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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第26話 王女の眠らぬ夜

 
 あれから、忌々しい裏切りの日から、十日以上が過ぎた。
 大精霊様からのお告げに従い、勇者召喚を行ったあの日。精霊様のお告げの通り、仕入れた獣人を生贄に捧げ、勇者召喚の儀式には成功した。

 だが、呼び出されたのは教養どころか理性すら危うそうな化物だった。
 せっかく、お告げに従い、召喚した異世界人(じんがい)に勇者としてひと時の夢を見せてやろうと思っていたのに。

「………っ」

 ズグリッ、と背中の傷跡が疼く。

『 俺はお前らには従わない。
  お前らに渡すその屑共は見せしめだ。  
  必ずそれ以上の目に合わせてやる。
  全てを奪い尽くしてやるから、覚悟しておけ。
              二度目の復讐者より 』

 侍女からは綺麗な白磁のようだと褒められたその背にはそう焼き刻まれた傷跡の名残が残っている。

 回復魔法はHPは回復しても外傷を消すには時間がかかる。一度にその全てを回復させられる回復魔法など、使い手は大陸広しといえど法国の大司教クラスぐらいだろう。

 それでも毎日、回復魔法を掛けられている成果もあり、背中に刻まれた火傷は少しずつ癒えている。今はもう薄らと後が残る程度で、あと数日もすれば綺麗に消えるだろう。
 当然、痛みもとっくに消えていたが、あの男のことを思い出すたびにそれは疼いた。

 あの日、あの男が部屋から去った後、張り詰めた糸は切れ、痛みから逃れるように気を失った。日が変わるころに外に待機していた騎士たちに助けられたワタクシたちが、次に目を覚ましたのは王城内の私室。
 騎士団長含め、本当に強い騎士たちはその経験ゆえ、顔や体に傷跡を残す。傷跡を綺麗に消すほどの余力はなく、戦場ではその顔すら威圧に利用できるため、わざとそうしているのだが、その風貌は言うまでもなく凶悪だ。
 だからこそ、何も知らない勇者を圧迫しないために用意した見栄えがいいだけの騎士たちは、現在も半数が治療院に放り込まれている。

 最優先で回復魔法を受け続けたワタクシでさえ、焼け爛れた口内を癒し、なんとかしゃべれるようになるのに助け出されてから丸一日の時間を要した。

 悲惨なほど四肢を折り曲げられ、顔を潰され、ギリギリで生きているという体しかなしていない騎士たち。

 殴られて腫れた顔と、床に広がり汚れ乱れた髪、背中に焼印のように文字を焼き刻まれた王女。

 何が起こったのか詳しいことは分からなくとも行動が人為的なものであるのは明らかであり、その犯人についての情報は後手後手に回った。

 万が一に備えて、建物を王勢の騎士たちが取り囲んでいたこともあって、建物から抜け出したのではなく、転移の力で逃げたのだろうということで結論が付いており、ワタクシが回復し、事の次第を話すまで王都には検問すら設置されていなかった。

 軍資金に、などと言ってあの男が持って行ったのは王家の第一位継承権の保持者であることを示すネックレスだった。

 王家の紋章入りであるそれは、簡単に金に替えられるものではなく、普通に店で売ろうとすればすぐに足が付く。王都の外に持ち出されても、足を追うのは不可能ではない。

 あのネックレスは、今は亡きお姉さまから私が譲り受けたもの。あのような獣が触れていて、いえ、ワタクシ以外が触れて良い代物ではない。

「絶対に許しません……」

 絶対に許さない。ネックレスは取り戻し、苦痛の果てに慈悲を願うあの男を殺してやる。

 だが、そう決意して騎士たちにそういった情報を集めさせたものの、数日を置いても有力な手掛かりは見つかることはなく、すでに王都の外に持ち出されたのかと思われた。

 そのネックレスが、ある貴族から発見されたという報告が入ったのが昨日のことだ。

 今日一番の謁見でネックレスが返還される。なんでも、その強すぎる正義感のために王都では煙たがられている伯爵家が、王都の裏で行われていたご禁制の品の取引を接収したところ、その中にネックレスが紛れ込んでいたとのことだった。

「王女様、そろそろお時間です」

「ええ、分かっているわ」

 侍女の言葉にそう返し、服装を今一度ただすと謁見の間へと向かった。

             ☆

 謁見の間、玉座にはがっしりとした体形の王である父、ロギア=オロルレアが座り、その横には40に届きそうかという年齢ながらいまだその美貌を衰えさせない王妃である母、レシリア=オロルレアが座っている。

