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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第27話 二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む

「よしよし、うまく作動したな」

 謎スライムの画面に映し出された王女が淡い光に包まれたのを見て、きちんと書き換えた術式が作動したのを確認する。

 すぐに露見しそうなのは人物を示す言葉が聞こえなくなるように調整した『認識阻害』の術式ぐらいだったが、面白い感じに嵌ってくれたようだった。

 もともと、ネックレスに付与されていたのは『HP自動回復』『回復効果微増』『幻影像記録』『自己破損修復(小)』の4つだ。

 このうち、書き換えた効果はふたつ。ひとつを削除して、出来た余剰分で書き加えたものがひとつだ。

 まずは『幻映像記録』、これを『認識阻害』に書き換えた。

 そして、『HP自動回復』は『逆行回復(微)』に書き換えた。これは、受けた傷を巻き戻すことで傷を回復するもの。だから、治りかけの傷がある状態で身につければその傷は一度ゆっくりと一番ひどい状態に戻ってから、再び傷が癒えていく。

 だが、ネックレスを外されてしまえばそれまでだったので『回復効果微増』を消し、『脱着不可』の魔法を仕込んだのだ。そして、専門の知識がない人間にもすぐには見抜かれないように偽装を施す。
 それが、俺がネックレスに施した処理だった。

 【魔繕の鈎刃】には魔道具に仕込まれた魔法の術式を書き換えることができる。だが、それも当然ながら万能ではなく、圧倒的にMPの消費が多い。
 似た種類の魔法を書き換えるだけでも相当量、完全に消して新しく付与するとなればポーションなどの回復手段なしではまず行えない。
 消費量が全体の何割と言った割合消費のおかげでこの低レベルでも使用できたが、逆に言うとレベルが上がったところでMP酔いを回避できないということでもあった。

 書き換えの作業自体の難易度も高く、隠しステータスの技巧と思考反応速度をフル稼働させて何とかと言ったレベルの難しさ。どんなに頑張ったところで、作業時間もほとんど短縮することはできないという融通の利かなさ。

 そのうえ、書き換えるほどに元の魔道具の性能が落ち、全体の効果が劣っていくのだ。おかげで、これ以上のことはネックレスに仕込むことはできなかった。

「クハッ、見てみろよ、ついさっきまで澄まし顔してたとは思えない慌てっぷりだよ。いやぁ、金貨60枚の価値は十分だ」

「こういう反応を見るだけでも楽しいですね。いい気味です、ああぁ、もうちょっと角度を変えてもらえないでしょうか、柱の陰に隠れてしまいました」

 しばらく、ネックレスへの対応に四苦八苦していた屑共を笑いながら過ごした。

「あっ、守護者、倒れたみたいです」

 そうして映像が途切れる頃、ちょうどダンジョンの守護者も倒されたようだった。

 ミナリスが毒を消し去ってから、守護者の間に入ってみれば装備ごと腐食しきったゴブリンキングの死体があった。

「とっととコアを回収してダンジョンから抜けるぞ。たぶんそろそろ、間引いておいた魔物たちが復活してきてるころだろうから、『ポイズンガルム』の群れがほかの魔物を従えてまとめ上げてる頃だ。今から戻れば、住人や俺を探してるだろう兵士の連中が、魔物に捕獲されて森に連れ去られるのを見られるかも。せっかくだから見物に行こうなー」

「そうですね、ご主人様を裏切った屑虫どもが、泣き叫ぶのを見ながら森で見つけた果実でお茶にしましょう♪」

 ガルムの習性上、木々の集まる森からは遠く離れることはないので、おそらく王都の中に入っても殺した獲物は森へと連れ去って喰らうだろう。
 ただのガルムなら普通の兵士でも対処できるが、王都を襲うのは森の魔物を従えた、変異種の『ポイズンガルム』の群れだ。俺の時はポイズンガルムたちを入れて40匹程度の群れが襲ってきた。
 ポイズンガルムは頭がいい。遠目に俺を観察していた『ポイズンガルム』達には俺と魔物が戦うのを何度か見せつけておいた。
 だからこそ、ポイズンガルムたちはそんなことをしなかった一度目の時よりも大量の魔物を連れて王都を襲うだろう。ポイズンガルムたちの数も増えているはずだ。
 あぁ、どれぐらいの屑共が餌になるのか、きちんと見ていてやらねば。

