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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第二章「テストを利用するモノ」

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04-29 知る者の義務



3クラスの混成チーム。
彼らは河川を下る形でフィールド出入り口近辺に辿り着く。
バリアやシールドを重ねたスキル製のイカダに乗って、なために
体力の消耗は抑えられており彼らの足取りはまだ軽い部類だ。
尤も“今度は船作ったぞこいつ”と周囲の呆れと感心が混ざった視線は
より強くなってシンイチに注がれているが当人は知らぬ存ぜぬだ。
あるいはそんなもの以上に気にすべきモノがあるから、ともいえるが。

「周囲の警戒を怠るなよ。川を遡ってきた連中がいたんだ。
 まだこの辺をうろついてる奴もいるかもしれん」

左手にパイルバンカー、右手に赤い銃を装備したまま。
指揮官となっている彼は注意を促しながら彼らを先に進ませる。
その視線はその進行方向とはむしろ逆の後方を意識していた。
この状況で一番まずいと彼が警戒しているのは挟み撃ちだ。
ゴール付近にまだガードロボ群が立ち往生しているのなら
戦うことになるがそこへ背後から襲われたらひとたまりもない。

「警戒しすぎよ。どっちからも反応も気配もないわ。
 少し妙だとは思うけど後ろは他のクラスが頑張ってるんじゃないの?」

そこへ後方支援組全体の中心的人物─にさせられた─トモエが声をかける。
彼女からすれば主張は正論だが気を張りすぎているようにも感じられた。

「確かにな。けどそうだとしても、
 俺が預かった以上こいつらの安全には万全を期す。
 それに突然輝獣が発生することもある。無意味じゃないさ」

「それはそうだろうけど。
 ……あんたって謝ってきた時も思ったけど
 真面目にしようとすると手抜きできないタイプでしょ?」

それ疲れるわよ、とトモエは軽い口調で注意したが彼もまた軽く返す。

「悪かったな、手抜きが苦手で。
 それよりお前また体力配分間違えてないだろうな?」

「なっ、さすがに三回も同じ失敗しないわよ!
 まあ感覚的に残り半分を切ったくらいだけどね」

「お前でそれなら前衛組は完全に限界ギリギリだな」

この混成クラスの生徒たちの間に体力ランクの大差は存在しない。
動きが大きい前衛組がより大きく体力を消耗しているのは当然の話だ。
しかし。

「………ランク的にはあんたが一番低いはずなのにねぇ」

トモエはすさまじく胡乱な目でシンイチに疑問を向ける。
激しく動く前衛組以上に動いているというのに疲弊の色が見えない。
事前情報無しで彼の動きを見て、上位クラスと勘違いした彼女は
その低さに驚くより何かで偽っているのではないかと懐疑的に見ていた。

「気にするな」

「気にするわよ!」

だが彼はそれについて語る気はないらしく軽く流されてしまう。
不満げに眉を寄せて唸る姿はその容姿ゆえ迫力はあるが彼には通じない。
トモエは霊力という表沙汰になっていない力を持つために周囲ほど
ステータスを絶対視してはいなかったのだ。

「うん、あのさ、指揮官殿?
 痴話げんかしてるところ悪いんだが……」

「だっ、誰と誰が痴話げんかしてるってのよ!?!?」

「俺とお前が、だろ………で、なにかあったか?」

思わぬ言葉に顔を赤くして吠えた彼女を尻目に冷静に指揮官は問い返す。
からかい半分で口にした生徒も完全に動揺してしまったトモエも
あまりの平静さに逆に呆気にとられて言葉が止まってしまう。

