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 おっさん、弟子達と危険地帯へ行く

 ソリステア大公爵家、別邸……その日の早朝は賑やかだった。

 いや、むしろ武器や鎧をフル装備した騎士達が歩き回り、賑やかと言うよりは酷く物々しい印象を与える。

 彼ら騎士の人数は約15名、その任務は公爵家の子息女を護衛するのが役割である。

 この騎士達を手配したのがクレストン元公爵であり、その理由が最愛の孫娘を護衛すると言う名の魔物の生贄にするためである。


「騎士が15名……コレ、分隊て言うんじゃねいですかね?」

「うぅ~む……デルサシスめ、まさかこれだけしか寄越さぬとは……」

「いや、充分だと思いますけど!? どれだけ贄を増やす気なんですか」


 彼らの多くは護衛が任務だが、それ以上に実戦経験を積ませるために若い騎士が多い。

 魔導士は一人もおらず、これだけで騎士団と魔導士団との仲の悪さが良く解るであろう。

 魔導士団は魔導士を護衛に回す気が無いのである。


「魔導士団長め、後で抗議してやろう。実戦を積まない魔導士が何の役に立つ」

「それは同感ですが、アンタは別の目的があるでしょうに…」


 無論、セレスティーナの身代わりである。

 最近ではソリステア公爵が騎士団と友好的であり、独自の魔導士の派閥を作った事から、他の派閥からしてみれば面白くない状況が続いている。


「クレストンさんも派閥を持っているんですよね? そっちから魔導士は呼べなかったんですか?」

「うむ。残念じゃが、実戦を積ませるほどの技量は持ち合わせておらぬのよ。おればこちらに回せたのじゃが、残念じゃが全て断られた」

「そうですか……」


 ゼロスは内心では『アンタの孫馬鹿振りを知っているから、本能的に危険を直感して逃げたんじゃないですかね?』と思ったが、敢えて口に出す事は無かった。

 言った所で意味が無い事は既に分かっているからだ。 


 こんな会話をしている前では、騎士達が荷物を馬車に積み込み、出発する準備を確実に熟していた。

 食料は勿論の事、テントや調理器具といった必需品も当然の如く膨大であり、一週間の戦闘訓練に必要な物は出来るだけ用意していた。

 