 王女の方もそこそこ楽しめたが、見れる範囲は苦痛と言った方向性ではなかったのでこちらも楽しみだ。

 ちょうど夢に見たおかげで、あの時に俺を売りとばした奴らへの恨みも鮮明な輪郭を取り戻している。

 そうして、少し浮かれた気分でダンジョンコアを斬り飛ばした。

【システムメッセージ・称号『ダンジョンの攻略者』を獲得しました】
【システムメッセージ・魔畜の卵剣が解放されました】

「ん、なんか新しい心剣解放されたな。お、ああ、そうか。ダンジョンコアを俺が直接破壊したのはこれが初めてか」

「そうなのですか? おめでとうございます、ご主人様」

「あれだけダンジョンを攻略してきて、今更こんなことで称号と心剣が手に入るとはなぁ」

 一度目はお行儀よく冒険を進めていた。そのため、管理されたダンジョンはもちろん、野良のダンジョンを見つけても中を調査して、あわよくば守護者を倒し、コアは壊さず近場の領主か、ギルドに報告だけで済ませていた。

 なので、生きているダンジョンコアを俺が斬ったのは今回が初めてだったのだ。しかも、かなりの量の経験値が入ったのが感覚的に分かる。

 取りあえず、効果の確認は後回しにし、ダンジョンコアの残骸を集めながらステータスボードを開く。

「……おいおい、経験値2万5千って、マジかよ」

 動くどころか抵抗もしないダンジョンコアを斬っただけでこれほどの経験値が手に入るとは。ぼろ儲けである。

 LVが上がらない程度に経験値の負債を返しておこうなどと考えながら、必要なものを回収し終えると、守護者の部屋から外へと、そしてダンジョンの外に向かって歩み出した。

             ☆

「んぅ~、やっぱりお日様の光は気持ちがいいですね、ご主人様」

 守護者の間から5日かけて外へと戻ってきた。ダンジョンコアが壊れたところで突然ダンジョン内の魔物達が消えるわけではないので、最短距離を進みながら魔物を掃討していくと思ったよりも時間が掛かってしまったのだ。

「そうだな、やっぱり人間、お日様の下で生きないと体に良くないんだろうな」

「お日様の光には昔から光の精霊の力で活性化の力があるって言われてますから。実際に、よく日の光が降り注ぐ地域ではほかの場所よりも作物の生育がいいんですよ」

「それはたぶん、光合成してるから………、いや、地域によっては本当に精霊の加護があったりするのか? ファンタジーだし」

 元の世界に帰るために、ほとんどずっと張りつめ通しだった一度目の時はそんなことを考える余裕も興味もなかったが、全ての復讐が終わった後には農業なんかを始めてみるのもいいかもしれない。
 そんな先のこと、今はただのもやもやとした夢のようで、そんな自分の姿を妄想することさえできないが。

 この世界に来る前の自分なら、そこそこリアルに想像できたであろう夢は、今は自分と乖離しすぎてうまく考えることができない。
 きっと、復讐を全て成し遂げるまでそんな遠い夢は見ることも出来ないだろう。
 だからそう、ああ、やはり俺が満足して生きるためにはやはりアイツら全員からそのすべて奪いつくしてやらないといけないのだ。

 ひょんなことからそれを確認しなおすと、そんな無駄話をしながら、王都の外壁のそばに寄っていく。
 予想通り王都の外壁そばに近づくほど魔物と遭遇する頻度が増えてきた。
 その内、ガルム系の魔物の吠える声や、ゴブリンの奇声が聞こえてくる。

「ありゃ、ちょいと開幕には遅れちまったかね」 

「急ぎましょう、ご主人様。このままではいいところを見逃してしまうかもしれません」

「そうだな、ちょっと急ぐか」

 『気配隠蔽』のスキルを活用して魔物をスルーしながらいつぞやの壁に穴を空けた場所が見える位置までやってくる。

 ゆっくりと見物できるように街の連中に気付かれない程度まで近づいた後、近場の木の太い枝の上に上り、離れた位置からその戦場を眺める。

「おーおー、やってるやってる。というより、ちょうどいいところじゃね?」

「どうやら始まったばかりのようですね、ここから見える範囲だとまだ2、3人しか狩られていないみたいですから」

 俺たちが開けた人が二人分程度の穴は、今は大型の馬車が三台分程度の大きさになっていた。一度目の時は馬車一台分程度の大きさだったことを考えれば、思った以上にあのあたりの住民が間抜けだったということだろう。

 襲ってきている群れは見える限りでは一度目の時の倍ぐらいの数がいるだろうか。一度目の時と同じく、開いた穴から『ポイズンガルム』が麻痺毒をばら撒いて動けなくなった住人を狩っているのだろう。

