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わたしにしか見えない王子さま 

作者:小択出新都
 アンは三年前、お城にやってきました。今は侍女の仲間として働いています。
 このお城には王子様はいません。国王夫妻は子どもを欲しがっていましたが、残念ながら生まれることはなかったそうです。
 でも、アンは知っていました。このお城には本当は王子さまがいることを。
 アンは今日も王子さまと話します。
「こんにちは、王子さま。ごきげんいかがですか?」
「やあ、アン。今日はいい天気だね。とても気分がいいよ」
 アンが話しかけると王子さまは嬉しそうにしてくれます。
 王子さまはアン以外の誰にも見えません。だから話しかけると嬉しそうにしてくれます。
「今日もお菓子をもってきました」
「ありがとう。今日はクッキーなんだね。とてもおいしそうだ」
 王子さまは誰にも見えないので、ご飯もお菓子も用意してもらえません。だから、アンが気付いてからは、侍女の友達にもらったお菓子などをわけてあげてるのです。
 アンがもってくるお菓子の量なんてほんのちょびっとなのですが、王子さまは嬉しそうにしてくれます。
「アンー!どこにいるの!」
 王子さまと話していると、侍女仲間の呼ぶ声が聞こえました。
「それじゃあ、王子さま。さようなら」
「うん、またきておくれ」
 アンは王子さまに挨拶をして仲間のもとに向かいます。
 アンがやってくると、アンを呼んだ侍女は不思議そうにたずねてきました。
「アン、何をしてたの?」
「お話をしていたの」
「あら、いったい誰と」
「王子さまとよ」
 アンがそう答えると、侍女たちは困った顔をして苦笑いします。
「またこの子はそんなこといっちゃって。このお城に王子さまなんていないのよ」
 アンがいくら話しても、誰も王子さまのことは信じてもらえません。
 でも、確かに見えるのです。アンの目にはこのお城に住む王子さまが。

***

 一年前は、王子さまはみんなに見えていたらしいです。
 お城の人たちからも愛されて、王子さまは幸せに暮らしていました。
 でも突然魔女があらわれて、王子さまはみんなから見えなくなり、記憶からも忘れ去られてしまいました。
 とてもさみしくひもじい思いをしていた王子さまですが、アンが王子さまを見つけてからは笑ってくれるようになりました。
 アンが王子さまをたすけるかわりに、王子さまはいろんな話をアンにしてくれます。
 お城の人たちの思い出ばなしや、アンがしらない遠くの場所の話、面白くてふしぎなおとぎ話など。
 アンはそれを仕事の休みの時間、楽しみながら聞いています。
 アンは王子さまが大好きです。
 だから王子さまのことを忘れてしまった城のみんなも、本当は王子さまのことが大好きだったんだと思います。
 みんないつか王子さまのことを思い出してくれればいいのに。
 アンはそう思います。

***

「アン、お昼にフルーツタルトをやいたからお食べなさい」
 調理場のおばさんが、アンに香ばしい匂いのするフルーツタルトをくれました。
 調理場のおばさんが焼くおかしはアンの大好物です。
「アン、この前つくった洋服にあまり布がでたの。あなたにも服を作ってあげるわ」
 大臣の娘はおしゃれが大好きです。
 布があまったときは、お城の女の子たちにもそれでお洋服をつくってくれます。
「アン、その荷物は重いでしょ。こっちを持ちなさい」
 背の小さなアンのために、侍女仲間たちはいろいろと助けてくれます。
 お城の仕事は大変だけど、仲間と一緒ならいつもがんばれます。
「アン、困ったときは手を結んで神様に祈りを捧げなさい。神様はかならずわたしたちの声を聞き届けてくださいますよ」
 お城の司祭さまは、アンにお祈りを教えてくれました。
 お城の人はみんなやさしい人ばかりです。
 むかしアンはお城の人のことを怖いとおもってました。
 でも、いまはお城の人たちが大好きです。
 だからアンもお城の人たちのためにがんばります。
「こないだアンが見つけてくれた薬草、とっても良く効いたわ」
 お城のみんなが病気をしないためにがんばるお医者さまには、薬草をみつけて届けてあげます。
「アンや。また肩を揉んでくれるかい。おまえのは力加減がちょうどよくてねぇ」
 毎日、肩をこらせている司書のおばあさんには、肩もみをしてあげます。
「おお、それは無くしたと思ってたメガネじゃないか。見つけてくれたのかい?ありがとう、とても助かったよ」
 探し物はアンの一番の得意なことです。
 どんな小さなおとしものでも見つけてきます。
 うまく仕事ができたときは、みんながアンの頭をやさしく撫でてくれます。
 見えなくなってしまった王子さまを助けながら、お城の人たちと仲良く暮らす日々。
 アンにとって幸せな毎日でした。