「へ、え………あたし、してたの?
 痴話げんか、こいつと……………ふええぇっ!?!?」

「………………」

まさかの肯定をされて奇声の絶叫をあげた彼女を前にして
なんともいえない顔をした生徒は内心申し訳なく思いながらも
重要なことなので話を続けた。

「じつはゴール付近に正体不明の巨大な機影があったんだ。
 けど、それを敵とみていいのかどうかがよくわからない」

「は?」

機影を見つけたが敵味方の判別がつかない。
どこか要領の得ない言葉に詳しい説明を求めると
レーダーでその存在を知った生徒が目視でもそれを確認したのだが、
その色彩と遠目でもはっきりわかる妙な形状に戸惑ってしまったらしい。

「あれなんだが……」

「………なるほど。
 しかし、ああなると完全にただの目印だな」

彼もまたそれを確認すると苦笑混じりにそう評した。
どこかで見た赤き鋼の巨人を再び遠目から眺めながら。
生徒らの感覚でいえば“なんだあの巨大な置物は?”らしい。
製作者にとっては残念ながらガードロボにさえ見られていなかった。
彼らが日本が世界に誇るサブカルチャーの類と縁遠い生活なのも
原因なのだが内心激しい世代間ギャップを感じるシンイチであった。

「地味にアレには色々抉られるなぁ………でも、やっぱカッコイイ」

「は?」

「いや、なんでもない。
 あれは技術科の生徒が趣味で作った人型のガードロボだよ。
 今回技術科3-Bはアクシデントで途中棄権してるからな」

「ああ、それで自作のガードロボと一緒にゴールにいるのか」

納得する生徒達にあれを目標にして進めと命じつつ、
改めて周辺を見渡すと最近ついたばかりの戦闘の爪痕がある。
小さな破片程度ではあったがガードロボの残骸も存在していた。
それが意味するところを察して、シンイチは頬を緩める

「さすが紅蓮鋼人、伊達じゃないな」

助かったよと内心呟いて幼き日の英雄を見据えて感謝した。
操縦していただろう誰かさんのことは意図的に忘れて。
しかしそれに意識を取られてある少女の様子の変化に、
その顔が赤から驚愕に歪んでいることに気付かなかった。




間抜けな顔をしている。
それが全員の感想であり彼ら自身はしてやったりな顔を浮かべる。
ゴールとなった出入り口を通過したあと出迎えた監督官たちは
どのクラスなのかを認識すると皆そんな表情を見せて固まった。
それにシンイチは不敵な笑みで腕を組み、鋭く睨み付ける。

「なにか、文句でも?」

どこか威圧的にも聞こえる声に気圧されてしまった監督官は
咳払いすると何でもないと口にしてその到着をようやく認めた。

「ドゥネージュ先生から報告は来ている。
 2-C、2-D、1-D混成チームのゴールを認める。
 …………お、おめでとう、第一位だ」

「いよっしゃあぁぁっっ!!!」

「やってやったわよ!」

「俺が、俺たちがトップだぁっ!!」

激しい歓声と興奮の叫びをあげて混成クラスが一気に沸いた。
入学する前から長らくその位置(トップ)についたことがなかったのだろう。
ハイタッチや肩を組み合っての歓喜などまだ優しい感情表現である。
中には泣きながら抱き合って喜びを表現する生徒さえいた。

「疲労困憊のくせにはしゃぎやがって………」

その反応に誰よりも驚いたような顔をしたシンイチはしかし。
すぐに周囲から一歩距離を取ると彼らの歓喜を慈しむように眺めた。
どこか懐かしむような、羨むような色も混ざった視線で。
そこへ。

『あはははっ、いや何かしでかすとは思ってたけど
 まさか3クラス率いて一位到着とはとんでもないねぇ──』

──君は。
苦笑の声を通信越しに漏らす鋼の巨人が静かに歩み寄る。
誰の手腕なのか察していたが皆の喜びに水を差すほど彼は野暮ではない。
だが隠れたそのニュアンスを読み取ったシンイチは首を振って否定する。

「これだけの人数とここまでの距離を考えれば当然の結果だ。
 けど、お前の方はゴール周辺の掃除とはご苦労だったな。
 監督官らと一緒に避難してきたら遭遇、ってところか?」

