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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第17話 勇者、ちょっとだけ手助けする 1

 牢の中から生物の息遣いが消えるのにさほど時間はかからなかった。
 積み重なるゴブリンの死体と化した者たち。ミナリスの復讐の一部は確かに成されていた。復讐を果たしたミナリスの内の熱が、今は俺のものにもなったその熱が、歓喜と喝采と恍惚の叫び声を上げている。

 魔物化し、死にゆく道だとわかっているのに料理を貪る姿は腹がよじれそうになるほどに楽しい光景だった。
 奴隷商と奴隷たちが体の作り替わる激痛に叫びながら料理を喰らい、魔物殺しの毒に苦しみの声を上げるたびに、ゾクゾクとした快感が背筋を上った。

「いいね、ほんとにいいよ、ミナリス。幻覚で飢餓感を植え付けて、料理に魔物化と魔物殺しの毒を両方仕込んだのか。クハッ、やっぱり俺の目に狂いはなかった……っ!!」

 思わず心から言葉が口から零れる。
 嬉しくてたまらない。どうすれば苦しめられるか、ちゃんとこの少女は考えている。
 ミナリスの言葉は口先だけものではないと目の前でこれでもかと魅せ(・・)付けられたのだから。
 それは彼女が果たした復讐の一つが齎した快感に混じり合って体を駆け巡っていた。

「ああ、やっと一つ。やっと一つだよ、お母さん」

 牢の中、ゴブリンと化した死体が転がるその中心でミナリスは組んだ両手を胸元に寄せていた。
 それはどこか神々しささえ感じさせる祈りのような姿で、その安らかな顔はようやく一つ手折ることができた復讐の実を噛みしめているのだろう。

 それはきっと、正しい復讐鬼の姿。その余韻を邪魔することはできないと、ただ静かにミナリスの姿を見つめるのだった。

         ☆

「さてと、それじゃあそろそろ行こうか」

 しばらく耽美な余韻を反芻していたが、いつまでもそうしているわけにも行かずにミナリスの肩を叩いて声をかける。

「……はい、感謝します。ご主人様から得た力のおかげでこんなにも素晴らしい復讐をすることができました」

「別にいいよ、与えるだけの関係じゃない。ギブ&テイクでお前に求めるものがあって、それ以上にミナリスが復讐を選んだ瞬間に俺とお前は同じ復讐を背負ったんだから。お前がした復讐は俺の復讐でもあり、俺の復讐はお前の復讐でもある。言っただろう? アレはそういう契約で、だからこそ共犯者なんだから」

 そういうとミナリスはそれでもと首を振った。

「選択肢があったのは私でも、決定権があったのはご主人様ですから。そうして私は貴方を選んで、だからこそ、この復讐心と同じくらいに感謝の念を捧げます。私は貴方のおかげで復讐の機会を得ることができたのです。憎しみに焼かれながら、それでも死を待つことしかできなかった私です。貴方と同化した復讐心だけは、私のものでもあります。ですから、それ以外のすべてをご主人様に捧げます。体も心も時間も、復讐心以外のすべてはご主人様のものにしていただいてかまわないのですよ?」

「いや、別にそんなもんはいらん。取りあえず落ち着け」

「あんっ♪ やっぱり意地悪なご主人様ですね……♪」

 絡みつくように体を寄せてきたミナリスを適当に押し返す。
 俺よりも頭一つ分小さな少女はボロボロの格好と姿の癖に、妙に上気した頬と潤んだ瞳に何とも言えない色気を出していた。

 くふふっ、と妖艶に笑う顔に獲物を見つけた獣と似た雰囲気を感じて妙な悪寒が走った。
 おそらく、まだ少しMP酔いが残っているのだろう。MPの回復と消費を急激に繰り返したために理性が抑圧されて獣人としての本能が強く出ているようだった。

(もう少しすれば元に戻るだろうし、冷静になれば妙な色気も引っ込めるだろう) 
 酔っ払いは無視しておけば問題ない、やつらはかまうから面倒なのである。 

「ほら行くぞ。お前の復讐が成ったのはまだ一つだけなんだ。俺とお前の復讐はまだ始まったばかりで終わっちゃいない。その感謝は全ての復讐が終わるまで取っておけよ、まだまだ、復讐の熱を消し去るには生贄が足りないんだからな」

「はい、ご主人様の言う通りですね。今回はまだうまく力が使えませんでしたから、本命の実はよりおいしく調理できるように頑張ります! くふふっ、あぁ、今から妄想がとまらないですねっ!!」

(………これ、元に戻るよな? 普段からこの調子だといろいろ支障が出そうなんだが……) 

 ミナリスの様子に若干の不安を抱えながら建物を出ると、昼過ぎに入ってからそこそこ時間が経っているようだった。時計が高価な世界では、教会が日に3度鳴らす鐘の音か、あとは太陽の位置で時間を図るしかない。
 ミナリスが隣に来たのを確認すると、取りあえずミナリスの服を買いに表通りを目指して歩き出した。

