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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第二章「テストを利用するモノ」

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04-29 知らないことの幸せ




「これで5つ目!」

最大限にまで伸ばしたフォトンの光剣を大地に突き立てる。
土や岩、輝獣とは違うナニカを貫いた感触に満足気に少年は頷く。
シングウジ・リョウ。彼は試験中だけの上官のような人物の頼みで
フィールド中を飛び回りながら目当てのモノを破壊し続けていた。
試験官補佐という名目で使い走りにされたともいうが。

「あと2つ……げっ、追加情報、また3つも。しかも遠い。
 はぁ、しっかしあの野郎どうやって見つけてんだよ」

誰にともなく呟くが彼しかいない場でその言葉に答える声はない。
元々彼が単独行動をとらされたのは何らかの仕掛けに対する警戒だ。
目的は解らずとも入念な準備と調査の下で行われた襲撃であるのは明白。
こちらの行動を阻害するナニカを仕掛けている可能性はじつに高かった。
だが生徒を率いなくてはならない他教師やシンイチ、ミューヒ、アリステル。
混成クラスの中核の一つであるトモエ。別件を対処するフリーレ。
監督官の保護下の上に目立ち過ぎるロボ(グランファイザー)しか戦力がないヴェルナー。
事情を知り、単独で動ける能力と立場を持つのはリョウだけであった。
だから、ある物の存在に勘付いたシンイチからこんな指示が出ていた。
不正に埋め込まれた次元エネルギー集束装置を破壊しろ、と。

「……ほんと、どれだけ前から準備してたんだよ。
 って、まさか去年の試験のドタバタって原因これか?」

地面から抜いた剣先に貫かれたままのそれが見てこぼす。
昨年12月に行われたこの試験での輝獣数の異常増加。
これの稼働実験か誤作動が原因だと考えれば納得がいった。

「学園内に敵がいるならそれを人的ミスとして誤魔化せるわけか。
 人の意識を操るナニカを持っているなら尚更に、か」

誰が犯人かは知らずとも幼馴染共々操られた身だ。
元々霊力等の存在は認知していた為に不可思議な現象にも耐性がある。
深く疑問に思う事もなく内部協力者の存在とその相手に何かされた事を
彼とトモエはフリーレ達に比べてかなりあっさりと受け入れていた。

「またあんな状態になって襲われたら確かにひとたまりもないな」

その首謀者達による襲撃と輝獣の広範囲での異常発生が重なるのは脅威。
輝獣のそれだけでも去年はひどいことになったと思い出しながらこぼす。

「わかっては、いるんだがな」

集束装置の破壊はそれを妨害する意味があり重要なのは理解している。
とはいえ雑用を押し付けられただけのような気もして不満は隠せない。
自分の力はそれよりも迎撃に使えるはずだ。それだけのランクを持つ自負がある。
また対輝獣に関してだけならば戦闘経験は学園でも上位に入るとも。
しかし上官たる年下の少年から言われたことは敵と遭遇しても
出来る限り装置破壊を優先しろという念押しだった。

「…………次、行くか」

ここで不貞腐れていても仕方がない。少なくとも意義のある役目だ。
意味のよく解らない無茶苦茶な試験補佐をやらされるよりはマシだ、と。
リョウはここから一番近い指定されたポイントへと飛翔して向かっていく。
そしてその目的地には先客がいた。幸か不幸か『敵』ではなかったが。

「え、シングウジ?」

「あなたどうしてこんな所に一人で?」

接近は互いにレーダーで捉えていたが誰かまでは分からず、ましてや単独。
相手側は念のために警戒してその二人を先頭に立たせる形で会合した。
その集団では教師を除けば唯一外骨格を装着するよく似た顔立ちの男女を。

「センバたちか。
 ってことはそっちにいる連中は2-Bか。まだこんなところにいたのかよ」

そこはフィールド後半部分の中央から僅かに学園側に近い程度の地点。
特別科に入るのが半ば以上決定してる二人が率いたクラスにしては
特別試験の開始が連絡されてからの時間を考えると速度が遅いといえた。

「わ、悪かったわね! これでも山頂から急いで降りてきたんだから!」

リョウとしては純粋な疑問だったのだが陽子は嘲られたように感じてか。
反射的に強い口調で言い返され、どうしてか幼馴染の顔が浮かんでいた。
類は友を呼ぶ。その言葉をなにか実感するリョウである。