「公爵閣下、もう直ぐ準備が整います」

「ご苦労、こたびは孫達の事をよろしく頼むぞ?」

「お任せを、一命を賭して御守いたします」

「うむ、期待しておる」


 クレストンに恭しく頭を下げる騎士は直ぐにゼロスを一瞥したが、不意に違和感を感じる。

 彼の知る魔導士は後方から魔法を撃ち込むだけの砲台の様な者達で、前線では戦わないくせに偉そうな態度をとる鼻持ちならない連中だった。

 だが、目の前の魔導士は明らかに自分達と近い印象を受けるのだ。

 その理由は少し目を逸らした瞬間に判明する。


「剣……それも二刀流? 魔導士が…ですか?」

「魔導士とて近接戦闘はやりますよ。でなければ戦場で死にますからね」


 その答えで理解した。

 目の前の魔導士は戦場を渡り歩いた猛者であり、近接戦闘の重要性を理解している事に。

 この国とはまるで異なるスタイルの魔導士を見て、彼は世界の広さを知る。


「戦場ですか……あなたは近接戦闘の重要性を理解しておいでのようだ」

「無論です。魔力が底をついただけで戦えない魔導士など、何の役に立つと云うんです? 自分の身は、自分で守れないなら死ぬだけですよ」


 この瞬間、彼は目の前の魔導士が只者では無い事を理解する。

 戦場では死ぬと言い切れるほどの実戦を潜り抜け、魔法と剣技を極めようとする明らかな異端者。

 身に纏う気配から相当な実力者と推察できる。


「素晴らしい。この国の魔導士達に聞かせてやりたいですね、彼らは近接戦闘訓練なんてやりませんから」

「そういった魔導士が真っ先に死んで逝くか、しぶとく生き残って権力を持つんですよ……厄介なゴミです。真面目な魔導士達が不憫ですよ」

「そこまで言いますか。どうやら我々と対立する事はなさそうですね」

「無論ですとも、騎士は剣にして楯、その役割は体を張って敵を食い止め、撃ち滅ぼす事にあります。

 魔導士はそんな騎士を補佐し、同時に戦いを有利にすべく動く立役者でなくてはいけません」

「この国はその役割が果たせず分裂しているのが現状です。お恥ずかしい限りですが……」

「魔導士が権力を持ってどうするんですかね? 我らは叡智の探究者でなくてはならないのに……」


 ゼロスと騎士との間に妙なシンパシーが生まれた。


「申し遅れました。私はこの分隊で隊長を務めます、アーレフ・ギルバートと言います」

「これはご丁寧に、僕はゼロス・マーリン。ただの求道者です」


 互いに握手を交わす。


「ゼロス殿は、孫二人に魔法の神髄を教えてくれる優秀な魔導士じゃ、そなた達も学ぶ事が多いかもしれぬぞ?」

「ほぅ……それは素晴らしい。この国の魔導士とは違う気配を感じましたが、なるほど……それほど優秀なのですね? 魔法も、そして剣の腕も……」

「うむ、二人とも毎日しごかれておる。実戦形式でな」

「それは素晴らしいですね。御二人は身を守る術をお持ちか……」

「まだ拙いが、心構えは叩き込まれておるぞ?」


 それはつまり、近接戦闘の重要性すら叩き込まれている事を意味する。

 魔導士の大半はそうした戦闘を好まず、魔力が切れれば直ぐに撤収してしまうのだ。

 だが、実際の戦争に於いて、そんな都合の良い事態がいつもある訳では無い。

 最悪、全滅覚悟の泥沼の様な乱戦すらあり得るのだ。


「やはり実戦を知る者は違いますね。現実を良く解っておられる」

「買いかぶり過ぎですよ。僕は足りない物の所為で何度も死にそうな目に遭いましたからね。それを教えるのが年長者の義務だと思っています」

「充分ですよ。騎士団長も良く言ってます、『最近の魔導士共は腐っている。アレでは戦場では生き残れない』とね。私も同感ですよ」

「戦場は何が起きるか分からない魔物ですから、出来る限りの手段は必要だと思いますよ? この国は、それ程までに人材に困窮しているのですか?」

「それはもう……魔法以外は大した事の無い連中が我が物顔ですからね、彼等は戦場で全員死ぬでしょう」


 要するに、魔導士達は相当に甘いという事が判明した。

 後方は安全と云う根拠も無い安心感に溺れ、実際の戦場を経験した事が無い故に、自分達が如何に愚かなのかを理解できていない。

 平穏な時間が過ぎたために、彼等は戦いの悍ましさを忘れてしまっていたのだ。

