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  神喰らい 作者:新殿 翔
予選の日

 きてしまった……。

 俺は広い舞台の端に立って、天を仰いだ。


『皆さま、お待たせしましたっ!』


 魔術で拡大された声が場内に響きわたる。

 それに、歓声が生まれた。

 喧しいくらいの多重奏が、空気を震わせる。


『これより、第二十七回、クルーミュ闘技大会の予選を開始します!』


 ボルテージが上昇する。

 だが、俺はそれとは正反対で、完全に意気消沈している。

 クルーミュ祭の開会式が終わって、昼食時。

 都市の東にある巨大な円形の闘技場の真ん中の舞台には、俺とウィヌスが立っていた。

 ちなみにウィヌスは果物片手だ。

 闘技大会が始まったのだ。正確に言えば、その予選が。

 ……人目が多い。

 まずウィヌスの格好や容姿は、人の目を引く。咥え、俺達の年齢だ。ウィヌスは見かけ十八そこらだし、俺は十五だ。闘技大会に出る年齢としては、これは異例だろう。

 正直、向けられる視線の中には「ガキに用はねえんだよ」的なものもあるのが、さらに気力を削がれる要因になっている。

 まあ、不幸中の幸いといえば、ウィヌスが人を下手に傷つけないと約束してくれたことだが……こいつのことだから約束を破ったりしないだろうか。

 ……その時は俺が止めればいいか。

 溜息。


『それでは予選のルールを軽く説明しましょう。今回の戦いでは、計八十三組百六十六名の参加者が集まりました。その中で本戦に勝ち進めるのは十六組のみ! 予選では一回の戦いが約五組の選手達による混合戦となります。勝利条件は簡単、他を場外、気絶、降参させることです。なお、この戦いでは一組二人が運命共同体となります。片方でも倒れた場合、即失格。是非ともご協力し、強敵を撃ち倒してください! そして一番の注意事項ですが、今回の大会で、もしも人を殺めてしまった場合、その選手は失格となりますので留意してください』


 舞台には、俺達以外にも四組の選手達が立っている。

 どいつもこいつも、視線は俺達を見ていた。

 やれるやつからやる、とでも言うつもりか。

 ……まあ、それならすぐに終わるだろうからいいけど。

 なんとなく予想してみる。

 ま、十秒、かな。


『それでは、つまらない説明は以上とし……選手の皆さま、準備はよろしいでしょうか?』


 各々が持つ剣やら杖やらを握り締め、選手達が頷く。

 徐々に観客の歓声が収まってきた。

 代わりに訪れるのは、張り詰めた雰囲気。

 そして――、


『試合、開始!』


 八人の選手が吹き飛ばされ、場外になった。

 舞台に残ったのは、俺とウィヌスだけ。

 一瞬だけ翼を出して衝撃波を生み出したウィヌスは、それを当然のような顔で見てから、果物を一かじり。

 静寂。

 観客も、選手自身も、そして恐らくは解説者も……誰も彼もが何が起きたのか理解できない、という顔。

 少しして、観客席からざわめきが生まれる。


『し、試合終了! 勝者はウィヌス、ライスケのお二人です!』


 そのざわめきが、甲高い歓声へと変化する。


「……天の魔術師とか、いないかしらねえ。つまらないわ」


 その中で、舞台から去ろうと身をひるがえして、ウィヌスがぽつりと呟いた。


「やめてくれ。俺はもうあんな剣向けられたくない。こんなところで再会してたまるか」


 げんなりとしながら言うと、ウィヌスがにやりと笑う。


「そういうことを言うと、得てして発言が現実になってしまうものなのよ、ライスケ」
「だから、やめてくれ」


 マンガや小説じゃないんだ。

 そんなフラグあってたまるか。


「ま、とりあえず出るのが一回戦で良かったわね。これで十六回戦目とかだったら、終わるのは夕方だったわよ」
「そうだな、これなら、今日はメルと祭りを回れる」
「またメルなのね」
「……」


