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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第21話 勇者、テロる 1  

 
 拠点にしていた猟師小屋から北東に数キロ。
 そのダンジョンは発生してすぐに崩れた岩で入り口が閉ざされ、誰にも発見されないままでいた洞窟型のダンジョンだった。

 本来なら、あと一か月ぐらい先に起きる地震で塞がれていた入り口が現れ、それを冒険者の昇級試験の引率をしていたベテラン冒険者が発見することになり、はじめてダンジョンの攻略が進められるはずの場所だった。

 ダンジョンとは、ダンジョンコアと呼ばれる自然発生的に生まれるゴーレムに似た性質を持つ金属球が、周りの環境を取り込んで作り出した迷路のようなものだった。
 その中では外よりも活発に魔物が発生し、時間が経てば経つほど迷路はより広大に、発生する魔物はより強く、多くなる。
 その最奥の部屋にはダンジョンコアが設置され、それを守るように、ダンジョンコアの魔力を帯びて強力になった装備を持つ『守護者(ガーディアン)』と呼ばれる魔物が侵入者を待ち構えている。
 そうして、最後にダンジョンコアを破壊すれば、ダンジョンはその機能を停止し、あとにはただただ広大な迷路だけが残るようになる。

 世界中に散らばる数々のダンジョンと比べてみると、このダンジョンはかなり若い(・・)ものだった。人でたとえるならばほとんど赤ん坊と言ってもいいようなものだ。

 洞窟型のダンジョンどれもは外からの明かりが入らない代わりに壁に生えた『ヒカリゴケ』のおかげで視界には困らない。空気穴でも開いているのか、ダンジョンの中で酸欠になることもない。
 問題と言えば洞窟の中特有のジメジメと湿ったような空気ぐらいと言うその場所で、俺たちがこのダンジョンに潜ってから今日でちょうど8日目になったところだった。


          ☆


「くっ、ハアアアアアッ!!」

「ギャエェエエエッ!!」

 何合か続いていた金属と金属のぶつかり合いは、さび付いた剣を振り回していた『ソード・ゴブリン』の手首から先が切り飛ばされたことで幕を閉じた。
 それを成したミナリスはかなり刃こぼれがひどくなり始めた7本目の剣を引き下げて、思わず後ずさったゴブリンの懐に一足飛びに踏み入った。

「グルゥッ、ギャアアアウウウウウゥッ!!」

「これでトドメですっ!!」

 剣と手を同時に失い、苦痛にただでさえ醜悪な顔をさらに歪めた表情のまま、そのゴブリンは一刀の下にその首を胴体から切り離された。

 断末魔すら上げられずに倒れたゴブリンはその緑色の血を噴き出しながら倒れていく。

「ふぅ……、っ!!」

 ヒュンッ、と微かな風切り音と共にミナリスに向かって矢が飛ぶ。それは気を抜いた一瞬の隙を縫うようにして迫った一撃だった。既に避けられる間合いではなく、せめて急所を外れるように体を捩るのが限界だった。

「ほら、油断するなって言っただろ」

 離れた場所から『飛脚』を使い、その速度を殺さないまま矢を下から上に切り払う。少し離れた岩場の影にいたアーチャーゴブリンが二の矢を用意しているのが見えた。

「そっちの狼どもの相手、少しの間任せたぞ」

「はっ、はいっ!」

 相手にしていた5、6匹の『グレイ・ガルム』たちは飛脚の速度についてこれずに混乱しているようだった。だがその混乱も、灰色の体毛を持った狼たちの中、群れを率いていた一匹だけ黒色の体毛をした上位個体、『ブラック・ガルム』が上げた遠吠え一つで抑えられた。

 慌ただしくもこちらに向かってくる群れを視界の端に収めながら、ガルムたちをミナリスに任せて違う方向に地面を蹴り飛ばす。

「させねぇよ」

 アーチャーゴブリンの矢が放たれるよりも早く『飛脚』でその距離を詰めて上から下まで一刀両断にする。

「ギャウアアッ!!」

「うるさい」

 そしてそのまま、返す刀で心剣を振り上げたその先で、もはや鉄塊と言ってもよさそうな肉厚の大剣とぶつかった心剣が火花を散らす。そこにいたのは大きな岩陰に完全に隠れていた『ハイソードゴブリン』、最初は10匹近かったゴブリンの群れを統一していた個体だった。