***

 そんなある日、お城にまた魔女があらわれました。
「おかしいねぇ。わたしはこの城のみんなにげんわくの魔法をかけたはずだよ。誰からも見えなくなって忘れられた王子は、とっくに飢え死にしてもおかしくないころと思ってたのに。あの王子はなぜ生きてるんだい?」
 魔女は首をかしげました。
 アンが王子さまを助けていたことには気づきません。
 アンは物陰にかくれて、魔女のひとりごとを聞いていました。
「王子がいなくなれば、あとつぎがいなくなったこのお城をのっとってやれるのに。あくまのルビーをつかって、もっとおそろしい魔法をかけてやる。そーれ!」
 そういうと、魔女は真っ赤なルビーをとりだして、ふたたびお城の人たちに魔法をかけたのです。

***

 魔女が帰っていったあと、アンはさっきのことを伝えようと王子さまを探しました。
 そのときアンの耳に、侍女たちの悲鳴がとびこんできました。
「きゃー!ねずみよー!」
 恐ろしい悲鳴に、アンの体がビクンッと震えます。
 アンの方にねずみが一匹はしってきました。
 アンにはひとめでわかりました。これは王子さまです!
 魔女は王子さまをねずみにする魔法を使ったのです。
 うしろからは王子さまを追いかけるお城の人たちの足音がします。
「王子さま、こっちです!」
 アンは王子さまを呼びました。
 そしてアンの知っていたねずみが隠れられる小さな穴へと案内したんです。
 その穴に隠れて、王子さまは危機をしのぐことができました。
「ありがとう、アン。君は命の恩人だよ」
 王子さまはアンに感謝しましたが、同時に涙をこぼしはじめます。
「でも、僕はこれからいったいどうしたらいいんだろう。お城の人に見えるようになったけど、体がねずみになってしまった。こんな姿ではみんなに嫌われて、ころされてしまうよ……」
「王子さま、大丈夫です。お城には隠れる場所がいっぱいあります」
 アンはお城の中にある小さな抜け道や、隠れ場所のすべてをおしえてあげました。
 これでしばらく王子さまは安全なはずです。
「王子さまが隠れている間に、わたしはお城のみんなを説得してみます。だめだったら、魔法を解く方法がないか探してみます。だから王子さまは泣かないでください」
「ありがとう、アン。君はとってもやさしい子だね」
 アンのはげましもあって、王子さまは元気をとりもどしてくれました。
 アンには魔女の魔法を解く方法はわかりません。でも王子さまのために、どうにかして見つけなければならないと思いました。


***


「あのねずみは王子さまなんです!だからころすのはやめてください!」
 アンがそういっても、誰にも信じてくれませんでした。
「それはだめよ。アンはやさしいからかわいそうに思ってるのかもしれないけど、ねずみはころさなきゃだめなものなの!」
「そうよ。とってもふけつできたないんですもの!」
「それにびょうきをもっていたりするの!」
「大事なものをかじったり、汚してしまったりするのよ!あんな嫌な生き物この世にないわ!」
「アンも見つけたらわたしたちに知らせるのよ。ぜったいに退治してやるんだから」
 みんなが口々にそういうので、アンはかなしくなりました。
 でも、抜け穴がある限り、王子さまは大丈夫なはずです。
 お城の人はねずみをさがしていたけど、アンの教えた抜け穴のおかげで王子さまは無事に生き延びることができています。
 アンはねずみになってしまった王子さまに、お菓子をはこびながらはげまします。
「いつかかならず魔法はとけます。だから王子さまもがんばってください」
「うん、ありがとう。僕もがんばるよ」
 王子さまをはやく元に戻してあげたい。アンはそう思いました。


