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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第一章「転入初日」

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03-03 静かな転入挨拶

1-Dの教室前にまで来ただけで微妙に疲れた顔をする女教師と女生徒。
理由が解らない少年と狐は変わらず不思議そうにふたりを見ている。
そのせいでまだ説明すべきことがいくつか残っているが後回し。
今はクラスへの顔見せと説明を優先させることにすると告げる。

「じゃあまた後でねイッチー!」

そしてそこでミューヒは手を振って別れを告げた。
特別科の彼女は本来の授業を受けるべきなのだろうが、
既にもう授業開始のチャイムは鳴った後だが彼女に焦る様子はない。
彼はピンときていた。“こいつサボる気だ”と。

「お前も授業をきちんと受けろよ……先輩(・・)

「え、あは、あはは……ナニヲイッテルノカナー?」

釘をさすように、そしてその事実を口にした。
突然年上だと遠回しに指摘された彼女は片言で誤魔化す。
あまりにも雑でバレバレな演技にシンイチも半眼となる。

「そこでわざとらしく目をそらすなよ」

「い、いつからバレてたの!?」

小柄で幼い顔つきの自分が傍から見て歳相応に見えないのは百も承知。
それで同級生を装っていたのだが見てくれで年齢を測らない彼には無意味だった。

「一目会ったその時から、かな」

とはいえその種明かしをすると魔法関連の話となる。
おいそれと語れないためそういった言い回しと不敵な笑みで逃げるシンイチだ。

「やん、フドゥネ先生、ボク年下に口説かれちゃった!」

「いまのをそう受け取れるお前の感性は相変わらず理解できない……」

呆れて肩を落とすと早く自分の授業に行けと指示する。
ハイハイ。ハイは一回!というお決まりをやって彼女は去って行った。
その後ろから見える尻尾は相変わらず嬉しそうに左右に揺れていた。

「ん、あいつ珍しく上機嫌…………いや、いいか。入るぞナカムラ」

揺れ続けるそれに僅かに驚くが入室を促して扉の前に立たせる。

「簡単な自己紹介のあとはすぐに授業に入る。
 予習のしようがないから解らんだろうが、サランド先生は容赦しない」

この後の簡単な説明と注意をしてシンイチもわかりましたと答えたが
緊張の欠片もない顔で頷かれても彼女はどこか不安である。

「本当にわかってるか? たぶん今日の授業お前が集中的に指される」

「別にいいですよ。
 分からなくて当然ですし、間違えて恥かくだけでしょ?
 死ぬわけじゃないんだからたいした話じゃないって……思いますよ」

だがシンイチとしては所詮その程度の話である。
命にかかわることではないのだから気にする事ではない。

「っ、そうかお前は保護区にいたのだったな……」

女教師はその事実に勝手に色々と納得した様子を見せる。
その方が都合がよく、また事実としては間違ってないので彼は訂正しない。
シンイチは帰還後、運良く周囲にそういう場所にいたと思わせられていた。
ガレストで最も人がおらず、最も危険な地域。自然保護区に。
そこはまさに野生の王国でありサバンナ以上の弱肉強食の世界。
アマリリスの保護下にいたから生き残れたのだと誰もが勝手に思ってくれた。
実際生死の危険が付きまとう2年間だったのだから大きく間違ってはいない。
だからこそ生死に関わるか否かが彼の重要な価値観の一つにもなっていた。

「……ドゥネージュです。入室許可を」

それに思う所あったものの今は授業と扉に近づくフリーレ。
手にした携帯端末を扉横の小型モニターにかざすと短い電子音。
機械的な作られた音声が『認証確認』と答えて扉が自動で開く。

「教室入るのに認証とかいるの?」

「授業中は許可が無いと手動では開かない仕組みになっている」

「軟禁?」

「…………言うな」

短く答えて開いた扉の向こうへ進む教師を追う形で入室したシンイチは
そのまま黒板前に立っていた眼光鋭い強面の男性の横に立たされた。
髪と瞳の色からして彼もまたガレスト人のようである。

「遅かったですねドゥネージュ先生」
「すいませんサランド先生、事前説明に手間取りまして」

厳しく批評するような視線が注がれ、彼女は恐縮そうに頭を下げる。
立場的に担任の男性教師の方が上らしく注意を受けているが、
シンイチはその様子を視界の端で見ながらもカルチャーショックを受ける。

あまりにも彼が想定していた学校の教室とは程遠いのだ。

まず黒板は黒板と呼んでいいのか戸惑うような大型のモニターであり、
チョークも黒板消しも存在せず電光文字が何かの年表を映している。
教壇には操作パネルとモニター付きの教卓らしきものがあり、
全く同じものが表示されている所を見れば連動しているようだった。
そして教室狭しと並ぶ生徒の机にも操作パネルが付随していたばかりか
授業に関連した資料映像がそれぞれの机の上に立体映像として投映されている。
そのためか机の上に定番の教科書やノート筆記用具などという代物はない。
代わりに扉を開けた端末と似たモノを全員が所持しているのが見て取れた。