「ギャルルゥッ!!」

 思ったようにいかなかったゴブリンが苛立たしげに唸り声を上げた。ゴブリンと同じ姿をしながらも、筋骨隆々なその体は2メートル近い高さがある。通常のゴブリンの2倍近い大きさだった。

「殺気でバレバレだっての。っていうか不意打ちする頭があるならわざわざ声を上げるなよ」

「グゥウウッ!! グガァアッ!!」

 固有技能の『他言語理解』は相手の言葉も伝われば、こちらの言葉もきちんと伝わる。しかしながら、いわゆる人種にしか機能しなかった。
 獣人やエルフ、魔族には効果があったが、魔物を筆頭に動物や昆虫のような意志疎通を図る術がありながらもいわゆる『人外』相手の言葉は理解ができなかったのだ。

 それは目の前のゴブリンも同じであり、ゴブリンの方も俺が言った言葉を理解はしていないだろう。
 それでも雰囲気から馬鹿にされていることは察したのかギリギリと鍔迫り合いを続けていたのが、無理やり吹き飛ばすように大声を上げてその大剣を振り抜いた。

「ちっ、この馬鹿力がっ……!!」

 想像以上に強い力に驚きながら悪態をつく。
 吹き飛ばされながらも素早く『天駆』を利用して空中で体勢を立て直す。

 ちらりとミナリスの方を盗み見ると、囲まれないようにうまく立ち回りながらグレイガルムを相手に少しずつダメージを与える堅実な戦い方をしているようだった。基本に忠実でとてもよろしい。 

 ミナリスがうまく戦っているのなら俺も無様な所を見せるわけにもいかない。距離が開いたのを利用して、強い力の原因を探るためにステータスを除いてみればその理由がハッキリと分かった。

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 ハイソードゴブリン 魔物 男 
HP:1121/1212 MP: 256/256(511)
レベル:77
筋力:1321(521)
体力:524
耐久:347(695)
敏捷:527
魔力:0 (531)
魔耐:248(497)
固有技能:なし
スキル:『剣術 Lv4』『大剣術 Lv3(付与)』
状態:良好 呪い付き

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「状態が良好で呪い付き、ってことは呪いの武器か」

 ゴブリンが腰に巻いているボロ布がそんな大した装備だとは考えにくかったので大剣の方に鑑定を掛ける。

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 【怨激の大剣】
 多くの重剣士の呪いの念が込められた大剣。
 装備者はただ力強い剣を振るだけに特化した存在となる。

《パッシブ効果》筋力+800、MP-50%、魔力-100%、耐久-50%
        魔耐-50%、スキル『大剣術 Lv3』を付与        

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 想像した通り、ゴブリンが手にしていた大剣が呪いの武器だったようだった。完全に脳筋一直線な武器だったが、だいたいのゴブリンは魔力を使った戦闘をしないので相性のいい組み合わせの武器だ。この武器を手にしたおかげでこのゴブリンはソードゴブリンからハイソードゴブリンに進化したのだろう。

「ダンジョンボスでもないのにこの強さはそういうことか、面倒な」

 呪い付きの装備は相当珍しく、一度目で4年近くこの世界を旅して周った俺でも数えるほどしか見ていない。強力な力を得る代わりにデメリットも大きい装備で、効果だけでも使い手を選ぶものであり、さらに呪いの武器は強力な思念が込められたものであり、適性がないものが扱えば意識を喰われる(・・・・)
 自我をなくし、ただ暴れまわるだけの怪物になり替わる。

 そういう意味では、このゴブリンはその適性があったのだろう。ステータスに良好と出た状態と言うことは飲み込まれていないということだ。理性的な動きをしているので分かっていたことだがきちんと呪いの武器を支配できているらしい。

「グガアアアッ!!」

「くそっ、ちょいと厄介だな」

 呪術や呪いの装備で実力を底上げした相手と闘ったことがないわけではなかったが、一度目の時は仲間に聖女がいたし、相性のいい強力な心剣も解放されていた。
 呪いを宿した相手は聖女が得意とした系統外魔法の神聖魔法と徹底的に相性が悪く、俺自身もかなり強くなっていたこともあり苦労した記憶はなかった。しかし、今は聖女は復讐相手の一人であり、俺は未だ強力な心剣を解放できるほど経験値を稼げてはおらず、力押しで倒すのは厳しかった。

