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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第二章「テストを利用するモノ」

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04-31 種明かし

申し訳ございません。この事件だけでも今月中に終わらせる!と
意気込んだのが見事に空回りして今月はたった二回の更新(汗
おいらはどうも追い込むのが逆効果という典型的な奴でした。
それでも一応最後にこれだけでも、と更新することにします。

本年私の話を読んでくださってありがとうございました。
来年もまたよろしくお願いいたします……いやほんとありがと。





離れた地でトモエを追いかけていた時も。
謎の第三勢力から彼女を助け出した時も。
彼はフィールド内の戦況を把握していなかったわけではない。

2-Bが襲われていたことはもちろん、それが劣勢であること。
リョウという予定外の味方がいてもなお苦戦し勝ち目が薄いこと。
途中で第三勢力が介入してきたのも風を通して聞いていた。

別段、身内だから後回しにしたというわけではなかった。
彼にはそんな救急隊のような考え方は持ってなどいない。
正体と目的が不明の敵とそれに立ち向かおうとする一人の少女。
そちらの方が緊急性の高い事柄であり、邪悪(同質)な気配もあった。
何か“良くないモノ”が運び込まれた以上、その対処を優先しただけ。
その判断を彼はまったくもって間違っているとは思っていない。



───その結果がこれか



尤も手数が限られているため落ち度がないとも思っていないが。
残った呪具の気配、フォスタの位置情報、フィールドマップデータ。
それらと目標地点を視界に収めることで彼はマーキング無しで転移した。
その先で待っていたのは─見慣れた─人間の醜悪な悪意だった。
風魔法で届けられた声は、溜め込まれた声は、どれこれも。



───耳障りな嗤い声だ



聞いているだけで不快になる他者を不当に貶める声。
そしてそれを当然のように思っている不愉快な嗤い。

どこへ行っても自分の前に現れる悪意に口許だけが歪む。
暴力でしか自分達の主張さえできない半端者たちが。
弱者にその力を向けて悦に浸るだけの浅ましい者たちが。
日々を真っ当に生きる人々の価値も知らず嘲笑う節穴どもが。

どこにでもいる、ある、人の悪意。
知識としてそれを知ってはいても、聞き慣れても、見慣れても
それでも“そこにある”ことに慣れない、慣れてはいけない存在。

ナカムラ・シンイチ──否、あえて今は中村信一と記そう。
かの少年はその事実を前にして内心が冷えていくのを感じていた。


──ま、こうなるとは思っていたよ


本音を。
それこそヨーコにさえ教えなかった本音の本音をいうのなら。
帰還前から、もし故郷に帰れても戦いと無縁な人生を歩める気はしなかった。
それでもそれを願ってそうなろうとしていたのはかつてはそうだったからと
それを願ってくれている誰か達に別れも告げずに帰ってきてしまったからだ。
誰も知らない異世界の力だから。世に今以上の混乱をもたらすから。
それらも本当だったが彼個人の想いではなく、考えでしかない。

だから、彼は────この世界でも仮面を被ろう、と決めた。

そう恐ろしくも冷静に、そして当然のこと(たにんごと)のように決断する。
ただ仮面を使うのでなく、この世界でもマスカレイドになるということを。
きっと自分がそうするであろうことは帰還前から彼は漠然とわかっていた。
それでも少しだけ、休んで(怠けて)、あがいてみたかったのだ。
それもこの1、2か月の中身を思えば儚過ぎる願いだったが。


──今回のインターバルは、長すぎたな


誰かの為に、などというエゴではない。
断じて誰も救わぬ正義などという幻想のためではない。
断じて誰かを貶める悪などという虚像のせいではない。
押し付けられた仮面の使命なんていう正体不明の意志(モノ)でもない。

彼が愛おしいと思ったモノを傷つける者達を遠ざけられるなら。
彼が眩しいと感じた宝物に手を出した愚か者を罰せられるのなら。
そのためにこれが一番手っ取り早く効果的な手段であるのなら。


──仮面の暗殺者はこの世界も見事かき乱してみせよう








ただ願わくば、彼らに彼ら自身で災難を乗り越える力を。

こんなルール違反のワイルドカードに頼らぬ意思を持つことを。

それだけを切に願う。









──────────────────────────────





彼女の視点で今の出来事を見た場合。
突然抱えられて高所に跳び上がった途端に大地にいたのである。
その間にあった出来事を転移慣れしてない彼女は全く把握していない。
だからか、彼女が最初に気付いたのは他ならぬ彼女のことだった。

「え、え、いったい何が……あ、陽子!?」

静まり返った戦場。睨む仮面(ヘビ)と睨まれたテロリスト(カエル)
誰もがその乱入者の一挙手一投足を、よく見えないながら注視していた中。
この場で最も状況を把握できていない少女トモエ・サーフィナは
仮面に抱えられながらも─だからこそか─その存在に気付かれぬまま
巡らせた視線に見知った級友が、その姿が映って驚きと共に名を叫ぶ。
それに反応したのはトモエからすれば意外にも仮面(カレ)だった。

『……親しい、のか?』

「一番の親友よ! おろして!」

驚いたように仮面はトモエを解放し、彼女は友人に駆け寄った。
一瞬、マジか、という呟きが聞こえたがトモエはそれどころではない。
陽子は全身が赤く染まり、焦点のあってない目で仮面を見詰めていた。
少なくとも正常な状態だとは彼女には思えなかった。