いったいここはどこだ。と。
軽くタイムスリップした気分に痛くもない頭が痛い。
そしてその表現が言い得て妙すぎて余計に頭が痛く感じる。
彼がかつて通っていた学校とはあまりに似ても似つかない。

「───さて、昨日すでに話したことだが、
 今日からクラスメイトが一人増えることになった」

軽い注意を終えた男性教師は教室中に声を向ける。
同じようにシンイチは今度は生徒たちに注目すると全員が地球人に見えた。
髪色と瞳の色だけでの大雑把な判断だったので8割当たってればいい。
そう考えての判別だがどちらも通ってるわりにそれは比率がおかしかった。

「予定外のことだったので彼だけ制服を用意できなかったが気にするな。
 ナカムラ、自己紹介を」

そういって僅かに前に出されれば一人だけ黒の学生服なものあってか。
クラス中の視線が一気にシンイチに注がれるがそれ以上の人数から
殺気を叩き付けられた経験もある彼からすれば緊張する要素は皆無。
しかしそこにあるべき興味や関心、好感か落胆という感想。
あるいは妙な次期の転入への疑問などあるべき感情が希薄で、
なぜか全員疲れ切っているように見えた。

「…………」

よく言えば元気がない。悪くいえば目が死んでいる。
この時点でシンイチは表面的な付き合いをするという選択肢を斬り捨てた。
こうなった理由が分かるまではそんな彼らと交流を持つ事の危険性を考えてだ。
ちなみに“本当に仲良くやっていこう”という選択肢は元々持ってきていない。

「手短に頼む。授業が進まんからな」

「はい」

促されるまま当たり障りのない挨拶を、
ある種彼らに負けず劣らずの元気のない声でする。

「“中村信一”です。これからよろしく」

単純かつ口先だけの挨拶だと子供でもわかりそうな抑揚のなさ。
社交辞令以下。中身が無さ過ぎるそれはむしろ教師陣を困惑させた。
特にミューヒとの普通の会話を聞いていたフリーレは余計に。

「……いや、さすがにそれだけでは味気なさ過ぎるだろ。
 他になにか、こう、ないのか?」

手短に、と促したサランドですら想像してなかった短さ。
強面のそれを戸惑いに歪ませている姿は生徒達にも奇異に見えたのか。
そこでようやく戸惑うような不思議なものを見る顔をしだす。
当たり障りのない態度をとることで目立ちたく無かったのだが、
そういわれてはもう少し何かを付け足さなくてはならない。

「ああ、えっと……こいつは見ての通り……アマリリスです。
 見た目はこれだけど気位が高いので下手に近づかないでください。
 じゃないと灰になるか黒焦げになるか氷漬けになるから」

それならと頭の上の彼女を紹介する。正確には取扱い注意ともいえる。
生徒たちは彼女の種族を知らない事もあってその意味がわからなかったが、
頭の上のキツネは黙って三本ある尻尾を広げてそれぞれの頂点を輝かせる。
炎と稲光と氷結の光を掲げて、どこか怪しく小さな瞳と口が笑う。
自分達の十分の一程度のサイズの生物を前に生徒たちは思わず震えた。
それだけの威圧感がその小さな生物から放たれていた。

「こら、脅してどうする」

「キュ、キュ~」

たしなめられると途端に体を小さくして謝るように鳴く。
数名の女生徒が小さく黄色い声をあげるが誰も反応しなかった。
誰もが感じていても言わなかったことを肯定されたのに等しかったために。
“あれ、やっぱり脅しだったんだ”と大半の子に冷や汗が出ている。

「ナカムラ、それは君の紹介ではないだろう」
「せめてステータスぐらい言いたまえ。挨拶の基本だ」

背後のふたりもわずかに汗をかきながら促す。
わかりましたと何の気負いも後ろめたさもなく。
彼は今日はいい天気ですねという雰囲気で口にする。
自らのステータスを。

「オールDです」

「は?」

誰かがついに戸惑いを声に出した。
それを聞き取れなかったと解釈した少年は続けた。

「だから、筋力も精神も俊敏も耐久も体力もDランクです」

そういって目の前の教卓のパネルに手を乗せるとステータスを表示させる。
連動してそれが黒板に映し出されると、教室中から盛大に驚きと困惑の声があがった。

「え?」

「うそ!?」

「はあぁっ!?」



------------------------------------------------

名:ナカムラ・シンイチ 性別:男

地球年齢:15歳

身長:161センチ 体重:48キロ

筋力:D(限界値)

体力:D(限界値)

精神:D(限界値)

耐久:D(限界値)

敏捷:D(限界値)

------------------------------------------------



それはステータスと成績でランク付けされるこの学園において。
他者と比べるまでもなく最下位であることを示す能力値であった。
むしろ成人の地球人の平均ステータス値よりわずかに下回っている。
尚且つそれ以上成長する見込みさえないと表示されていた。

