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  神喰らい 作者:新殿 翔
帝国入り
 王国と帝国との国境には大きな山脈が横たわっている。

 俺達は今、その山道で馬車に揺られていた。

 が、王馬達の脚が止まってしまった。

 何故かと思って辺りを見回して、理由はすぐにわかった。


「……なあ、ライスケ」
「なんだ、ヘイ」
「あれ、何に見える?」
「鳥。人一人くらいなら丸のみできそうなくらいに大きい」
「……」


 空から魔物が飛んできていた。

 王馬達はそれにいち早く気付いていたのだろう。


「って、のんびりしてる場合じゃないだろ! 姫様! ウィヌスさ――ひぃっ!?」


 いきなり空中に現れた水の槍がヘイの頬を掠める。何故だか知らないけれど俺の後頭部にも水の槍がぶつかって砕ける。

 メルが心配そうにしているので「大丈夫だ」と言っておく。


「うるさいわね……折角寝ていたのに。あんな魔物くらい自分でどうにかしなさいよ」


 馬車の中からウィヌスの返事が返ってくる。


「相手空飛んでるんですけどっ!? 俺、剣しか使えませんからね!?」
「頑張れ」
「頑張って剣が空に届いたらすごいなぁっ!」
「私相手にそんな軽々しい口調を許した覚えはないわよ」


 水の槍が今度は二本ヘイに飛ぶ。


「すみませんすみませんすみませんっ!」


 誤りながらヘイは水の槍を避けた。


「……ヘイ」


 次に、イリアの声が聞こえた。


「ひ、姫様!」
「今回ばかりは、仕方ない」
「た、助けてくれるんですか、姫様! やっぱり俺姫様についてきてよかったです!」
「お前の隠された能力を開放することを許す」
「んなもんあるかぁああああああああああ!」


 ヘイが頭を抱えた。

 ……なんて、いじられキャラなんだ。

 ヘイは一体どんな星の下に生まれたというのだろう。

 というか、そんなことしているうちに鳥の魔物が目の前までやってきていた。

 ……仕方ない、か。

 本当はウィヌスかイリアがやってくれれば、俺としても一番だったのだが……二人が一度やらないと言ったのなら、梃子でもやらないだろう。あの二人はそういう人間――と神だ。

 溜息を吐いて、水の鞭をつくって地面の大きめの石を手元に引き寄せる。

 気持ち悪いな……やっぱり。


「ライスケさん?」
「ん……ああ、なんでもない」


 また顔色でも悪くなっていたのか、メルが声をかけてきた。それに出来るだけ平静を装って応える。

 ……というか、この状況で恐れの色一つみせないなんて、メルも大分変ったな。

 単に異常事態に慣れてしまっただけなのかもしれない。


「……」


 狙いを定めて、石を投げる。

 と――力加減を間違えて空中に投げられた石が粉々になってしまった。

 しまった……と思ったのも束の間。

 鳥の魔物の身体に、無数に砕けた小石が次々に突き刺さる。

 散弾みたいになってしまった。

 そのまま鳥が悲鳴をあげながら地面に落ち……動かなくなる。



 どろり、と。



 身体の中に何かが入りこむ感触。


「――っ、」


 思わず口元を押さえる。

 吐き気が止まらない。

 久しぶりに命を喰らったが……やっぱり、最悪だ。


「ライスケさんっ!」
「ライスケ?」


 メルとヘイの声。


「……問題ない。少し気分が悪くなっただけだ」
「少し気分が、って顔じゃねえぞそれ。死んだ人間みたいに青いじゃねえか」


 そんなにか。


「本当に、気にするな。いつものことだ」
「……」
「メル、出してくれ」


 いつまでも魔物の死体を見ていたくはなかった。


「で、でも少し休憩した方が……」
「頼む」
「……はい」


 メルが手綱を操って、王馬達に歩きださせる。

 馬車は鳥の魔物の身体を避けるように先に進んだ。

 死体と馬車がすれちがうとき……魔物の死んだ眼を見て、吐き気が増した。



「……それで、ライスケは何者なんだ?」
「藪から棒ね」


 尋ねると、ウィヌスが片目だけ開けてわたしを見た。


「ライスケの素性が気になる?」
「正直に言えば、な。別に悪人だとは思っていないが……一緒に旅をする仲だ。いつまでも黙っていられるというのは、少しな」


 さっきのライスケの攻撃。

 石を投げた時、絶対に魔力の動きはなかった。私の魔術師としての矜持全てを賭けて断言してもいい。

 ならば、あれは人の肉体で撃ち出せるようなものか?