『正解、だがしかし!
 あの程度のガードロボなど物の数じゃない!
 なんだったら見るかい。グランファイザーの活躍を!
 コクピット視点にアラウンドビュー、サイドビューは撮影済みさ!』

「いいねぇ、その姿は伊達じゃなかったようだな」

『当たり前だろ。グランファイザーは無敵さ!』

「まったくだ」

そういって笑いあいながら赤の鉄拳と人の拳をこつんとぶつけあう。
脅しての別れだったがこの巨人に関してなら彼らには他の感情はない。
憧れの英雄(ヒーロー)が活躍して喜ぶただの男の子となって楽しんでいた。

『ところで武装の具合はどうだ?
 シュバルツ・シュラークは使えているかい?
 ヴィント・ゲヴェールは壊れてないだろうな?』

突如妙な言葉が出てくるまでは、だったが。

「んん? な、なんだ翻訳機が壊れたか?
 なんか急にドイツ語っぽい言葉が聞こえてきたぞ!?」

『え、ドイツ語で武器名つけるのが日本のスタンダードじゃないの?』

さも当然のような雰囲気で返され、さすがにシンイチも絶句してしまう。

「………………微妙に否定しにくいことを」

それが微妙に当たっているだけに。
昔からドイツ語由来の名称はある業界(・・・・)ではそれなりに多い。
世間に普及した翻訳機ではガレスト語は相手側の言語に合わせるが
地球世界同士の言語の翻訳においては元の言語での名称を優先する仕様だ。
彼の偏った映像視聴経験と優秀な翻訳機が招いた微妙な誤解であった。

「え、じゃあなにか?
 これ全部ドイツ語で名前つけられてたのか?
 聞いてねえぞ! ってかそれならこの蛇腹剣は!?」

余談だが既に出た二つの呼称がどれのことを差しているのか。
英語が全く理解できないくせにドイツ語の単語を理解した彼も
また色々と偏った代物を見ていた側の人間であった。

『ヨルムンガンドさ!』

「なんでこれだけ北欧神話なんだよ!?」

思わずその赤き躯体に裏拳でツッコミをいれてしまう。
基本的に“北欧”にドイツという国が入っていないためだ。
ちなみにヨルムンガンドとは北欧神話に出てくる超巨大な蛇である。
シンイチが蛇腹剣を暴れ狂う大蛇のように扱ってしまったせいか。
言い得て妙ともいえるためおかしいとは言い切れないが
彼としてはあまりしっくりときていない。

「そんな名前では呼ばないからな。長いし発音しにくい」

『ええっ!?
 せっかく日本らしくなるように頑張って考えたのに!?』

「頑張る方向性がおかしいだろ!
 あとそんな日本らしさいらねえよ!」

まったく、と彼は今日初めて疲れたような態度でため息を吐いた。
普段は色々突飛な言動で周囲を引っ掻き回すシンイチではあるが、
自身の拘りや常識を刺激する言動にはツッコミ役に回ってしまうのだった。

「ナ、ナカムラ……試験官。少しいいだろうか?」

「え、あ、なんだ……でしょうか?」

この場にいる監督官たちの代表らしい中年男性に声をかけられ、
ついいつもの感覚で返してしまうが強引に語尾を変えて答えた。
拙さは優秀な翻訳機が誤魔化したようで相手は普通に話を続けた。
相手が「試験官」と呼ぶことへの抵抗感はきちんと伝えてきたが。

「ゴールを喜ぶのはいいのだがそろそろ全員の点呼と
 正式な到着報告を頼みたい。事態が事態なのでな」

生徒たちにとっては試験。されど教師達にとっては非常事態。
そのためにこのゴールは彼らにとっては避難や脱出に等しい。
全員がきちんとそろっているか否かは重要な話である。