「あ、耳としっぽは隠せるか? 無理ならスラムで隠せる服を買ってから表通りに向かうが」

「いえ、だいぶMPも回復してきたので幻術で隠せます」

 ミナリスは自然に魔力を練り上げると、ふっ、と兎耳と尻尾が見えなくなった。
 『幻術魔法 Lv3』の補正を考えても、難易度が跳ね上がる無詠唱で完璧に発動させた手腕は中々のものだった。

「………」

「ひゃっ!? ご、ご主人様!?」

 先程までウサミミがあった辺りをニギニギとするともふもふな素晴らしい感触がしっかりと掌に返ってきた。

「んっ、あっ、いやっ、こんな場所で……」

「あ、いや悪い、つい気になって」

 ミナリスが上げたちょっと艶っぽい声に我に返って手を離した。
 一度目の時は早く魔王を倒し、元の世界に帰ることばかりを考えていたせいで折角のこういったファンタジーな要素は全てスルーしていた。あの頃は全く余裕がなかったとはいえ、もったいないことをしたものでもあった。

「そういえば、これからどうするか何にも話してなかったっけ。今日中にこの町から出るからそのつもりでいろよ」

「ふぅ、ふぅ、今日中にですか?」

息を整えたミナリスは空の様子を見て、少し怪訝な声を出す。

 その反応は分からなくもないものだ。空の様子を見る限り、あと1時間もすれば日が落ちる。街の出入りを管理している東西南北に一つずつある大門は日が落ちれば完全に閉じられてしまい、事実上、町から出るのは不可能になる。
 さらに言えば王都のどの門から出るとしても次の町までは半日程度かかるので、昼を過ぎてから街を出るような人間はほとんどいない。

「さっきの追体験で知ってると思うけど俺の復讐相手は多くてなぁ。この国の王女に王、王妃や騎士連中も丸っと仇だろ? んで、王女と騎士の一部には昨日のうちにもう軽ぅく挨拶済ませてあるんだよ。たぶん、明日の今頃はアイツラしゃべれるようになってるだろうから今日中に町は出ておきたいんだよ。まだ力が足りないからな、のんびりとする時間はそうない。あ、そういえば俺の追体験って最後の記憶どうなってる?」

 復讐の聖剣はすべての記憶を追体験させるわけではないので二度目が始まってからの記憶は知らないはずだが、そうなると……。

「えっと、あれ? そういえば、ご主人様は幽霊なのですか? というか、勇者? 世界の敵?? あの、この記憶はいったい……」

「あー、やっぱり、最後に殺されたところで終わってるのか。俺の方も要所要所しか追体験できなかったしなぁ。取りあえず、あとで色々と説明するから今は置いておけ」

 それを聞いたミナリスは混乱しながらもうなずいた。

「わかりました。でしたら、最低限必要な食糧と衣類だけを買って早く街を出ましょう」

「ん? ああ、いや、そんなに急ぐ必要はないよ。街からは夜に出る(・・・・)つもりだからな。それよりも、王族が敵だってこと思ったよりサラッと受け止めたな」

 王族が絶対者として君臨しているような国で王族を敵に回したと言ったのだ。それはそのまま国そのものを敵に回すのとほぼ同義である。

「まぁ、確かに少しは驚きましたけど、追体験の時に敵だとは分かっていましたから。相手が誰だろうと復讐相手であることに変わりはなくて、どんなことになろうと復讐を成し遂げると私たちは決めているでしょう? それが王や王妃、王女や騎士だったところで今更やることは変わりませんから」

 国を相手にするという言葉にミナリスはまるで気負った様子もなく自然に微笑んでいた。

「……ああ、参った。くだらないことを聞いたな。本当、お前を共犯者にできて良かったよ」

 降参とばかりに小さく手を上げる。
 どこかでまだ彼女を侮っていたらしい。仮に常時あのテンションだったところで彼女はそれを補って余りあるほど共犯者にふさわしかった。

「っ! ええ、私もご主人様に共犯者として選ばれることが出来てうれしく思いますよ」

 一瞬、照れたような顔をしたミナリスだったが、すぐに取り繕って微笑んだ。どうやらMP酔いも抜けてきたらしい。 

「取りあえずはその服装を何とかしなくちゃな。獣人の特徴を隠せるなら旅支度の服と戦闘用の武器、あとは食糧だな」

「それで、どうやって夜に街を出るんですか? もうすぐ門は閉まりますよ?」

「ん? ああ、門は通らないから安心しろ。街からは城壁に空いた(・・・・・・・・・・)()から出るから」

「城壁に、穴? ですが……」

 ミナリスが戸惑うように問いかけた。

 城壁は魔物の侵入を防ぐための最後にして最大の砦であり、そこに穴など開いていては大問題である。だからこそ、王都の城壁には自己修復と劣化防止の魔法がかけられ、人が通れるほどの穴が開くほど崩れるのは考えにくかった。それが平常通りならば・・・・・・・・・・・。 

「安心しろ。今の時期なら、あの城壁はちょっとつつくだけで崩れる。俺はそれを知ってるからな(・・・・・・・)
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