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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第22話 勇者、テロる 2

 警戒は緩めないまま、素早くミナリスの方を確認すれば、ちょうどミナリスの方もほとんどカタがついたようだった。

 剣に毒となる魔力を纏わせながら何度も切りつけたようで、苦しげに呻くグレイガルムたちが地面でのたうっている。残っているのは群れを統一していた『ブラック・ガルム』だけであり、それも弱った様子を見せている。

 油断はしていないようでそれでも戦い方を変えることはなく、回避することを最優先にしながらジワジワとガルムに傷をつけ、毒をしみこませているようだった。

「くふふっ、さぁさぁ、踊りなさい、くふっ、くふふふっ!!」

「……いや、油断しないで戦ってるんじゃなくてただ甚振ってるだけか。『幻炎毒鬼』使いすぎたんだな」

 警戒して戦ったからこその結果だろうが、力を使いすぎてMP酔いを起こしたのだろう。
 どうやらミナリスはMP酔いを起こしやすい体質のようで、『幻炎毒鬼』を使いすぎると完全に戦闘の興奮に飲み込まれ、理性がお空の彼方に飛んで行ってしまうようだった。
 今も完全に戦いの興奮に飲まれ、闘争心が嗜虐心に変化している。

「ほらほら、もっといい声で鳴きなさいよっ。極上の毒で逝かせて……、あっ、もうっ、ご主人様っ!!」

「言っても仕方ないんだろうが、少し頭を冷やせ」

 ふぅ、とため息をつきながらほとんど動きの止まっていたブラックガルムの胴体を突き刺して地面に縫い付ける。

「横取りはズルいですよぉ、お詫びにキスしてください、キッス、キッス!」

「アホ言ってないでさっさとこいつの首を刎ねろ。殺しちゃいないがすぐにくだばるよコイツ」

「うぅ、分かりましたよぉ」

 跳びかかってきたミナリスの顔面を片手で掴んで押し止めると、離れていこうとするのを感じて手を離した。

 周りのグレイガルムたちはすでに毒で息絶えていた。
 ミナリスは剣を振り上げるとブラックガルムの首を刎ねて戦闘にピリオドを打った。

「ほらっ、MPポーションだ」

「ご主人様、く・ち・う・つ・し、は?」

「………」

「ふぐぅ!! んくっ、んく」

 妙にシナを作った上目使いでからかおうとするミナリスを無視して、無理やりポーションを口に突っ込んで飲み込ませた。

 これであと数分もすれば平常運転の基本クールなミナリスさんにジョブチェンジしてくれるだろう。ミナリスも段々とMP酔い自体に慣れてきたようで、戦闘状態が終わってMPが回復すればすぐに平常運転に戻るようになっていた。  

「ぷはっ、ああ、口移しじゃないけどこれはこれでいいかもです」

「あー、はいはい。お前は休んでろ、剥ぎ取りは俺が終わらせておくから」

 ミナリスのことはサクッと無視して、新しく解放した心剣【丸栗鼠の袋剣】を剣帯から引き抜く。その心剣はおおよそ『斬る』という機能を果たすとは思えない見た目と質感をしていた。柄も含めて50センチに足りないぐらいの全長の心剣は、刀身の部分すべてが薄茶色の体毛に覆われ、刃と言うべき部分が存在しなかった。と言うよりもまるで芯が入っておらず、グニャグニャと曲がるため棒状の毛皮と言った方が正しい感じだった。

 効果はいわゆるアイテムボックス。MPの上限を5%削ることで上限をなく物を収納することができる。
 ほとんどの心剣は、俺の手を離れると数分で消えて俺の中に戻るが、この心剣はしばらくの間は手を放しても消えず、しかも複数作り出すことができ、俺が許す限りは他人が持っていても消えずに残る。なので、ミナリスも最大MPの5%を対価に自分用の心剣を一つ持っていた。

