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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第二章「テストを利用するモノ」

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04-29 不可侵の剣

一か月ぶりです……活動報告でも書きましたが、
PCがおしゃかになったためにこんなことに……。
みなさんもバックアップはこまめに複数行いましょう!



ガーエン義勇軍。
そのテロ組織の体制側の認知度は活動実態が不鮮明なわりに高かった。
それは母体となった組織が長い歴史を持っていたことに由来している。
何せ元をただせば半官半民による軍のサポート組織だったのだから。

現在に近い形態のガレスト軍が誕生して間もない頃。
軍ではある問題が浮かび上がりその対処に苦心していた。
それは想定以上の出動回数とそれによる兵士たちの激しい疲弊だ。
原因は非戦闘員たる一般人では対処できない規模やランクの輝獣に対して
ガレスト軍以外に対処できる組織や人員が少なかったことにある。

地球でいうところの警察と同義の組織は当然あったものの、
犯罪を取り締まるのを目的とした彼らでは輝獣の対処は荷が重い。
そのために設立されたのが『ガーエン義勇軍』という軍のサポート組織だ。
軍に入隊できる程ではないが戦闘向きのステータスを持つ者達や
能力の減衰等で退役・除隊した者達を集めて誕生したこの組織は
一般人や警察では対処できず軍が出動するには小規模の事態への対処と
軍が駆けつけるまでの時間稼ぎや避難誘導等を請け負う事となった。
ガーエン義勇軍とはその設立に尽力した軍人一家のファミリーネームと
正規軍と区別する為の名称(コード)である義勇軍を合わせた名称だった。

時代の流れと共に名称や組織の形態は変化していくことになったが、
サポート組織という地位は変わらず今では第二の軍として人々に広く
認知・支持され、正規軍より身近な為ここを目指す若者も多かった。

転機が訪れたのは38年前から始まった地球との秘密裏の交流。
地球ではトップシークレット扱いの機密であってもガレストでは
かなり早い段階から民衆にも交流の状態はある程度公表されていた。
そしておおよそ15年ほど前から地球の一般にも存在を明かして、
もっと本格的な交流をしようという議論がガレストで沸き上がった。
その際、彼らは組織として『反対』という立場を表明する。
地球人への不信と恐れ、技術体系の違いから来る混乱を懸念してだ。
だが大規模な反対運動まで起こしたがその意見が通ることはなかった。
多くの者はそれで振り上げた拳を下ろさずを得なかったのだが、
一部の過激な思想を持った若者達はガーエン家の末裔を中心に集った。
そしてかつての名を担ぎ上げて8年前より地下に潜って反政府活動を
始めたのが現在のガーエン義勇軍の始まりである。

そういった始まりなためその存在は早期からマークされていたが
戦闘経験が豊富で軍や警察の動きをよく知る元・軍人や準軍人と
呼べる者が多かった為に捜査の裏をかかれ、大部分が逃げ続けられた。
そして厳しく統率された疑似軍隊を形成した彼らは冷静に準備に邁進した。

地球人の危険さと交流による変化を文化的侵略として認めず、
『交流を絶ち、ガレストを元の正しき姿に戻す』を大義に掲げて
彼らは今日8年かけた準備のすべてを用いて活動を開始した。




その考え方に大きな矛盾があることを露とも知らずに。





─────────────────────────





女がそこを走っていたのは偏に同僚の不甲斐なさからといえた。
元々学園で待機し戦況の推移で臨機応変に動く事を命じられてはいたが
虎の子の切り札をまさか生徒相手に苦戦する仲間の援護に使うのは想定外。
元々職員室にはいなかった女は本隊からの指示を受けて校舎を抜け出し、
皆が目指しているだろう正規の出入り口とは別の離れた場所から
フィールドを覆うバリアを突破した彼女は、当然に不機嫌だった。

「彼女がいるからって子供相手に手古摺っているなんて。
 所詮は軍からも弾かれた半端者たち、その程度よねぇ」

目立たぬように森を駆けながら寄せ集めの集団の弱みに歯噛みする。
それでも自分達の望みを達成する為には組織という集団が必要で
その体裁を保つためには最低限でも『数』というものがいる。
非合法組織である以上ただの素人よりはマシと考えるしかない。
だから自身が所属するオメガチームの隊長からの指示の意味は解る。
最初の作戦でいきなり失敗する訳にも多数の人員を失う訳にもいかない。