 それを理解できるのは小競り合いなどで人を殺した事のある騎士であり、後方から魔法を撃つだけの魔導士には間接的過ぎて、命を奪う事の意味が理解できないのである。


「長い平穏が人を腐らせるか……。『平時において乱を忘れず』でしょうに……」

「良い事を言いますね。正にその通りで、彼等は戦いを知らな過ぎるんですよ」

「権力欲か、研究欲しかないからのぉ~。あいつ等は……」


 この国の魔導士達は、何処までも極端である様だ。

 だが、平和などと云う物は飽くまで幻想に近く、どこにいても争いは絶えない。

 小さな喧嘩や村同士の対立、果ては大陸国家同士の対立などはその延長に過ぎない。

 同じ人間同士でも国が変われば習慣や文化が異なり、宗教なども交えれば争いの種など事欠かないだろう。

 それが何らかの行動により爆発し、一気に広がる事で戦乱は起きるのだ。

 規模が大きいか小さいかの違いだけで、本質的な物は然程変わりはない。

 結局は人間同士の対立であり、そこに正義などと云う言葉はどこにも存在せず、同時に存在もする酷く曖昧な物なのだ。

 損をするのは巻き込まれる者達だけである。


 魔導士達はある意味で中立だが、権力を持った瞬間にソレは消滅し、結局は個人の欲望によって暴走を開始する。

 過ぎた行いは誰も幸せにはならない、危険な火薬みたいなものなのだろう。


「そろそろ準備が整いますね。公爵閣下のお孫さん達の準備は如何なものなのでしょう?」

「こちらも、そろそろとは思うが……遅いのぅ?」

「僕は着のみ着のままだから構わないんですが、そんなに手間取るものなのでしょうかね?」


 だべる三人の後方で玄関入口の扉が開き、その件の孫二人がスンゴイ荷物量を持って現れた。

 セレスティーナは巨大な鞄に荷物をこれでもかと詰め込み、ツヴェイトも同様に、どこで売っているか分からない様な一際はデカいリュックであった。

 よほど重たいのか、二人は荷物を懸命に震えながら引きずっている。


「じゅ……準備が整いました……」

「少し……詰め過ぎたか? 重い……」

「「「何で、あんな大荷物に?!」」」


 どうやらセレスティーナの荷物の大半が着替えであり、ツヴェイトに至っては様々な実験道具の類の様である。

 ゼロスが錬金術も使える為に、彼も挑戦しようと云う向上心から荷物が増えたようである。

 見た目はどこぞの行商人の様に見えるのは、果たして気のせいだろうか?


「荷物を減らす事は出来ないのですか?」

「女にとって着替えは必要です!! 同じ下着を一日中着ていろと仰るのですか?」

「薬草の類もあるんだろ? 現地で試したくなってな」


 二人とも本気だった。

 そこには並々ならぬ熱意が籠っている。

 若者二人の熱意を無碍にする事は出来ず、仕方なくゼロスは自分のインベントリー内に荷物を収納する。


「便利な魔法だな? どんな原理なんだ……」

「それが分かれば苦労はしませんよ。作れない事も無いですが……どれだけ魔力が必要になるか不明ですね」

「先生でも分からい魔法があるのですか?」

「当然です。僕は神ではありませんからね、全知全能の存在から見れば塵芥の存在ですよ」


 そもそも女神が自分に与えた力がどんな原理なのか、矮小な人の身で分かる筈も無い。

 魔法式自体は理論上可能だが、必要魔力とその膨大な魔法式は制御できるような代物では無いのだ。

 実はこっそりインベントリーを胆略化した魔法を作成をしたが、結果は使えないものと判明できるてしまい、理論だけでではどうにもならない難解で厄介な代物だったのである。


「兎も角、準備は整いました。一週間ほどお世話になります」

「心強い魔導士がいてくれて助かりますよ。こちらからも、お願いします」


 アーレフとゼロスがあいさつを交わす中、後方では……


「ティーナよ、くれぐれも気を付けるのじゃぞ? もし騎士の馬鹿共が手を出して来たなら儂に言いなさい。直ぐに手を打ってみせよう」

「な、何する積もりですか?! 御爺様……」

「なに、お前が心配する必要は無いのじゃよ。知らない方が良い事もあるのじゃ……」

「御爺様っ?!」


 クレストンの爺さんがドス黒い気配を放出して、孫娘としばしの別れを惜しんでいた。


(こ、この爺さん……今更だが、孫娘が絡むと普段と別人だ…。病気としか言いようが無い)


