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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第一章 

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第10話 勇者、戒めて考察して悪巧みする

両替商の筋肉ダルマに全ての硬貨を溶かして流し終える頃には、あたりはすっかりと夕焼けに染まり始めていた。あと一時間もすれば完全に日が落ちるだろう。

男はちょうど最後の一枚を飲み込ませたところで力尽きたように気を失った。今は足元でビクビクと痙攣するだけになっている。

まぁ、フォースアップも最後まで切らしていなかったようだし、放って置けば助かるかも知れない。こいつにわざわざ治療を施してくれるような繋がりがあればの話だったが。

「ふむ、ここで俺が止めを刺すのはフェアじゃないな」

 コイツの行動にアイツ等に騙され、裏切られた記憶が刺激されてかなりの苛立ちを持って行動に移したが、だからといって、コイツがやったことについてはちゃんと『硬貨を全部食えば許す』と宣言したのだから、きちんとそれは守ろう。ここでただ感情を納得させるためだけ約束を破って力を奮えば、それは自分のために俺を裏切ったあいつらと同類になってしまうだろう。

コイツが復讐の邪魔になるかと問われればそんなことはない。なら、コイツ自身がやったことについて精算をつけたなら、これ以上は『報復』ではなくなってしまう。

俺は復讐者になったのであって、殺人鬼になったわけではないのだから。

ただ殺すことに快楽を感じるようになれば、きちんとした復讐を遂げる前に俺は死んで、別の何かになってしまうだろう。
そんなことは許容できない。俺は必ず『復讐』してやると誓ったのだから、一線を引くところを間違えてはならない。

憎しみをぶつけるのはあいつらなのだから、2度目でも対象を間違えるなんてことは、絶対にあってはならないのだ。

「とはいえ、人間案外死なないもんだなぁ……」

正直、最後まで生きていられるとは思っていなかったが、思ったよりも筋肉ダルマは頑丈だったようだ。てっきり20枚目を越えたあたりで死んでしまうと思ったのだが。

見せしめ(・・・・)にするという打算も兼ねてわざわざ周りの恐怖を煽るようにやったのだが、敵対した相手を殺しきらないで放置ではスラムの中では微妙に甘い対応だと言わざるを得ない。

 とはいえ、回復などはするつもりはないので今も遠巻きに隠れてみているスラムの人間に集られる(・・・・)かもしれないが、そんなことは知ったことではない。あくまで先ほどの件を『許すといったから許した』というだけでしかないのだ。コイツがこのまま死のうがどうしようがもはやどうでもいい。結局コイツも、この国の人間なのだから助ける義理など存在しない。

 幻術が解けた硬貨たちからきっちりと大銀貨5枚、銀貨23枚、大銅貨20枚を拾い上げ、金貨が入った小袋にまとめて入れる。

パンパンになったその袋をポケットにしまい、再び歩き出した。その男がその後どうなったのか俺が知ることはなかった。


              ☆


「さて、と」

 表通りから1、2本脇道に逸れた町の端。

適当に選んだ宿の中に入り、脇に抱えるようにして持っていたケースを床に置く。ここに来るまでに買った20本程度のケースはガラスの瓶の擦れるカチャカチャという音を鳴らした。

瓶の中に入っている青い液体は大銀貨4枚を使って道具屋で購入した下級MPポーションである。

「まずは、ステータスの確認をしておくか、気になることもあるし」

 そう思ってステータスをまず開きなおす。

この世界ではステータスの上昇方法が三つある。

ひとつはいわゆる筋トレや修行と呼ばれる行為で基礎的な値を上げる方法だ。

筋トレをすれば力や敏捷、耐久と言った身体能力が向上するし、魔力も毎日ギリギリまで使い続ければその許容量が向上する。ただし、無視はできないにしてもその上昇率は高くない。

これはやればやるほどステータスが上がるわけではなく、種族的な限界が存在するものだったが、ドラゴンなどが低レベルでも強いのはこの種族に関する補正が大きい。

次がスキルによる補正である。スキルにはいわゆる【パッシブスキル】と呼ばれる常時発動型のものと、【アクティブスキル】と呼ばれる随時発動型のものが存在する。例外が存在しないわけではないが、基本的にはこの二種類に分けられる。

