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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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閑話 ミナリスの囲い込み大計画

 ――――『お前は誰を殺したい?』

 それが、私が初めてご主人様から受け取った質問だった。

 ほとんど壊れかけていた私でも、それが初めて奴隷に問いかけるふさわしい言葉でないことぐらいは分かった。

 だから、目の前の『人間』ではなく、目の前の『人物』の目を見た。

 ドロリと暗い汚泥の底で腐ったような濁りと、消えない火傷を刻み付ける赤熱した熱がそこにはあった。

 理性ではなく感覚で、同類なんだと思った。

 ――――『お前は誰に復讐したい?』

 だから二つ目に彼が投げかけた質問に、私は答えた。

 私を、母を、苦しめることに直接関わった人物全てにと。

『決まってるだろ? 一人より二人のほうが、より楽しい復讐を思いつくかもしれないじゃないか。人数が増えればそれだけもっとあいつ等を苦しめて壊して磨り潰すのにたくさんの手間をかけられるだろう? ただ殺したいだけの奴なら、俺の復讐の役には立たないからいらない。けど、君は違うんだろう? なぁ?』

 そう言った彼は、利害の一致が目的であっても、確かに私を救ってくれたのだ。
 壊れかけた私の心を、ギリギリでつなぎ止めていた復讐心に水を注ぐように、力と、栄養を与えてくれた。

 ただ焼けるような復讐心しか残っていなかった私の心に、もう一つの感情が芽生えた。もう一つの欲が生まれた。

 彼がほしい、彼に近くに行きたい、彼の役に立ちたい。
 彼を感じたい、彼と一緒にいたい、彼を私のものにしたい。

 きっと、私は彼に恋をしたのだ。

 あぁ、今なら少しだけルーシャの気持ちがわかる気がする。もちろん、あのクソアバズレよりも私の気持ちの方がずっとずっと強いだろうからあくまで少しだけですが。

 この気持ちでさえも私は復讐の糧に出来る。
 あの女の心をぐちゃぐちゃにするのに、この気持ちを知ることができたのはとても役に立つでしょう。

          ☆

 ご主人様との出会いから10日近くがたった。
 ダンジョンに入り、ご主人様はすごいというのが改めて浮き彫りになった。レベルが1しかないというのに、確実に私よりも強かった。

 明らかにステータス以上の能力を発揮している。

 ご主人様によるとこの世界にはステータスボードで表示される以外にも表示されないステータスがあり、そこに差があるのだと言っていた。

 戦いの場での立ち回り方、剣の振り方ひとつまで近づけるようにと意識するようになったが、上手くいかない。もっとこれからも精進しないといけない。

「んんぅ……」

「っと、いけません。せっかくのチャンスを無駄にするところでした」

 ご主人様に任された毒を流し込む作業を終えると、壁を背にして寝ているご主人様を自分の足を枕にするようにして横にする。

 ご主人様の髪を梳きながら、戦闘面以外での困りごとを考える。

 それは、復讐心以外に一つだけ宿った炎の欲。
 ご主人様を手に入れる事は、残念ながら時間が掛かりそうだった。 

 幸い、私に女としての魅力を感じていないというわけでもないようだった。普段からMP酔いのフリをして誘ってみれば、局所局所に視線が動く。

 唇や胸やお尻、足やその付け根付近。 

 普段の生活でもあからさまな視線はすぐにしないようになりましたが、気を付けていれば、あからさまでなくともそういう意識した視線というのは意外と分かるものでした。

 ……その度ににやけそうになるので、それを隠すのにはだいぶ苦労しますが。    

 とはいえ、この気持ちを伝えるには時期が悪いのです。今はまだ、ご主人様の中には一度目の時に出会ったらしい魔王、レティシアという名の少女の影があるからです。

 ご主人様が私をギリギリのところで人として繋ぎ止めてくれたように、ご主人様をギリギリのところでつなぎ止めてくれた人。

 復讐の契約を結んだ際に受け取った記憶の断片をつなぎ合わせて考えると、おそらく、ご主人様の、思い人。

 ですが、ここは二度目の世界であり、ご主人様とその少女には何の関係もない。
 ご主人様がこの復讐にその少女を付き合わせようとはしないだろうというのも、聞くまでもなく判断が付く。

 ならいずれ、遠くない未来にご主人様が一度目の魔王の少女、レティシアという名の幻影にけじめをつける時が来るはずです。

 その時に、もう他はいらないと、変な悟りを開いて新しい女を拒絶するようになられては困ります。だから、今すぐに露骨に女としてを近づけません。

 一度ほかの女性を拒否する姿勢を見せれば、過去の女との清算が付いた後も、勢いで拒絶しっぱなしになってしまうかもしれないからです。以前に村に来た冒険者の方々のパーティで似たようなお話を聞いたことがあります。

 ですから、魔王の少女との関係が過去のものとなり、ご主人様が新しい今を受け入れる、その瞬間にご主人様の心に私を滑り込ませなければいけないのです。それまで、拒絶を受けるような行動は慎む必要があります。

 MP酔いという言い訳を盾に、少しずつ、少しずつそう言った行動への抵抗と、心の垣根を削り、心のそばへと寄り添って、その時を待つのです。

 だから、普段はしっかりとして冷静な、MP酔いなどを起こした行動を恥ずかしがるような女の部分をご主人様には見せておくのです。

 あくまで本意ではないとしておくことで、ご主人様が仕方がないと心からの拒絶ができなくなるように。

「ご主人様の髪、またお宝が増えました♪」

 髪を梳いたときに抜けたご主人様の髪の毛を大事に【丸栗鼠の袋剣】、丸袋の中へとしまいます。

 ご主人様がこの力を私にも与えてくれたおかげで、ご主人様にも秘密にコレクション(・・・・・・)を集めることができる。

 今のところ私のコレクションのエースはコレ。

「あぁ、これこれ、くふふ、やっぱり美味しいですね」

 チロリと舐め上げるのはご主人様が使った木のスプーン。
 あぁ、やはりあの時に無理してでも手に入れた甲斐がありました♪

「っと、いけません、本当にMPを使いすぎてしまったみたいです」

 こういったところは特に絶対、見られるわけにはいきません。女としての欲が丸出しの部分です。見せたら確実に警戒されてしまいます。
 なにより、さすがに恥ずかしすぎて見られたくはありませんし、ちょっとばかり変態チックな感は否めないので、ご主人様に見られて嫌われたりしたらと、考えるだけでも恐ろしくなってしまいます。

「んん……」

 木のスプーンをしまって、しばらくご主人様の顔を見ている間にすぐに時間は過ぎました。しかし、途中から何やらうなされているようでした。
 もう少し私の足の柔らかさを体感していてもらいたかったのですが、今日はここまでにしましょう。

 膝枕の理由はMP酔いということにできますから、何の問題もありませんし。

 幻の仮面でこの復讐心とは違う熱を隠しながら、じっくりと回る毒のように心の隙間に根を張っていき、その時が来れば一気に花を咲かせましょう。

 逃げ場などないようにじっくりと周りから囲い込んでいくのです。魔王の少女(レティシア)がご主人様から離れた瞬間にその柵を閉じられるように。

 その日までは、こうして隙をついては集めるコレクションで自分を慰めることで我慢しましょう。

 絶対に、逃がしませんからね? ご主人様。
 復讐を遂げるまでの道のりも、復讐を遂げた後の道のりも。

 貴方がその瞳に私の姿を映すまで。

 くふっ、くふふふふっ♪
閑話ということでちょっと短めです。

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