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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第15話 勇者、共犯者と笑う

「ただ殺すだけなんてダメ、苦しめて、痛めつけて、泣き叫ばせて、それからゆっくりと、ねぶり尽くすように壊して壊して壊して、壊し尽くしてからじゃないとダメ。ただ殺すだけなんて、そんなのもったいなさすぎるもの」

 どこか壊れたように笑う少女の言葉に釣られて、自らの口の端も吊り上がる。

「今、俺はお前の前に二つの道を用意してやれる。ひとつは、俺とお前がただの奴隷と主人の関係で終わる道。こちらを選べば、お前を買った目的を果たすころには一人で生きる力と多少の金、奴隷からも解放してやる。上手くすれば残りの人生、幸せになれるかもな」

「………」

「擦り切れた熱の塊を、痛みに慣れて押しつぶし、胸の奥底で全部なかったことにして切り捨てて、綺麗なまま、笑える未来が来るかもしれない」

 愚にもつかない戯言だった。俺も彼女も、そんな未来を望んでいない。
 それでも、きちんと言葉にしてそれを告げる。そうなってしまうかもしれない可能性を告げる。
 今後の自分がどうなるのか分からない。その可能性がよかったと、復讐を、報復を考えずに生きてよかったと思えるようになる日が来るのかもしれない。

 だからこそ話す。これから話すもう一つの選択は、その可能性を押しつぶす選択なのだから。

「それから、もう一つは、俺の仲……、味か……」

 仲間? それとも味方? 
 どちらの言葉も口に出る前に形を成さずに止まる。

「ハッ、………どっちも違うだろ、俺」

 代わりに漏れたのは、無意識の独り言だった。

 仲間? 味方? そんなものは求めちゃいない。
 そんな薄っぺらな繋がりが、この関係の名にふさわしいわけがない。
 そんな甘っちょろい繋がりが、この結びつきの名にふさわしいわけがない。

 だからきっと、この契約の名前は、これがふさわしい。
 綺麗な世界で綺麗に生きることを拒絶され、拒絶した者が選ぶ名。
 正しく善ではないだろうこの(ふくしゅう)を遂げる者の名。

「俺と同じ、復讐に取りつかれて、復讐を楽しむ『共犯者』になるかだ」

 そういって、宙に差し出した手に心剣の構築を始める。

 黒い光が集まるようにして形を成したその剣は、50センチ程度の両刃の直剣だった。闇色の炎のような形をした刃と血のような紅いつなぎの文様が絡みつくように描かれている。
 そこには暗い闇の底をのぞき込むような底なしの禍々しさと、背筋の凍りつくような断罪の神々しさが共存していた。

 俺の意思一つで戦闘向きのロングソードへと形を変えられるようだが、今回の用途にはこちらの形態である必要があるのでそのままにする。初めて具現化した【復讐の聖剣】の柄を握り、少女の手枷と足枷を切り裂くと少女の目の前の床にその剣を突き立てた。

「前者を選ぶなら背を向けろ。後者を選ぶなら剣を取れ。だが、覚悟しておけよ、その剣を取れば、お前は帰り道を失う。二度と綺麗なだけの世界に戻れない穢れを背負うか、復讐を果たせず朽ちるしか道はない」

「…………」 

「その剣はお前のその熱を魂に焼き付けたまま消えない炎に変える。何が起ころうと復讐を全てに遂げるまで、決して復讐を諦めることはできなくなる。それから、お前の復讐相手と、俺の復讐相手が共有になる。要するに、復讐する相手が増える。お前が憎む誰かのように、俺が憎む相手をお前も憎むようになる。逆もしかりだ。あぁ、後はうまくいけばお前の素質に見合った固有技能を覚えるらしいぞ」

「…………あなたは、私を裏切りますか?」

 それは、暗い、暗い、どこまでも底抜けに空虚な瞳。

 あぁ、わかっているよ。
 裏切らないなんて脆い口約束が欲しいわけじゃないことぐらい、知っているさ。

「この契約を結べば互いに互いを傷つけることができなくなる。口約束なんて弱いつながりじゃないぞ、お前が死ねば、俺も死ぬ。俺が死ねば、お前も死ぬ」

 ピクリと、少女の瞳が反応した。

 これは俺が裏切らないと同時に、コイツに裏切らせない制約だ。
 俺だって二度と裏切られるのはゴメンだ。そして、誰かを裏切りアイツラと同じになるのもゴメンだ。
 この能力がなかったら、俺はそもそもこんな話を持ちかけてはいない。

 言わねばならないことを言い終え、剣の柄から手を離した。

「もちろん、お前が剣を取らずに一人で復讐するって道もあるぞ。俺の復讐相手は多いし、わざわざ復讐したいほど憎い相手が増えるのもデメリットと言えばデメリットだからな。ま、俺としてはお前が共犯者になってもらえるならうれしいけどね」

「……どうして?」

 奴隷の少女は疑問の声を発した。
 だが、少女が疑問になど思っていないことは分かっていた。これはただの確認なのだ。
 自分と同じような相手が、自分と同じことを考えているかどうかの答え合わせ。
 だからこそ、狂気じみた笑顔を隠さずに俺は笑って言葉にする。

「決まってるだろ? 一人より二人のほうが、より楽しい復讐を思いつくかもしれないじゃないか。人数が増えればそれだけもっとあいつ等を苦しめて壊して磨り潰すのにたくさんの手間をかけられるだろう? ただ殺したいだけの奴なら、俺の復讐の役には立たないからいらない(・・・・)。けど、君は違うんだろう? なぁ?」

「クッ、アハハハハッ!!」

 そうして少女もまた、そんな俺に心底嬉しそうな、同種の笑みを浮かべていた。

「いいですね、なるほど共犯者ですか。ああ、確かに貴方となら、きっといい復讐になりそうです。私が一人でするよりも、ずっと深くアイツラを絶望させられそうです」

 笑い終えた少女は、まるで聖母が浮かべるような綺麗な微笑みで、けれど、目だけに狂ったままの光を湛えていた。 

「ならもう、考える余地なんてありません。復讐心が消えなくなる? 最高です、燻る火に焼かれ続けるまま、忘れたふりをしてあの綺麗なだけの日々に戻る? ありえません、そんな反吐が出るような日々に戻る可能性と比べたら、復讐相手が増えるくらい、何の問題もないことです。共犯者になって復讐をよりよいものにしてくれるなら、なおさら言うまでもないですよ」

「なら、剣を握るといい。やり方は、剣が教えてくれる」

 そういうと、少女は目の前に突き立った【復讐の聖剣】の柄を握って引き抜いた。

 瞬間、【復讐の聖剣】が、暗く、なのに目に焼き付くような揺らめくような光を放つ。
 それは少女の復讐心を認めた証。少女の復讐を祝福するための光。

「ああ、そういえばお前の名前、まだ聞いてなかったな」

「名前ですか? 私の名前は、ミナリスです」

「そうか、俺の名前は宇景 海人(うけい かいと)だ」

「ウケイ・カイト……、それが、私のご主人様のお名前ですか」 

 そう言って少女、ミナリスは初めて狂気ではない光をその目に浮かべて微笑んだ。
 そうして、自分の胸元付近にその【復讐の聖剣】を引き寄せた。

「これからよろしくな、俺の共犯者(ミナリス)

「ええ、よろしくお願いしますね、わたしの共犯者(ご主人様)

 ミナリスは引き寄せた剣の剣先を自分の胸に向けると、そのまま自分の胸へと深く突き刺したのだった。 

 
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