【丸栗鼠の袋剣】に魔力を流し込むと棒状だった刀身が風船のように丸く膨らみ、その先側の半分が鈴のように切れ目ができる。
 その状態で心剣を適当に脇に置くと、道具屋で買った剥ぎ取り用のナイフを片手に一度目の時の記憶をたどりながら魔物の討伐証明部位と、使えそうな素材を放り込んでいく。

 ダンジョンの魔物は死んでしばらくするとダンジョンに取り込まれてしまうのでさっさと剥ぎ取っておかないとそのうち消えてしまう。
 魔物の群れに挟み撃ちを受けて道具を消耗しながら戦ったというのに、それではもったいない。

「こいつも一応、持っていくか」

 ハイソードゴブリンが扱っていた呪いの武器『怨激の大剣』も、二つに分かれたその両方を袋の中に放りこむ。

 そうしてすべての作業が終わる頃には、最初の方に倒した魔物たちが丁度地面に飲み込まれるようにしてズブズブと沈んでいくところだった。

 ミナリスのところに戻ればMP酔いもほとんど抜けたようで、理性が吹っ飛んだハイテンション時の妙な色気も霧散していた。

「あの、申し訳ありませんご主人様。またご迷惑をおかけしまして……」

「別にいいよ、酔ってても最低限戦闘の判断は問題ないみたいだしな。ただ、さすがに群れ二つ同時に相手にするのはつかれた」

 そう言って、ミナリスが座っていた岩の隣に腰を下ろす。

 もともと、戦おうとしていたのはブラックガルムをリーダーとするグレイガルムたちの群れだった。ミナリスに障害物の多い場所での戦闘を経験させようと大きな岩がそこかしこに転がるこの場所に誘い込んだのだが、いざ戦おうとしたときに違う出口からやってきたゴブリンたちがちょうどやってきたのだ。

 ダンジョンの魔物は外の魔物とは違い、全く別の種族であってもそこに人種が居れば、人種を最優先目標として行動する。相性のいい魔物同士だと連携までしてくるようになる。そして、ゴブリンとガルムは割合相性がいい。
 そんなわけで、敵を二分するように、ミナリスと二手に分かれてそれぞれの魔物たちと相対することになったのだった。

 「とりあえず、飯休憩にするか。午後からはダンジョンコアのあるボス部屋に行ってこのダンジョン攻略するぞ。そろそろ太陽の光が恋しいしな」

 そう言って【丸栗鼠の袋剣】から干し肉と硬い黒パン、水を取り出した。ヒカリゴケで昼夜問わずそこそこ明るいモノの、やはり太陽の日差しの温かさは恋しくなるものがあった。

 それはしばらく牢の奥で閉じ込められていたミナリスも実感していたことのようで小さくうなずいていた。

 牛皮のような皮で出来た水筒に口をつけ、戦いで動き回って乾いたのどを潤す。この水はダンジョンに入って経験値を貯めてから真っ先に解放した【水妖精の雫刃】と言う心剣で作りだしたものだった。

 これは刀身がなく、柄しか存在しない心剣で、直接水を取り込むか、魔力を込めるかで鋭い水の刀身を作り出すことのできる剣だった。
 MPの上限が低いままなので水場がなければ武器として扱うのには無理があったが、魔力を込めれば、そのまま飲料水を生み出すこともできる。これのおかげで旅の間の飲料水の問題は一気に解決である。

 群れを丸二つ掃討し終えた後なので、すぐに魔物に襲われるということはないとは思うが、のんびりしているほどの時間はなく、それをダンジョンに入ったこの8日間でばっちりと体感していたミナリスもまた、食事を手早く済ませた。