「……ローエン隊長、義勇軍(ここ)で私たちの目的は果たせるの?」

しかしそれでも上司たる彼に苦言を呈したくはなる。
義勇軍内で唯一信頼しているのがオメガの人員のみであっても、だ。
最初の活動からこれでは世話が焼けるどころの話ではない。前途多難。
溜め息しか出てこない彼女だが、すぐにそれを引っ込める。
目的地が見えたのだ。フィールド中央部に設置された仮設テント。
試験中のみ監督官たちが幾人か常駐している場所である。

「すいませんっ誰かいますか!? 緊急じた、っ!?」

一転していつもの(・・・・)声色で慌てたようにそこに入った女は、しかし。
仮設テント内の様子を見て、愕然となって言葉が止まってしまう。

「……だ、誰もいない?」

運び込まれた設備は残されているが人の姿だけがどこにもない。
ガードロボ侵入への対処に出払ったと考えてもおかしかった。
それならここをそのまま対策本部として、最低でも連絡員は残す。
あるいは緊急事態になったのだ。まずは生徒の安否確認が先のはず。
また事態に気付いた生徒たちがここに避難してくる可能性もある。
誰もいないというのは明らかにおかしい。

「まったく、よく考えたものだな」

「っ、誰!?」

そこへテントの外から良く通る声が届いて反射的に外に出た。
しかしその人物を認めた瞬間、言い知れない不安に襲われる。
ナニカが不味いと直感のようなものが全力で訴えかけてくる。
自分たちが気付いていないナニカが確実に起こっている、と。
何せ野暮ったいジャージ姿の白髪の剣士が悠然と佇んでいた。

「フリーレッ……先生っ!?」

いま最も会いたくなかった存在の不穏な登場に思わず声が上ずる。
しかし即座に女は自らの立場を思い出してまず安堵の顔を浮かべた。

「ああっ、良かった!
 先生、私は技術科担当事務員のレスカ・フロズンといいます」

そして慌てている風を装いながら早口で自己紹介をすませる。
普通科の教員と技術科担当の事務員ではあまりに接点が少ない。
事実彼女らはどうしても顔を合わす必要のある用事でもなければ
互いの仕事の違いや学科の違いで会話もろくにしたことがなかった。
だからこその自己紹介であり、一芝居のために必要な役職だった。

「先生、いま学園では大変なことが───」

「───黙れ」

しかし女がいかにも緊急事態を伝えようとフリーレに近付いた途端。
常に持つその剣が振り抜かれ、躊躇いもなく生身の女を絶たんと襲う。
美しい半円を描くような鋭い一閃を女は即座に飛び退くことで逃れた。

「くっ!」

だが避けてしまった事に女は苦々しい顔を浮かべる。
それはレスカという人物なら致命的なまでにあり得ない反応だ。
彼女もガレスト人だが戦闘に足るステータスは持っていない。
ましてや剣聖と名高い女の一閃を避けたのは偶々では誤魔化せない。

「今のを避けるか、やはり本物ではないな」

「なぜ、どうして!?」

しかしそこでそもそも何故剣を向けられたのかという疑問が浮かぶ。
あの剣閃は何かを探る・試す意味などない本気のそれだった。
まるで全てを解っていて倒しにかかった攻撃に動揺が隠せない。

「ふん、うまくやったものだ。
 学園は創設以来ずっと外部の侵入を警戒し続けていた。
 教職員等の採用試験も細心の注意を払って幾重もの身辺調査をする。
 まさかそれを通過した人物と入れ替わろうなどと考える者がいたとはな」

「…………」

確信のある声で正解(・・)を語られ誤魔化せる段階ではないと理解する。
どこで間違えた。どこからバレたのかと思考するが解らない。
それはそうであろう。解っていたならとっくに女は逃走している。

「その顔はお前の本当の顔ではないのだろう?
 貴様個人を疑って徹底的に調査したら顔全体から強いフォトン反応が出た。
 それで昔の知り合いから聞いた話を思い出したよ。諜報や潜入任務などを
 任される部隊では立体映像技術を利用して外見を偽る事があると」

