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魔王に拐われた姫が勇者に嫁ぐ話

作者:冬里 尊
魔王に拐われたお姫様と助け出した勇者が結ばれるのは、魔王によって傷物にされたと思われちゃうお姫様を押し付けるのに勇者が最適という話を聞いて勢いで書きました。
ゆるふわ世界観なのでゆるふわな感じでお読みください。
 むかしむかしある国のお話。
 その国には一人のそれはそれは美しいお姫様がおりました。
 輝くような金の髪、美しい宝石の瞳、珊瑚の唇、絹のような肌、どこをとっても完璧に美しく、その評判は知らない者がいないと言われる程でした。特に宝石のように輝く瞳は誰をも魅了する美しさで、眼があった者は皆魂を抜かれたようになりました。
 国王も溺愛しており、姫が年頃になった今、国中どころか周囲の国からも求婚者が押し寄せておりました。
 しかし、その評判を聞きつけた魔王に哀れお姫様は拐われてしまったのです。
 すぐに国王は兵を遣わし、求婚者達も姫を助けようと魔王に挑みました。けれど魔王はとても強く、歯が立ちませんでした。
 嘆く国王や国民達。それから月日がたち、誰もが諦めかけたその時、一人の青年が立ちあがりました。
 その青年は神の加護を受けており、とても強い力を持っておりました。皆、彼ならもしやと期待しました。
 辛い旅を乗り越え、魔王の配下の妨害を蹴散らし、ついに青年は魔王の元に辿り着きました。
 二人の戦闘は何日も続き、それは激しいものでした。
 しかし、過酷な経験をつんだ青年は強く、魔王はついに倒されました。
 そして青年はお姫様を救いだし、国へと戻りました。
 国民は青年の事を勇者と呼び、褒め称えました。

 国王はお姫様の帰還に喜び、二人を出迎えました。
 そして、衝撃を受けました。
 美しかった金の髪は艶を失い、宝石の瞳は屑石のように輝きがありません。珊瑚の唇はひび割れ色褪せ、絹の肌はくすんでいます。そしてなにより姫はボロボロで、みすぼらしく痩せ細っておりました。並ぶ者なしと唄われた美貌はどこにもありません。

「本当にわしの姫か」

 国王は変わり果てた娘に渋い顔をしました。魔王に拐われ傷物になっていたとしても、姫の美貌であれば求婚者はいたはずです。ですが、こんな姿ではそれも望めないでしょう。実際に、姫の姿を一目見たいといってその場にいた求婚者達は絶句し、皆そそくさといなくなりました。困った国王はしばし考え、妙案を思いつきました。
 勇者となった青年に褒賞として渡せばいいのです。
 勇者と救い出された姫が結ばれる。国民も喜びそうな美談ですし、勇者の褒美で国庫も痛めずすみます。
 自分の思いつきに満足した国王は早速勇者にそれを告げ、二人の式をあげました。そして、お姫様は勇者と結ばれる事となったのです。


「あなたも災難だったわね」

 勇者には親がおりませんでした。
 ですので、お姫様は勇者の家で二人暮らしをすることになります。こじんまりした家のこじんまりしたベッドに座り、お姫様はため息をつきました。
 式の前に風呂に入れられ治療を受けたので、今のお姫様はボロボロではありませんでしたが、痩せ細った貧相な体に輝きのない瞳は変わりません。
 困ったように立つ勇者に向かってお姫様が言った言葉に、勇者は戸惑いました。

「こんなお荷物を褒賞として渡されるなんて本当にお気の毒だわ。悪いのだけど少しだけおいてくださいな。準備が出来れば出ていきます」

「……貴方は私の妻になりました。どこへ行くというのですか」

「別に変な義理立てをしなくてもよくってよ。押し付けられた妻など必要ないでしょう。修道院にでも行きますからご心配なく」

 つんと顔を背けるお姫様はそれだけ言って黙りました。
 勇者はますます困りました。お姫様が修道院に行くのはとても困ります。どうかこの家にいて欲しいと頼み込みました。
 勇者の懇願に負け、お姫様は少しの期間妻として勇者の元にいることになりました。

