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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第11話 勇者、ラリって、寝過ごして、交渉する

「ララ~ランッ♪ ランッランッ♪ ラ~ララララン♪」

 朝。暗い闇色に染まっていた空が段々と白じみ始める頃、その微妙に調子っぱずれな様子で口ずさまれるメロディーは不気味なハイテンションに押されて王都の宿の一室に響き渡っていた。

「ララァッ、ラランラン♪ ラララッ、ララッ♪」

 結局、思ったよりも難易度が高かった数々の工程のせいで三ヶ月ぶりのベッドを諦めた俺は半ばヤケになりながら、その苛立ちも復讐心に上乗せしてMPポーションをガポガポ飲み干しながら作業を進めた。

いろいろあったにもかかわらず、体の疲れも精神の疲れも『なにそれおいしいの?』とばかりに徹夜で集中力を要する作業に没頭した結果、山場を越えて複雑な作業がなくなった途端に謎のハイテンションモードに突入していた。飲む必要もないのに残っていた下級MPポーションをすべて一気飲みしてしまうくらいには頭がイカれていた。

精神状態がやばい感じになってるのを自覚しながら、それでもドパドパと溢れ出るアドレナリンを頼りに突っ走って出来上がったネックレスを掲げ、うろ覚えのラ○オ体○の歌を歌いながら体を解した。太陽を浴びればそのうち徹夜明けのテンションも解れるだろう。

「『うるっせええぞっ!! 今何時だと思ってやがるっ!!』」

「うおっ、す、すんません……」

 突然壁越しにガンッ、と殴られる音がして一気に正気に引き戻された。宿に泊まるなんて本当にしばらくぶりだった上、逃亡生活の最中は長い間ずっと一人だったのでこういった面での他人の迷惑などマルっと忘れていた。

このレベルの町の宿の壁の薄さでは、調子っぱずれな自分の歌も聞こえていたのではなかろうか。やばい、何だこれ死ぬ、はずかすぃいいいいいい!!!!!!

「『だからうるせぇっつってんだろっ!!』」


ベッドの上にダイビングしてゴロゴロしているとまたもや壁ドンされてしまった。
どうやら完全には正気に戻れていなかったようです。想像力がストライキです。いや、本当にごめんなさい。絶望したのでちょっと寝ます。

 久しぶりのベッドだったが、熟睡して寝過ごしてしまう訳にもいかない。町を出るための準備を済ませておきたかったのだ。

日が変わるまでは王女の命令もあって召喚場所に踏み込むことはないはずだが、さすがにもう気付かれて今頃は治療を受けている頃だろう。
 傷を負ってそこそこ時間が経っているはずなので治癒するにも時間がかかるはずだが、できる限り今日中には町から出ていきたいところだ。

少し未練がましい目でベッドを見ながら日が完全に上れば顔に陽の光が当たるような窓のそばの壁際に背を預けながら座って目を瞑るのだった。


                ☆


 豪快に寝過ごしました。まる。

………いや、だって、そんな急に曇るとか思わないじゃん。一度目の時のこと? 召喚された次の日の天気なんて覚えてる訳無いだろ。

 そんなわけで日もすっかり高くなり、昼にさしかかろうかという時間帯。
さっさと宿を引き払うと、町を出るための準備は後回しにすることにして、適当な屋台で昼飯を見繕って、昨日と同じくスラムの奥へと足を進めた。

見せしめ(・・・・)の効果もきちんと出ていたようで、本日はチンピラに絡まれることもなく目的地にたどり着く。

あの両替商が居た場所の前も通ったが、そこではまったく別の人間が両替商を始めており、俺の姿を見ると引きつった顔でぺこりと頭を下げてきたので、にこりと笑ってやったら何故かさらに青ざめた顔をしていた。
別に自分から喧嘩をふっかけたりはしないというのに。理由があれば別だけど。

 そんなこんなで何事もなかったかのようにすっかりと元通りになった(それどころか微妙に強化されていた)ガーゴイルたちの前までやってきて、またもや合言葉を知らないことに気がついた。

どうするかと考える間もなくガーゴイルたちは「「通れ」」と言ってきた。なんとも手回しのいいことである。

そうしてジュフェインの拠点に訪問すると昨日相手をした雇われ用心棒達からの視線が突き刺さった。

「別に襲われなければ襲いはしねぇよ。びびんな、用心棒だろうが」

 眉をひそめながらため息混じりにそう言ってやるが、相手が緊張を解くことはなかった。それは気を抜けば直ぐに殺されかねないスラムにおいては正しい対応ではあったが、緊張しようがしまいが(・・・・・・・・・・)どうにかなるレベルで(・・・・・・・・・・)はないのだから(・・・・・・・)、緊張して消耗するだけ損だと思うのだが。

まぁいいと昨日のように二階に上がるとそこではにこやかな顔でジュフェインが一人で待っており、机の上に金貨が詰まっているらしい袋が4つ程小分けにされて置かれていた。ひとつだけ小さい袋にはあまりの40枚が入っているのだろう。

「これでここに340枚分の金貨があります。確認されますか?」

「別にいい。抜く(・・)ようなセコイことする人間はその椅子には座ってないだろ」

 実際は数えるのが面倒というのが一番の理由だが、そこは適当に相手をおだてておく。

「それじゃあ、これがネックレスだ」

「どうもありがとうございます、いいものが手に入りましたよ。ん? ……っ、これは……」

 ネックレスを受け取ったジュフェインはなにかに気がついた様子だった。そこらの魔術師程度が見てもバレないようにかなりのレベルで偽装を施したのに、頭と勘の回る人間はこれだから扱いに困る。