 うるさいな。

 別にいいだろう。メルを一人ほっぽり出すのが申し訳ないだけだ。


「まあいいわ。メルを迎えに行きましょう。お金は渡して、好きに使っていいとはいったけれど、あの子のことだから、どうせ私達の応援をするつもりで観客席にいるんでしょ」


 ……ちなみに、今ウィヌスが口にしたお金とは俺がソフィアから貰ったものであり、その銀貨百枚全てメルに預けられていた。

 王馬達もいるので、盗まれる心配がないから、ということらしい。



「嬢さん、魔術の特訓はいいから試合見たらどうですか?」


 魔術で投影された舞台の映像の前で、ヘイがわたしに声をかける。

 ちなみに投影されるのは映像のみで音声は無い。


「構わん。他人の試合など見ても楽しくないだろう」


 待合室の中。私は、指先に集中させた魔力を様々な属性に変化させていた。

 もちろん、顔は例の仮面で隠されている。

 魔力の属性というのは、基本的に魔術師一人で扱えるのは多くても三つ、と相場が決まっている。

 しかしわたしの場合はだいたい……亜種含め三十属性くらい。

 今やっているのは、その中でも基本的な属性のみ。

 すなわち木・火・土・金・水の五大属性である。

 木は身体強化など生体に作用するのに優れた属性。

 火はそのまま、高火力による攻撃にものいわせる属性。

 土は無機物の操作による汎用性の高い属性。

 金は物質の硬化や軟化を主につかさどる属性。

 水は魔術行使の速度が他よりも速いのが特徴の属性。

 まず指先に木属性の魔力――緑色に輝く生命力の塊――を出すと、次にそれをそのまま火――説明するまでもないが火の玉――に変え、土――周囲から砂埃などを集める――に変え、金――集めた砂埃などを強化する――に変え、水――ここまで集めた砂埃などが弾かれる――に変え、という動作を一秒間に約十回ほどの調子で繰り返していた。傍から見れば何が起きているのか理解できないだろう。

 事実、同じ待合室になった同じ六回戦の参加者達は八人全員が目を点にして先程からこちらをちらちらと見ている。

 ちなみに元々この部屋にはわたし達以外に十人いたのだが、そのうちの一人が優秀な魔術師だったらしい。わたしのこれをみると、顔を青くして、そそくさと相棒と共に試合前に棄権してしまった。

 一度属性を持って体外に出た魔力の属性を変化させる、というのはかなり高等な技術だ。

 わたしのようにここまで出来るとなると……まあ世界に五人いるかいないか、くらいだ。

 その凄さが分かったからこそ、棄権したのだろう。なかなかに身をわきまえた者である。

 それと違い、残りの八人は駄目だな。なにも分かっていない。分かっていて、それでも挑もうと残った、ならいいが……私がなにをしているのかも理解できないようでは、ヘイには勝てまい。

 意外とこの大会、参加者の質が低いな。


「いやいや、嬢さんが高すぎるだけですから」
「人の心を読むな」


 確かにわたしの格と質と位と品と力が高すぎるというのは認めざるを得ない事実ではあるが。


「この人どんだけ自意識過剰なのか……」


 失礼な。

 わたしは極めて自分の事を正確に把握している。

 つまり常識外れ、と。


「あ、その自覚はあったんですね」
「さっきから人の心を読むなと言っているだろう」


 こいつはどんな特殊能力を持っているんだ。


「まあ俺の隠された能力についてはともかく――」
「え、本当にあるのか?」
「あるわけないじゃないですか。基本俺は平凡です」


 ……こいつ、斬られたいのか?

 というか、ヘイが平凡ならこの国の兵士はその大半が役立たずだな。こいつ、自分がどれほど強いのかちゃんと分かっているのか?

 お遊びのようなものとはいえ、わたしと打ちあえるなんて表彰していいくらいだ。ここは本気で。


「一回戦は凄かったですよ」
「ほう、どんな風にだ?」


 ヘイがそう言うのだ。よほど強い人物がいたのだろう。


「一瞬で終わりました」
「……一瞬?」
「はい。なんか速すぎてよく見えなかったんですけど……背中から半透明の翼みたいのが一瞬出たかと思ったら、次の瞬間にはそれが消えて、他の選手達が場外になってました」
「ほう……」


 半透明の翼……魔術だろうか。

 しかし一瞬で舞台上から選手達を弾き出す、となると……かなり高位ものとみて間違いあるまい。

 ……それは、見ておきたかったな。

 魔術の練習なんてしていた自分が少し恨めしい。


「どんな人物だった?」
「それが……俺達の同じ宿に泊ってる人達なんですよね」
「なんだと?」


 それは本当か?