 普段は民を思う優れた人物なのだが、セレスティーナが絡むと途端に暴走する。

 それはもう、同一人物とは思えないくらいにハジケルのである。

 まぁ、それだけ孫娘を愛しているのだろうが、些か危険な兆候に入っていた。


 ツヴェイトにいたっては騎士達と話し合い、現地での予定を聞いていた。

 騎士達も訓練でファーフラン大深緑地帯に赴くからだ。

 この辺りの手続きは、彼も慣れているのであろう。


 そして一行は馬車に揺られ、ファ―フラン街道を東へ進むのであった。

   ・

   ・

   ・

   ・

 揺れる馬車の中で、ツヴェイトは前々から思っているゼロスへの疑問を聞い来た。


「なぁ・・・・・・」

「何ですか? ツヴェイト君」

「アンタ、何でセレスティーナの家庭教師をしてんだ? 権力者に利用されるのは嫌いなんだろ?」

「当然ですよ。それが何か?」

「その上、御爺様から報酬で土地を貰うんだよな? 矛盾してねぇか?」


 ゼロスは遠い目をして青い空を見上げる。


「ツヴェイト君……いい歳したおっさんが、住所不定無職なのはどう思いますか?」

「それ、ただの浮浪者と変わりねぇだろ」

「そうです。そんな根無し草では人として最悪だと思いませんか? 人は懸命に働き、わずかな稼ぎで細やかに生きるのが健全なのですよ。そして、土地をくれると言うのなら、ありがたく貰います」

「・・・・・・意外に太い性格だな……」

「権力者には力を貸しませんが、未来ある若者に多少の道を指し示すのは有りだと思うのですが?」

「そうか……わりぃ、何か裏があるんじゃねぇかと勘ぐっちまった」

「気にしないでください。実際に胡散臭いですからね」


 そんな会話のが成されたのだが、彼の内心はと云うと……


(家、欲しいじゃん! この国では、何の伝手も信頼も無い胡散臭い中年オヤジですよ? 仕事なんてそう簡単に見つかる訳ねぇじゃん!

 魔法はヤバイし、錬金術を使ったらこの辺りの相場が暴落しそうですし、下手すると国のウザい連中がじ挙って来そうじゃん! 殺伐とした傭兵家業なんてやりたくもない!!)


 ……結構ギリギリだった。

 

 ゼロス・マーリン 40歳。

 結婚したいし、温かい家庭が欲しい。自分の歳に焦りを覚えるお年頃なのである。

 もう、遊び半分で世界を廻れる年齢では無いのであった。


 そんな彼の細やかな夢は、小さい家に温かい家族と共に畑を耕す事であった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 馬車に揺れれて約二日、一行はファーフランの大深緑地帯の端、サフラン平原の一角に陣を敷いていた。

 騎士達はテントを張り、ゼロスはその周囲を魔法で岩の壁で囲い、弟子二人はその周囲に溝を掘り落とし穴を設置する。

 

