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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第25話 勇者、金貨の便りを知る

 薄暗い水の中に漂っているような、そんな感覚。

 『夢が終わる』。
 今いるのがそんな意識と無意識の狭間なんだというのが分かった。
 下を見ればどこまでも暗く、上を見れば明るい水面が揺れているように見える。

「海人……」

 ふと、目の前にゆらゆらとした影が現れる。
 俺の名を呼ぶ声はどこか遠く、靄がかかったのような声だ。

「レティシア……」

 目の前に現れたのは血よりもなお艶やかな、赤いではなく紅いと言うべき濃さを秘めた珠玉の髪と、それに負けない強い力と輝きの籠る黒い瞳。
 その大人と言うには小さな体躯に纏う装いは、黒く染め上げられた魔王のドレス。俺が彼女と最後に対峙した時と同じもの。
 それは、第47代魔王、レティシア=ルウ=ハールストンの姿。

「海人、妾に、会いに来い……」

「っ!! はっ、夢でそんなこと言わせるほどかよ」

 思わず自嘲の声が漏れた。
 少し昔のことを思い出すような夢を見た程度で情けない。一度は自分の手で殺してしまった相手に、どこまで頼り切るつもりなのか。

「ああ、でも、そうだな。一度、一度だけ会いに行くよ」

 ちゃんとアイツに会いに行こう。
 二度目の彼女は俺のことなど何も知らない。 

 だから、これはただの感傷だ。

 自分勝手な俺が自分の気持ちに整理をつけたいだけの、そんな自己満足の贖罪。

 それでもせめて、一度だけは許してほしい。一言、彼女に告げたら俺はもう二度と彼女の前に現れるつもりはない。
 だから、あのセリフに、『あの時はごめん』と、『さよなら、どうか幸せに』の気持ちをこめて。

「今度は、絶対に俺から言いに行くよ。『ああ、魔王よ、世界の半分をやるから、俺と復讐をしよう』って」

 何の復讐なのかさえ、二度目の彼女は知らない。知らせるつもりもない。全て俺が終わらせるのだ。

 だから、それは拒絶されて当たり前の言葉。
 そして、そんなことは分かっているからこその自分を罰したいだけの醜い懺悔の言葉。

 伝わらなくて、断られるとわかっていても。
 それでもあの時の彼女は、俺にそう告げたのだから。

 必ずお前に、告げに行く。

 そうすればきっと、俺はお前を諦められるはずだから。
 お前が傍にいなくても、お前に頼らずに生きていけるはずだから。

 あぁ、でも、

「二度目のこの世界じゃ、死んだ後も、お前の傍にいけないのは少し残念かな」

        ☆

「………様、……人様」

「んぅ、あぁ……、ミナリス?」

 優しく体を揺らされ、目を開けた先にあったのは少しだけ赤い顔をしたミナリスの顔があった。
 寝てしまっていたのは分かっていた。だが、眠気に負けたときは壁を背にして片膝を抱えるようにしていたはずだが、今は体が完全に横になっている。というか、頭の後ろが柔らかくてヤバい。

「おはようございます、ご主人さま。少しうなされていましたよ」

「ん? あぁ、少し昔の夢を見てたから……、っていうか、これ」

「これはっ、そのっ、思っていたよりも『守護者の間』が広く、『幻炎毒鬼』を使いすぎてしまってMP酔いを……」

 うむ、俺もMP酔いで寝てしまっていたので抑えが利かなかったのだろう。
 何もない時は勢いに流されず、奴隷としての立場を守りながらもシッカリ者の立ち位置をキープしているミナリス。
 そんなに膝枕が恥ずかしかったのか、ポーカーフェイスを保とうとして抑えきれずに微妙に口元が波打っている。

 ………突っ込んじゃ、ダメかな? 人間として、ダメですかね?

 ムクムクと顔を出す苛めてしまおうかという誘惑を大人の自制心で抑えつける。
 MP酔いは茶化さない、酒に酔っても茶化さない、酔っぱらったときの行動を弄るなど、言語道断だった。どこで明日は我が身となるのか分からないのだ。

 体を起こして頭を振ると、寝ぼけに混じったMP酔いの残滓も消える。

「どれぐらい寝てた?」

「一時間程度だと思います」

「そうか、守護者は死んだか?」

「いえ、ステータスに経験値が入っていないので、まだ死んでいないと思います」

 俺が開けた穴は今は道中に剥ぎ取ってきたガルムの毛皮などで埋められていた。扉から微かに守護者が苦しんで暴れている音が聞こえてくるのでちゃんと毒の効果は出ている。

 ただしこの方法、ほとんど破壊不可能なレベルの強度を持つ扉に穴を空けられることが前提であり、基本的に状態異常に対してかなりの耐性を持つ守護者の中で、このダンジョンの守護者『ゴブリン・キング』と同じように強力な毒ならばギリギリダメージが通る守護者である必要がある。