「わかりました……整列っ!」

言外の意味を察して喜びで興奮する混成クラスに号令をかけた。
途端に彼らはまるでそれまでの歓喜が嘘のように即座に反応する。
何も言われずとも10秒もかからずにクラスごとに分かれ、
直立不動の姿勢で列を作ると他の教師陣を唖然とさせた。

「クラス委員は点呼をとって報告!」

その指示に力強い返事がかえり、三つの声が名簿を読み上げていく。
人数分のそれに答える声が響くとクラス委員は先頭に戻ってきて報告。

「2-D、全員おります!」

「2-C、逸れた者はいません!」

「1-D、試験官を含め全員そろっています!」

「ぁっ…………聞いての通りです。
 3クラス全員の受け入れよろしくお願いします」

どうしてか。
一瞬そこで小さな驚きの声をもらしたもののシンイチは
生徒達からの報告を伝えて監督官は頷きで了承を示した。

「これでお前らの試験は終了だ。なかなか上出来だったぞ。
 ゆっくり休んで、これから来る奴らをドヤ顔で迎えてやれ」

底意地の悪い顔での言葉に元気のよい返事が聞こえたのを
満足げに受け取ると彼らを解散させ、休息をとらせていく。
それを眺めながらも静かに鋼の巨人の下から()に声をかける。

「ちょっといいかヴェルブラ?」

巨人の足に隠れるようにしながらフォスタ越しに通信を入れる。
小さなモニターに顔を出したヴェルナーは訝しみつづ答えた。

『俺その略称扱いで決定なのか……で、なに?』

妙な愛称に苦笑しながらも聞けば彼は苦々しい表情で呟く。

「ここを頼む。俺はもう一回フィールドに戻る」

『…………理由を聞いても?』

「元々戻る予定だったが………………ひとり足りん」

『ひっ』

後ろの短い言葉に込められた不機嫌さにヴェルナーは思わず怯む。
だがそのあとで言葉の意味が頭に入ってくると首をかしげてしまう。

『あ、あれ? でも全員いるっていってなかった?
 他の子達も普通にしてるし、嘘いってないと思うよ』

「馬鹿正直に言ったらそいつの成績が終わる。
 気付かれてないのはそいつがうまくやったせいだ。
 いなくなったことにも気付かせないとはやってくれるじゃないか」

凄みのある笑みを浮かべて怒りを見せる姿にヴェルナーは顔がひきつる。
誰かは知らないがなんて命知らずなと冷や汗の苦笑いを浮かべていた。

「とはいえ、いずれいない事には気付かれるだろう。
 その時は俺が用事があって連れ出したことにしてくれ。頼むぞ」

『え、あ、ちょっと────』

どうやって誰にも気付かれずにフィールドに戻るつもりなのか。
そう問おうとした目の前でシンイチは通信を切ってしまう。
コクピット内から彼を探せば既にフィールド内に反応が移っていた。
そして誰一人としてその移動に気付いた様子の生徒も教師もいない。

「時々見失うって聞いてたけどこういうことか。
 ……俺、こいつの担当じゃなくて本当によかった」




ヴェルナーが操縦席で妙な安堵の息をもらしている頃。
シンイチは出入り口周辺を広げた感覚で既に探索し終えていた。
探し人はその姿どころか気配も僅かな痕跡すら何も残っていない。
彼女──トモエ・サーフィナのそれがどこにも。

「隠形の術ってのは厄介だな。いなくなった事にも気付き難いとは」

点呼時に3クラスの生徒しかいないと分かるまで彼も失念させられた。
耐性がない他の生徒たちではまだしばらくは気付きもしないだろう。
後衛組の中心人物として共に戦っていたトモエの不在だというのに。
その存在感を思えば想定以上にあれは強力な術だったらしい。