 この辺りに出没するのはゴブリンと、後は草食の魔物ぐらいなものである。

 ごく稀に捕食者でもある肉食の魔物も出没するが、今の戦力でなら然程問題でも無い。

 過剰戦力とも言えるが、仮にも公爵家子息女の護衛であるので、少ないと言えるかもしれない。

 彼ら騎士の役割は二人に実戦を積ませると同時に、自分達のレベルを上げるための修練期間とも言えるのだ。

 問題は、この期間内に手頃な相手がいるかどうかなのだが……。


「おい、し、師匠……何してんだ?」

「師匠? 僕が……ですか?」

「あぁ……俺もアンタに魔法を教わる身だ。個人的な感情は兎も角、相応の態度で接するべきだろ?」

「気にしなくても良いんですけどね。で、どうかしましたか?」

「アンタが何してんのか気になってな。【魔法紙】だろ? それ……」


 ゼロスは何の魔法も記されていない【魔法紙】を縦長に切り、ペンで魔法文字を書き綴っていた。

 恐らくは【魔法符アルカナ】であろうが、その魔法文字は恐ろしく精密で、今の魔導士では解読できない物であった。


「これですか? 使い魔を作ろうと思いましてね」

「使い魔? 呪符なのか? もしかして、この辺りの魔物を捕える積もりなのかよ」

「いえ、そんな物は必要ありませんよ。まぁ、見ててください。面白いですから?」


 ツヴェイトはしばらく、その光景を眺めていた。

 迷いなく走るペン先は、彼の知らない魔法式を綴り続け、次第に魔法符の形が出来上がって行く。

 無数の文字で形作られた魔法陣は緻密で美しく、感嘆の息が漏れる位に見事な物である。

 しかも、ゼロスはこの魔法文字で書かれた意味を理解し、それを操る事で彼の知らない魔法を構築していたのだ。

 ツヴェイトも魔導士であるが故に、この魔法符が何のための物なのか興味が尽きない。


「まぁ、こんな物でしょう」

「出来たのか? それより何の効力があるんだ? その魔法符」

「試してみましょうか? 『我が目となりて羽ばたけ、偽りの鳳』」


 魔法の始動キーを唱えると、魔法符は周囲の魔力を取り込み鷲の姿となって顕現した。

 この魔法符は生物を魔法で縛って使い魔とするのではなく、魔力で構築された人工の魔物を生み出す物なのである。

 無論、魔力で構築されているので、孰れ魔力が拡散し消滅するが、食費や世話をする手間が無いので随分と安上がりな使い魔として使用できる。

 制限時間があるが、偵察をするには便利な魔法具なのである。


「こ、これはスゲェ……」

「使い魔と言うよりはゴーレムに近いですかね? 周囲の塵を集めて体を構築し、その内側に魔力を封入しているので割と長く使用できます。攻撃にも使えますし、こうして……」


 ゼロスが魔石を鷲に与えると、嘴で咥えて呑み込む。

 

「今のは何だ? 魔石を食わせる……そうか、魔石を与える事で長時間使用できるのか!」

「正解、制限時間がありますが、魔石を与える事で延長して使えるんですよ。便利でしょ?」

「下手な使い魔よりも使えるんじゃねぇか?」

「そうでもないですよ。ゴブリン程度なら問題はありませんが、大型の魔物が相手となると術者のレベルがモノを言いますからね。未熟な魔導士では役立たずです」

「ふぅ~ん、そんな物…待て、レベルに応じてだとっ?! それじゃ、アンタが召喚したその使い魔の強さは……?」

「ワイヴァ―ン程度なら楽に勝てるかもしれませんね」


 非常識な使い魔であった。

 例えばツヴェイトのレベルが55(あれから若干上がった)として、使い魔のレベルがリンクして55。

 強さで言えばハイ・オーク一頭分(レベル抜きの身体能力のみで数値)の強さにしかならない。

 だが、桁外れに高レベルのゼロスの場合、使い魔のレベルは軽く1000を超え、その強さは高位のドラゴン並みとなる。当然、必要となる魔力も半端なモノでは無い。


 はっきり言えば化け物である。


「化け物じゃねぇか……そんな使い魔、聞いた事ねぇぞ?」

「まぁ、僕の事はどうでも良いんですよ。使って見ますか? 面白いですよ?」

「・・・・・・・・・・良いのか?」

「この程度の物が作れなくては、とても魔導士なんて呼べませんよ。存分に参考にしてください」

「ヒャッホォ―ッ!! 早速試してみらぁ♪」


 子供のようにはしゃぎだすツヴェイト君、17歳。

 根は単純だった。


 そんな彼の後ろで、羨ましげな視線を送っているセレスティーナ。

 結局ゼロスは魔法符を作り、彼女にも上げるのであった。

  ・

  ・

  ・

  ・

「こいつは面白れぇ♪ まるで、自分が空を飛んでいるかのようだ」

「そうですね♪ それに、この世界はこんなにも広いんですね。知りませんでした」


 使い魔の視線を自分にリンクさせ、偵察の実地訓練を自主的に行う二人。

 二人にとっては魔法符は玩具であり、その効力を確かめながらも空からの景色を存分に楽しんでいる。

 実際は彼等は地上にいるのだが、使い魔の見た景色はダイレクトに彼らの脳裏に映るのである。

 それは初めて3D映画を見た時の感覚を思い浮かべれば良いだろう。リアルなまでの臨場感は二人の気分を高揚させ、二日間の旅路の疲れが吹き飛ぶほどの物であった。


 そんな二人を他所にゼロスはと云うと……


「あっ、オークの群れを発見……近いな…」


 しっかり偵察をしていた。

 