「陽子、あんたどうしたのよ!?
 その血もしかしてどっかケガしてっ……あ、違うこれは…」

「っ、ト、トモエ……わ、わた、わたしっ!」

それでも心許した友の言葉だったからか。
揺さぶられながらの声掛けに陽子は震えながらトモエを見た。
その瞳からは大粒の涙が流れ落ち、普段の強気っぷりは影も形もない。
トモエはそこでようやく周囲の状況が視界に入ってきて、絶句した。
切り裂かれた人間の胴体がいくつも転がり大地は鮮血に染まっている。
そして陽子の様子を見れば何が起こったのかなど聞くまでもない。

「こんな、ことっ、するつもりなくて!
 ただ止めなくちゃって、みんな守りたくて、だからっ!
 でっでも剣振ったら、ぶわって、あったかいのがいっぱいわたしに!!」

「陽子! いいから!
 いまは何も考えなくていいから!」

震える体と罅割れそうな瞳をトモエはまとめて抱きしめる。
自らの着衣が汚れることなどおかまいなしの抱擁に少女は泣き崩れた。
仮面はそれを横目で捉えながら少し離れた場所にいる少年達をも見据える。
彼らを襲っていた責苦は仮面という乱入者への注視で弱まっていた。
その意識の分散を無謀にも愚かにも隙だと判断した存在がいた。

『躾がなってないな』

残っていた簡易外骨格の兵士たち。
ジェル弾の拘束から逃れた者達も幾人かいるのか。
10ほどの影が仮面を敵とみなして一気に襲い掛かってきた。
動かないのはバラバラにされた者達と指揮をとっていた三名ほど。
口許と腕を負傷した者を庇うようにゆっくりと後退していく。

『それとも主人を守ろうと自己判断で動いたか』

どちらでもいいがな、とでもいいたげな声で呟きながら
飛び掛かってくるモノとばらけながら地上を駆けてくるモノを見据える。
共に仮面だけを狙った動き。そうであるだけに対処は簡単な話であった。
視認しにくい腕を大地に水平に構えると空間に爪を立てるようにただ振り切る。

『サービスだ。お前たちにも見えるよう色をつけてやろう』

──その方が、怖いだろ?

それは時間にして一瞬の出来事だった。
5本の太く黒い線が腕の動きそのままに空間を染め上げ、薙ぎ払う。
鋭い爪あるいは刃状に研がれた魔力を単純に解き放っただけの攻撃。
だが実体を伴う程の濃密さを誇るそれは広義では線でも、もはや壁。
どうしてか兵士達はそれを前に愚直に突き進み、壁に食われた(・・・・・・)

「……………」

絶句する声はいったい誰のものか。あるいは全員のものか。
狙われる一点である自分から放射状に攻撃を放ってしまえばいい。
そんな考えのもとで行われたそれはたった一瞬で誰が強者か教えていた。
まるで巨大な生物の腕や爪が振るわれたかのような惨状がそこにある。
空も地も関係なく黒い光に呑まれて躯体は吹き飛ばされるように砕け散る。
余波で大地は抉れ、巻き起こった突風が周囲の木々をなぎ倒していく。
何の影響も受けていないのは行った仮面の者とその後ろにいる少女達。
そしてそれを呆然と眺める事になった後退した三名の指揮役。
彼らはバイザーに映るにその光景の解析結果に絶叫した。

「……じゅ、純フォトンだと……これが!?」

「馬鹿な! 加工前のフォトンは無害のはずだろ!?」

「ひったい、わひが……」

だから彼らは迷わず突っ込んできた。
純フォトンを用いたただの黒い光にすぎないと判断して。
人は完全に理解不能なことより中途半端に解らない事の方が恐ろしい。
常識外は当然恐ろしいが常識の内に生まれた不明の不安はより怖い。
無害と信じていたモノが見せた異常な破壊の力に明らかに狼狽えていた。

『あれだけあの子を罵っておいて自分たちはそれか。情けない』

種明かしをすればヒトの魔力は意志に感応して性質変化する特性がある。
尤もそれで物理的な破壊を行うには相応の技量か魔族でなければ難しい。
だからといって彼女を非難した発言を思えばみっともない反応といえる。

『ついでだ、もう少し驚いていけ……というかだな───』

───いいかげん子供らを放してもらおうか

「なっ!?」
「っ、どこだ!」

有無を言わせぬ声が耳元で囁かれたように聞こえて動揺する彼ら。
陽介を踏みつける男と式鬼を用いてリョウを捕まえている義久。
視線を巡らせるも仮面のいる位置はまるで変化していない。

「スキルか、いや俺達以外は使えないはずだ!」

「声だけを届けただと? 霊力も使わずにそんなことが!?」

魔法を知らぬ者達が風で声だけを耳元に届けたなど気付ける訳もない。
その反応を嘲笑うような息遣いと共に指の鳴る音が耳元で響く。
フィンガースナップ。そのワンアクションをトリガーにした魔法は
誰も知らないがゆえに感知も阻害もされずに、少年達を攫った。

「っ、うっ、あ、え?」
「がはっ、ごほっ……な、なにが?」

途端、仮面の背後。少女たちのそばに少年達が光を纏って現れる。
確かに捕えていたはずの両名が突然いなくなったことで男たちが
無様にも狼狽え、戸惑っているのが遠目であっても見て取れた。
目で見える距離であるならば他者の転移も自分の転移も容易い。
あくまで、この仮面(オトコ)の場合は、という注釈が必要だが。