 断じて否だ。

 人間が投げた石が魔物を絶命させるなんて、馬鹿馬鹿しい。

 だが、その光景が目の前にあった。

 馬鹿馬鹿しくても自分の目で見てしまったのだから仕方ない。事実と認めなければならないだろう。

 ならば、それを行うライスケとは何者なのか。考えずにはいられない。

 それに、ちょっと引っかかるところもある。

 ライスケは悪人の目はしていない。

 だが……時々、まるで自分を責める大罪人のように見えてしまう時があるのだ。

 それはどういうことなのか。


「それで、貴方は私からライスケのことを聞いて満足できるのかしら?」
「む……?」
「姑息よね。本人から教えてもらえないなら、私に教えてもらえばいいとでも思ったの?」
「……むぅ」


 言われて、気付く。

 なるほど。姑息だ。


「やはりいい。聞かない」
「そう……」


 そうだな。やはりライスケ本人から聞かねば意味がない。

 まったく……何故こんなにも答えを急ぎ求めてしまったのだろう。

 いつか、こうしていればライスケから話してくれる機会もあるだろうに。

 ……ああ、そうか。

 嫌な予感がしたのだ。

 なにか、ライスケが我々とは違う道を行ってしまうのではないか。そんな予感が。

 ――まさかな。

 気のせいだろう。


「一つだけ、忠告しておくわ」
「……?」
「ライスケの正体を知った時に恐れたら、もう貴方はライスケと一緒にはいられなくなる。それだけは、覚悟しておきなさい」
「――……胸に刻んでおこう」



「……この先に検問が敷かれてる?」
「はい」


 馬車を走らせていると、不意にメルがそんなことを告げた。


「なんでそんなこと分かるんだ?」
「私、ウィヌスさんから植物と話せる加護を貰ったことがあるんです」


 ヘイの問いにメルが答えた。

 あー。そういえば、そんなこともあったっけ。

 今の今まですっかり忘れていた。


「それでさっき樹達が言ってたんです。この先に沢山の帝国の兵士がいる、って。多分それ、検問ですよね?」
「だな。帝国は今国内が安定してないし、検問してても不思議じゃないが……どうします、姫様?」


 馬車の中にヘイが声をかける。


「そんなもの、検問という名の税関だろう。まともに相手をする必要はない」
「え……突っ切るんですか?」
「誰がいつそんな事を言った。貴様は私をどんな風に見ているんだ。暴君か何かか」


 ……俺も突っ切るのかと思った。そしてイリアは普通に暴君だと思う。


「とりあえず、そのまま検問は通り過ぎろ。安心しろ、私がどうにかしてやるから」
「はあ……」


 そうしてしばらく走っていると、数名の兵士の姿が確認できた。


「あれか」
「姫様、どうするんです?」
「そのまま真っ直ぐ進め。止まるなよ」
「え、それじゃあ止められるんじゃ……」
「いいから。いいな、メル?」
「は、はい」


 そのまま馬車は検問を通り抜け……え?

 あれ、なんで兵士が一人もこっちを見てないんだ?


「馬車の姿も、音も、あちらには認識できないようにしただけだ。この程度、造作もない」


 ……魔術って便利なんだな。



 こうして。

 俺達は、帝国に入った。



「あら。随分と優秀な魔術師を乗せているのね、あの馬車」


 検問を一つの馬車が通り過ぎていくのを眺めて、小さくつぶやく。


「……?」


 と、不意に馬車から不思議な感覚が伝わってきた。

 なにかしら、これ。

 ……まさか、あの馬車に同胞でも乗っているのかしら。

 本当に、まさか、よね。

 苦笑する。

 我らが同胞がこの程度の気配なわけがない。

 この気配は……。

 ――駄目。分からない。


「少し気になるわね」


 同胞でないにしろ、この不思議な感覚には興味を惹かれた。

 少し、後を追ってみようかしら。

帝国に入りましたー。
次のエピソードが思いつきません。
やっぱりメルの家族と出会う前にワンクッション入れたいなあ。


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