ガレストの技術は人や機械の目を騙せる程の立体映像を可能とした。
そこに無い物をあるかのように見せる事も本来の姿を隠す事も出来る。
輝獣相手には意味がない事などからあまり注目されなかったため
意外にも認知度が低いことを逆手にとった変装方法だった。

「………なぜ私を疑いに?」

「サーフィナとシングウジにまで手を出したのは失敗だったな。
 技術科3-Bと普通科2-C、Dだけだったら他にも候補がいた。
 だがその二人とまで接触した共通の人物はあなただけだったよ」

それかと女は内心で舌打ちする。
彼女はある理由からフリーレの精神スキルへの理解度を把握していた。
だからこそ、決して気付かれることは無いと女は高を括っていたのだ。
万が一にも見抜かれたとしても対処のしようもないだろう、とも。
だが実際は仕掛けた側が不発かと思うほど一切混乱は起きず、
技術科生徒は暴走したようだが病院ではもう平静に戻っていた。
だから彼女は『精神スキルは不発となった』と判断してしまったのだ。
尤も軍人ですら概要程度しか知らない精神スキルを即座に見抜かれ、
しかも解除された可能性をその時点で疑うのは非常に難しいが。

「勤続8年。最古参の事務員レスカ・フロズン。
 いい加減その名前と顔を本来の持ち主に返してもらおうか!
 ガーエン義勇軍の潜入工作員!」

剣を構え、多分に怒りと敵意が含まれた鋭い視線が容赦なく向けられる。
並の者ならそれだけで腰を抜かすほどの迫力を前に、されど女は笑った。

「あーあ、欲を出して精神スキルの実験をしたのが不味かったかぁ。
 しかも仕掛けた子を特定された上に組織名まで、どんな手品よそれ?」

「悪いがそれに答える気はない。
 お前たちの運の無さだけは同情する、とは言っておく」

くすりと何かを思い出したかのように笑うフリーレに女は眉根を寄せる。
余程おかしな理由で露見したのかと彼女は内心苛立ったが平静を装う。
奇しくも女自身の言う通りスキルの実験が不味かったのだ。
軍以外では殆ど知られてない精神スキルの実験は元を含めた軍人の関与を。
都市の防衛網や捜査網を潜り抜けてここまでの事を計画し実行したのは
これまでそれらに引っ掛からなかった活動実態が把握できてない組織を
それぞれ連想させ、その条件に合うテロ組織はさほど多くなかった。
尤も推測した当人は状況証拠だけの推測に自信なさげであったが。

「……そう、でも返せっていわれてもねぇ、もう本物はいないわよ」

「それでも、だ」

言外にこの世にはいないと告げるも予期していたのだろう。
動揺はなくそして“それでも”奪った物は返せと金の瞳が睨む。
その視線の圧力を女は逃がすように息を吐いて、呆れてみせた。

「…………ふぅ、相変わらずクソ真面目でつまらない女」

「なに?」

瞬間それまでが嘘のようにフリーレの顔に若干の動揺が走った。
女はそれに優越感を覚えた。声色を元に戻しただけだというのに。
どうやらきちんと覚えていたようだと微笑を浮かべる。

「うん、バレちゃったのなら、もういいか。
 元々こんな顔趣味じゃないし、スクリーン解除」

「なっ!?」

一人の人間の人生を奪った事を悪ぶれる様子は微塵もなく、
その経歴通りの年齢だった相貌をあっさりと消して、戻す(・・)
ガレストでは比較的多い水色の髪を持つ30代後半の女性から
桃色の髪をボブカットに整えたフリーレと同年代に見える女性へと。

