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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第16話 食欲の奈落

 ミナリスの胸に突き立った剣は一際強い光を放った後、まるで宙に融けるように淡い光の胞子だけを残して消えて行った。
 残されたその身には何一つ傷はなく、着せられているボロ布も確かに貫通していたはずだったが穴の一つも空いていなかった。

「あぁ、なるほど。これがお前の復讐の理由で」

「今、見えたのが、ご主人様の理由ですか」

 【復讐の聖剣】を伝って繋がれた経路が、自らの復讐心とミナリスの復讐心とを混じらせて同じものに変えていくのが分かった。

 行われているのは脳に直接流されているような復讐の理由の追体験。
 まるで自分の記憶であるかのようなリアルなそれは、体に刻み込むように、ミナリスが復讐することを誓った痛みと絶望が荒れ狂いながら俺の身の内も焼き焦がす。
 その黒い熱は、俺が抱えるものと何ら遜色がないほどのものだった。

 ミナリスもまた、俺が復讐を誓った理由を感じているようで、その顔を苦渋に歪めている。

 そうして少しずつ、俺とミナリスの復讐心が混じり合い、より深く、より純粋なものになって共有されていく。

 【復讐の聖剣】が残した闇色の光の胞子が消えきる頃には、ミナリスの復讐心は完全に俺のものにもなり、俺の復讐心は完全にミナリスのものにもなっているのが分かった。

「俺がやられたわけじゃないと、頭では分かっているのにな。これが、復讐心を共有するってことか」

 周りを見回せば目に入る奴隷たち(復讐対象)にあの身の内を焼く熱があふれ出し、自然と殺気が漏れ出る。
 生気のない瞳をしていた奴隷たちも実際の命の危機を感じれば怯えた様子で身を縮めた。

【システムメッセージ・称号『復讐者の主』を獲得しました】
【システムメッセージ・個体名ミナリスが『復讐の従属者』になりました】

 システムメッセージの言葉に、きちんと【復讐の聖剣】の効果が成ったのを確認する。

 ミナリスに視線を向けると、復讐心の共有が終わったミナリスは、少し戸惑うような、それでいてどこか興奮したような顔をしていた。

「すごい、これがさっきの剣の力ですか? これなら、ああ、あああ、考えていたよりももっともっとすごいことができますっ!!」

 想像しただけでゾクゾクと背筋を昇る快感に上気した顔のミナリスは、どこか恍惚としたような色気を感じさせて口の端をゆがませる。

「ステータスオープン・ミナリス」

===============================

 ミナリス 16歳 女 兎人族
HP:160/208(416) MP: 189/206(412)
レベル:18
筋力:105 (211)
体力:111 (222)
耐久:85 (171)
敏捷:139 (278)
魔力:123 (247)
魔耐:95 (191)
固有技能:『幻炎毒鬼』
スキル:『幻術魔法 Lv3』『痛覚耐性 Lv2』『採取 Lv2』
状態:衰弱

===============================

 きちんとミナリスのステータスをのぞけるようで安心した。
 復讐の心剣の効果で得た『復讐者の主』の称号は『復讐の従属者』の称号を持つ者のステータスを覗くことができる。
 そのほか、『復讐の従属者』の数により、若干のステータス補正などが掛かったりといくつか効果があるようだ。復讐心の固定、復讐心とその理由となる記憶の共有化も正確にはこれらの称号に依るものだ。

 ミナリスのステータスを見てみれば、やはり獣人はステータスが高い。衰弱状態でステータスが半減しているにもかかわらず、人間ならレベル相応のステータスをしている。
 鑑定の心剣が使えないので俺にはまだどんな技能なのか分からないが、固有技能も手に入れたようだった。技能の使い方は所持者自身は把握できるようになっているので問題はない。