「さて、これからボス部屋に向かうぞ。ダンジョンの中の魔物は一通り殺して回ったからな」

 一度目の時にもこのダンジョンをクリアしたのはこの世界に呼び出されて間もなくの俺をリーダーにした勇者パーティーだったが、残念ながら実体験で4年近くも前に攻略したダンジョンなど、細かい構造までは覚えていなかった。
 とはいえ、一週間以上も歩き回っていればだいたいの構造は思い出す。ぼやけた記憶を頼りにボス部屋につながる最短ルートを選びながら進んでいく。

 途中、散発的に表れるゴブリンやガルムを倒しながら洞窟を奥へ奥へと進んでいく。
 そうしてたどり着いたのは、そこだけ異質な外観をした観音開き巨大な金属の扉だった。

「ご主人様、もしかしてこれが……」

「ああ、ダンジョンの最奥、コアがある『守護者の間』だ」

 扉の前で立ち止まると、扉が放つ異様な威圧感にミナリスがごくりと唾をのんだ。

「ダンジョンの奥を守る『守護者』は、ダンジョン内を徘徊している程度の魔物とは比べ物にならないほど強いと聞きました。本当に、私たちだけで挑むのですか?」

 ミナリスが不安げな顔で告げる。
 その不安はもっともなものだった。そもそも、ダンジョンなんてものは4人以上のパーティーで挑むのがセオリーだった。荷物持ちとして食糧や水などを運ぶ専用の人員がそこに含まれることを考えても二人と言うのはかなり少ない。

 そして、ダンジョンコアを守る『守護者』を倒すとなれば、そもそも一つのパーティーで当たる案件ではない。実力の見合ったパーティーが10組近くで連合を組み、万全の用意を整え、入念なシミュレーションを繰り返し、ローテーションして相対しながらそれでも犠牲が出る可能性も視野に入れて討伐する。

 それが、ダンジョンに潜る冒険者たちが考える『対守護者戦』というものだった。

 その守護者にたった二人で挑むと言えば自殺志願者と思われるか、頭がイカれたかわいそうな奴扱いされるだろう。

「ああ、守護者は殺すよ。ダンジョンコアの残骸は大量の魔力を帯びた鉱物だ。アレを使った装備ならどんなものでも超一線級の武器が出来上がるよ」

 ダンジョンは国にとって資源にもなりえる。よって、発見され、国によって管理されたダンジョンはコアの破壊が禁じられることもある。コアを破壊してしまえば魔物が発生しなくなり、その素材が手に入らなくなるからだ。
 だからこそ、まだ国に見つかっておらず、存在も知られていないこのダンジョンのコアは絶対に確保するつもりだった。

「そうですか……、ご主人様、どうか御考え直しくださいっ!! ここで死んでしまえば、私たちの復讐が……」

「おいおい、だれが真正面から挑むって言ったよ」

 決死の表情で訴えかけてきたミナリスの頭を小突く。

「安心しろ。俺だって正面から切り結んでー、なんて気はサラサラないっつの。今の俺たちじゃ二人で挑んだところで勝率は五分ってところだ。コアは欲しいが、そんなものと天秤にかけられるほど、俺たちの復讐は軽くないことぐらい考えるまでもない」

「それじゃあ、あの、えっと……?」

「先に話して置けばよかったな。守護者は、ダンジョンコアを守るっていう性質上、この守護者の間から出ることはない、守護者に設定された魔物はダンジョンコアから強力な装備を与えられる代わりに意思を奪われ、そうしてコアを守るように命令をされているからだ。なら、相手の攻撃の届かない外から一方的に攻撃してしまえばそれで全部終わる」

「外からですか? でも、扉を開けたらその時点でこの広場までは出て来ると以前冒険者の方から聞きました」

「そうだ。扉を開ければ、守護者の間の前の広場、このダンジョンで言えば今この場所だな。ここまで追ってくることは確認されている。だが、扉を閉めれば扉を開けてまでは追ってこないことも確認されている。なら、扉を閉めたままで倒し(・・・・・・・・・・)てやればいいんだよ(・・・・・・・・・)