「これでいい? それで先生、俺の席どこ……ですか?」

妙に間を置いた言葉だが、生徒達は困惑する余裕もない。
見せられたのは最低入学条件を全く満たしていないステータス。
それを隠す気もなくあっさりと見せた彼の行動と落ち着いた態度は、異常。
だってそれはもうこの学園では能無しと公言するに等しいのに。
呆気にとられた彼らはシンイチが席につくまで固まったままだった。

「っ、せ、先生これはどういうことなんですか!?」

「限界値に達したオールDが転入なんて、そんな馬鹿な!?」

「そんなのただの落ちこぼれの落伍者じゃないか!」

その着席が何かの合図になったかのように誰かが疑問を口にする。
何せありえない。この学園の最低ランクはオールCまでだ。
それとて将来性込みの話であり全てがDランクでそれが限界の者は
そもそも入学試験のチャンスすら与えられることはないのだ。
そして仮にチャンスがあっても合格できる者はほんの一握り。
ここに通う生徒達は皆、その狭き門をなんとか突破した者達。
オールDの生徒が転入してきたことをすんなり納得できるわけがなかった。

「お前たちの疑問はもっともだ。
 本来なら説明する義務はないが誤解から騒動を起こされても困る。
 事情は説明する。だから、静かにしろ(・・・・・)

フリーレが前に出て、静かな言葉ながら騒ぐ生徒を睨み付ける。
鋭い金の眼光にさらされて怯えたように沈黙するクラス。
それを確認した彼女はあらかじめ用意していた表向きの話をする。
もっとも内容的には嘘などなにひとつないのだが。

「ナカムラが転入してきたのは彼が帰還者だからだ」

帰還者。
その単語に驚きとさらなる疑問を顔に浮かべる生徒達。
当の本人だけがまるで無関係のような顔で教師の話を聞いていた。
『帰還者』とは異世界ガレストに次元漂流で流れ着いた地球人たち。
あるいはその逆のケースに陥ったガレスト人のことを指す。
だいたいがもう発見され故郷に帰れているため『帰還者』と呼ばれる。
ちなみに発見されていない者は『未帰還者』と呼ばれるがこれだけ交流が進み、
なお見つからないという事で生存はかなり絶望視されている。
シンイチ自身もつい最近までその絶望視された未帰還者であった。

「帰還者はほぼ例外なく学園に来てもらう事になっている。
 ガレストに詳しければ補助教員として。そうでなければ逆に
 半端に知った知識を完全なものとしてもらうためにな」

まだすべての知識と技術がオープンとなっているわけではない以上。
クトリアの外で勝手にその知識を披露されては困るのである。
それが半端なものであるなら余計に。

「それは……知ってますけど、帰還者ってたいてい……」

「ステータスが高いといいたいのだろうがそれは傾向にすぎん。
 地球の常識が通じないガレストで生き残るにはその方が有利だっただけだ」

そういわれてしまえば生徒たちに返す言葉はない。
ガレストにすらまだ行ったことのない彼らはその辛さを知らない。
だがステータスが高い者ほど生き残りやすかったというのは
この学園で生活する生徒にはかなり強い説得力があったのだ。

「ナカムラのステータスに言いたいことはあるだろうが、
 彼がここに来たのにはそれ以上の理由は何もない。
 この場にいる全員のガレスト学園生徒としての誇りに期待する」

押し黙った生徒たちの顔を見回しながら念を押した。
能力が低いことで予見される差別やいじめなどの
低俗な行為をするなと暗に釘を刺したのだ。

「……実力主義とは聞いていたが、変な学校。
 クラス中が無駄に肩に力をいれ過ぎだろ」

「キュキュ」

それを一番後ろの席で他人事のように評するシンイチである。
無論小さな呟きはファランディア語で誰にも聞こえないし解らない。
少年からすれば何に憤って熱くなっているのか理解できない。
それ以前に教室の空気がかなり無駄に切羽詰っていた。

「…………ホント、面倒くさい所きちゃったよ……」

理由はまだ解らないまでも本能的にそう感じるシンイチ。
彼がそういう時はたいてい本当に面倒くさいことになるだけに。

「キュ、キュキュ~」

だからか。
“そうおっしゃらずに”とでもいいたげな顔で苦笑する彼女であった。




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結果論、あるいはもしもの話ではあるが。
ここでフリーレがクラスメイトを遠回しに諌めた事は正解だった。
これが同時の入学だったのなら、彼らが疲れ切っていなければ。
努力を重ねてようやくここに入学できた彼らからすれば、
低ステータス自体が喧嘩を売っているようにしか見えないだろう。
そんな出会いは一方的な衝突を生んで1-Dの生徒達は学園を去っていただろう。
誰だって自分の常識が通じない『異常』を隣人にしたくはないのだ。
シンイチが去ることがないのなら去っていたのは彼らになるしかない。

ガレストからもたらされた技術によって培われた常識。
それが広まった今の地球世界でナカムラ・シンイチは異邦人と何も変わらない。
仲良くなどできるわけがない。共に過ごす事などできるわけもない。
だって彼はまだここやガレストの、そして今の(・・)常識すら解らないのに。
異文化に不用意に触れることによって起きる悲劇を誰よりも知ってるのは、



他ならぬ彼自身なのだから───
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