「それで、どうする? 辛いなら俺に任せて休んでいてもいいぞ?」

「分かっているくせにそんなことを聞くなんて、私のご主人様は意地悪ですね。そんなのダメに決まってます。これは私の初めての復讐なんですから、私にやらせてください」

「そうか、ならとりあえずは準備しているといい。逃げ出したもう一人(・・・・)は俺が連れてくるよ」

 そういって残りの予備のMPポーションをミナリスに渡す。どんなやり方をするかは分からないが、さっきの口ぶりからして固有技能で何かをするのだろう。基本的にMPを使うことになるのだろうからこれで思いっきりやれるだろう。

 そうして俺は、一人逃げ出そうとしていた男を追って町に出るのだった。

             ☆

 奴隷商のその男がその場から逃げ出したのは、黒づくめの見慣れない服を着た怪しげな客が買ったばかりの奴隷の前で、どこからともなく禍々しい小剣を取り出した時だった。

 最初は、怪しかろうがなんだろうが、金があるのなら商品を買ってもらえるのなら何でもいいと思っていた。ウチの奴隷たちの相場はせいぜいが金貨で4枚程度の商品価値しかないが、大量の金貨をあそこまで無造作に扱う世間知らずが相手だ。せいぜい吹っかけて高い奴隷を売ってやろうと考えていたところで、その客が興味を示したのは廃棄予定の兎の獣人だった。

 餌代(・・)もばかにならないので廃棄する日まで鎖につなぐだけで放置していた獣人に客が興味を示したときは、高い奴隷を売れないと渋りかけた。
 だが、金貨は10枚出すという言葉と、よく考えれば捨てる予定の商品が売れるのだから丸儲けになると考え直してみれば、思わずにこやかな顔になった。

 それが変な方向に行き始めたのはその客が奴隷と契約してから会話を始めたときからだった。死にかけの奴隷に高価なポーションを惜しげもなく飲ませたと思ったら、何かよくわからない物騒な会話を始めた。ジワリと湧く危機感が、決定的なものになったのは、客だった男が黒と赤の禍々しい小剣を取り出した時だった。

 あれはまずいと見ただけで分かった。
 スラムを商売する上でより研ぎ澄まされていったその感覚が逃げろと声高に叫んでいた。金も奴隷も、命があってこそのものだ。

 本能の命じるままに、その場の誰からも注意を引かないように逃げ出した男は、緊急用にと店先のカウンターに隠していた金だけを手に自らの店を飛び出した。

 振り向くこともなくこういう時のために用意していた隠れ家を目指してひた走る。
 もつれそうになる足を動かし、何度も遠回りしながら、やっとの思いで隠れ家の扉が目に入った時だった。

「おいおい、客を置いてどこに行くんだ?」

 目の前に現れたのは形だけにこやかな笑みを浮かべたあの客だった男だった。

            ☆

「っ!! あ、い、いや、ちょいと急用を……」

 奴隷商の男が一瞬青ざめた顔で言葉を吐いた瞬間、一目散に路地の脇道に飛び込もうと走り出した。

 もちろん、復讐の相手である男を逃がしなどするわけもなく、後頭部からの一撃で気絶させる。殺してしまわないよう、細心の注意を払わなければ男の首から上はあらぬ方向に折れ曲がっていたことだろう。

 ミナリスの復讐を前に俺が感情に振り回されてつまみ食い(・・・・・)をするわけにはいかなかった。

 取りあえず今回は補佐だけでミナリスに復讐を任せるつもりなのでいいが、自分も積極的に手を貸すにはきちんと感情の経緯を知っておくべきだろう。

 【復讐の聖剣】が俺たちに見せたのは復讐の根幹となった記憶だけだ。それ以外の時の復讐相手の記憶を俺は知らない。
 きちんとそこらへんの話もしないと、どんな苦しめ方をすればもっとも苦しめられるのかが分からない。ただ憎いという感情だけではすぐに殺してしまいそうになる。

 倒れた男を担ぎ上げ、奴隷商の建物に戻る。
 そこはすでに奴隷たちが一番大きな牢に入れられ、ミナリスは奥の調理場で何か作業をしていた。牢の中には20人近い奴隷がいたが、スペースにはまだ余裕があるようだった。