「リョウ! 弟くんも! 良かった。あんた達無事だったのね!」

「ト、トモエ?
 お前なんでこんな所に、ってかこいつ誰、何!?」

「姉ちゃんっ!」

状況の変化と謎の存在に困惑するリョウを余所に。
彼は他の何もかもが視界に入ってないように姉に駆け寄った。

「陽、介……わ、わたし」

「なにも言わなくていいから姉ちゃん!
 そうさ、何も悪くない。姉ちゃんに悪い所なんか一つもない!」

まだ怯えたように震えている顔で何かを口にしかけたそれを遮り、
陽介はただただ首を振って、問題などないと言い切った。
だが、それは果たして姉に言っているのか自らに言っているのか。
そうであってほしいという懇願じみた言葉でもあった。

「……ごめん、あたしがっ」

どちらもひどく傷ついているのはそれだけで簡単に見て取れた。
それがここへの救援が遅れたのが原因なら自分のせいではないか。
自分が余計な行動をしなければ、口の悪い試験官の力を借りていれば。
もっと違った結果が、仮面が先にここに来る展開もあったのではないか。
そんな罪悪感がどうしても沸いてトモエは知らず唇を噛んでいた。

『はぁ───冷水よ、汚れを落とせ、(ワータ)
「え?」

そこへ溜息に続くように紡がれた言葉は彼女も翻訳機も理解できない。
しかし、そこにあったのはどこか叱るような声色だったために訝しむ。
だが次の瞬間にはそんなことを忘れさせるような衝撃が三人を襲う。

「ひゃあっ!?!?」
「うぅっ!?」
「っっ!?!?」

頭上からまるで小さな滝のような勢いで大量の水が落下してきた。
ほんの一瞬の滝行でもいきなり冷水を浴びせられて、トモエは
甲高い悲鳴をあげ、双子らは驚き過ぎて目を白黒させていた。
唯一被害から免れたリョウも突然現れた一瞬の滝に唖然としている。
だが“それだけ”で彼らに付着した『赤』は不思議と全て流れ落ちた。

「な、なにすんのよあんた!!」

「……それ、こいつがやったのか?」

そうとは気付かぬ少女は持ち前の気性で反射的に怒鳴りつけるが
下手人たる仮面は悪びれる様子もまるでなく淡々と声を返した。

『ヒトを正気に戻すには冷水をぶっかけるのが一番と思ってな』

「あたしは正気よ!」

『知ってる、わざとだ。じつに申し訳ない』

字面にすれば謝っているように思えるが故意な上に慇懃無礼な声色だった。
相変わらず言葉のニュアンスだけは正確に聞こえる謎の音声に青筋が立つ。

「あ、あんたねっ! それ全然謝ってないでしょ!!」

『失敬な、言葉ではきちんと謝ったはずだ』

「では!? あんた今“言葉では”って言ったか!!」

ぎゃあぎゃあと喚くトモエの言葉をのらりくらりと躱す仮面。
声だけを聴いていると単にじゃれあっているようにも聞こえるのだが
異国の相貌とはいえ普通の少女と黒いもやの人型(かいぶつ)の会話である。

「変なモノは見慣れてるつもりだったけど………なんだこれ?」

奇妙といえば奇妙で不気味といえば不気味な光景に皆の戸惑いは増す。
元々、耐性や慣れがあっただけにリョウが抱く違和感は半端ではない。
霊視しない方が見やすい黒い靄など怨霊より気味が悪いが、
それを平然と怒鳴りつける幼馴染の大物っぷりに頭痛がする。
尤も彼女が敵意を持ってないという理由で警戒しない彼も彼だが。

「……………」

「あ、陽子違うのよ? 大丈夫だから!」

それを意外か不思議そうに見ている視線に気付いた彼女は慌てた。

「こいつこんな不気味な見た目してるけど一応味方だから!」

主に、この怪しすぎる黒もや仮面の説明をしてない事に。
仮面自身もまず弁解するのはそこなのかと呆れ半分感心半分だ。
だが、わざわざふざけた意味はあったと少女らの顔を見て判断する。
彼女達の表情から余計な感情は一時的にでも払拭された、と。
これでようやく種明かし(・・・・)をすることができる。

「し、知ってるわ。前にも会ったことあるから」

「爆弾騒ぎの時に、その、助けられてるんだ」

一方で彼らは共に四月末に起こったあの事件を思い出していた。
これにはトモエが驚いたような顔でそうなのかと視線を向けてくる。
仮面自身としてはあれを助けたと表現されるのは甚だ納得できないが
ここでそれを混ぜっ返しても意味はないとして流しながら頷く。