 お姫様は姫なので、家事などしたことがありません。
 勇者に習い見よう見真似でやってみましたが、最初はとてもひどい出来でした。掃除をしようとして床を水浸しにし、料理をしようとして調味料を入れすぎ焦がしました。
 しかし勇者は文句を言わず、お姫様に根気強く教えました。お姫様は段々上達していき、ついには上手に家事をこなせるようになりました。


「これはなぁに」

「最近手が荒れているようなので、手入れ用のクリームです」

 ある日お姫様は勇者から贈り物をもらいました。
 小さな入れ物にたっぷりと白いクリームが入っています。水仕事などしたことのなかったお姫様は確かに手荒れを辛く思っていましたが、勇者には言っていませんでした。
 勇者の気遣いは嬉しいものでしたが、お姫様はそれを認めずつんと顔を背けました。

「いつか出ていく妻に熱心ですこと。まぁせっかくなので使ってあげてもよくってよ」

「ありがとうございます。肌にいいそうなので、ぜひ、全身に使ってくださいね」

 実はそのクリームは滅多に人が入れない場所にある薬草や聖水などを使った特別製でした。勇者はとても強いのでそんなところにも簡単に行くことが出来ました。
 そんな貴重な材料を使ったクリームを使ったお姫様は、以前よりも美しい絹の肌を取り戻すことが出来ました。


「今日もいっぱい狩ってきましたよ」

「狩りすぎですわ!どれだけ食べる気なのです」

 勇者は狩りに出るといつも大量の獲物をとってきます。おまけに勇者は大食漢なので、お姫様はいつも沢山料理を作っていました。勇者はどんな料理でも文句を言わずに食べてくれますが、量が足りないととても悲しそうな顔をするのです。

「それと、今日は貴方の好きな木の実がいっぱいとれましたよ」

「だからとりすぎなのです!とても食べきれませんわ」

 勇者は人が立ち入れない山奥でも平気で入れるので、お姫様が美味しいといった木の実やきのこなどもいつも大量にとってきました。
 お姫様は怒りながら木の実がいっぱい入った袋を抱えました。少しは日持ちする木の実ですが、この量だと腐らせてしまいます。しょうがないのでお菓子にしたりジャムにしたりしなければなりません。本当はお姫様は甘い物はとても好きです。ですので、怒りながらも口元がほんの少し笑っていました。
 獲物を食料庫に運びながら、勇者はお姫様を見ます。
 大量に食べる勇者につられたのか最初は食が細かったお姫様も近頃はきちんと食べます。勇者が栄養たっぷりの獲物を狙っているのもあり、お姫様は痩せ細っていたのが嘘のように健康的な肉付きに戻りました。
 日々動いているせいかしなやかな筋肉もつき、以前よりも魅力的な体になっています。栄養が足りたからか唇も艶やかで麗しく、極上の珊瑚のようでした。勇者は満足したように頷きました。


「貴方が好きと言っていた花の香油と、その木で作った櫛です。髪にいいそうですよ。ぜひ使ってください」

「……全く、お飾りの妻に熱心だこと。私は別に何も求めてませんわ」

「知っています。私の我が儘で贈っているんです」

 お姫様に勇者が摘んできた花で、一つだけお姫様がとても気に入った物がありました。とてもいい香りの花で、それが枯れるまでお姫様は大切に世話をしておりました。
 それを覚えていた勇者は人間が入れない場所に咲く花とその木を採取し、職人にお願いして香油と櫛を作ってもらいました。花が大量に必要になるため何回も往復し、ついに小瓶いっぱいの香油を手に入れたのです。
 お姫様は呆れたようでしたが、勇者は気にしません。真っ直ぐに見つめてくる勇者からお姫様は目をそらし、つんと顔を背けました。

「使わなければ勿体ないですし、使って差し上げますわ」

「ありがとうございます」

 お姫様は大切に香油を少しずつ使い、櫛でとかしました。
 香油の香りはとても素晴らしく、お姫様の髪も香油と櫛のおかげでとても艶やかに輝きました。
 そして、お姫様の髪は黄金の輝きと優しい花の香りがするようになりました。