「まったくあのじゃじゃ馬め。
 ゴールが近づいてあいつを縛っていた責任が緩んだか。
 この状況で一人でどこに何しに行きやがった。おい答えろ!」

多少の苛立ちを含んだ声で彼女のフォスタに呼びかける。
試験官とその補佐という関係上その番号は既に登録されている。
また例え相手が通話を拒否してもこちらからのコール自体は届く。
その通信波を追えばトモエの位置を把握するなど彼にはもう朝飯前。

「………なに?」

───であるはずだった。
しかし予想に反して通信が全く繋がらない。否、届かない。

「いまさら通信妨害?
 いや、これは……通信がされてない(・・・・・・・・)?」

答えがないどころの話ではない。
どこに対しても通信が届かない。通信波が、発せられていない。
魔力操作でもマニュアル操作でもコールするがどこにも発信しない。
フォスタ自体に故障や不備は見当たらないが機能がうまく動いていない。
どういうことだと思考を走らせていたシンイチはしかし突如空を見上げる。

「……フリーレか。
 なんとも派手な一撃だな先生」

雲上で爆発するように走った気配(フォトン)を感じ取ったのだ。
彼の不可視化状態のフォトンすら目視できる目にはその強い輝きは映る。
だがそれで空を見上げた彼はそこで視界の中に妙なものを見つけた。
大勢の者が閉じた空間で外骨格やスキルをここ数日使い続けたためか。
もはや魔素同然のフォトン粒子が空気中に舞っている。だが。

「変なの混ざってるな………あれ、か?」

その中に──否、それとは関係なく漂う異物の輝きに眉をひそめる。
既に通常の粒子が舞いすぎているためセンサーでは捉えられない。
それらを目視できる彼だけがそれを見つけられるのは、偶然、か。
フォトンをある意味見慣れている彼には逆に目立って見えていた。

「となると………『ファイアショット』」

脈絡もなく彼はフォスタをシューターモードにしてスキル名を口にする。
戦闘、戦乱、厄介事、騒動などの経験値がやたら多い彼はその状況下での
だいたいの異常事態は段階をすっ飛ばして「答え」に勘付く。
通信が発動しない。空気中にはフォトンと似て非なる謎の粒子。
そして外からテロリストによる襲撃を受けている状況。
彼にとってはそれだけで充分な推理の材料であった。

「世界が変わってもこんな山勘丸出しの推理がよく当たることで、はぁ」

だから出るべき火弾が出ずとも僅かな驚きさえ彼は感じていない。
むしろあちらのそれがこちらでも通用することに呆れかえってしまう。
ヒトである限り思いつける戦場の手段というモノは大差がないらしい。

「スキルを封じてきたか………なんてありきたりな」

内部でフォトンが動き、スキルを発しようしたのは見えたがそこまで。
異物の粒子がフォスタに干渉してそこでスキルの発動を止めていた。
その技術的な高度さを彼は全く理解できないが考え方としては定番だ。

なにせ敵の攻撃手段の無力化である。
それは古今東西あらゆる世界の戦場で考えられてきたものだ。
魔法やスキルに干渉しての使用そのものを不可能にするものか。
射程外からの一方的な攻撃による使用しても無意味な状況か。
計略や戦術・戦略の類によって使えなくするのかは別の話だが。

「でもまあ、それで自軍に影響がないようにしておくよな普通」

ニヤリと笑って懐から奪った三つの端末を取り出す。
それらによって味方の武器も無力化されたのでは本末転倒だ。
予想通りそれらは何の影響も受けておらず常と同じく使える状態。
相変わらず義勇軍間の通信を傍受し、それらをシンイチにとって(・・・・・・・・)
都合のよい内容に変えてあちこちに送って彼らを操っていた。

だからベータチームが既に何かを設置していたのは知っていた。
これで得心がいったと頷いた彼はその中の一つを手に取って耳に当てる。
そう持つ必要性は薄いのだがサウンドオンリーによる直接通信は
どうしても電話をかけるような心境になってどうしてもこの形になる。
地味に彼が8年前の人間であることを示す要素であった。