『……概ね事実としておこう。
 ところで私の存在に気付く程度には落ち着いたかね?』

そして二人を見下ろすような位置に立つとそれを確認した。
だが向ける声はむしろ“落ち着け”と強制するような色がある。

「「はっ、はい!」」

双子はそれに言い淀みすらハモらせて同時に頷く。
大地に座り込んでいるような状態ながら背筋をピンと伸ばして。

「………こいつらが同時に素直って結構貴重な気がするな」

「あんたそれ、確認じゃなくて強迫っていうんじゃないの?」

入学時からの付き合いの両名はその態度に各々驚くが、
仮面は気にした風もなく自らの話をただ淡々と続けた。

『ではその落ち着いた頭で私が吹き飛ばした残骸を見たまえ。
 ────その間、あれらの相手は私がしよう』

「え?」

戸惑う子供らを無視して振り返りながら仮面は大きく腕を振った。
途端衝撃音が響いて何かの破片が散らばっていく中、外骨格が姿を現す。

「っ……」

しかしそこにあるのは奇襲した側の驚愕だ。
振り下ろした戦斧の先端は初めからそうだったように何も無い。
視認しづらくとも人型と判断できる以上、大雑把な腕の動きは解る。
その一振りだけで男の武装は粉々に吹き飛んでいた。驚きは如何程か。
だがそれを見逃すほど仮面は敵には優しくはない。

『はっ』

振り切った方とは逆の腕が掌底打ちの形で突き出され、
インパクトの瞬間に魔力をゼロ距離で爆発させた。
同質のエネルギーがぶつかりあえば多い方が打ち勝つは道理。
一点集中させた圧縮された魔力の小爆発は外骨格のバリアを打消し、
尚且つその衝撃で数百キロの重量をボール球のように弾き飛ばした。
装着者の悲鳴など爆音や土煙を上げて大地を転がる音に紛れ聞こえない。

『無粋な連中だ。
 全部ネタばらしするから待てというに』

それが止んだ頃。
未だ消えない土煙の先を見るように仮面は呟く。
無造作に突如上げた片腕をあらぬ方に向けながら。

『お前に言ってんだよ』
「っ!?」

にやりと仮面の下で三日月が笑う。
今まさにランスを突き刺さんと構える男の姿が現れた時には
もうその眼前には黒い銃のような武器が突きつけられていた。
短く轟く発砲音と共に圧縮された空気の槌が叩きつけられる。
見えない壁で殴られたような衝撃にその体は軽々と宙を舞う。
そして見事な放物線を描きながら大地に落ちると数秒前の焼き直し。
土煙を上げながら転がり木々が生い茂る森を切り崩すように突っ込んだ。

『魔力で補強したとはいえ趣味でこれか。あいつもたいがい紙一重だな』

マッドなサイエンティストと。
至近距離での最大圧縮した空気の解放だったとはいえ、
想像以上の威力を見せた黒く染まった“風の銃”に内心苦笑い。

「くっ、二度もよくも!」

『……よくやる』

そこへ上から落ちるように響く怒声とビームの銃声。
空間を裂くように迫る直線の敵意は寸分違わず仮面を狙う。
それは人型の黒いもやに吸い込まれるように直撃し、弾かれた(・・・・)

「は?」
『ほらよ』

こと戦闘においてあの従者にできる事の大半は主も出来る。
繊細さで遙かに上回るそれで直線の光弾は射手に弾き返された。
見慣れぬ現象を前に思考が鈍った男は寸での所で回避するが紙一重。
体を揺らす衝撃と肩装甲に薄らと焦げたような跡が残った。

「跳ね返された、だと?」

驚愕の声をこぼしながらも男の姿はまたも消え、仮面を横合いから襲う。
再び突き出されたランスを半歩引いて避け、その腕を脇で挟んで捕える。

「ひっ!」

これが相手からは黒影に武器ごと腕が吸い込まれたように見えるのだ。
手応えもないため本当に人型の靄と戦っている錯覚さえしてしまう。
それは存外に恐ろしい光景であり、そうだと知るからこその動きだった。

「………………」

そんな一連の攻防を子供たちは呆然と見詰めていた。
見た目はともかく中身の人間らしさを感じ取っていたとはいえ、
既に規格外の能力を見せられていたとはいえ、それは衝撃的だった。
自分達が食らい付くのがやっとの相手を一人で圧倒しているのだから。
されど。

「こら、どこ見てんのよ! 
 何のために敵の相手してくれてると思ってるの!」

この戦場での出来事を知らないためか既に仮面の力量を見ていたためか。
トモエは一人周囲に散らばる残骸(・・)を見回して、その意図を察していた。

「え、あ!」
「おい……マジか」

言われるがまま反射的に視線を巡らせた彼らはその事実に驚く。
抉れた大地に散らばったかつて人体だったはずのものは、しかし。

「うそっ、機械?」

どれも元がどこの部位だったか解らないほど砕け散っていたが、
血肉の赤々しさなど微塵もない無骨な鋼色の金属片でしかなかった。

「まさか……アンドロイド、だった?」

技術的には作成可能でも需要の低さや倫理面の問題で
技術科の生徒が趣味で作る以外にはほとんど存在しない人型ロボット。
それをまさかテロリストがこれほど用意したとは誰も思いもしなかった。

『正確には人間に偽装させた無人格型アンドロイド、だがな。
 破壊しても中身まで偽装させる機能付きとは凝ったものだよ』

「なっ、貴様なにを!?」

男を捕まえたまま解説しつつその手からランスを奪うと
呆れと感心の混ざった声と共に少女が斬った胴体の一つに投擲する。
貫かれ砕け散ったそれはその鋼のパーツという正体をさらした。

「あ」

『全くよく思いついたものだな。輝獣は生物ではないから
 生徒たちは常日頃から動体反応のセンサーを優先的に使っている。
 そして大半の生徒の装備では多様なセンサーの同時運用は難しい』