 黄金の髪、特上の珊瑚の唇、絹の肌、しなやかな体、お姫様は魔王に拐われる前の美しさを少しずつ取り戻しておりました。
 しかしその瞳だけはまだ絶望に曇り輝きは失われたままです。

「何かこの生活に不満がありますか?」

「いいえ、何もありません」

「では出ていかないでくれますか?」

「……義理立てはいらないと言ったはずです。邪魔になればすぐに修道院に向かいますわ」

 勇者が問いかけてもお姫様は頑なにそう言い張ります。
 お姫様がつんと顔を背けるので、勇者はそれ以上は聞きませんでした。ただ、困ったようにお姫様を見つめます。


 さて、勇者が出かけている時、お姫様はこっそり買い物に行くことにしました。本当はお姫様は勇者にとても感謝しているのです。ですので勇者が出かけている間に、何か勇者の喜ぶ物を手に入れようと思い出かけることにしました。
 きっちりと髪を隠し顔も出来るだけ隠した格好でお姫様は外に出ます。お姫様は有名でしたので絵姿も出回っていたので、万が一にもバレるといけないのです。平凡な娘に見えるようお姫様は頑張りました。
 そうして出かけた街は賑わっておりました。あまりの人の多さにお姫様は怯えてしまいましたが、勇者のためと思い店を巡りました。
 その途中で様々な噂話が聞こえてきます。王国の事、魔王の事、昨日喧嘩をしてしまった事……。他愛ない話もありましたが、一番多かったのは勇者とお姫様の話でした。

「お姫様も救われてよかったねぇ。勇者様も喜んでるだろ」

「いやいや、それがお姫様はそれはみすぼらしい姿だったそうだよ。勇者様も命懸けで頑張って報酬がしけた姫じゃ報われないさ」

「あらあの綺麗だったお姫様がねぇ」

 噂話を聞いてしまったお姫様は固まりました。そっと自らの手を見ます。勇者のおかげで美しさを取り戻していますが、お姫様の目にはくすんで見えました。
 意識して話を聞いてみると、周りの人達は勇者とお姫様について面白可笑しく話しています。

「魔王倒してあんな別嬪な姫さんが手に入るなら頑張りゃよかったなぁ」

「お姫様なんか貰ったってなんの役にも立たねぇぞ。勇者様も金銀財宝の方がよかっただろうよ」

「勇者様素敵よねぇ!あーぁ、お姫様なんか妻にするより私をもらってほしかったわぁ」

「唯一の取り柄だった美貌を失ったお姫様なんて褒美になんないわよねぇ。勇者様お気の毒だわ」

「綺麗じゃないお姫様なんか」

「勇者様可哀想」

 お姫様がふと気付くとそこは勇者の家でした。
 目の前には心配そうに立つ勇者がいます。お姫様と目が合うと、それは嬉しそうに笑いました。

「あぁ、よかった。外で踞っていたので具合が悪いのかと思いました。なにかありましたか?」

「………………………………………………出ていきます」

「え?」

 扉へ向かおうとするお姫様を、勇者は引き留めました。華奢な手首を握られてしまえば、お姫様が無理に出ることは出来ません。
 振り払おうと暴れるお姫様を優しくいなしながら、勇者はお姫様の目を見つめました。

「何か私がしてしまいましたか?」

「貴方は悪くありません。私が邪魔なのがわかったので出て行くだけです」

「邪魔なんて思った事はありません」

 勇者の目はとても真摯なもので、嘘をついていないのが伝わってきます。けれどお姫様は信じられませんでした。
 街の人達がしていた話は、お姫様も思っていた事でした。魔王はとても強く、お姫様を救うのはとても困難な事でした。実際に勇者以外に辿り着けた者はおらず、勇者もボロボロになりながらようやく勝ったのです。
 その報酬として、美しさを失った役立たずのお姫様一人というのはどう考えてもわりにあいません。お姫様が勝手に修道院に行けば、国王も報酬を考え直すでしょう。
 だから、お荷物のお姫様は出ていかねばならないのです。
 そう伝えたお姫様に、勇者は首をかしげました。