 しかも、そのレベルの毒となれば守護者から得られる戦利品である武器や装備、素材は激しく劣化するのは目に見えており、毒が分解されないように対策ができ、倒した直後の毒が充満している部屋の中に入れる対策ができなければならない(放置すればダンジョンに死体ごと吸収されて素材も何も回収できなくなるので)というおまけつきだ。

 俺たちがこの方法を取れたのは『【火蜘蛛の心剣】というチート』と『【幻炎毒鬼】の拡散無効』と『経験値以外はいらない』と言う条件が重なったからだ。

 他人にあまり強力な心剣の特殊能力を見られると面倒なのだが、今回はその心配がないというのもある。

「取りあえず、守護者が死ぬまで経験値の割り振りのことを考えておくか」

 俺自身はダンジョンボスに対して何のダメージも与えていないので経験値が入ることはない。つまり、現時点での経験値が俺がこのダンジョンで手に入れた全てということになる。

 現状、残っている経験値は15231。
 道中、【丸栗鼠の袋剣】に3000、【水妖精の雫刃】に3000、【薬湯虫の羽剣】31000ずつ経験値をつぎ込んだため、稼いだ経験値はおよそ5万。これは、負債がない状態で普通にレベルアップのみに費やされていればだいたい50後半ぐらいまでは上がる程度量だ。

 更に【水妖精の雫刃】と【薬湯虫の羽剣】で新たに発覚した事実。それは解放に段階的に能力が封印されているらしいということだった。
【水妖精の雫刃】には【火蜘蛛の脚剣】の火毒が金属を溶かすことに対して圧倒的な補正がかかるように、出せる流体の温度を好きなように操作できるという特性があるのだが、それはさらに経験値を積まなければ解放されないようだった。

【薬湯虫の羽剣】も同様であり、各種状態異常の耐性を上げ、それを回復させる効果のある剣だったが、各種項目ごとに経験値を要求された。
 心剣の開放と毒の耐性に3000、麻痺、睡眠、石化、魅了に各2000ずつ、そして、自分が認めた相手にも同様の効果を広げることができる特殊効果を解放するのに20000の計31000の支払いである。この広げる効果、最大で10人まで広げることができるものだったが、この解放で可能になったのは3人だけのようだった。
 まぁ一度目の時のように、そう何人も適当な連れ合いを増やすつもりは欠片もないので問題はなかったが。

 取りあえず、残った約15000程度の経験値の割り振り方を考える。
 レベルアップの負債に充てようかとも考えたが、基礎ステータスが上がれば経験値も少なくなる。ならば、特殊能力でその差をひっくり返すような心剣を解放し、ある程度の心剣を先に解放していくのが常道だろう。

 RPG風に言えば、一度目の時は王道プレイだったが、この二度目では縛りつきの邪道プレイと言ったところだろうか。

 と、するのなら、選択肢はこれぐらいだろうか。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【逆境者の拐刃】
 相手よりもステータス合計が低くなるほど、剣の威力が増す。
 ただし、自分よりもステータス合計の低い相手には逆に威力が下がる。

【利毒の針剣】
 ダメージの多寡に関わらず、与えたダメージの回数が増えるほど相手に継続ダメージを与える毒の効果を強化する。
 ただし、剣自体に毒は付与されていないので、ミナリスに手伝ってもらうなど方法を考えなければ使えない。

【境界刃】
 剣に魔力を込めると、少量の魔力を消費して相手の遠距離攻撃を全てそのままの威力で返す。 
 ただし、一切の攻撃力を持たず、それ以外の方法では敵を倒すことができない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ステータスとMPを考えるのなら、解放するのならこの3つのどれかだろう。
 さて、と考えたところで、服につけられた緊急用のポーションを入れるためのポケットが、金色の光を発し始めた。

「ご主人様っ!?」

「ああ、いい、大丈夫だよ」

 慌てるミナリスを手で制し、ポーション入れから取り出したのはジュフェインから受け取った小さな小瓶。
 金色の金属のような質感を持った液体のようなその瓶の中身は、瓶のふたを開けて地面に置くと、キラキラと光りながらスライムのようにもぞもぞと瓶から這い出し、そのまま近くの壁へと這っていく。

「思ったよりも時間がかかったなぁ。王女の火傷が治りきってると意味がなくなっちゃうんだけど、はてさてどうなるか」

 せっかくあんな醜態を晒してまで付与された魔法を改竄したのだ。一目で見抜かれないよう偽装も念入りに頑張った。
 どうせ、一番最初に騎士や王女にやったのと同じ、ただの嫌がらせでしかないが、成功するに越したことはない。

 ただ、発動したのを確認することはできても、結果として直接王女が苦しむ姿は(・・・・・・・・・・)見れない(・・・・)のが残念だ。効果の関係上仕方ないことではあるのだが。

 そんな事を考えている間に、壁を立った時の俺の胸の高さぐらいまで上がったその謎スライムは壁が平面になるように薄く広がっていき、テレビのモニターのようになった。
 そして、そこにある場所の映像が映し出される。

「これは……」

「王都の謁見場だよ、共犯者になった時にも見ただろう?」

 その映像の先には、王に王妃に騎士、そして王女の姿が映し出されていた。
 
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