***


 ある日、城にひとりのろうじんがやってきました。
 ろうじんは言いました。
「わしはねずみ取りのせんもんかです。このお城にいるねずみを退治する方法をおしえてあげましょう」
 ねずみにこまっていたお城の人たちは、そのろうじんをお城にまねき、方法を教わることにしました。
「ねずみはどうやら抜け穴をつかってるようです。ひとつひとつふさいでいきましょう」
 お城の人たちはそういわれ、抜け穴やねずみの隠れ場所を見つけるたびに、ひとつひとつそれをふさいでいきました。
 アンはそれをみて焦ります。
 たいへんです。これでは王子さまの隠れる場所がなくなってしまいます。


***


 数日後、お城ではたくさんの抜け穴がふさがれてしまいました。
 王子さまが隠れられる場所は、もうほとんど残っていません。
「僕はもうだめみたいだ。いままでありがとう、アン」
「あきらめちゃだめです、王子さま。きっと魔法は解けます」
 アンは思うんです。
 あのあくまのルビーをこわすことができたら、きっとお城にかけられた魔法もとけるに違いないと。
 それには魔女が姿をあらわすのを待たなきゃいけません。
 王子さまががんばって生き残れば、きっと魔女は姿をみせるはずです。


***


 最後の抜け穴がふさがれてしまいました。
 もう、王子さまには逃げる場所がありません。
 お城の人たちに姿を見られたら、いっかんの終わりです。
「ふっふっふ、これでねずみは逃げられません。あとは見つけ出したら、ほうきで叩いてころせばいいんです」
 ろうじんは笑いました。
 アンがその曲がった腰をみあげると、そこにどくどくしく赤く光るルビーをみつけました。
 魔女がもっていたあくまのルビーです。
 そう、ろうじんは魔女が化けた姿だったんです。
 アンはその腰からルビーをうばいました。
「お待ち!何をするんだい!」
 魔女もすぐにそれに気がつきました
 逃げるアンを慌てて魔女がおいかけます。
 アンはお城の教会に逃げ込みました。
「それを壊すつもりかい!?そんなの無理さ。そのルビーはとっても硬いんだよ!」
 魔女は教会の中まではおってこれないようで、扉のまえで叫びます。
「きゃー!ねずみよ!ねずみがでたわ!」
 遠くからおおきな悲鳴が聞こえてきました。
 王子さまがついに見つかってしまったんです。はやくしないと、お城のみんなが王子さまをころしてしまいます。
 アンは手にもったルビーを、地面に叩きつけます。
 でも、ルビーは乾いた音をたてるだけで壊れません。
「むださ!あきらめな!だいいち、それを壊したってあんたは幸せになれないんだよ!」
 アンは思うんです。
 お城の人たちはみんな優しい人です。
 アンにとても親切にしてくれて、アンのことを愛してくれて、とてもとても幸せでした。
 でも、きっとそれはアンが王子さまから奪ってしまったものなんです。
 王子さまはとってもやさしい人です。
 さらさらのきれいな髪をもっていて、とっても美しい声をしていて、瞳の輝きは暖かい春の空のように優しくて、聞かせてくれる話はどれもみんな楽しい話ばかりです。
 本当はみんなから愛されていたはずです。そして王子さまもみんなを愛していました。
 それなのにいまお城の人たちが、その王子さまをいみきらってころそうとしてるなんて、とっても悲しいことです。
 アンは神さまに祈りました。
「神さま、お願いです。
 お城の人たちが優しくして本当に愛していたのは王子さまだったんです。王子さまもお城の人たちを愛していました。
 お城の人たちはそうやって幸せに暮らしていたんです。
 でも、それをわたしが奪ってしまっていたんです。
 ほんとうは気づいていました。でも、幸せだったから気づかないふりをしていたんです。
 ごめんなさい。
 もうお城の人たちが傷つけあわないように、王子さまがころされてしまわないように、この幸せをかえさせてください。
 お願いします。お城の人たちと王子さまの幸せをぜんぶ返させてください」
 アンは前歯で、ルビーを強く噛みました。
 パキッとルビーにひびが入ります。
 そこから強い光があふれてきました。
 光はどんどん大きくなって、お城全体をおおいます。
 光はお城の人たちの呪いをどんどんはらっていくと、魔女へと向かいはじめました。その光にあたった魔女の体は、太陽の光にあてられた影のように消えていきました。
 ねずみを追いかけている人たちの足音が止まりました。
「王子さまだ!王子さまがいるぞ!」
「なんということだろう!いったいどうしてこんなことが!?」
「わたしたちどうして王子さまのことを忘れてしまっていたのかしら」
「とにかく無事でよかった」
 かわりにお城の人たちの嬉しそうな声が聞こえてきます。
 魔法は解けたのです。