「よくわかりませんが、私はお姫様をいただけてとても嬉しいですよ?」

「嘘です。こんな父にも見捨てられた役立たず、喜ぶ人などおりません」

「ここにおります」

 睨み付けてくるお姫様に、勇者は優しく笑いかけました。

「私は家事も出来ません」

「今ではとてもお上手です。貴方の作るご飯を一生食べたい」

「……あ、貴方に冷たくしていました」

「距離を取ろうとされていたのは知ってますが、失敗していますよ?」

「してません。貴方に好かれる態度ではなかったはずです!」

「なつかないよう気をはる子猫のようで大変愛らしかったです」

 ニコニコと笑う勇者は本当にそう思っているのでしょう。お姫様は今までの自分の態度が歯牙にもかけられてなかったと知って複雑でした。
 その他にもお姫様は欠点を言いましたが、勇者は全部気にしておりませんでした。
 進退窮まったお姫様は、ついに一番気にしていた事を言いました。

「……私はかつての美しさを失いました。そんな私を、皆価値なしと捨てました。押し付けられた私を貴方が好くはずありませんもの」

「美しさを失った、ですか」

 勇者は困ったようにそう言いました。
 お姫様はぎゅっと手を握ります。恐ろしい魔王の元で堪え忍び、やっと戻れた王国でお姫様を待っていたのは冷たい目でした。
 かつて愛を囁いた求婚者達はお姫様の姿を見て、自分に嫁がされたらたまらないと我先に逃げ出しました。
 かつて溺愛していた国王は絶対の価値を失ったお姫様を抱き締める事もなく、忌ま忌ましいとばかりにさっさと勇者に下げ渡しました。
 かつて褒め称えていた国民達は、お姫様を嘲笑い、押し付けられた勇者を気の毒がりました。
 そんなお姫様が勇者に愛されるなんて都合のいいことは無いのです。
 怯えるお姫様を、勇者は優しく抱き締めました。ふわりとお姫様の髪から優しい花の匂いが薫ります。

「私には貴方はとても美しく見えます」

「……多少は手入れして戻りましたから」

「そうではありません。貴方が気にしているようでしたので見た目が美しくなる手伝いはしましたが、魔王城にいたときから貴方はとても美しい」

「嘘です!」

 魔王城にいたとき、お姫様はいつ魔王に弄ばれるか怯え、窶れておりました。勇者に会ったのは心が死にかける少し前、美しさなど欠片もない時でした。
 そんな自分を美しいという勇者を信じられないと睨むお姫様に、勇者は優しく微笑みます。

「私は、魔王城で貴方を見たとき初めての恋を知ったのです」

 勇者は最初はお姫様の事がどうでもよかったのです。
 神の加護がある勇者は、そのせいか他人への関心がとても薄いものでした。人外の力を持つ息子を疎ましがる両親も例外ではなく、死んだときも嘆くことはありませんでした。
 お姫様が拐われた時も自分なら助けられるかもと思いながら旅立つ事はありませんでした。気が変わったのは、他の人がすべて失敗したと聞いたときです。流石にずっとお姫様が捕らわれたままというのは気の毒に思い、軽い気持ちで旅立ったのです。
 道中はそれなりに苦労しましたが、神の加護がある勇者にとっては軽いものでした。
 魔王城につき、魔王と対面したときも勇者は緊張しておりませんでした。勇者が初めて心を動かしたのは、囚われの姫が連れてこられた時です。
 魔王はなにやら制約があり、姫の心を折らない限り手出しは出来なかったそうです。ですので、自分を救いにきた勇者が無惨に倒される様を見て、姫の心を折ろうとしておりました。
 連れてこられた姫の評判は勇者も聞いたことがありました。とても美しい姫だということでしたが、ボロボロの姿にその面影はありません。こんなものかと思う勇者と目が合い、姫はくしゃりと顔を歪めました。