 いや、というより、なぜヘイがそんなことを知っているのか。


「俺、少しだけ話したことあるんですよ。ライスケっていう男なんですけどね。男、というか、少年って言った方が正確ですか。歳は……まあ、姫様より少し上、ってくらいですか。っても、俺が今言った人はそのライスケの連れの子なんですが、これまたとんでもない美少女でしたよ、格好は変でしたけど」
「わたしとどちらが美少女だ?」
「胸の差であっちでヒィッ!」


 ヘイの顔に火の玉を投げつける。慌ててヘイはそれを避け、火の玉はそのまま旋回してわたしの手の中に戻ってきた。


「言っておく。わたしはこの歳にしては大きい方だ。そして、年齢的に考えてもまだまだ成長の余地はある。現時点の話でものを語るな。未来性を見据えろ」
「とりあえずムカついたからって攻撃行動にでないでくださいよ!」


 ……まあ、ヘイは後で絞るとして。


「ならば、今夜にでも挨拶に行ってみるか。敵情視察、というのも悪くはない。ヘイ、わたしを相手に紹介してくれ」
「いや、俺の知り合いはライスケであって、連れの子とは赤の他人なんですけど」
「ならそのライスケとかいう意味不明な名前のやつでいいから紹介しろ」
「ライスケがかわいそう!」


 本当に変な名前だな、ライスケとは。どこの人間なのだろうか。

 しかし、どんな連中なのだろう。

 さすがに私と同格までは期待せずとも、少しは歯ごたえのある実力者ならいいのだが……。

 そんなことを考えながら、私は再び魔術の練習に意識を集中させた。



 闘技大会が終わって、俺はウィヌスやメルと共に街に出た……。


「よぉ、君達かわいいじゃん」


 そしてナンパ二人にからまれた。


「…………」


 無視していいだろうか。

 そんな俺の意思をくみ取ったか、ウィヌスはまるでナンパには目もくれず、メルはちらちらを二人を気にしながらも、そいつらの前を通り過ぎる。


「さて……どこにいく、ウィヌス」
「美味しい食べ物のあるところへ」
「……だろうよ」


 なんとなく分かってたさ。

 こいつ、まだ食べるんだな……。


「メルはどうだ?」
「あ、えっと……ウィヌスさんの後について行きます」
「メルはいい子ね」


 ウィヌスがメルの頭を撫でた。

 あ。なんかちょっと微笑ましい光景――、


「じゃあとりあえずひとっ走り美味しそうな露店で食べ物を買ってきてくれる?」
「俺の感動を返せ」


 台無しだ。もう徹底的に。

 ウィヌスは果たしてメルを人間として見ているのだろうか。使い走りの道具じゃないんだぞ。


「そしてメル、本気で行こうとするな」


 駆けだそうとするメルの肩を掴んで、ウィヌスを軽く睨む。


「一緒に歩きながら探せばいいだろう。まったく」
「って、なに無視してんだ!」


 うん?