複数種の敵性存在がいたとはいえ大半が輝獣かロボ。
またどれにせよ動く事に違いはない以上そちらを頼るのは当然。
距離が離れているならともかくこの近距離で相手が“何なのか”を
センサーを使ってまで調べるのは外見だけでは解らない相手ぐらいだ。
逆を言えば、見た目さえ偽装すれば戦闘中に調べられる事は稀。
これはその穴を巧妙についていた。

『そこへステルス光学迷彩で接近しての急襲、か。
 子供達を侮辱してたわりに大人気ないことをしているなお前達』

「くっ、うるさい! このっ、放せ!!」

痛い所を突かれたからか。暴れながら腕を引くがびくともしない。
残った手で殴りかかるが易々と受け止められ、両手を封じられる。
掴んだだけだが黒いもやに腕が包まり捕まる視覚的効果は存外に強い。

「ひっ、くそっなんなんだお前!?」

少なからず怯えを見せる男に仮面はただ不気味な笑い声をもらす。
多分に怖がらす演出でしかないのだが、中の男の性質ともいう。

「……けどこれってすっごい余分な機能よ。
 手間暇かけてこんなのつける意味あるの?」

一方でトモエは首を傾げていた。
何せそれはあまりにも兵器として無駄な機能であった。
人に偽装させるだけなら理解できるが壊されても偽装させるなど。
されど仮面はその信じられない理由をあっさりと口にして答えた。

『ん、あるさ。
 子供らを人殺しにして精神的に追いつめるという意味でなら』

「あっ」

トモエは自分の腕の中で愕然とした顔をしている親友を眺めた。
彼女は本気で自分が人を殺してしまったと思い込んで震えていた。
もし事実が明らかにならなければ一生のトラウマになっていただろう。
だが、そうだと考えてもあまりにもそれは致命的にズレている。
人の心を傷つけるのが目的の破壊されるのを前提とする人型兵器。
そこには使用された技術の高度さとまるで釣り合わない異常さがある。

「お、おい、なんだそれ。発想が無茶苦茶だろ。
 オレでもこれがとんでもない技術だってのは解るのに
 やってるのはただの最低な嫌がらせじゃないか!」

使われたトリックそのものは単純極まりないものだ。
リアル過ぎる人体の映像を元の機体の中身に被せていただけ。
血液も最初から人工的なものを中に用意していただけである。
しかし、その精度と手間のかけ方は尋常とはいえない程だった。
どの角度から見ても目視では違和感を覚えない精巧で高度な投映技術。
感触や色にまで拘った人工の血液はその温度でさえ調整されている。
またある程度の破損なら人体に見えるよう計算され、実際にそう動いた。
さすがにここまで破壊すれば機能しないがあれは対人向けの威力ではない。
おそらくは対人武装の破壊力さえも制作者は計算していたのだろう。
すべては敵対者に「人を殺した」という誤認をさせるためだけに。
そこには技術の無駄遣いなどというレベルではすまない程の
常軌を逸した不気味な発想と熱意が見える。

悪戯(イタズラ)の発想というのは得てしてそういうものだ』

だが仮面自身の感想はひどくあっさりとしたものだ。
どうしてかこの発想をした相手が悪戯気分だという確信がある。

『しかし、なんでそれで妙な懐かしさを感じているのやら……』

そしてその悪辣な発想にどこか既視感を覚えることに嫌な予感があった。

『おい、誰のアイディアだ?
 こんなの戦士だけをやってたお前らに思いつくもんじゃない』

「だ、黙れ、誰が教えるものか! 『エアスラッシュ』!」

試しで聞けば返ってきたのはスキルの鎌鼬。放たれた無数の風刃。
密着した距離では回避も防御も間に合わずに命中し────霧散した。

「……は?」

『ま、どうでもいいけど、ねっ!』

それに面食らった顔面に頭突きを食らわせると腕を放す。
しかしその衝撃でふらつく体に即座に回し蹴りを仮面は叩き込んだ。

「がっ、はっ!?」
「隊ちょっ、わあぁっ!」

そして援護の為に近付いていた三人を巻き込んで潰すように倒れこむ。
簡易を纏う彼らでは外骨格を起こすことも自力で起きる事もできない。

「くっ、くそっ! 邪魔だ、どけ!
 あの野郎っ、なんであの距離でスキルがきかない!?」

全員が足掻きながら起き上がろうとするが互いが邪魔で起きられない。
苛立ちながら喚き散らしている姿は実にみっともないといえる代物だ。

『さてね、こっちにトリックのネタ晴らしをする義務はない。
 知りたいのなら必死に頭を使って暴くんだな』

尤もそもそもにしてトリックと呼ばれるトリックなどないが。
単にあの瞬間体を覆った魔力の膜を突破できなかっただけに過ぎない。
効かなかったのではなく、破壊力がまるで足りなかったのだ。

『なんにせよ。
 いま一番重要な事は君が誰も殺していないという事だよ』

「あ」

──良かったな
男たちの怒号と喚き声を完全に無視しながら、
ゆっくりと少女に近づいた仮面はふわりとその頭に手を置いた。
その手は濡れている髪を優しく撫でながら魔法で水気を飛ばす。