「…………私は放っておいて結構です。貴方はすぐお逃げなさい。皆にも、そう伝えて」

 その瞳はまだ輝きを失っておらず、勇者はその輝きを見て、胸が高鳴るのを感じました。初めて人に興味を持った瞬間でした。

「私は帰りません。貴方を助けにきたのです」

「……いりません。命を失う前におかえりなさい!」

 睨み付けてくる姫を見て、勇者はますます胸が高鳴ります。もはや魔王の事など眼中になく、姫に見とれておりました。
 それが悪かったのか、魔王から不意の一撃を食らってしまいました。悲鳴をあげる姫を見て、その悲しそうに歪む顔に胸を痛め、勇者は絶対に姫を救いだす事を決意しました。
 初めて必死になった勇者はなんとか魔王を倒し、姫を助け出す事が出来ました。ですが、自分のせいで傷つく勇者をじっと見つめ続けた姫の瞳は絶望に翳っておりました。
 しかしそれでも勇者は姫を見ると胸がとても高鳴りました。そして、その瞳が輝くのをもう一度見たいと思いました。

 だから勇者は褒美に姫をもらえるように頼むつもりでしたし、認められないようなら拐って逃げるつもりでした。勇者がそれをいう前に、国王が言っただけだったのです。
 それを告げられたお姫様は呆然としました。こちらをじっと見る勇者の目を、初めて見つめ返しました。その瞳には確かに熱がこもっており、勇者の気持ちを伝えていました。

「貴方は私に恋をしてるの?」

「えぇ、貴方以外はどうでもいいです」

「私は貴方の邪魔じゃないの?」

「勿論、貴方がいることが私の幸せです」

「本当に?」

「神に誓って」

 見つめてくるお姫様の髪を勇者は優しく撫でます。
 勇者が関心を抱けたのは、自分の身が危ないのに人を案じていたお姫様ただ一人。その心根の美しさに恋をしたのです。それを真摯に伝えてくる勇者に、お姫様の瞳から涙が零れ出しました。

「私の心を褒めてくれたのは、貴方が初めてだわ」

「こんなに美しいのに、皆見る目がありませんね」

 泣きながらクスクス笑うお姫様は輝くように美しく、勇者はますます惚れてしまいました。
 それを伝えると顔を真っ赤にするお姫様は大変可愛らしく、勇者は幸せでした。

「出来れば、貴方も私に恋をしてくれると嬉しいです」

 勇者は思うだけでも幸せでしたが、お姫様にも愛されたらきっともっと幸せになれるだろうと確信していました。そしたらここから出て行くなんて言わなくなるでしょうし。
 勇者にそう言われたお姫様は、さらに顔を赤くしました。

「…………もう救いは来ないと絶望していたのに、救ってくれた相手に恋をしないはずないでしょう」

「でも貴方はずっと出て行くと」

「恋した相手の邪魔になど、なりたくなかったから」

 そういって恥じらうお姫様を勇者は思わず強く抱き締めました。お姫様が苦しがったのですぐ離しましたが。
 恋心を認め、両想いだと知ったお姫様の瞳は希望に満ち、星を閉じ込めたかのように眩い輝きを放ちます。勇者が見とれたあの美しさよりももっと上でした。
 その輝きに引き寄せられるように、勇者はそっと唇を寄せます。お姫様も恥じらいながら瞳を閉じました。
 それが二人の初めてのキスでした。

 かくして拐われる以前よりも格段に美しくなったお姫様は、瞬く間に噂となりました。その光輝くような美しさは一目見ただけの者でも心を奪われ、飛ぶ鳥さえ見とれ落ちるほどでした。
 その評判を聞き付けた国王は、お姫様と勇者を城へ呼びました。そして現れたお姫様は、評判にたがわぬ美しさでした。
 まばゆく輝く黄金の髪、星を閉じ込めたかのような瞳、艶めく極上の珊瑚の唇、柔らかくきめ細やかな絹の肌、均整のとれた身体。そのどれもが光輝くようでした。
 その場にいた者は全員お姫様に見とれ、言葉も出ませんでした。

「お召しにより参上いたしました。国王様」

 優雅に礼をとり挨拶をします。その声もそれは可憐で麗しいものでした。
 呼びかけられ、正気を取り戻した国王はじっと姫を見つめます。そのあまりの美しさに、手放した事を惜しく思いました。