「途中でスキル並の雷が落ちまくってきたのが二重の意味で痛かったよ」

「ああ、あのトンデモ山で試験だったのか」

そこへフォローするように間に入ってきた陽介の言葉に頷く。
天候が短いスパンで変化する山脈が近くにあったのを思い出したのだ。

「それでシングウジはなんでここに?
 2-Aと一緒じゃないってことは………まさかサボリ?」

「あんたまた独断行動してるんじゃないでしょうね。
 小学生男子じゃないんだから少しは団体行動とりなさいよ」

「そんなんじゃねえよ! お前らオレをなんだと思ってるんだ!」

「手間のかかる同級生、かな」

「風紀委員のブラックリスト常連」

「お、おまえらなぁ……」

この姉弟は風紀委員という─片方は厳密には違うが─立場もあってか。
実はリョウと入学時より妙な腐れ縁があり、その物言いには遠慮がない。
それだけシンイチが転入してくるまで学園の問題児が彼であったせいだ。
成績ゆえに黙認されていた面もあるが行き過ぎには彼らは決まって注意した。
さすがに周囲に人がいれば成績や学科の違いから畏まった喋り方をするが
今は2-Bの集団とは距離があってその会話内容は聞こえていない。

「ナカ、いやちょっとトラブルがあって試験官補佐する事になったんだよ。
 いまは……フィールド内の設備に不調があるとかで見回りさせられてる」

つい学園の新たな問題児の名を出しそうになったが無難な表現で誤魔化す。
彼らが学園で初遭遇した現場に居合わせたリョウは彼なりに気遣っていた。
後半は誰かとかち合った場合そう言えとその本人に言われた内容だが。

「マジ!?
 すごいじゃん。さっすが日本人トップランカー」

「生徒が試験官補佐なんて。
 くっ、また学園の歴史に名を刻んだというわけね」

「……………」

しかしそれによって向けられる視線に彼は沈黙する。
陽介の純粋な感心と称賛のそれも、陽子の悔しげなそれも。
普段ならば鼻高々な気分で聞けるのだが肝心要の試験官が
シンイチであるという時点でどうにも微妙に感じてしまう。

「知らないって、幸せなことなんだな」

「え?」

なんでもないと首を振ってリョウは彼らに早々に進むように言う。

「ここらへんのエネルギー集束装置に不具合がある。
 とんでもない数の輝獣かAランク以上の輝獣に襲われる可能性が──」

「──うわあああぁぁっ!?!?」

後方から突如響いた誰かたちの悲鳴が耳朶に届く。
反射的に三人とも視線を向けたがリョウだけがぽつりと呟いた。

「遅かったか」

奇しくも彼らがいた場所の真下に集束装置が埋まっていた。
だから巨大な岩陰で休むように固まっていた彼らの眼前に
Aランク以上のエネルギー量を持つ巨大な輝獣が発生してしまった。
驚き、怯え、混乱する中それでも射撃兵装を構えて彼らは応戦するが
鱗状に見える外皮は2-Bが持つ武装では突破できなかった。

「このっ!」

鋭い牙を向けて吠える輝獣に陽介は即座に銃器を抜いた。
頭部を狙った連射は外骨格の出力が加わり輝獣を一瞬ふらつかせる。
その隙に陽子とリョウは外骨格を操って真正面に躍り出た。
間近で対峙して見えたその姿は伝え聞くある恐竜の姿に酷似している。
ただ一つそれと違う点があるとすれば“ソレ”の数であろう。

「三つ首のティラノなんてね、誰の何のイメージが混ざったのやら」

頭部と外皮以外は最新の想像図よりは旧来のイメージに近い。
二本足で立ち、小さな腕が申し訳程度に身体にぶら下がっている。
攻撃を受けた事で宙を舞う三人を優先的な攻撃対象としたらしく、
三対の視線がそれぞれを捉えるかのように彼らを睨みつけている。

「………ティラベロス?」

「変な名前つけてる場合かセンバ弟! とっとと仕留めるぞ!」

気合の声と共に三人がそれぞれ武装を取り出し、仕掛けた。
リョウはフォトンで構成された大光剣。千羽姉弟は円錐状の突撃槍(ランス)
彼らに共闘の経験はないが共通の教育を受けている為、役割分担は早い。
一番能力の高いリョウが正面から、姉弟が左右に回って挟むように突撃する。

「「『ブーストクラッシュ』!」」

同じスキルを使ってのそれは輝獣を中心に交差する線を描いた。
左右の固い鱗に覆われた頭部を貫き、粉砕するも消滅の兆候は無い。
エネルギー総量が多いとこれほどの損傷でも存在を維持できるのだ。