「……………」

見た目は不気味な黒い靄だが、彼女はそれを気味悪く思えなかった。
触れられる手に不快感を覚えないことに当人が一番困惑しているほど。
むしろどこか暖かくて穏やかな気分になるそれにされるがまま。
紡がれる声もとても優しげで陽子はどこか安堵さえ感じていた。
殺人の恐怖と混乱で嵐の海のようだった心も今や常より平穏な凪。
真相が判明したのもあるが触れられているだけで落ち着いていく。
周囲の反応はそれぞれでトモエは微笑ましい、リョウは微妙な、
陽介はどこか複雑そうな視線を向けていたが。

「はっ、だからなんだというのだ!」

それを無粋にも漸く立ち上がった男が苛立ちまじりに遮る。
どこかそれに不機嫌そうな雰囲気をまとって仮面は体を向けた。

「その小娘が殺したと思い込んで取り乱したのは事実。
 所詮その程度さ。どいつもこいつもお遊び気分なんだよ!」

「そうだ! 俺達はそれを解りやすく教えてやったのさ!」

「ひょっ、ひょうだ! ひゃにがふぁるい!」

それの何がいけないと暴かれたにも関わらず悪びれる様子もない男達。
あまりに身勝手な態度に怒気をあげる子供達を手を翳して仮面は制した。

「貴様も戦場を知る者ならわかるだろう!
 人を殺す覚悟もない連中に武器を持つ資格などない!」

戦場の常識。戦う覚悟と資格。
常にその身を置いてきた戦場で自分達はそれらを持って戦ってきたと。
彼らのその訴えは本気である。だがそれは同時に───

『そのお遊び気分だという子供達相手に勝てもしなかった奴が偉そうに』

───ある事実を浮き上がらせている事に彼らは気づいていない。
そして仮面は静かに両手をそれぞれ別の場所に向ける大蛇と暴風を解き放った。
大地を這うように駆ける蛇腹はある地点で何か巻きつくように蜷局を巻いた。
空を裂くように走る風槌はナニカに当たって、地面に突如クレーターが開いた。
しかしどちらにも何かがあるような結果は見えても、その姿は見えない。

「き、貴様、まさか!?」

『全部ネタばらしするといったぞ────彼の者達に色を付けろ、(ワータ)

呟きが大地に吸われた人工鮮血を浮かび上がらせ空中に水塊を形成する。
そしてそれぞれを狙うように三つに別れて、その頭上に降り注いだ。

「お、おい、まさか。あいつのあのスピードの正体って!」

「やられたっ……なんて単純な方法……」

「こ、こんな手で追い込まれてたの私達!?」

手品のタネをそれで察した彼らはそれぞれ何とも言えない顔をした。
ただ一人この戦場の出来事を知らないトモエだけが首を傾げていたが。

『今時三流のマジシャンでも使わないぜ、そんなトリック』

仮面に蹴られ、蛇に縛られ、風に落とされた三人(・・)に赤が付く。
例えあの鎧に水を弾く仕組みがあろうとも属性と使用した魔力量で
及ぶ現象ならファランディアの魔法はその言霊を実現させる。
液体を操り、それを対象に染み込ませる事は充分許容範囲だ。

「ごほっ、がはっ……な、なんだこれは、装甲の色が!」

「おえぇうえっ、くそっ、何がいったい巻き付いて!!」

「うえっ、えぐっ、す、姿が消えないっ、迷彩機能が壊れて!」

幾分口にも入ったのか咽ながらその姿が初めて同時にさらされる。
彼らは全員完全同一形状の外骨格を纏い、声も体格も寸分違わない。
三つ子かあるいは歳の近しい兄弟なのだろう。彼らが高度なステルス性と
優秀な光学迷彩を使って出現と消失を繰り返す事で転移じみた動きを演出した。
しかしそれは魂の気配さえ探れる仮面が相手では意味のない行為だった。

『三人で一人を演じておいて、この為体。遊んでいたのはどっちかな?』

「ぐえっ、はぁ……なん、だと!」

『準備万端で徒党を組んで本気で襲ってきたくせに勝ち星はゼロ。
 テロごっこで遊んでいたせいで私の介入を許した連中が覚悟や資格?
 随分とご立派なことをいうじゃないか、くくくっ』

心底おかしそうに、そして極限にまで見下す嘲笑をもらす仮面。
耳障りな笑い声は彼らの意識を集めるには充分なほどに不快だった。

『そもそもだ。お前達の語る戦場の諸々はただの幻想だ。
 そうであってほしいとお前達が思っているだけのな』

その集中を待って彼らの主張の穴を突き、そして折りにかかる。

「なにを!?」

『戦場にあるのは無慈悲なまでの無秩序という一種の公平性だ。
 情けなく逃げ続けて誰とも戦わなかった弱虫が生き延びる裏で
 万の敵を倒した勇敢な戦士が流れ弾を受けてあっけなく死ぬ。
 その逆もまたしかり…………そういう場所だよ、あそこは』

無慈悲で無秩序で公平に勇者も愚者も等しく死ぬ可能性の上にいる。
戦場の掟や覚悟などその前では何の意味もない代物でしかない。
それらが意味を成すのなら生き残っているのは自分などではない。
装備の充実で人死が比較的少ないガレストとは違う異世界の
戦場を知るカレには彼らの語る戦場の話はあまりにも軽い。
だからだろう。少女(イモウト)の事もあって存外に頭にきていた。
だからだろう。その声には恐ろしく邪悪なほどの優しい色があった。