この中で【パッシブスキル】はステータスを向上させるものも存在する。『筋力強化』や『耐久強化』など何のひねりもないスキルがその代表格だ。そのほかには『HP回復強化』なら追加でHPに補正が。『消費魔力軽減』なら魔耐などのステータスに補正が掛かる。

 話を少し逸らすと、これらの【パッシブスキル】は『天駆』や『飛脚』などのHPやMPなどの値を使用して発動する【アクティブスキル】と呼ばれるものとは違い、ただの発動の反復では習得もスキルのレベルが上昇もすることはない。

これらの【パッシブ】系統のスキルには個々にレベルを上げるための条件が設定されていて、例えば、今日手に入れた『追跡 Lv2』のスキルには取得に【追跡対象に気づかれずに10分以上の追跡を行うこと】という条件がある。ちなみに補正は敏捷にプラスがかかる。

俺の心剣はというと、分類上、パッシブとアクティブの両方の側面を持つ。
心剣を武器として使い、特殊能力などを扱うところは【アクティブスキル】と言えるだろうが、条件を満たして解放さえしてしまえば剣によっていろいろなパッシブの能力が付く。
例えば、【翠緑の晶剣】であれば、体力、耐久、魔耐に補正があり、【火蜘蛛の脚剣】には敏捷と耐久に補正が付く。

ただし、心剣の補正は『+50』などの加算方式であるのに対し、スキルの方は%による上昇なので、レベルが上がって基礎値が上がってくるとパッシブとしての性能はおまけのようなレベルにはなってくるが。

そして、話を戻してステータスを上昇させる最後の方法がレベルである。
筋トレや修行と同じように基礎値が上昇するが、その上昇率はそれらとは比べ物にならない。

レベルを上げる方法は経験値を貯めるしかなく、経験値は『意思・本能を持った生物・物体を殺すこと』で手に入れることができる。もちろんそこには人も含まれており、相手のステータスが高いほどもらえる経験値は多くなる。

実はもうひとつ、ステータスに補正が入る要素があるのだが、それは一般的に知られておらず、知っているものもその情報を開示しようとはしない理由があるので、今は省略する。

 ということで、チンピラ6人と、ガーゴイル2体分の経験値が(ジュフェインの屋敷にいた用心棒たちは無事だった仲間たちがポーションで回復していたから死んではいないはずだ)、俺には入ってきているはずである。しかし、

「……LV1のままか。なんでだ?」

チンピラ6人を殺したときは思ったよりも低レベルな相手でステータスが補正のかかった今の俺よりも低いのかと思って気にもしなかったが、ジュフェインの屋敷で戦ったガーゴイルたちはどう考えても俺以上のステータスがあったのは明白である。通常状態での腹パンが完全に効いていなかったのがいい証拠だ。これでレベルが上がらないのはさすがにおかしいと、ステータスの『レベル』と書かれた部分をタッチする。

そして表示されたウィンドウを見て、目頭を押さえて軽く俯いた。

===============================

 現在レベル: 1

獲得経験値 -20000/150

獲得した経験値残量  1012
===============================

「地球の女神さまよ、確かに、時間経過で退行処理するって書いてあったけどさ、でもさ。マイナスはないんでないの?」

 思わず呻くように言ってしまった。軽くため息をついて頭を切り替える。

現在レベルと獲得経験値の表示は以前からあったものだが、その下の『獲得した経験値残量』というのは今までにはなかったものだ。なんとなくどういうことかは予想がついたが、確認のためにも一度そこをタップしてみる。

===============================

 獲得した経験値の配分量を決定してください。

 残量  1012

 【000000】    YES/CANCEL

===============================

「やっぱりか」

 数値の入力欄のところをタップするとダイヤル表示がでてスクロールで動かせた。これで経験値の配分を決めるようだ。おそらく、心剣が封印され、解放するのに経験値が必要になったせいで変更になったのだろう。