「アリア・バンスレット中尉!?
 そうか、成りすましはお前の専売特許だったな!」

「ふふ、元、よ。元・中佐の剣聖ちゃん。
 でも久しぶりね、まさか覚えていてくれたなんて」

嬉しいわ、などと心にもない事を口にして女は不敵な笑みを浮かべた。




アリア・バンスレット。
ガレスト軍の特務部隊に所属していた元・中尉。
学園に入り込んだ敵が彼女だとはフリーレは夢にも思わなかった。
それ以前に彼女が生きていることも彼女からすれば驚愕の事実だ。
二人は旧知であり軍の入隊試験からの付き合いで初配属も同じ部隊。
特別に仲が良かったというわけではないが得意とする距離の関係から
戦場ではよく組まされ、いくつかの死線を共に潜り抜けた戦友である。
しかしその後は所属部隊が互いに変わったことで疎遠となっていき、
9年前に再会した時には不幸にも敵同士という立場になっていた。

「覚えているさ。お前を捕まえたのは誰だと思っている!」

「そうだったわね。あの時はあなた一人にしてやられたわ」

くすりとまるで昔を懐かしむように笑うがフリーレは笑えない。
付き合いは短くとも入隊後─そして人生においても─初めて出来た友人を
自身の手で捕まえる羽目になった彼女の心情は容易には計り知れない。
アリアは転属していく中で主に対テロや大規模犯罪に対処する部隊に入り、
内偵調査や非合法組織などへの潜入任務や工作を任されるようになる。
そこで他人の声色や仕草、喋り方を完璧に模倣する才能を開花させたが、
反ガレスト軍・反政府的な思想や主義にそこで長く触れすぎたためか。
元々その素養があったのかは定かではないがそちらに傾倒していった。
最終的に地球との本格的な交流開始への反対運動を皮切りにして
志を同じくする同僚達と反乱を起こし、さる軍事基地を制圧すると
政府転覆を画策したがフリーレによって鎮圧された。

「あなたの突破力は知っていたつもりだったけど、
 敵に回すとあれほど厄介だったとは思わなかったわ。
 旧式だったとはいえ三百体のドローンが20秒だったものね」

趣味の悪い冗談のような光景だった、と。
笑みを浮かべるがその瞳にそんな感情は微塵も宿っていない。
あるのはフリーレに対するどこか根深く、そして暗い感情だ。

「……そのあと、お前達は能力が高かった事が考慮され、
 極刑こそ免れたが60年の輝獣討伐刑に処された」

「ふふ、もう死刑より凶悪な刑罰だと思ったわ。
 期限は設けられていても実質は死ぬまで戦えって話だもの」

重罪を犯した高ステータス者。
特に職業軍人によく与えられるのがその極めて重い労働刑だ。
実力があり能力が高く、実績や経験を積み重ねた“戦える”者は
ガレストでは貴重であり重罪人でもおいそれとは無駄に処断できない。
できるほど人材の余裕がないという実情があって設けられた刑罰。
刑期を終えるまで都市外にある対輝獣の最前線に放り出されるのだ。
厳重な監視の下、最低限の装備で戦い続ける日々を送らされる。
彼女が語る死刑より凶悪という表現は間違いとは言い切れない。
政府転覆を狙った彼女たちの罪はそれほどの物だったともいえるが。

「しかし刑が確定してから半年後。
 大発生に巻き込まれて死亡したと聞いた、だが……」

現実にアリアは生きて目の前にいた。
軍の通常装備の者でさえ命の危険がつきまとう輝獣の大発生に
最低限の装備で遭遇すれば当然どれだけの猛者でも命は無いはずなのに。

「ええ、元々輝獣に殺されたフリをしての脱走を企ててたのよ。
 大発生に襲われたのは予想外だったけど、結果うまくいったわ」

「お前がおとなしく刑に服している事こそ疑うべきだったか」

「そうよねぇ、ふふ」

唇を噛むフリーレに笑って同意を示すアリアに罪悪感は皆無だ。
元々あまり模範的な人物ではなかったが、犯罪行為に対して
ここまで忌避感が無くなっていたことに失望を隠せない。

「けど、ねえフリーレ?
 どうして私があなたという敵の前で
 素顔まで見せてペラペラと喋っていると思う?」

「なに?」

そこへ声だけならまるで雑談のそれのような空気で問いかける。
旧友とはいえ今は敵同士でしかない自分達が会話をしていた理由を。

「この子たちの準備が整うのを待ってたのよ! 『サンダーブレイド』!」

それまでの日常感さえ漂わせていた声が一転して戦場のそれとなる。
後方へと飛び退きながら、わざわざ声に出して(・・・・・・・・・)スキルを放った。
中空に発生した電撃で構成された大剣が一直線に標的となった彼女を襲う。
まさく雷光ともいえる速度で迫るそれをしかしフリーレは見切って躱す。