***


 王子さまはお城の中をあるいていました。
 魔女の呪いを解いて、自分を助けてくれた少女を探すためです。
 しかし、その名前をいっても、誰も彼女のことを知りません。
「アン?聞いたことがない名前ですね」
「アンですか?そんな子はみたことないですね」
 そんなとき甲高い悲鳴が響いてきました。
「きゃー!ねずみよ!ねずみがいたわ!」
 王子が見かけた部下にたずねると。
「お城の教会にねずみが出たらしいです。なーに、すぐに退治されたそうです。このお城に逃げ場はどこにもありませんからな」
 結局、アンという少女は見つかりませんでした。
「あれは夢だったんだろうか……」
 王子さまはつぶやきました。


***


 アンは魔法のとけたお城の人を見上げながら思いました。

 よかった。と。

 魔法が解けて、王子さまはねずみからもとの愛される王子さまに戻りました。お城の人たちももとどおりです。

 アンはしっています。
 お城の人も王子様もみんなやさしい人ばかりです。だからみんなが仲良く暮らせるように戻ったことは、とても幸せなことです。

 たとえその笑顔が自分に向けられることがなくなっても、もう優しく頭をなでてくれることがないとしても、大丈夫です。

 姿を見られたら悲鳴をあげられて、怒った表情で睨みつけられるように戻っても、決して怖くありません。本当です。

 だってみんな本当は優しい人たちだって知ってます。

 調理場のおばさんはみんなのために毎日おいしくて栄養たっぷりのごはんを作ってくれます。

 大臣の娘は洋服をつくっては、おしゃれをしたい町の女の子たちにプレゼントしています。

 アンをみたら悲鳴をあげていた侍女たちも、仲間たちと助け合ってお城のみんなのために毎日仕事をがんばっています。

 司書のおばさんはむずかしい字が読めない人のために、たくさんの本をかんたんな文字で紙にうつしています。だから肩こりがなおらないんです。

 司祭さまはめぐまれない子供たちのめんどうを見ています。

 お医者さまは病気のひとのために、いつも新しい薬を研究しています。

 大臣たちは国のことを考えていっしょうけんめい仕事してるから、みんなメガネをかけているんです。

 そして王子さまは、そんなみんなに愛される優しい人です。

 このお城の人たちはみんな優しい人たち。
 ただ、それがアンに向けられることはなかっただけ。

 アンは知ることができました。
 怖い人たちだと思ってたお城の人たちが、こんなにも優しい心を持ってる人たちだったと。
 だから思うんです。

 わたしも幸せです。と。

 お城の人がもっている箒が頭上に振り上げられたとき、アンは目をとじてそっと祈りました。

 このお城に暮らす人たちが、ずっと幸せでありますように。
 これからも王子様と一緒にずっとずっと幸せに暮らしていけますように。

 
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