 視覚のリンクを切り、彼は分隊長であるアーレフの元へと向かう。


「アーレフさん!」

「どうしましたか、ゼロス殿!」

「近くにオークの群れがいます。数は大体20、レベルは大体30前後……こちらに向かってきます」

「オークが?! これはいけませんね。総員、戦闘準備!!」


 騎士達は号令を聞いた途端、一斉に装備を整え出した。

 陣地構築の作業を中断し、普段の厳しい訓練通りに戦うための作業に移る。

 手馴れたように鎧を装着し、剣を抜いて状態を確かめ、ある者は弓を取り出し弦を張る。


「早い……中々錬度が高いですね」

「そう言って頂けるのは嬉しいのですが、全員がレベル25前後なのですよ」

「ならば、今は稼ぎ時ですね……」

「ぜ、ゼロス殿?」


 そこに居たのは魔導士のゼロスでは無く、獲物を狙う獰猛な肉食獣を連想させるような狩人ハンターだった。

 インベントリ―からやけに凶悪な外見の弓を取り出し、不敵な笑みを浮かべる。


「さぁ……狩りの始まりだ!」


 彼は再び野生に帰る。

 一週間もの間サバイバル生活であった、あの頃に……。


 後に、【あの頃のゼロス】モードと呼ばれるようになる非常識な夜叉が再臨した。


 騎士達の動きは迅速だった。

 ツヴェイトやセレスティーナの報告を聞き、直ぐに対応できる陣形を組み立て、オーク達が森から出て来るところを狙う。

 空からは常に監視しており、先制攻撃の準備は万全である。


「奴ら、警戒してるな……」

「群れは? 分けてますか?」

「いえ、その儘の状態でで停止しています」


 オークは豚だけに鼻が利く。

 運悪く風上に居たために、彼等が待ち構えている事に気付かれていたのだ。

 そのためオーク達はその場を動かず、こちらの様子を窺っているのだろう。


「豚の癖に知恵が回るな。野生の世界では、慎重でないと生き残れんか……」

「意外に頭が良いんですね、オークって……。正直、ここまでとは思っていませんでした」

「待つのは性に合いませんが、攻め込むのも迂闊ですし……」

「では、焙り出してやりましょう。『天より降りし裁きの矢』」

「「「えっ?!」」」


 魔力が凝縮した弓で、輝く矢を空に向けて撃ち出したゼロス。

 その矢は空中で無数に分裂すると、周囲の塵を集めて高速で飛来する岩の矢となり、オークの群れ後方に降り注いだ。

 魔法を操作し、殲滅しない様に注意を払う。


 混乱したオークは真っ先に森から逃げ出して来た。


「弓、構えぇ―――――――――――っ!!」


 騎士達が一斉に弓を構え、番えた矢を放つべく弦を引き絞る。

 慌てているオーク達は騎士達には目もくれず、ただ魔法攻撃から逃げるべく必死に走っていた。

 出来るだけ曳きつけ、一斉掃射で数を減らすためにギリギリまでオーク達の接近を待つ。

 そして……


「放てぇ―――――――――――――っ!!」


 一斉に矢は放たれた。

 混乱していたオークは罠とも知らず、確実に数を減らして行く。

 