「おらあぁっ、くらえぇっ!!」

しかしそんなことをこの学園の上位者が知らぬわけがない。
がら空きの腹部に大光剣を突き刺し、振り上げるように切り裂いた。
上半身と残った頭部を真っ二つにされた輝獣は存在を保てずに霧散。
どこかにあったらしい結晶体だけが残って三人はそれぞれで回収した。

「やっぱすげえな。あのふたり!」

「シングウジもさすがのパワーだよな!」

「いつかは、私たちもあそこに……」

自分たちの攻撃が通じない相手をあっさりと片づけた三名に
守られた側の2-Bは興奮気味に賞賛の声をあげて憧憬の視線を向ける。
それに気付いた彼らは照れくさいものがあったが軽く腕を振って答えた。

「直球でいわれるとやっぱ照れるね、慣れないなぁ」

「慣れるのよ!
 嫌になるほど言われるようになってやるんだから!」

「そういう姉ちゃんが一番照れてるけどねぇ」

「う、うるさいわね陽介の分際で!」

「いたっ!?」

赤い顔しながら2-Bからは見えないように肘で小突く姉と
その一撃をもらって痛がりながらもからかえて満足そうな弟。
いつもの調子での言い合いを傍から見ていたリョウは首を傾げた。

「………なんだろ。今まで気にならなかったけど、
 なんか急にセンバ弟が誰かに似てるような気が……」

もう慣れた側の彼は声援に応えながらぼんやりと考えるが分からない。
そうしつつもそれぞれがこれからの行動を考えていた中、影が覆う。

「「「ガキが、調子に乗ってるんじゃねえよ」」」

別々の方向から同じ声が同じ言葉を響かせ、戦慄が走る。
その異常にではない。三人はそれを認識する暇は与えられなかった。
彼らの慄きは突如として自らの背後から声が届いたことにあった。
半ば以上反射的に武装を取り出しながら振り向こうとするが。

「「「おせえっ!」」」

それよりも背後の何者かたちの方が速く、背中に衝撃が襲う。
三人分の苦痛の声と共に彼らは全員大地に叩き落されてしまう。
落下の衝突音と共に三つの小さなクレーターの中に三人はいた。

「くっ、う、な、なによ?
 背中とられたの? 全然反応がなかったのに!」

「姉ちゃんこれやばっ、ウイングをやられた。
 これじゃ、飛行制御が格段に落ちて……」

落下の衝撃は外骨格が受け持ったおかげで見た目よりダメージはない。
しかし背中を襲った攻撃は三人の外骨格の翼に深刻な損傷を与えていた。
これでは浮遊はできても満足な空戦ができる状態といえない。

「それも問題だけどよ……あれはいったいどういうことだよ?」

その“不味さ”を認識しつつも見据える上空の影にリョウは訝しむ。
相変わらずセンサーが認識しない襲撃者を確認しようと続くように
空を見上げた姉弟はその人影を見て、驚愕に息を飲む。

「なっ……俺たち三人とも同時に、けど別々に落とされたよね?」

「………少なくとも同じ方向に背中を向けてはいなかったわ」

「同意見だが……ならなんで上にいるのが一人(・・)なんだよ」

赤黒いバイザーとブルーメタリックの装甲を持つ外骨格。
刺々しい意匠が軍用を思わせるが、その襲撃者は一人しかいなかった。

「ふんっ、地球のガキどもめ。こんなお遊びでいい気になりやがって。
 お前らには本当の戦闘ってやつを……現実を教えてやる」

自分たちを落とした存在から出た男の声は文字通りの上から目線。
友好的な色が全くない言葉と敵意に三人は共に立ち上がって構えた。
しかし事情を知らないため互いの心情は大いに食い違っている。
試験と信じる姉弟は本物の軍人と戦える状況に高揚すらしているが
相手をテロリストと知るリョウは常以上の緊張感を覚えていた。
輝獣ならばともかく軍人との対戦経験は模擬戦でもあまりない。
本人は希望していたが成績より素行の悪さで機会に恵まれなかった。

「………だから装置破壊を優先して逃げろってか?
 舐めんなよ、何十人もいるってんならともかく一人なら!」

対人戦の経験値の低さを見抜かれていた悔しさゆえか。
自らを鼓舞するように叫んで自らを超える長大な大剣を担ぎ上げる。
空戦が難しいなら相手も叩き落してやると跳躍を試みようとした瞬間。
背後で大きな悲鳴と絶叫が響いて動きを止めざるをえなかった。

「し、しまった。みんな!?」

三人が三人とも目の前の襲撃者に気を取られて失念していた。
先程まで自分たちに歓声をあげていた2-Bの生徒たちのことを。
またも全くセンサーに反応しない存在が彼らを攻撃していた。

