

 構築していたのは火の下級魔法だったようで、不完全な状態で暴走した火の玉が王女の口の中で爆発した。きっと口の中は大変なことになっているだろう、大変気分がいい。

 口にすることはないが、自殺以外の方法ならどんどん反抗して欲しい。それを叩き潰して自滅するアレシア王女様を見るのはとても楽しかった。大変愉快である。

 やはり、自分のしたことのしっぺがえしで苦しむ姿を見るとスカッ、とするなぁ、なんてことを考えていると、ふと、ステータスボードの左上に見たこともないメール型のアイコンがあるのを見つけた。

 これまで、一度だってそんなアイコンを見たことはなく、どんな効果があるものなのかがわからない。

「う~ん、どうするかね」

「ぐぁ、……、がぅヴぁあ……」

 取り敢えず手持ち無沙汰な足で必死の形相でこちらを睨めつけてくる王女の腹をグリグリと踏みつけながら、ひとしきりアレシア王女様の無様な姿と声を堪能する。

 少しの間そうして多くの心剣が使えなくなったショックを抑えると、ゆっくりとそのメール型のアイコンに右手の指の先を置いたのだった。
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