 今は騒ぎを聞きつけた兵士たちが魔物たちと戦っている。ポイズンガルムの麻痺毒は奴らの奥の手なので一度使うとしばらく使えないため、兵士たちと魔物の群れは拮抗している。

 それでも魔物の数に押され、麻痺毒でうまく歩けなくなっている住人たちが、一人、また一人と普通のガルムの爪や牙に、あるいはゴブリンたちの持つ木の棒にやられ、森へと引き摺りこまれていく。

 ちょっとできる冒険者でも集まればすぐに撃退されるだろうが、はてさて、どんな結果になるか。

「ははっ、きっちりと統率がとれてるじゃないか。冒険者たちが来るまでにどれぐらいの数ヤられるのかね。賭けるか?」

「ダメですよ、ご主人様。酒と女と賭け事は身を持ち崩します。そんなことしなくても、この光景だけで十分食事の肴になりますよ。どうぞ、ご主人様」

「お、サンキュ」

 そう言って森の中で自生していたのをもぎ取ったリココの実を受け取る。見た目と触感が青いリンゴ、味がイチゴというという不思議果実だ。

「サンキュ?」

「ありがとうって意味だよ。お、また一人やられたな」

 シャクッ、と果実を齧りながら戦場を眺める。
 兵士の練度が低いわけでもないが、穴が大きいせいで魔物全てに手が回っていない。

「『ぎゃあああぁっ、やめ、だれかっ、ぎゃあああっ!!』」 

 遠目だったが、あれは一度目の時に俺を街に引き入れて、王女に俺を売った男だった。

「『たすけっ、いやだっ、誰か助けてッ!! 助けてくれえっ、あああっ!!』」

「ハハハ、誰が。二度と助けるかよ、勝手に魔物に食われて死ね」

 ガルムに足をかみちぎられ、ゴブリンに殴られてあらぬ方向に曲がった腕の男の悲鳴が、耳に心地よい。

「あ、ご主人様、あっちの女もそうではありませんでしたか? ご主人様の記憶の中に見覚えがありますよ」

「ん? ああ、ありゃあの男の嫁さんだな、おーおー、ゴブリンに囲まれて。ありゃ餌じゃなくて苗床コースかねぇ、かわいそうに」

「ご主人様は嘘が下手ですね。口元、笑っていますよ」

「あらら、ばれちまった」

 お道化たフリをして戦場で足掻く奴らをあざ笑う。
 直接殺してやるには小物すぎる奴らだったが、こうして見る分には十分楽しい。

「ん、……おいおい、何やってんだおっさん」

 と、そんなことを話しているうちにそこに現れたのは、武器屋のおやじだった。穴から近いとはいえ、ほぼ安全圏と言えるぐらいの場所に店を構えている彼が、なぜここにいるのだ。

「おいっ、おいおいやめろバカッ!!」

 何をトチ狂ったのか、武器屋のおやじは住人を守ろうとしているのか、ろくにきちんと触れもしない剣を魔物相手に振り回し、毒で動けなくなった住人に何かの瓶を渡している。

 受け取った住人がそれを口にすると、動けるようになっている。おそらく与えているのは解毒ポーションだ。

「そいつらに守る価値なんかないっ!! それに、そんな余裕、あんたの店にはないだろう……っ!!」

「ご主人様、ダメです、それ以上は気が付かれます」

「っ、すまない」

 ミナリスに諭され、行き過ぎた感情を鎮めるように気配を隠しなおす。

 そうしている間にも武器屋のおやじは解毒ポーションを配り周り、あるいは、逃げる手助けをして回っている。

 解毒ポーションも含め、その手の回復道具はそれなりの値段がする。俺が買っておくように勧めたのは、この事態で解毒ポーションが値上がりするからだ。こんなことに使わせるためじゃない。

「………気が付けよ、そんなことしてまで救う価値なんか、そいつらにはねぇよ」

 すでに配ったポーションは兵士に渡したものも含めて10本を超えている。兵士に渡したものは後で金を払ってもらえるかもしれないが、住人に渡したものはそうではない。
 アイツラは、助けてもらっても金を払わなければならないとなれば平気で頼んだわけじゃないと恩を忘れるような奴らだ。
 今でさえギリギリな店には致命的な赤字になってもおかしくはない。