「ちょっとシングウジ!
 あんたが何十人もなんていうから!」

「いやなフラグがたったね」

「オレのせいかよ!?」

今までどこに隠れていたというのか。
20ほどの人影が隊列を組んでクラスメイトを撃ち狙っている。
外骨格程のボリュームのない全身を覆うタイプの簡易外骨格の部隊。
突然自分たちの代表ともいえた三人を落とされて動揺していた2-Bは
その襲撃に反応するのが遅れて防戦一方で追い込まれようとしていた。

「姉ちゃんそれより早く援護を!」

「おいおい、俺を忘れんなよ」

救援を訴えた陽介の真横で囁かれるような声に彼は咄嗟に手甲を
盾に見立てて構えたがそれをぶち抜くような衝撃に殴り飛ばされる。

「があっ!?」

「陽介!!」

「だからよそ見するなって」

息を飲む隙間さえなかった。確かに姉弟は近い位置にはいた。
だが“今”弟をハンマー型の質量武装で殴り飛ばしたはずの相手が消え、
“今”なぜ自分の隣に立ってブレードを振り下ろさんと構えているのか。

「『プロテ…』」
「遅いんだよ!」

防御スキルの展開は間に合わない。名を叫びきる前に剣が線を描く。

「くぅっ!!」

構えていた自らのブレードで受け止めるが押し込まれてしまう。
大地に踏ん張って外骨格の出力を全開にするが拮抗にも届かず轍を作る。
彼女の筋力は特別科ひいてはガレスト軍でも通用するAA+である。
それでも一方的に競り負けてしまうのは単純な外骨格の性能(スペック)差。

「はっ、いい反応だが二世代前の型落ちで何ができる!」

嘲りの声と共に相手の外骨格が出力を上げてきたのを肌で感じる。
手にする剣を捨てるように飛び退くと目の前でブレードが割れた。

「このっ!」

追撃をかけようとする襲撃者にリョウがその大剣を振り下ろすが
一瞬でその姿が掻き消えてフォトンの光剣が空振って大地に深く刺さる。

「なっ!?」

「シングウジ、後ろ!」

「ふんっ、この程度か地球人!」

その驚きが抜けきらないうちに背後からの声に彼は再び戦慄を覚えた。
威力はあるが動きが単調になりがちな大剣は攻撃後の隙が大きい。
それを持ったまま振り返るのではあまりにも声が近すぎた。だから。

「吹っ飛べ!」
「なにっ!?」

刺さった大剣を掴んだまま背面スラスターの出力を全開にした。
本来なら急上昇や急転回時に用いるほどのパワーで放出されるフレアを
間近で浴びた襲撃者はたたらを踏まされ、攻撃のタイミングを逃す。
そして即座にリョウは支えとして掴んでいた大剣を抜いて、
振り返ったがすでにそこに男の姿はなくまたも見失う。

「空だ!」

「くそっ、なんなんだあのスピード!?
 外骨格とかステータスの差とかそんなもんじゃねえぞ!?」

起き上がった陽介の指摘で見上げた先にあった影に吠える。
センサーで捉えられないのはステルス性の高い機体と推察ができる。
今まで見つけられなかったのも光学迷彩の類だろうと推測もしている。
いま相手が浮かんでいる高度ならこの一瞬で舞い上がるのも難しくない。
だが、例えそうだとしてもいくらなんでもあるべき過程が無さ過ぎた。

「まさかショートランドで短距離転移を?」

「馬鹿いえ、あれはドゥネージュ先生以外実戦で使えないって
 わざわざ教科書にまで書いてあるスキルじゃねえか!」

目を離さずに言い合うが答えが出ないまま襲撃者はまた消える。
身構え、体に力を入れるがどこからくるか分からない衝撃は存外に強い。
真横からのそれに気付いたのはその一撃で吹き飛ばされた後だった。

「姉ちゃん! シングウジ!」

呆気ないほど簡単に二人が宙を舞って彼の前に落ちてくる。
陽介の目にはそれは同時に行われたようにさえ見えた。
いったいどれほどのスピードがあればこんなことができるのか。

「うっ、ぐっ……なんにしろこれは難敵よね。
 超スピードか瞬間移動か、タネが分からないと対応が……」

「これが元とはいえ軍人の本気か。
 ははっ、こいつはやりがいがあるね」

謎の移動能力に窮地に陥りながらも姉弟の目にはまだ強い意志がある。
その仕掛けはもちろん攻略法すら思いつかないがその難しさを前に
戦意そのものは逆に燃え上がっている。