『でも、だからルールがあってほしいんだろ?
 そこに立つのに覚悟や資格があってほしいんだろ?
 でないと自分達がそんな場所に立っているなんて怖いもんな』

これがあるから大丈夫だ。
それを持っている俺達は正しい。
ここに立つべき者なのだ。そう思い込めるのだから。
くすりと仮面は言外に嘲笑する。そうだろう、臆病者ども。と。
それはあまりにも無造作に彼らの主張の根幹をひっくり返していた。

「き、貴様! 黙って聞いていれば好き勝手!
 それだけの“力”があってそんなガキどもを庇うばかりか、
 世界を是正するために立ち上がった俺達を愚弄するか!」

『当たり前だろう。
 力を持ったからには子供達を理不尽から守らんとしてなんとする!
 第一力の有無だけを見て、幼き牙を軽んじたからこうなったのだろう』

是が非でも負けない、負けたくないという子供らの意地と頑張りを
どう言い繕うとも彼らは潰せなかった。ならそれが真実であり事実だ。
そしてこんな行為に出た以上、その主張には塵芥ほどの価値もない。

『この子達は真剣に未来を掴もうとしている。それぞれ必死に!
 今をどう思うかは自由だが次の世代をないがしろにして何が是正だ!
 こんな手段を選んだ卑怯者のテロリスト風情が勝手に語るんじゃない!』

「黙れっ、なんといわれようと何を犠牲にしても我らは戦う!
 例え、お前がいくら強くともこうなれば六対一だ!
 足手纏いのガキどもを連れて勝てると思うなよ!」

ある意味彼らは仮面の戦闘力は自分達より上だと認めていた。
しかし数の差と背中に庇う子供らの存在が足枷になると踏んでの強気。
なら一瞬全員沈めればいいだけだと言霊を紡ぎかけて、口許が緩む。
どうやら仮面の言葉は目の前の相手ではなく背中の誰かに届いたようだ。
あるいはこれ以上守られっぱなしも嫌だったのか。

『ふっ』

「言ってくれるじゃねえか!
 その足手纏いを結局倒せもしなかった連中が!」

自分の背後から飛び出した少年(リョウ)は簡易を従える男に突貫していった。
大剣を構え、上段からあまりに真っ直ぐに外骨格を目掛けて振り下ろす。

「はっ、バカめ! おとなしく怯えていればいいものを!」

それを同じ大剣で受け止め、互いのフォトンが火花を散らす。
だが元々の装備の出力が違う以上この拮抗は続けられるものではない。
このまま伸して人質に、そう皮算用をした男はされど背後で呻き声を聞いた。

「なんだどうした!?」

意識の大部分をリョウに向けたまま背後をバイザーに映せば、
そこには気を失って倒れた部下たちと宙に浮かぶ複数の浮遊盾(ビット)の群。

「いくら経験豊富でも所詮は簡易。学園にある装備でも決まれば一撃だ」

「シールドビットを鈍器に!? な、なんだその使い方は!?」

仮面の背後にいたままで陽介はその注目される存在を囮にして
放置されていたシールドビットを彼らの背後に動かし襲わせた。
硬さが売りの盾。その不意打ちによる衝撃は充分な威力がある。

「よそ見してんじゃねえぞ!」

「なっ、がっ!?!?」

その驚きを見逃すわけもなく彼は大剣を放棄しナックルに切り替える。
急に押し合っていた力がなくなりたたらを踏む男の腹にその拳が刺さる。
刺々しい形状のそれは見た目通りの痛みを与えていた。

「オレはもっと強くなるんだ。てめえら程度に敗けてる暇はねえんだよ!」

これまでの鬱憤を返すように雄叫びをあげて乱打を叩き込む。
倒れず踏み止まったがそれでも腹の一撃が全身に響いて足がふらつく。
意図してではなかったが仮面の蹴りを受けたのと同じ所への拳打。
防戦一方となり悔しげに唸り声をあげるもはやただの遠吠え。

「もう充分休めました。あいつらは俺達がやります。
 いえ、これぐらいやらせてください!」

そしてその言葉と共に仮面の前に出た陽介の顔には懇願がある。
助けられた側だという自覚があるからその許可が必要だと感じたのだろう。

『好きにすればいい。
 奴らだけなら君らもここまで追い込まれはしなかったろうしな』

元より劣勢ではあっても危険と判断はしていなかった戦況だ。
意表をつく手品もなく、相手方には積み重なったダメージもある。
装備や経験の差があれどもう二対一で充分だと判断する。

「ありがとうございます。
 でも姉ちゃんと捕まえてる方とあっちに墜ちた方はお願いします」

『………私をこき使うか。いいだろう』

厚かましいとも取れるお願いに一瞬の間を置くも、
どこか嬉しそうに笑みをこぼした仮面(カレ)は応えて腕を軽く振る。

「わ、よせっ、あああっ!!?!」
「く、くるなっ、わあぁぁっ!?!?」

黒き大蛇に縛られたままだった男はそのまま振り回され、
もう一人の男に叩き付けられ、共にノックアウトとなった。
一瞬呆気にとられつつも一礼して彼はリョウの援護に向かった。

「ちょっと陽子、無茶しないで!
 ダメージや消耗はあんたが一番ひどいのよ!」

「私だけ何もしないわけにはっ、あっ!」

「もうっ、いわんこっちゃない」

それを見送る暇もなく背後では少女たちが言いあっていた。
二人に続きたいヨウコだが、肩を貸してもらって漸く立てる程。
強い緊張感が続いた状態での執拗な心身へのダメージはかなり深い。