「ギャウウウゥガァ!!」

「っ!! ふっ、っ!!」

 迫る剣の刃を心剣を滑らせ、足さばきで躱し、振り始めを浅く切りつけて剣閃を鈍らせる。
 幸い、俺の『技巧』と『思考反応速度』は一度目の時のまま引き継がれていたので、Lv1のままで絶望的なステータス差を埋められてはいる。

 だが、大きな隙は見つからず、少しずつ小さな傷をつけることでじわじわとHPを削っていく。
 しかし、HPは、あくまで残りの生命力を表す値で0になると死亡するということで、例えばHPが高かったところで、首を落とされればすぐにその値は0になる。
 逆に言えば、いくら小さな傷をたくさんつけていったところで、それだけで相手を殺し切るというのは相当辛い戦いになるということだった。

と、そこまで考えたところでふと思いついた。

「……試してみるか」

 上手く衝撃を殺しながら正面からまともに剣をぶつけ合わせ、力で押しつぶそうと顔をゆがませたゴブリンを見ながら、ゴブリンが大剣を振り抜くタイミングに合わせて自分から後ろに跳んだ。

 開いた距離のその隙に、節約しながらもちょこちょこと使ってしまっていた魔力をポーション飲んで回復させる。
 手にしていた【始まりの心剣】を自分の中に戻すと、代わりに【火蜘蛛の脚剣】を手に作り出す。

 しっかりと剣を合わせて吹き飛ばしたにもかかわらず、何の痛手も与えられなかったとまたもや苛立たしげにゴブリンはその顔を歪めた。
 しかし、見た目には一般的な大きさの【始まりの心剣】から、短剣と言えるサイズしかない【火蜘蛛の脚剣】に武器を持ちかえたのを見て、ゴブリンは有利なったとでも思ったのか再び優越感に浸った表情で醜い笑みを浮かべた。

「グギャアアアアウゥアアアゥッ!!」

 再び距離を詰めてきたゴブリンが、下から上に大剣を切り上げてきた。
 その一撃を半身になって避けると、風切りの轟音とその剣風に前髪が揺れる。振り上げられた大剣がそのまま続く二の太刀として上段から振り下ろされてくるのを逆手に持った【火蜘蛛の脚剣】で待ち受ける。

「ぐっ……!!」

「グッ、ギャアアアッ!!」

 甲高い音が鳴り響き、ゴブリンの大剣と俺の心剣がギリギリと音を立てる。

 それはまさしく一度目の再現だったが、今度は俺が吹き飛ばされるようなことにはならなかった。

「グギャウッ!?」

「上手くいったか。やっぱりコレ、なかなか優秀じゃないか」

 一度目の時は考え付かなかった戦い方だが、呪いの武器もまた、金属だ(・・・)

 ゴブリンが持つ大剣の刃と刃がぶつかりあった箇所が徐々に溶断されていく。大剣も半ばまで溶かし切られたところで異変に気が付いたゴブリンが慌てて大剣を引き戻そうとするが、もう遅い(・・・・)

 心剣から手を放すと同時に『天駆』で宙を足場を作る。
 三角跳びの要領で中で体をひねりながらちょうど深い溝が作られた大剣の背の部分に、魔力操作で脚力を強化して、重力で勢いを乗せたかかとをまっすぐに振り下ろした。

「グギャアアッ!?」

 バギギィッ、と硬い物がへし折られる鈍い音と共に呪いの大剣は中央で分割された。

 自分の武器に絶対的な信頼を置いていたらしいゴブリンが呆然と言った様子で自分の手にある折れた剣を見ている。

「そこだああっ!!」

「グッ、ガァァ……」

 その隙を見逃すようなことをするわけもなく、素早く作りだした【始まりの心剣】にかなり多めに魔力を込めて一撃必殺の意思を込めて心剣を振り抜いた。

 喉笛を掻き切ったゴブリンは体から力が抜けたように仰向けに倒れた。
 地面には、死んでも離さないとばかりにゴブリンが強く握っていたはずの折られた呪いの大剣の残骸が転がっていた。


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