とりあえず、これはしばらくはレベルが上げられないのはわかった。経験値の負債の量が多すぎて、しばらく狩りをしなければレベルが上がらない。レベル差があってもステータス差がないともらえる経験値は少なくなってしまうので、レベル的には格上でも心剣の効果でそこそこのステータスがある現状、あのガーゴイルのようなうまい(・・・)獲物がいないとそうそう経験値を貯めることはできないだろう。

一度そのタブを閉じると、今度は心剣のタブをタップした。

ザッ、とリストを見てもう一度使える心剣を確認する。

「今使えるのは、【始まりの心剣】、【火蜘蛛の脚剣】、【翠緑の晶剣】、【魔繕(まぜん)鈎刃(かぎば)】、そして、【復讐の聖剣】か」

ほかの心剣も能力を段階的に解放するのに3000からの経験値が必要になっていて、最優先で解放しなければならないと思われる心剣は必要な経験値の量が多い。考えるのは後回しである。

しばらくの間は主な武器になるだろうそれらを、一つ一つ、その心剣がどんな性質を持っているかを確認し直していく。

「復讐の聖剣、なるほどねぇ……」

 2度目になってやたらと悪意や敵意と言ったモノに敏感になったのはこの剣のパッシブ能力の効果だったようだ。どうやらそういったものを向けられると第六感的に本能で知らせてくれるらしい。その他にも記されている能力について目を通していく。

 一番下に表示された取得条件は【1:信じていた者、10人以上に対し絶対の意思を込めて復讐を誓うこと。2:復讐の対象から一定以上の累計ダメージを与えられること】だった。

だから、殺される直前になってこの剣を手に入れたのだろう。

「そういえば、あれはどうなってるのかな」

 一通り能力を確認し終わったあと、もう一度心剣のリストを下にスクロールしていく。

そこには【???????????】と表示がされた謎の心剣。

俺が、彼女を、魔王を貫いた後にいつの間にかひっそりと加えられていたもの。

2度目になってもその文字が変わることはなく、触れても何も表示されることはない。

ほかの心剣とは違い、経験値による封印がかかっているわけではないらしく、鍵マークも表示されてはいないが灰色に沈んでいるのはそのままだった。

「とにかく、あんまり楽観視はしてられないな……」

 今のステータスのままだと、王都の騎士70人ぐらいに囲まれるとジリ貧になってやられてしまうだろう。
 経験値で上げるのはまだ掛かるにしても、スキルの習得など、早めに自己強化を目指すべきだ。油断ができる状態ではない。

「ならやっぱり明日、買いに行くか。町を出るときも役に立つだろうし」

 いくつかこれから町を出るのに必要なものを頭の中でまとめる。

そうして、雑事を全部終わらせてから今晩のメインイベントに取り掛かる。

テーブルの中央にネックレスを置き、体の左手には直ぐに飲めるように下級MPポーションを準備する。そして、右手には、刀身の代わりに細く伸びたトゲの先端が鉤爪状になった【魔繕の鈎刃】を握る。

「あぁーあ、直接この目で見れないのは残念だけど仕方ないかぁ。あ、いや、クソメガネに依頼すれば、気付かれずに映像送ってもらえるか?」

 些細な(・・・)嫌がらせ程度の計画だが、この計画が成った時の王女や王、王妃の顔はぜひこの目で確認したい。ちょっと演出過多な方向性で調整すればいいアシストにもなるだろう。

それに、王と王妃に関しては実際に接した時間が短すぎたのでどういう復讐が一番効果的になるのかが未だに判然としていない。少し危険なことには変わりないが、それでもやはり情報は得ておくべきだろう。

クソメガネに頼むことが増えるのは若干シャクだったが、この際仕方がない。復讐の糧になるのならアイツに頭だって下げてやる。
 
「しかし……、クククッ」

企みが成功した時のことを想像して上機嫌に笑う。

色々とあったので正直疲れがないわけではないが、今は休むよりもこちらのほうが優先だ。というよりやらないと眠れない。

俺は【魔繕の鈎刃】に魔力を流し込むと、ごきげんな鼻歌を歌いながら作業を進めていくのだった。
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