「おーい、連れてきたぞ」

「あ、ありがとうございます、ご主人様。ちょっと手を離せないんでその中に放りこんでおいてもらえませんか?」

「ん? ああ」

「ぐっ……!!」

 壁に掛けられた牢のカギを取ると、開いた牢の中に男を投げ入れてカギをかけなおす。固い石畳に適当に放り投げられた衝撃で目を覚ましたようで、状況を把握しようと周りを見回した。

「くっ、おいお前っ!! こんなことしてどうなるかっ………!!」

「でっきましたー!! って、うぅうぅ、なにこれ、くらくらするぅ……」

 男の声をかき消すように調理場の方からその場の空気にそぐわない、いや、最も適した高いテンションの声が聞こえてくる。

 声を聴いて調理場に向かえば少しふらついているミナリスがそれでも狂喜にゆがんだ綺麗な笑顔を浮かべている。

「MPを一気に消耗したせいだな。ホラ、さっきやったMPポーション、さっさと飲め」

「はーい。くふふっ、ねぇご主人様、口移しで飲ませてもらえません?」

「しねぇよ」

「えー、なんでですかー?」

「MPを一気に失って変なテンションになってる酔っ払いにどうこうするほど飢えちゃいないからだよ」

 MPを一気に失うと、空気中の魔力に酔うのだ。結構使ったという程度ならちょっとした立眩み(・・・)程度で済むが、度を超すと酒を飲みすぎて酔っぱらったような、変なテンションになる。しかも、MPが回復してもすぐには完全に酔いが醒めないのが曲者である。

 ステータスを確認してみれば、さっきは9割近く残っていたMPが1割を割り込んでいた。ちなみに実戦で使えるレベルまで魔力を込めた下級魔法のファイアーボール一発あたりの消費量がMPを10程度消費することを考えればかなりのMPを使ってしまっているのが分かる。

 ましてやミナリスは強力な技能を手に入れ、憎悪の熱を吐き出す寸前でテンションが上がってしまっている。正気に戻った時は、そっとしておいてやるのが優しさだろう。

 そんな風に考えながらMPポーションを最初の時のように口に突っ込んでやると青い液体をやたらと色っぽく嚥下していった。

「ふぅ、やっぱりご主人様は意地悪ですねぇ」

「ほらほら、いつまでも茹ってないで、メインディッシュが待ってるぞ」

「はーい、くふっ、くふふっ!!」

 上機嫌なミナリスにこれ以上は手伝うこともなさそうなので観客としてその後の劇を楽しむことにした。

 ルンルンと文字が浮かんでいそうな様子でミナリスは陰鬱な場の雰囲気に真っ向から刃向うハイテンションで用意していた料理を牢の中へ運んだ(・・・・・・・・・・)

 一度では運びきれないぐらいの大量の料理は、備蓄されていた奴隷商の食材を調理場でミナリスが料理したものだ。

「さぁ、私が作った出来たての料理です。遠慮なく召し上がれ♪」

 出来たての料理からは食欲を刺激する香りが漂っていたが、当然手など付けられるわけもなく、奴隷と商人は警戒心に揺れる顔でミナリスを見ていた。

「んぅ~、と言ってもやっぱり簡単には食べてもらえないですよねぇ。でしたら、王都に来るまでの間、散々私とお母さんを汚れたゲスな目で見ていたそこのあなたに最初に体験してもらいましょう」

「ひっ……!!」

 にこにこ笑っていたミナリスが、捕食者の目で奴隷の枷をつけられたままの一人の男の目を見る。

 高まる魔力とともにミナリスの濃い亜麻色の瞳からスッ、と色が抜け、キラキラと淡くぼやけた光を放つ、白靄の瞳に変化していく。

「惑わし喰らえ『幻炎毒鬼』」

 それは囁く魔女のように。
 やさしく、甘く、蕩かすような虚ろの声。

「ひぃっ、ひっああああっ、なんだコレッ、やめっ、あああああぁあぁっ!!」

 声と共に形を成した魔力が白い靄になって男に纏まりつく。
 周りの奴隷達と奴隷商はその様子に手を出すことも出来ず、さりとて目線を逸らしてしまうことも出来ずに、何が起こっているのかもわからない恐怖に顔を青ざめさせながらその様子を見つめていた。