 なにより、この場にいること自体が危険なのだ。見る限り親父は人間以外の混じった血のせいか少し優れたステータスで魔物に対抗しているだけだ。

 訓練を積んだ兵士でも、修羅場を潜り抜けてきた冒険者でもないのは見て取れる。
 だからこそ、その瞬間は必然だった。

 動けない少女を助けようとしているおやじに、背後からゴブリンが襲い掛かろうとしている。

「っ、クソがっ!!」

「ご主人様っ!!」 

 それは、ほとんど反射的な行動だった。
 魔力操作で脚力を強化し、レベルの上がった飛脚と天駆で最短距離を駆け抜けていく。

「ぐぎゃっ!?」

「なっ!?」

 砂塵を巻き上げながら突っ込み、技も何もないケリ技でゴブリンの首をたたき折って吹き飛ばす。

「あ、あんちゃんは……」

「なんでこんなところに来た。ここにいる奴らに助けるような価値はない」

 呆気にとられている武器屋のおやじに叩きつけるように言葉を掛ける。

「あんたの店にとって解毒ポーションは安いモノじゃないはずだ。なぜわざわざドブに捨てるような真似をする」

 街のことは街にいる人間がよく知っている。それこそ、ここら辺の住人と距離が近い場所に住んでいるこの親父なら、使った解毒ポーションはただで与えているようなものだとわかっているはずだ。

「……助けてもらったのは礼を言うが、助けるような価値がねぇってのはいいすぎだろ」

「助けたところで礼の一つも言わず、周りを助けることもせずに逃げ出すような奴らがか?」

「全部が全部、そんな人間ばかりじゃねぇ。良いやつかどうかなんて助けてみなくちゃ分からねぇだろ」

「っ、分かるんだよっ俺にはっ!! そいつらは実際に俺を……」



「それならてめぇはこんな子供が魔物に殺されて良いっていうのかっ、ああっ!?」



 実際に俺を裏切ったのだから、と続けようとした言葉は武器屋のおやじの怒声にかき消された。

 そう言われ、初めて武器屋のおやじがかばっている少女が震えているのが見えた。

 ………だから、どうした。
 ここの住人達は、俺のことを裏切った。
 恩人だと、感謝しているといいながら、裏では俺のことを売り渡して金に替えていた。

 そう、裏切ったのだ。

 …………裏切った? 本当にそうか?

 この、武器屋のおやじにかばわれて、ただ震えている目の前の少女は、本当に俺を裏切ったのか?

「……違う、俺は、この子を知らない」

 と、思わず漏れたその呟き声をかき消すかのような声を上がった。

「っ、ちっ、冒険者たちか」

 王都に滞在していた冒険者が集まってきたのだろう。兵士と違い不揃いな装備を身に着けた一団がやってきていた。

「………おい、これは詫びと礼だ。解毒ポーションで使った分の補填には充分だろ」

 そう言って金貨を一枚、武器屋のオヤジへと放る。

「だが、助けるのはこれで最後だ。一度目の時の借りはオヤジへの分はこれでチャラだ。次は、助けない」

「あっ、おいっ、あんちゃんっ!!」

 そう言って金貨を一枚、武器屋のおやじへと放り、人が集まらないうちに森の中、ミナリスの下へと戻った。

「ご主人様、どうして出て行かれたのですか?」

「……あの親父は、確実に俺の復讐相手じゃなかったからな。それに、一度目の時に少し負い目もある」

「危険です。ご主人様がそうやすやすと殺されるとは思いませんが、これからの復讐に、支障が出るかもしれませんでした」

 ミナリスの視線は冷たい。
 俺たちを結ぶのが復讐だからこそ、そこに支障が出るかもしれない可能性をミナリスは危惧した。

「あなたは私の復讐の共犯者なのです。こんなところで躓いてもらっては困ります。自分の身を危険にさらすような真似はお止めください」

「……悪い。けど、あのオヤジのおかげで気が付いたよ。あの方法じゃあ、今回の方法じゃあダメなんだって」

 あの武器屋以外にも、王都には直接的でなくとも、手を貸してくれた人間がいた。

 俺の居場所を密告した人間がいた。だが、俺と気が付きながらもしなかった人間もいた。

 密告すれば多額の金を手に入れられただろうに、関わらないから去ってくれと言った人間がいた。

 顔も知らぬ少女は何もわからないなりに、それでも自分の大切な飴を渡してくれた。

 この国にも、敵に回らなかった者たちがいるのだ、なら、このやり方ではダメだ。俺は、そういった人間を殺すことを勘定に入れて今回のことを仕組んではいない。

「復讐は、復讐する相手を間違えちゃいけない。今回のは、ダメだ。復讐する相手に、それ以外が混じりすぎる。復讐に必要のない死人が混じり過ぎた。何より、俺がそのことに気が付いていなかった」