『君はもう充分やった。一番の功労者は休んでいたまえ』

それでも前に進もうとする少女の前に立つと仮面は柔らかな声を向けた。

「でもっ、え? こう、ろう、しゃ?」

しかし少女はなぜか完全な日本語であるそれの意味を聞き取れなかった。
それほどまでに彼女にとってはそんな評価は予想外のものであった。

『間違いではないだろう。そして君は誇っていい。
 君が意地でも通さないと稼いだ時間のおかげで私は間に合った。
 ギリギリではあったが犠牲者どころか重傷者も出ていない』

だから、ありがとう、と仮面は感謝を告げた。
これは出まかせでも慰めでもなく本心からの言葉だ。
あの時、一部でも2-Bを追いかけられていたら状況は変わっていた。
どれだけの『力』を持っていてもその身体が一つしかない仮面にとって
駆逐すべき敵や守るべき子供達が分散し入り混じる状況が最も厄介だ。
そしてそうなった場合より危険で多数の2-Bを仮面は優先しただろう。
その心情がどうであれ、後でどれだけ苦悩することになろうとも。
感謝に込められたのはそうならずに済んだことも含まれていた。

「あ、え、いっいえ、そんなっ、私は………ぁぁ、ぅぅ」

尤も真正面からの賛辞や感謝に慣れない彼女は赤くなって俯いてしまう。
彼女の抵抗は彼女自身を危険にさらしたが結果的に足止めに成功し、
逆転の力を持つ仮面(カレ)を引き寄せた。ならそれは彼女の功績だ。
そうであるべきなのだと考えながらも別の考えも浮かぶのは
彼女とカレの本来の関係性ゆえか。

『………けれど、どうか良ければこの機に考えてほしい。
 君が進む道がこれでいいのかどうかを、きちんと』

「そ、それは戦いでは役に立てなかったから、
 戦いへの道は諦めて他を探せってことですか……」

照れた顔を一転させて悔しげに唇を噛む陽子。
仮面からは感謝されたが戦果があるかと聞かれたら彼女は首を振る。
だからそういう意味だと受け取ったが即座に否定の声が届く。

『いいや違う。
 私にはそこまで口にする権利も、それこそ資格もない。
 決められるのはそのために頑張ってきた君だけだ。
 ただ能力の適正だけで将来を選ぶのはやめてほしいと思う。
 例えそれが、君の身近な誰かのためであったとしても』

彼女の能力値もランクも気性も比較的この分野に向いている。
経験を積み、柔軟性を持てばきっと優秀な戦士となれるだろう。
その理由が家族のためであるのは本来なら褒められるべきことだ。
しかし。

『その道を進むならいずれ本当に今日のようなことは起こる。
 あいつらが言ったのとは私としては違う意味のつもりだが、
 戦場に立つのに覚悟はいらないが立ち続けるのには覚悟がいる』

命を傷つけることを容認するにしても否定するにしても。
だから何を選ぶにしても多くを見て考えてほしいと思ったのだ。

『君が望む未来は本当にその道を進む以外に存在しないのか。
 他の選択肢を見てみることも、今はまだ許されるはずだ。
 ここは、いや本来学校とはそういう場所なのだから……』

「…………」

陽子はその言葉に驚いたような表情を見せるも小さく頷いた。
他の選択肢を考える事さえしていなかった事に気付いたからだ。
その様子にどこか安堵するような小さな息がもれた事は誰も気付かない。
横にいたトモエは発言の中身に対してはいい助言だな程度の感想だが、
それをこの仮面が口にしたことには激しい違和感を覚えていた。

「なんか、あたしの時と対応が違う……」

気遣いや優しさが無かったとはいわないがこんな柔らかさは無かった。
少女の双眸が、こいつの好みは陽子か、とでもと言いたげに細まる。

「っ!?」

しかし突如、周囲に降り立った邪な気配に“ふたりは”同時に背を向けあう。
真ん中に座らされた陽子だけが状況が飲み込めずに困惑した顔を見せた。
だが見えていない彼女にはそうでも見えている彼女らは違う。
そこには自分達を囲むように無表情な赤き鬼面の群れが現れた。

「なんで式鬼が!?」

『……君、なんでここに来たのか忘れたのか?』

「あ」

こちらの状況がそもそも何も分かっていなかったのもあったが、
初めての転移とその先での親友の状態に他が吹き飛んでしまっていた。
しかしこの二名はそもそも残された最後の呪具に対処するために来たのだ。
だから。

「あれだけ援助してやって、最後はこれか。
 所詮は異邦でも排除された半端者たちで構成された賊軍よ。
 我らの役に立っただけでも僥倖というものか」

倒れ伏した義勇軍を蔑みながら現れたこの男の相手は当然の話。
果たして地球伝来の異能は異世界の幻想に届くのか。それは今から実証される。


『やっと出てきたか。
 でも………ああ、これと後片付けだけじゃ終わらないなこの感じは』


時刻はわずかに昼にさしかかった辺り。

今朝から始まった襲撃もようやく終わりを迎えようとしていた。

ただ、そういう時が一番危ないと仮面はひとり嫌な予感を覚えている。

証拠はない。推測でもない。経験から来る勘ですらないただの予感。

それでも仮面(カレ)は最後の一波乱がこの後どこかである事を確信していた。





───この地にはまだ自分の知らない敵意と悪意がある───
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