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春男の足元には(春編)
作:てるり



作家だけ


作家だけ

 世の中には、職業選択の自由という言葉ある。しかし、それが、無い奴もいる。いや、身体的な資格がどうのこうのという以前の話だ。勉強がどうのこうというよりももっと以前の話だ。
「聞いてくれよ。」
 春男はパソコンの前から、くるりとこっちを向いていった。
「なんだ?」
「切手の自動販売機があるんだ。」
……それがなんだというのだろう。いまさら騒ぎ立てるような発見だろうか。むしろいままで知らなかったことの方が驚きだ。
「だから?……まさか、知らなかったのか?」
「知っていたの?」
逆に春男は目を丸くした。
オレは溜め息をついた。そんなことも知らないような作家の小説など誰が読みたがると言うのか。
いまのところ春男の本は、ベストセラーからはかなり遠く、ベストのべの字も見えないが、売り上げは地味に伸びている。おそらく春男の友人たちが、やっとこいつが本を出しているということを認識し始めたからではないかとオレは思っている。
「いいか、よそでその話をするなよ。笑われるからな。」
 母親が言いそうなことを言った。
「わかったよ。日本で始めて見たからちょっと嬉しかっただけだよ。」
そう言うと春男はくるりと後ろを向いてパソコンに向かい出した。
外国のことは分かるのに、自分が住んでいる日本のことを知らない。それも、そんなにめずらしいことでもない範囲のことをだ。
作家としてというよりも日本人としてどうなのか。溜め息とて出ると言うものだ。
「もっとでかけろ。世間を見ないと、取り残されるぞ。」
「面倒でねぇ。」
いつもの台詞で春男は片付けた。
春男はよく、困ったら作家をやめるだけだと言うが、社会に生きるオレからすると、こいつに社会人は逆立ちしても無理だと思う。というより、まず雇われない気がする。へたをすると、職につこうとしないかもしれない。
万が一なにかの手違いで雇われたとしても一か月くらいでクビになるだろう。もしかしたら、三日かもしれない。はっきり言ってこいつに職業選択の自由はない。
作家しかできないということをどうも自覚していないようだ。
 料理はできるだろうが、それを紹介することも、面倒だといってやらなさそうだ。春男の母親みたいに食料を買いに行くのまで面倒だといいそうな奴だ。食べるものが無かったら、食べるのも面倒だと言い出そうな気さえもする。
 外にも出ずに、ずっと家の中で誰とも会わずに、じっとしていそうだ。
感心があって見に行くのは美術品だけ。それも自分で造ろうとはしない。買ってきて集めるということもしていない。その電車代さえなかったら、見にさえも行かないかもしれない。
 オレも望みは実にささやかだ。ひたすら、こいつが最終的には、自分の作品だけで自立できることを望むばかりである。
「それで。切手は買ってみたのか?」
「その販売機で?」
「ああ。」
「いや?だって、買う必要がなかったし。壊れていたし。」
おそらく、買ったら、その報告の話があるだろう。それが、次の作品で出てくるかもしれない。オレはそれをのんびり待つことにした。












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