「おぉ姫や。いかに勇者殿が相手とはいえ、平民の暮らしは堪えただろう。戻ってくる気はないかい?」

「いいえ、勇者様にはいつもお気遣いいただき、つつがなく暮らしております。お気になさらず」

「それでも辛い事もあるだろう。一度このお前の家に帰ってきてはどうだ」

「お言葉ですが私はもう嫁いだ身。帰る場所は勇者様のところです」

 言葉を尽くし取り戻そうとする国王でしたが、お姫様には取りつく島もありません。
 つれない返事に諦め、国王は次に勇者を狙うこととしました。

「勇者よ、姫は高貴な身ゆえお前も疲れるだろう。他の褒賞を与えてやろう」

「いいえ、私には姫さえいれば他はいりません」

「そういうな。金銀財宝、沢山の美女、貴族の位、欲しいものをなんでもやるぞ。望みを言え」

「そんなもの私にはなんの価値もありません。望むのは一つ、姫だけです」

 こちらにも取りつく島がありませんでした。
 困った国王はそれからも言葉を尽くし、極上の食事で歓待し極上の美男美女でもてなし懐柔しようとしました。
 しかし勇者にも姫にも効果はなく、隙を見てさっさと帰ってしまいました。
 しかし国王はより美しくなった姫を諦めず、それから二人の元に度々使者をおくるようになりました。
 姫の姿を見た者や噂を聞いた求婚者達も二人の家を訪れ、姫をなんとか口説き落とそうと奮闘します。二人の平穏な暮らしは崩れ去りました。

「やはり、私は貴方の邪魔にしかなれません。出て行きます」

「そうですね」

 頷いた勇者に、お姫様はうつむきました。
 迷惑をかけていたとしてもお姫様は勇者と一緒に居たかったので、肯定されると辛かったのです。じわりとお姫様の瞳に涙がにじみました。

「では、二人でこの国から出ていきましょうか」

「え?」

 勇者の言葉に、お姫様は顔をあげました。
 その時に零れ落ちた涙を指ですくい、勇者はニコリと笑いました。
 元々勇者はお姫様以外に興味がありません。そんなお姫様を煩わせる国にいる理由などどこにもありませんでした。

「実は魔王を倒した後、あの地の主は私になっています。なんでも、一番強い者が主となるそうで。魔王を倒した私を倒せるものなどいないので、あの城も私の物だそうです」

「……あの城とは、私が囚われていた城でしょうか」

「はい、もし貴方さえよければあそこで住みませんか?」

 お姫様にとってあの城はよい思い出のないところです。ですが勇者と一緒であれば大丈夫だと思えました。

「貴方と一緒なら、どこでも構いません」

「それはよかった。私も貴方さえいればどこに住もうと平気です」

 そういって微笑み合った勇者とお姫様は、次の日には姿を消しました。
 国王は姫を探し、勇者を大罪人として手配書をまわしました。ですが、二人が見つかる事はついにありませんでした。
 姫の事で心労が重なったためか、国王は若くして亡くなりました。
 それからも二人を探す者はおりましたが、いずれも若くして命をおとしました。これは勇者の呪いだと恐れられ、いつしか二人を探す者はいなくなりました。


 とある場所、そこでは子どもが二人楽しげに走り回っておりました。
 どちらも輝かんばかりに美しい子ども達で、それを微笑ましげに見守る女性にそっくりでした。

「二人とも、本当に貴方にそっくりですね」

「私としては、貴方に似た子どもも欲しいのですけど」

 その女性を優しく抱き締める男性は、それを聞いて悪戯っぽい笑顔を浮かべました。

「では、また作りましょう。何人でも養う事は出来ますから」

「なっ!も、もう!」

 照れたように顔を赤らめる女性に、男性は優しく微笑みました。
 その二人の元に子ども達がかけてきます。
 皆で笑い合うその光景は、まさしく幸せそのものでした。


 勇者と結婚したお姫様は末長く幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
魔王に拐われるなんてどう考えてもトラウマですものね……。
お姫様には幸せになっていただきたいです。

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