 その反対側の椅子に座っているのがワタクシ。

 王である父のそばでは、父と母の間に国の宰相のローベンツが、父とワタクシの間に騎士団長のギードットが立って控えている。

「この品、王家の方々へ返還させていただきます」

 謁見の間で跪いている壮年と言った年頃の貴族から、侍女がそのネックレスを受け取り、台に置かれたままのネックレスをこちらへ持ってくる。

 一秒でも早くと駆け寄ってひったくりたい気持ちを抑えながら侍女が持ってきたネックレスを受け取り、それを首にかけた。

 と、ふわっ、と自分の体をネックレスに込められた魔力が覆ったのが分かった。それと同時に少しの間だけ全身が淡い緑色に光り、その光は跡形もなく消えた。

「■、■■■■っ!! 大丈夫かっ!?」

 父王が私の方を見て問いかけた。だが、最初に何を言ったのかが聞こえなかった。

「え、ええ、お父様、大丈夫です」

 体の調子を確認してみるが、これといって異常は感じなかった。

「そうか、だが、今の光はいったい。……■■■■■、■■■■■、何かわかるか」

「■■■、■■はただの騎士でしかありません、■■、■■なら何かわかるのでは?」

「……いや、まさか、そんな」

 と、渋い顔をした国の宰相が呟きを漏らしている。
 だが、ここに至って、ワタクシは自分自身に起きていることに気がついた。

「■■■よ、■も専門ではないので確実とは言えませんが……、今の魔力光、呪い、かもしれませぬ」

「な、なんだとっ、だが、こうして■■■■に異常は……」

「お、お父様、ワタクシ、お声が、いえ、人を示す言葉が私の耳に届きません」

「な、なにっ、どういうことだ!?」

 話している言葉は聞こえる。だが、人物の名前や代名詞が耳から掻き消える。
 慌ててネックレスを外そうとしたが、ネックレスが外れない。

「は、外れませんっ、ネックレスが外れませんっ!!」

 呪いと言葉と、何が起こっているのか完全に把握できない不安が駆け巡る。

 そこからは混乱のまま慌ただしく時間が過ぎた。

 まずは城内から魔法に詳しい人間が集められた。だが、王城に詰める兵士たちはあくまで戦う術としての魔法しか習得しておらず、その原理を解明する能力はなかった。
 また、神官による解呪を必要とする呪いではないらしく、ネックレスの術式をどうにかする必要があるということまでは分かった。

 ネックレスには高度な偽装が掛けられ、専門の知識がない人間にはどうすることも出来ないらしい。

 後日、学術都市から人を招き、対処と研究を進めることになった。

「今日はもういいです、一人になりたいの。下がってください」

 そう言って自分の部屋で一人になると、悪くなった状況に歯噛みする。

 今のこの時期、ワタクシは次期王位継承者として多くのつなぎ(・・・)を作る必要があった。簡単に言えば地盤固めだ。

 王国の祖が女性であったこともあり、女王を忌避する風潮はこの王国にはなかったがそれでも実力を示す必要はある。
 そのため、社交界には積極的に参加しておかねばならなかったのだが、今は人の名前が聞こえないどころか、彼や貴方、私や自分と言った単語すら聞こえない。

 よく見知った相手と普段通りの生活を送ることに支障はないが、顔を繋ぐ社交界でそれは致命的どころの話ではなかった。

 学術都市から優秀な人員を王都に連れて来るにしろ、最短でも二か月はかかる。そして、このネックレスをすぐに外すことができてもこの二か月の遅れがどう響くか予想がつかない。

「ふぅ、ダメです。悪い方に思考が行ってしまいますね」

 とにかく、疲れた。

 コップに入れられた暖かいミルクを飲み終えると、寝間着の裾を軽く直して椅子から立ち上がる。

 最高級の魔物の毛で作られたベッドに入ると、意識はすぐに眠りの底に落ちて行った。

 …………眠れぬ夜が、そこから始まるとも知らずに。

             ☆

「うぐああああぁぅああっ!!」

「くっ、ダメです、回復魔法の効果がまるで出ません」

「そうか……。くそっ、学術都市からの人員はまだ来ないのかっ!!」

 深夜のワタクシの部屋には、急遽呼び出された回復魔法を使える人間と、王である父がいた。

 ワタクシがネックレスを身に着けてから三日、ゆっくりと忍び寄っていたその事実が私に襲い掛かっていた。

 日を追うごとに、ほとんど治りきっていたはずの背中の火傷が悪化していくのだ。
 それこそまるで傷を巻き戻していくか(・・・・・・・・)のように(・・・・)

 ジリジリと焼かれるような痛みが背中を走っていく。
 これは、何日もかけて回復させてきた忌々しい火傷の痛みと同じものだった。

「ぐぅううっ、うぅ、はぁっ、はぁあうっ!!」

 背中を下にして寝られなかった頃にまで傷が戻りはじめている。

 傷口を一刺し一刺し針の先で抉られているような感覚。

 背中の傷をネックレスの魔力が覆い、淡い光を発しているためにこれがネックレスの仕業であるということは分かっていた。だが、父王にそれを告げたところで対応できるものでもなく、回復魔法も意味をなさない。

 痛みに、段々と時間の感覚が曖昧になっていく。

 父王も回復魔法の使い手もいつの間にか部屋から消えていた。いや、頼み込んで出て行ってもらったのだったか。
 こんな姿を誰かに見られるなど、王女としてのプライドが許さなかった。

「絶対に、許しません……」

 証拠も何もないが、これがあの男の仕業なのだということは、なんとなくわかっていた。

 だからこそ、痛いという言葉も助けてという言葉も口には絶対に出さない。代わりに、その痛みから生まれるどす黒い感情を焼けた鎖で縛りつけ、黒く、黒く、ひたすら黒く染め上げていく。

 このネックレスを穢したあの男を、人のフリをした異世界人の化物を、絶対に絶望の淵へと追いやってやる。

「絶対に、ユルサナイ、あの男、絶対に復讐してやるッ!!」

 痛みで黒く染め上げた感情を咀嚼しながら、王女はその夜を味わい尽くしていく。その一欠けらさえ零さぬように。

「ぐっ、があぁあああっ、ひぎっ、うっ、あああぁああっ!!」

 だから、王女(ワタクシ)は眠らない。
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