「ああ、聞こえるかシングウジ。随分愉快な状況になってるな」

全ての通信内容を傍受し改ざんしている彼はフィールド内の状況を
防衛側、襲撃側問わずにクトリアにいる誰よりも把握している。
だから、そこに誰が(・・)いて何が(・・)起こっているのかもよく知っている。
だから、そこが一番まずい戦況にあると判断して通信を入れたのだ。
それだけの理由でしか彼はそこに通信をいれられなかった。

『だいたいおまえらっ……は?』

「元気してるぅ?」

そんな考えを微塵も感じさせない砕けた─ふざけた─物言いで。
突然の通信に困惑したリョウもその態度には状況もあって苛立ちを示した。

『おいこら今忙しいんだあとに……』

「敵にスキルを封じられた」

『なにっ!?』

だがそれを遮るように一転して抑揚のない口調で伝えた事実を前に
そんな苛立ちなど軽く吹っ飛んでいってしまったようだ。

「試験官が使えなくした事にするからそういうことにしろ。
 あちこちでそうだからすぐに誰かを救援に送ることもできん」

工作員を確保したフリーレは作戦通り苦戦する生徒の援護に回っている。
名目上は試験難易度の調整といういくらか無理がある理由だが、
スキルが使えない事態を思えばあの速度で飛び回れる遊撃剣士は有用だ。
彼女自身にはスキルの有無が大きなデメリットにならないのも大きい。
しかし位置が悪く、他のクラスの援護もあって彼女は向かえない。

「けど10分でどうにもならなかったら、なんとかしてやる」

『10分って、それで何が──』

最後まで彼の言葉を聞かずに通信を切る。
生憎とシンイチもまたその時間を提示してしまった以上時間がない。
口にした10分という数字に明確な根拠はこれといって存在せず、
それ以上の時間を余所でかける気はないというだけの話だった。

通信に使った端末を仕舞うと残りの二つの画面を覗く。
そこに映っていたのは共にフィールド全体を簡略した地図だった。
片方にはここからさほど遠くもない沿岸部を目指す移動する光点が、
もう一方はフィールド全体を囲むような光点が表示されている。

「ビンゴ! まあ、全然嬉しくないがな。
 この状況で第三勢力の登場(・・・・・・・)なんて厄介はさ。
 そしてなぜお前はそこを目指してるんだか………予想がつくだけに面倒だ」

戦況としてはリョウのいる場所が一番“劣勢”といえた。
だが義勇軍の端末で見つけたトモエの行先は一番“危険”だといえる。
なぜならこのフィールドを囲む謎の光点の一つに向かっていたのだ。
それは義勇軍や輝獣とは別の動体反応(しんにゅうしゃ)。正体も目的も不明な者達との遭遇。
生徒を敵と認識していない隙がある義勇軍より警戒しなくてはいけない“敵”。
トモエが誰よりも先に気付き、そして彼女が単独で立ち向かおうとする“敵”。
全てを把握しているシンイチはまずそちらに行かなくてはいけない。
だがそれは同時に他の場所に行かないということでもある。

「……今の能力でその程度の相手に10分も持たないなら、
 それで心折れるぐらいならどのみち学園から去った方がいい」

まるで自分に言い聞かせるように無表情で呟いて彼は疾風のように駆ける。
人が通ることを想定していない木々や藪で覆われた獣道をまるで縫うように、
そして飛び跳ねるように獣以上の軽い身のこなしで走破していく。
その足取りとは対照的な苦々しい表情を浮かべながら。


───どんな時でもお前だけはふたりの味方でいてやるんだ


かつて言われた父の優しい幻聴(こえ)が耳の奥で響いた。







3クラス混成チーム──第1位到着及び避難完了

混成クラス試験官補佐──失踪

1-D試験官──補佐官救援

2-Bへの救援──9分50秒後(予定)
+注意+
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