「ぐあぁ、あぁあぁああああっ!! 飯っ、飯をヨコセええエえエェェえエっ!!」

 まとわりついた靄が男に吸い込まれるように消えると、男は狂ったように叫び始めた。
 手枷があるのすら頭から消えたように駈け出そうとし、足を取られて倒れても立ち上がるのすら億劫だと言わんばかりに獣のように這い寄る。湯気の上がる料理を手づかみで口の中に詰め込み、顔を突っ込んで貪り喰らう姿は人間としての尊厳などかけらも残っている様子はなかった。

「うぅーん、思ったよりもこの幻術、効果が強いです。飢餓感を植え付けるのは上手くいったみたいですけどさじ加減が難しいですねぇ、これ」

 そうやって料理を貪る男の姿にケタケタと笑いながらミナリスがその様子を眺める。

 とはいえ、その様子はともかくとしてやっていることは料理を食べているだけだ。ミナリスの怒りと憎しみを受け、もっと悲惨な目にあわされると思っていたその対象達は逆にその程度のことしかされないことに困惑していた。

「さぁ、残りの皆さんにも同じようになってもらいますね。今度は大丈夫です、ゆっくり、ゆっくりと理性を失うように飢餓感を植え付けますから。……惑わし揺らせ、『幻炎毒鬼』」

「なっ、うぷっ」
「あ……っ、うっ」
「うおぁ、ううっ」

 再び現れた薄い靄がその場にいた人間たちを包み、入り込んでいく。だが、今度は男のように理性を失って料理に突進するような事態にはならなかった。

 それでも、すぐに何人かは料理におずおずと手を出し始め、しばらくするころには段々と増す飢餓感に耐えきれず、全員が料理に手を出していた。やがて全員が何とか理性を残しながらも、食事に夢中になり始める。

 ニコニコとしながらその様子を眺めるミナリスが、慈愛に満ちたような目でその様子を眺める。それはそう、土に植えた花の種に水をやり、その種子が芽吹くのを待つような視線。

 その芽が芽吹くのは、あと少し。そして、

「うっ……? あぁ、ガアアアアアアァァァァァッ!?」

「あぁ、芽吹いた♪」

 一番最初にその芽を出したのは、最初に飢餓感を植え付けた男。

 待ちに待ったとばかりに邪悪さをにじませて口の端を吊り上げたのはその瞬間だった。

「ぐっ、がああっ、ごうぅあああげえぇええっ!!」

 まず変化が現れたのはその腕、肌色で筋肉質だった腕が縮み、緑色に染まっていく(・・・・・・・・・)。そう、それはまるでゴブリンの腕(・・・・・・)のようだった。

 料理に夢中になり始めていた周りの人間たちはその光景に目を丸くして固まる。

 体に走った激痛に男は少しの間うずくまったが、変わり果てた自分の腕に困惑したもののすぐに再び飢餓感に襲われてまた料理に手を出していく。

「さぁ、どんどん食べてください。食べれば食べるほど、ゴブリンに近づいていきますが、問題なんてありませんよね。すぐそんなことが気にならなくなるほどお腹が空いてきますよ。くふ、くふふふっ」

「いやっ、いやああああああっ」
「うげぇええええっ、がっ、ぐえっ」
「ごふええっ、おがっ、ごいぇえがあああっ!!」

 その言葉を聞いた大半が慌てて料理を吐き出そうとする。
 だが、そんな抵抗をあざ笑うかのように飢餓感は坂を転がり落ちる雪玉のように巨大になりながら勢いを増していく。