「やれやれ、これでは王族と直接交渉は無理ですね」

「邪魔な貴族に押し付けてやれば面白いことになるだろう? それに、王族と直接交渉なんてリスクの高い真似なんて初めから考えてなかったくせによく言うぜ」

 一度目の話だったが、もともと王族、つまり現王や王妃、王女は必要悪としてスラムを黙認してはいるものの存在については否定的な考えだった。魔王が現れたという話が街でも噂になっていることで買い占め等による物価の上昇などが起こり、スラムの規模は増している。

直接交渉などに持ち込めば、どう考えても難癖を付けられてスラムを締め上げようとするのは明白だった。盗人の協力者だのなんだのと言ってスラムからは大量の犯罪奴隷が生まれ、王国の生産力として命を削って奉仕を強制されることになるだろう。

そんなことをすればどう考えても反乱の火種が出来上がるだろうが、王族であるだけで無条件にその地位が安泰であると考えている奴らのことだ。反乱を起こされるなど考えてもいないだろう。

ちなみに、一度目の世界でも俺に隠れて似たようなことをして反乱を起こされそうになった時に、タイミングよく魔王を討伐した俺の指示だったということにして、その矛先を俺に擦り付けてきたので同じようにする可能性が非常に高い。矛先が俺から誰か別の人間に変わるかもしれないが。

「とはいえ、有力な貴族に恩を売る方向は俺が潰したわけだからな。迷惑料代わりに金貨20枚、ちょっとした頼みごとを聞いてくれるならさらに追加で金貨20枚支払うけど?」

「私としては迷惑料も追加もいらないのでどうやって一晩でここまでの改変を加えたかの方を教えていただきたいですね」

「残念ながら企業秘密だ。それで、やってくれるのか?」

「話も聞かないうちから返事はできませんね」

 ジュフェインが小さく肩をすくめる。

「ごもっとも。別に難しいことを頼みたいわけじゃない。この前の金貨に擬態していた錬金生物みたいな目を用意して欲しい。城で起こるだろうことを幻影像記録を記録して鳥あたりに化けて俺のところに戻ってくる使い捨てがいいな」

「出処がバレれば私の被害が大きいですねぇ。追加分は金貨80」

「そこはお前の腕の見せどころだろ、金貨30」

「いえいえ、可能か不可能かということではなく、失敗時のデメリットが大きいということですよ。金貨70」

「ちっ、どうせこれと同じような手で貴族の情報を集めてたりするんだろ? それが王族になるだけの話だ。金貨50」

「貴族にするのと王族にするのではリスクが違いすぎると思いますよ。金貨60。あぁ、段々と晴れてきましたね」

と、そこで交渉中はずっとこちらを見ていたジュフェインが一度にっこりと笑うと窓の外に目をやった。これ以上は引かない、という意思表示だろう。

「………わかった、それでいい。本当にがめついクソメガネだ」

「褒めても何も出しませんよ? 交渉成立ですね、では」

 こちらをおちょくるように笑ったジュフェインは、そう言って袋の一つを開けると机から取り出した空の袋へきっちりと40枚数えて金貨を移す。

端数を詰めている小さい袋と合わせてちょうど80枚、迷惑料の20枚と交渉結果の60枚がきちんと回収された計算だ。

「そして、これが『覗き目』の受信機です。上手く起動すれば丁度ステータスボードのように送信側の『覗き目』が記録した映像とリンクして映像を表示するようになってます」

 ジュフェインが置いたのは金色の金属の質感を持った液体が入った小瓶だった。

 封をされた小瓶を摘み上げてバッグにしまい込む。

「ったく、なんで今さっき頼んだブツ(・・)がすぐさま出て来るんですかねぇ」

「残念ながら企業秘密ですね」

 先程の仕返しとばかりに嫌味なほど完璧な作り笑顔でジュフェインが笑う。

「はぁ……、それじゃあな、もう二度と会わないことを祈るよ」

なんとなく、無理だろうなと思いながらも悪態をついた。

「それは寂しいですね。私としてはまた来ていただいても構わないのですが」

 どこまで本気かわからない調子でジュフェインが言う。

 何を返しても気にもせずに笑うジュフェインの姿が想像できたので特に何も言わずにその場を去った。なにか負けた気がするのは気のせいということにした。

なんにせよ、ジュフェインならば上手くやるだろう。
計画がうまくいくかはジュフェイン並に気が付くやつが王城にいるかどうかにかかっているが、一度目ではずっと肌身離さずに居たネックレスだ。思い入れがあるのか、なにか特別な理由があるのかは知らないが王女の性格から考えて確認もせずにすぐ身につけるのではないだろうか。

そうすれば……。

「クックック、うまく嵌ってくれればいいなぁ」

 本日も本日として大変ご機嫌である。逃げて逃げて逃げ延びて、ただただ生き延びることだけを考えていた逃亡生活。四六時中、周囲に気を張って余計なことなど考える暇もなかったこれまでの一年では味わえなかった充実感。

二度目の人生が続いたことに感謝をしながら、王女の苦痛に歪む顔とその時にそばにでいるであろう王や王妃、騎士たちの表情を思い浮かべてルンルン気分でスラムの道を歩いていく。

「あぁ、復讐(これから)のことを考えられる生活ってのはいいもんだなぁ」

 
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