「今ので七頭が死亡、五頭が重症、数の面では此方が有利ですね」

「騎士隊、抜剣!!」


 一斉に引き抜かれる鋼の剣。


「かかれぇ―――――――――――――っ!!」

「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼‼‼」」」」」


 騎士達が突撃した。

 全員が盾を持ち、完全フル装備である。

 オークは手にした無骨な棍棒で殴りかかるが、盾に遮られ真面な攻撃が出来ない上に動きが単調。

 更には人間相手の戦闘を想定された技が無いため、確実に剣でのダメージを受ける羽目になった。

 また、力任せの攻撃が得意でも、その動きは大振りが多く、懐に入られればあっさり刺し貫かれる。


「てぇええええええいっ!!」


 セレスティーナはメイスでオークの頭部を殴りつけ、一頭倒す事に成功した。

 対するツヴェイトもロングソードで攻撃し、弱ったオークを確実に仕留めている。


「遅い! これなら泥人形の方がよっぽどつえぇーぜ。単純すぎて相手にならねぇ!!」

「油断は駄目ですよ! これは実戦で、命の保証は無いんですから」


 それでも相手にならないのは、ゼロスが毎日行っていたえげつない訓練の賜物だろう。

 二人は軽く言葉を交わす余裕もあり、近接戦闘でも集団戦は未熟だが、それでも十分対応できるほど実力をつけていた。

 逆に言えば、ゼロスの訓練はそれほど酷い物という事になる。


「ところで、先生は?」

「知らん。乱戦になったからな、どこかで豚を倒してんじゃねぇか?」

「大丈夫なのは分かって…兄様!? 危ない!!」

「げっ?!」


 魔法攻撃からの被害を免れたオークが棍棒を振り上げ、ツヴェイトに向かって襲い掛かって来た。

 そのオークは頭部を突然矢に射貫かれ、何も出来ずに倒れて行く。


「何が……? どこから矢が?」

「兄様、あそこに先生が!」


 いつの間にか木の上で狙撃しているゼロス。

 場所が悪いと感じると腕からワイヤーを撃ち出し、木々の間を飛び回る。


「・・・・・・・・魔導士・・・なんだよな?」

「・・・・・その筈ですが、アレでは暗殺者ですよ」

「やべっ!? 新たにオークの一団がこっちに来てんぞ! 数は……15!?」


 別のオーク部隊がこちらと接触寸前であった。

 それに気づいているのか、ゼロスは弓をその方向へ向けると、一撃で三頭のオークを仕留める。

 弓をイベントリ―に仕舞い込み、取り出したのが白銀に輝くグルガナイフである。

 狩人がオークに襲い掛かる。

 そこに感情の色は無く、ただ淡々と狩という作業を熟すだけであった。


 五人の仲間と共に殲滅者と言われたゼロス。

 その力の恐ろしさは開発した魔法だけでなく、いつの間にか敵を瞬殺している隠密性にあった。

 言うなれば彼はモンスターの殺戮者なのだ。

 気付けば敵の内側に入り込み、広範囲殲滅魔法で雑魚を蹴散らし、接近戦で容赦なく斬り殺す。

 戦い方が魔導士とは真逆な戦士系なのに、実は生産職であった事はあまり知られていない。


「弱っているオークは確実に仕留めろっ!! 無傷なのはゼロス殿に任せるんだ!!」

「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼‼‼‼」」」」」


 オークは生命力が強く頑丈であり、しぶとい魔物なために中々仕留めきれない。

 その中で異様な強さを誇るゼロスは、いきなり背後からオークの首を切断し、次の獲物に向けてナイフを投擲する。

 完全に魔導士の戦い方では無い。


 この戦闘は、全てのオークが殺されるまで続いた。


 