「あぁ、ぐっ、ダメだっ、でも、うぐぅ、我慢デキナイィイイイィイィ!!」
「ふぅーっ、ふぅーっ、ふぅーっ、もういいっ、ドウデモイイノォオオっ!!」

 いくら拒否しても魔術で強化された飢餓感に耐えられるはずもなく、ダムが決壊するように再び料理に食らいつき始めた。
そうして少しすればゴブリン化し始める人間がどんどんと現れ始めた。

「あぁ、惨めですねぇ、無様ですねぇっ!! あなた方が蔑んでいた獣人以下の魔物に堕ちるのはどんな気持ちなんです? ねぇ、どんな気持ちなんですかぁ? ほら、返事してくださいよぉ、さびしいじゃないですかっ! くふっ、くふふふふふっ!!」

「ぐぎいぃいいいいっ!!」

 牢の檻ごしにその様子を眺めていたミナリスが近くにいたゴブリンの腕を檻の隙間から踏みにじる。それは奴隷商の腕だったものだ。

 だが、痛覚に一瞬止まった食事の手もすぐに料理に食らいついていく。

「くふふふっ、もう離せないほど私の料理に夢中なんですねぇ。さぁさ、たんと食べるといいですよ。料理はまだまだたぁくさんありますから」

「ぐがっ、グギャアアアアアアァァアアアアァァアッ!!」

 と、がつがつと料理を口に詰め込み音ばかりが響く中、一際大きな苦悶の声が上がった。
 それは体が作り替わることとは全く別の苦悶の声。

「あら、もう完全にゴブリンになってしまったんですね。そんなに私の料理をたくさん食べてくれて嬉しいです。くふふっ」

 一番先に料理に食いつき、真っ先にゴブリンへと全身を変えた男がその醜い顔をさらに醜くゆがませながら自分の体を掻き毟る。だが、それでも料理を食べることをやめられず、苦しみながらも料理に顔を突っ込むようにして料理に食らいついている。

「ちなみに、私の料理は魔物が大量に食べると激痛の中で死ぬ致死毒になってるんですけれど、死ぬってわかってるのに食べるのをやめられないのってどんな感じですか? って、聞こえてます? まぁ、喋れてもゴブリンじゃ、グギャグギャとしか言えないかもしれないですけどぉ」

 もうほとんどの人間がゴブリンへとその姿を変え、理性など完全に吹き飛んだまま料理を掻き込んでいく。

 食べれば食べるほどゴブリンへと近づき、ゴブリンに近づくほど料理に仕込まれている魔物殺しの激痛起こしの致死毒が身を削る。
 そのことを理性の搾りかすで理解しながらも食事の勢いは止まらない。止めることができない。その残った理性でさえガリガリと削られて思考が本能に刻まれた食欲だけに染まっていく。

 そんな元奴隷と奴隷商のゴブリンたちの姿にミナリスは心が解放されていくような心地よさで満たされていく。

「くふふははははっ!! 死ね死ね死ねっ!! 苦しんで苦しんで、それでも抗えないまま苦しみ抜いて死んでいきなさいっ!! お母さんが死んだ時みたいにやすりで削られた後みたいに惨めで無様な最低の姿で死になさいよっ!! アハハッ、アハハハハハハッ!!」

 もう元の姿が完全に分からなくなったゴブリンが苦しみながらも料理に首を突っ込んでいるのを見て、ミナリスがその後頭部をグリグリと踏みつける。

「ほらほらほらっ、まだ食べられるでしょうっ!! くふはっ、くふっはははははっ!!」           

 狂喜と愉悦に浸りきったミナリスの哄笑はその後もしばらく鳴り響き続けた。
 ゴブリンたちの悲鳴が鳴りやみ、沈黙が訪れるまで、ずっと。

            ☆

 その日、スラムの一角にあった奴隷商が人知れず潰され、人間が消えた。
 数日して人気のないその奴隷商に盗み入り込んだ人間が気が付くまで、その建物は無人のまま放置されていた。

 盗みに入った人間が見たのは、檻の中で大量に折り重なり、腐りかけて強烈な異臭を放つゴブリンの死体の山だけだった。
 
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