 そう言って【火蜘蛛の脚剣】を取り出した。そして剣に魔力を注いでいく。

「外から……、あぁ、なるほど。さすがご主人様です」

「ま、成功するかは半々だし、失敗したらさすがに諦めるけどな。今回ここに来たのは、経験値を稼ぐためというのもあるが、それ以上にミナリスに戦い方を体で覚えてもらうためだ」

 国を敵に回している以上、いつどこで誰が敵に回るか分からない。
 急な襲撃にも耐え、殺されない技術を磨くのならば大量の敵を相手にした乱戦めいた戦いを繰り返すのが一番の近道だった。目立った動きのできない今、ここは絶好の狩場だったのだ。

「だから、こいつに関してはそんな大博打をしてまで倒す必要はないんだよ。戦い方については十分実地で学んだし、こいつからは経験値だけもらえればそれでいい」

 そう言って【火蜘蛛の脚剣】で扉の一部を溶かしていく。

 さすがにダンジョンの最奥を守る扉だけあり頑丈で、呪いの武器よりもさらに抵抗が激しい。

「扉に穴が開いたらそこからお前の『幻炎毒鬼』で部屋の中に滞留時間の長い毒煙を流し込んでくれ。ああ、気が付いたところで命令がなければ動かないだろうけど一応、無色透明、無味無臭の奴で頼む」

 そう言いながら、溶け始めてはいるもののまだまだ抵抗の強い扉を相手に、心剣に向かってさらに魔力を込める。
 すると、なんとか【火蜘蛛の脚剣】は扉に埋まっていき、扉に幅5センチ程度の縦に細い穴を空けることに成功した。

「よし、うまくいったぁ、あ、あ?」

 と、ゆらりと世界が揺れるような感じがした。
 頭の片隅の冷静な部分が「あ、MP酔いだわ」と告げるが、それもどこか他人事のように聞こえる。

「すまない、みなりす、あと、頼むわ……。問題ないみたいだし、ちょっと休ませて」

 なけなしの理性を総動員して、酔った無様な姿をさらさなくて済むように壁に背を預けて地べたに座り込んだ。扉を開けない限り、ボスは出てこないし、守護者の間の前の広場にはダンジョン産のモンスターは近寄らない。
 入り口も一応岩でカムフラージュしてきたので、ほかの冒険者が入り口を見つけてここまでやってくるということもないだろう。

「あとはお任せくださいご主人様。少しお休みください」

 見てみるとミナリスが溶けた扉の穴に水をかけて冷やし、『幻炎毒鬼』で魔力を毒に替えて穴に注ぎ込んでいる所だった。
 ミナリスが普通の毒魔法を使ったならば獣人であるミナリスではすぐに毒は拡散してしまうはずだったが、ミナリスの固有技能『幻炎毒鬼』で作った毒ではそうはならない。

 『幻炎毒鬼』の効果は、今のところ分かっている範囲では、様々な効力を持った毒を魔力によって作り出せるという点。そして、『幻炎毒鬼』で作り出された毒はどれだけ時間がかかっても自然に拡散することはなく、使用者の意思でしか消すことが不可能な点。

 ほかにもいくつかの能力があるようだったが、現時点で扱えるのはそれだけのようだった。

 鑑定で調べてみたが、確かにこの二つの能力以外にも能力があるようだったが、そのほかの能力においては【???????】と示されるだけだった。
 この固有技能にはほかのスキルと同じように成長するタイプのものであるようで、レベルと言う括りはないものの、能力が解放されるには何かしらの条件と、スキルの熟練度の両方を満たさないといけないようだった。

 おそらく、名前からして幻術系の能力が……、と、そこまで考えが浮かんだところで急にドッと疲労感と眠気が押し寄せてきた。

 戦闘を続けてきた興奮で張りつめ通しだった糸が、MP酔いで緩んだのだろう。
 抵抗する間もなく、静かな水の底に沈むようにして意識は暗闇にとらわれていった。
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