「おっ? レベルが上がってる!」

「俺もだ!」

「結構苦戦したな」

「まぁ、初日にしてはハードだったな。早く休みてぇ~」


 騎士達のレベルは格段に上がっていた。

 それと云うのも、ゼロスは何も全てのオークを殺した訳では無い。

 ある程度の数を間引いた所で、他のオークを出来るだけ弱めるように動いていたのだ。


 毒を用いたり、麻痺させたりと状態異常を誘発させるのは当然で、出来るだけ必殺しないように細心の注意を払っていた。

 無双している様に見えて、これが訓練の一環である事を忘れてはいなかったのだ。


「俺もレベルが上がってる……56だ……」

「私は32……」


 初日でレベルアップを果たし、二人は些か不安げの様である。

 これが一週間も続いたとしたら、自分達の人格がどうなるか分かったものでは無い。

 何しろ彼等の師でもあるゼロスが極端すぎる。


「ゲッ、ゲェ~~~~~~~っ?!」

「どうしたんだよ、師匠。変な雄叫びを上げて……何で、顔色真っ青なんだ?」

「……奴だ・・・・・・・奴が来るぅ~~~~~~~っ!!」


 ツヴェイトの声は聞こえない様で、ゼロスは使い魔とリンクしたまま恐怖に震えていた。


「ゼロス殿。あなたがそれ程までに恐れる魔物が……こちらに向かって来てるのですか?」


 周囲に緊張が走る。

 ゼロスの強さを知っただけに、騎士達はそれの意味する事がどれほど危険な物かを理解していた。


「来ているな・・・・・・・奴が・・・・クレイジーエイプが・・・・・」


「「「「「ハァ?!」」」」」


 間抜けな声が一斉に上がる。

 クレイジーエイプは確かに強い魔物だが、群れの中で弱い個体は単独で行動するために、今の戦力で十分対応が可能である。

 ゼロスが恐れる様な程の事は無い。

 誰もが首を傾げるのは当然の事だが、真なる恐怖は次の一言で理解した。


「奴は……男の尻を狙う。僕も…危うく掘られる所でした……」


 ―――ビシィイッ!!


 空間が凍りついた。

 それどころか亀裂すら入った。


「な、なんですと・・・・・・?」

「く、クレイジー・・・・・・」

「ヤバい、俺達の貞操が特に・・・・・」

「奴にとって、ここはハーレムだ……。 逃げなくては・・・・・」

「嘘だろ・・・・・・別の意味で危険地帯じゃねぇか・・・・」


 そして奴は姿を現す。

 白い体毛の巨大な猿で、その顔は酔払ったかのようにだらしない。

 しかし、極一部がケダモノと化し、見事なまでに凶悪なバベルの塔であった。

 そんなクレイジーエイプは、舐め回すような視線で騎士達やゼロス達を見て『アハァ~♡』と声を上げた。


 全員の背筋に極寒の嵐が吹き荒れる。


「「「「「に、逃げろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼‼‼‼」」」」」


 オークを前に勇ましく戦闘を繰り広げた彼等だが、一匹の巨大猿の前に瞬く間に瓦解する。

 

 彼らは全力で逃げた。

 脇目も振らず、真っ先に、持てる力の全てを振り絞って逃げた。

 中にはズボンを脱がされた者もいたが、辛うじて大切な物を失わずに済んだ。

 全員が無事で逃げ切ったと知ると、彼らは互いに抱き合い、喜びに泣いたのである。


 ファーフランの大深緑地帯、そこは魔物が闊歩する魔の森。


 この地には、色んな意味での危険な魔物が存在する、デンジャーフィールドである。


 

 何とか書けた……クレイジーエイプ、生態系を考えたくは無い。

 男の尻を襲う魔物、良く考えると生物としておかしい。

 雌がいたとしたら女を襲うのだろうか?

 そもそも繁殖できんの? と自分で書いておきながら疑問が尽きない。

 一応、魔物とは言え生物なんだよね? この世界では……。

 どんな進化を得たら、こんなのが出て来るんだ?

 謎の生物クレイジーエイプ、この犠牲者は誰になるのか……。


 真面目な話を書きたいのに、何故か笑いを取りに行ってしまう自分が恨めしい。


 こんな話ですが、楽しんでくだされば幸いです。

 


 

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