「知らないってホント幸せだよな…………これが狙いか」

それをどこか羨ましく思いながら試験にした意味を察して呟く。
混乱を恐れただけではない。萎縮させずに全力で抗わせるため。
見れば後方にいる2-Bも普通科上位クラスの意地もあってか。
最初の動揺からいくらか立ち直って隊列を組んで抵抗している。
これが最初から真実を知らされていたらこうはいかなかっただろう。
この案を出した誰かは襲撃を試験にする事で過剰な怯えや混乱を排し、
尚且つ生徒を戦力として使えるようにもしたのだ。

「誰かは知らんが人使いが荒い。
 どこぞの試験官かよ、ったく。いいかげんにしてほしいぜ」

面倒なことを指示してくるたびに見せられた上官の企み笑顔。
なぜかそれを思い出したリョウは軽く愚痴を吐きつつ頭を振る。

「あんたさっきから何ブツブツ言っているのよ?」

「巻き込まれたからって文句いうなよ。
 あっちからしたら生徒の区別なんかつかないんだからさ」

再び空に戻った襲撃者を警戒して三人は背中を合わせて立っている。
リョウの呟きは姉弟からすれば小声で文句を言っていると受け取られた。

「そんなことじゃねえよ! だいたいおまえらっ……は?
 おいこら今忙しいんだあとに……なにっ!?」

「シングウジ?」

「10分って、それで何が………おいっこら勝手に切るな!!」

突如として意識が別に向いたことに一瞬訝しんだ二人だが、
そこはここに通いなれた生徒だ。それが余所からの通信だと察する。
様子を見る限り一方的に通信を入れて一方的にそれを切ったようだ。

「…………お前ら、最悪な話と微妙な話どっちから聞きたい?」

途端に彼はこれまで一度も見せたことのないほどの渋面で尋ねてきた。
それだけでも問題があったと解るが問いかけの内容もまた不吉であった。

「そ、そこは普通良い話もあるもんじゃないの?
 っていうか最悪ってなによ!?」

「……定番の悪い方の話から聞かせてよ。手短にね」

三人が固まっている為か。2-Bが想定以上に抵抗しているからか。
何かを待つように襲撃者は動きらしい動きを見せてこない。
元より見えてなどいないため見失っていないというべきか。
その間に話せと言外に促されたリョウは簡潔に一言でまとめる。

「今からフィールド内でスキル使用が全面禁止だとよ」

一瞬の沈黙の後、姉弟からは悲鳴にも似た絶叫が飛び出した。

「うそでしょーーーーっ!?!?」

「さ、最悪すぎるじゃないかっ! なんでだよ!?」

「オレが知るか! 文句があるなら決めた試験官どもにいえ!
 なんかもう使えなくなってるとか言ってたぞあいつ!」

「あ、ホントだ。通信モニターすら開けない!
 この状況でスキル禁止なんて今年は例年以上に鬼畜だ!」

「ついでに微妙な話もいうが……あと10分ぐらいで助けがくるらしいぞ」

「……ぐらいって、らしいって、本当に微妙ね」

様々な攻撃手段からあらゆる補助はスキルで行っている。
ここで学んだ戦い方の大部分を占めるといってもいいそれの使用禁止。
加えていい加減な時間指定と確定しない救援情報は扱いに困る。
確かに最悪で微妙な話だと彼女はどこか呆れたように笑う。
だがすぐにその顔は消えて別の表情を陽子は見せた。

「でもまあ要するにこの状況で10分持ちこたえろってことでしょ?」

ならやるだけよ、と前向きに取った姿に男たちはそれぞれ苦笑する。
じつに姉らしい割りきりの良さだと諦めの境地で受け入れる陽介と
事実を知らないからって気軽にいってくれると呆れるリョウである。

「それじゃカウントスタート、残り10分。
 クラスのみんなも含めて全員で持ちこたえよう」

分かりやすい目安として陽介はタイマーを起動させた。
1秒ごとに減っていくそれを視界の隅に置いて他の二名は否と吠える。

「はっ、来る前にあの野郎ぶちのめしてやるさ!!」

「当たり前よっ、いくわよ!!」

分かりやすい制限時間を前にしての虚勢か意気込みか。
強い意志を示した彼らの前で襲撃者の姿が視界から再び消える。
謎の移動能力を持つ襲撃者(テロリスト)と三人の10分間が始まった。



非正規次元エネルギー集束装置──半数破壊

2-B及び混成クラス試験官補佐──交戦開始

救援?までの時間──残り9分50秒

+注意+
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