 ああ。そういえばなんかいたっけ。忘れてた。

 見るとナンパ男二人が俺達の方に大股で歩み寄って来るところだった。

 そいつらは俺の前で足を止めると、俺を鋭い目で見た。


「ったく。にいちゃん可愛い子二人もつれちゃってさ。いいご身分じゃねえの」


 ……そうだな。メルはその通りなんだが、ウィヌスも外見だけはいいからな。

 もう一度言うが、外見だけ、な。

 本性はどす黒い外道である。


「俺達さあ、ちょっと今日寂しいんだよ。だから彼女達俺達がもってっちゃっていいよねえ?」


 もってっちゃって、か。

 物扱いかよ。

 人間は、そんなものじゃないのに。

 軽く苛立つ。

 周囲からは、ナンパに絡まれた俺達に対する憐みの視線。けれど、誰もが我関せずの姿勢だ。

 こんなやつらとはすすんで関わりたくないのは仕方のない事だろう。

 本当に、俺も可哀そうだと思うよ。

 よりにもよって、これだけ人の行きかう中、俺達に絡んできたこいつらが。

 それだけウィヌスとメルのレベルが高いってことなんだろうけど。


「ね、君達もこんなガキより俺らの方がいいっしょ?」


 しかし、どこの世界にもこういうやつっているんだな。

 と、男の片方がウィヌスに触れて……吹き飛んだ。

 ウィヌスの身体から魔力による衝撃波が放たれたのだ。

 属性を発揮していない魔力と言うのは極めて希薄なものらしいが、そんなものでも高密度にして放てば人間一人吹き飛ばすくらいは出来るようだ。

 ウィヌスだから出来る芸当だろうが。多分今の一撃だけで俺の魔力全部と同じくらい――つまりあの泉の偽神の全魔力――消費してるんじゃないだろうか。

 世界の一部である神の魔力は実質無限なわけだから、不思議なことでもないが。


「な、なんだ!?」


 困惑するもう片方の男。吹き飛ばされた方は気絶していた。

 で……困惑している奴の肩には、ミニチュア版の王馬二匹がいる。


「……へ?」


 男もそれに気付いたらしい。


「な、なんだこれ……」


 肩の上から男が王馬達をどけようとして……王馬達が火を噴いた。

 火はそのまま男の髪の毛に着火。


「…………ぎゃあああああああ!」


 男はそのままどこかへと凄い勢いで走り去った。

 ……死にはしないだろう。

 とりあえず王馬達は地味に酷い。


「ほどほどにしとけよ」


 メルの肩に戻った王馬達に言うが、王馬達はメルを守れたことがさぞ満足らしく俺の言葉など聞こえないようで、鼻をならして「褒めて褒めて」とでも言うようにメルを見ていた。


「あの、ありがとう、二匹とも。でも、次からは、もう少し優しく追い払ってね?」


 いつもと違う、丁寧だけれど敬語ではないメルの言葉。それに王馬達が若干しゅんとする。

 が、すぐに立ち直って「了解しました!」と大きく頷く。

 あれ。俺、王馬達の言葉がなんとなく理解出来るようになったんだけど……。

 王馬達が特殊なのか、それとも俺が変なのか……出来れば後者ではないでほしいものだ。

 とりあえずこれからも旅は続くし、王馬達の気持ちが少しくらい理解できるなら便利か。


「メルは王馬達には敬語じゃないんだな」
「え……そうですね。そういえば」


 王馬達には悪いが、馬に敬語を使わないのは普通だが。


「俺達にも別に敬語とか必要ないぞ?」
「ええっ!?」


 ……そこまで驚くことか、これ。


「駄目ですよ、その辺りはちゃんとします!」
「ちゃんともなにも、そんな義務も何もないわけだが……」
「そうね。下手に敬語を使われても肩がこるだけだしね」


 俺とウィヌスが言うと、メルがたじろぎ、小さくうなった。


「で、ですけれど……」
「まあ、強要はしないけれどな」


 メルが楽な言葉使いなら、それで構わない。

 けれどもし敬語を使うのが疲れるようならば、


「いつでも敬語は抜きにしていいぞ」
「……分かりました」


 頷いて、それでもメルはやはり敬語。

 いいのだろうか、それで。


「メルは別に俺や、もちろんウィヌスのものじゃないんだ。いつでもやりたいことはやっていいし、やりたくないことはやらなくていいからな。ウィヌスの使い走りとか」
「分かってます。大丈夫です」


 本当かねえ。

 ……ま、本人がこう言ってるならいいか。


「じゃ、ウィヌスの言う通りに食べ物でも探し歩くか」
「はい」
「そうと決まったらさっそく行きましょう」



なんとなく属性の説明とかいれてみた。
ぎょ、行数稼ぎとかじゃ、ないんだからねっ!?


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