 それは、きっと俺が忘れてはいけない、理性をなくさないための一線だ。

 復讐のためにどうしても必要になるのなら、多少友好的だった程度の存在を殺すことに躊躇いは持たない。
 だが、それを考えもなしにただ楽だからと殺してしまうようになれば、レティのおかげで残った人としての最後の一欠けらすら失った、本当の化物になってしまう。

 復讐は、感情だ。本能ではない、人が持った心のかけらだ。

 理性すらなくしてしまった化物では、きっとそこにはたどり着くことはできない。

 王女は殺す、王も殺す、王妃も、宰相も、騎士団長も、騎士たちも、一遍の慈悲もなく確実に殺し切る。

 苦しめて苦しめて、後悔の先で理不尽な現実と力で押しつぶすようにして殺してやる。
 余計なものの一切混じらない、復讐を、最高の復讐を成し遂げなければならない。

 だから、選別するのだ。本当に殺すべき復讐の相手を、見定め、篩にかけるための、その方法を考えなければいけない。

 この復讐に、不純物などいらない。

 この復讐を、少しでも純粋なものにしなければいけない。

 あの武器屋のオヤジも、震えていたあの少女も、復讐相手でもなければ、彼らが死ぬことで復讐相手を苦しめることも出来ない。

 徹頭徹尾、俺の復讐には関係がない不純物だ。
 復讐に伴う、どうしても避けられない巻き添えではない。こんな効率の悪い手段は、復讐ではない。目的と手段がすり替わっている。

 深く考えもせずにどうしてもという覚悟もないまま、俺は感情だけでこの事態が悪化するように動いた。
 今回のそれは、確実に失敗だった。

 線引きを誤ったまま踏み越えれば、きっと最後まで復讐に生きることはできないだろう。

「行こうか、ミナリス。たくさんたくさん考えて、完璧な復讐を遂げるために。俺たちは快楽殺人鬼じゃない、復讐に利用できない死人を量産するようなやり方じゃ、きっと長続きしない。もっときちんと趣向を凝らした極上の復讐をしていこう。復讐の相手は、まだまだ沢山いるんだ」

 そう言って王都の城壁に背を向ける。

 と、

「何を勝手に浸っているのですか、まだ私のお説教は終わっていません」

「いひゃいっ、いひゃいよっ、みひゃりすしゃんっ!?」

 ぐにぃっ、とミナリスが指で頬を抓ってきた。
 せっかく綺麗にまとめたのに空気が台無しである。

「別にあの武器屋を助けたことに異論はありません。私が怒っているのはそのためにご主人様が自分の身を危険に晒したからです。そこのところ、本当に分かっていますか? 今はまだ力が足りないから、慎重に行くと仰られたのはご主人様でしたよね、違いましたか?」

「ご、ごめんなひゃい、次からは気をつけまひゅんで、あの、ゆるひて……」

「……本当に、本当に気を付けてください。私一人ではこの復讐心を抱えきれません。完璧な復讐をするのでしょう? なら、ご自身の身の安全をないがしろにすることなどないようにしてください」

 そう言ってため息をついてやっとミナリスは頬の肉を離してくれた。…………千切れるかと思った、割と本気で。

「それで、この後は事前にお話ししていた通りに?」

「あぁ、まずは北に向かおうか、最初の目的地は学術都市『エルミア』だ」

 そう言って、最後にしばらくは見ることもないだろう王都の城壁を見る。
 既に魔物たちは突如現れた冒険者たちに殺されるか、手傷を負わされて撤退するかしている。

 数の差を覆された以上、魔物たちに勝ち目はない。ほどなくあの場所も平穏を取り戻すだろう。

「待ってろよ、王や王妃、王女に騎士や、大多数の屑共。俺は絶対にお前らを地獄の底に引きずりおろしてやる」

 何の因果か、せっかく与えられたこの二度目の人生だ。
 一度目はお前らが俺を踏みにじった。だから、今度は俺の番だ。

 さぁ、旅に出よう。

 この何も生まない復讐の道を。

 すでに終わってしまっていた俺のこれまでを嗤いながら歩いて行こう。

 誰に言えなかったとしても。
 このくそったれな人生を、せめて、俺だけは『途中で放り投げるような人生』は送らなかったと思えるように。

 俺は、この復讐の道を嗤い歩む。
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