「っ!?」

だがその直後に地中から飛び出してきたナニカに足を取られてしまう。
見れば鋼鉄のアームが彼女の足に二重、三重に絡みついてきていた。
地中探査用ドローンを違法改造した代物だった。

「くっ、こんなもので!」

しかしそれがフリーレを拘束できたのはほんの一瞬。
彼女が力任せに足を上げれば本体もろとも地表に引きずり出され、
そのまま蹴り飛ばされたそれは即座にただのジャンクに成り下がる。

「っ、どこに!?」

けれどアリアはそのほんの一瞬を稼ぎたかったのだ。
彼女の視界から自らの姿を一時的にせよ消すために。
そしてフリーレの間合いであったあの地点から動くために。

「しばらく動けなくなってもらうわよ」

そう誰にともなく呟いた彼女がいたのは地上百メートルの空の中。
義勇軍仕様の外骨格を身に纏った彼女の手には一丁のスナイパーライフル。
アリアはかつての友人に向けて、何の躊躇いなくその引き金をひいた。
多量のフォトンで形作られた強力な一発(ビーム)が一直線に彼女を襲う。
最上級の麻痺効果も付加されたそれは生身で受ければ、
高い耐久ランクを持つ彼女とて行動不能に陥るだろう。

「っ!」

しかしフリーレとてその狙撃に気付かぬほど勘は鈍っていない。
頭上から向かってくるそれに気付くが避けるにはもう近すぎる。
剣を盾にしようというのか構えた姿にアリアはスコープ越しに笑う。

「はっ、そんなちゃちな威力じゃないわよ!」

彼女の嘲笑と同時に着弾。
激しい閃光が周囲を包んで轟音と衝撃が辺りを襲う。
仮設テントは設備ごと跡形もなく吹き飛ばされ、高く粉塵が舞った。
地表は広範囲に大きく抉れて、周囲にあった自然の面影は皆無である。
もはやそれは狙撃といえるものではなく爆撃にも等しい一発だった。

「まあ、これでも五体満足っていう辺り相変わらずトンデモな耐久力。
 さすがは武の名門ドゥネージュ家の跡取り娘ってところかしら?」

揺らめく土煙の向こうで倒れ伏しながら外傷が見当たらない彼女に
目論見が成功した事を安堵しながらも心底に呆れた顔を見せる。
最低でも簡易外骨格であればアリアも耐える自信はあるのだが、
生身でこの威力の攻撃を受けて生死を案ずる必要のない耐久力は
ガレスト軍人といえどなかなかいない怪物級のそれである。

「欲を言えばここで始末しといた方がいいんだけど、
 それをやっちゃうとガレスト世論と軍を完全に敵に回して、
 面子をかけた攻勢を受けちゃうだろうからまだ先の話よね」

今回の作戦で脆弱な面を露呈したばかりと思う彼女にとって
本格的に本国の軍と事を荒立てるのは時期尚早と考えていた。
尤もそれは。

「────いらぬ心配だぞ、アリア」
「っっ!?」

視界を覆う閃光と声を前に彼女には背筋が凍る時間すら与えられない。
ただ直感めいたものがそれだけの脅威と時間の無さを訴えてくる。
だから狙撃銃を声の方へ投げ捨てながら全力で後方へと下がった。
途端、目の前で白銀の斬光が狙撃銃を切り裂いて爆散させる。

「くっ、なにが!?」

勘に従っただけの彼女は何が起こったのか理解が追い付かない。
だから己が武装の爆発の向こうにいた存在を視認して漸く背筋が凍った。
そこにいたのは学園の物とは似ても似つかない外骨格を身に纏った何者か。
洗練された鋭さと余計な物を削ぎ落とした美しさを持つ白銀の全身装甲(フルアーマー)
装着者にフィットした意匠はその女性らしいラインを浮かび上がらせていた。
背面の大型ウイングブースターとスカートアーマーのウイングによる
フォトンのフレアを纏って飛翔する姿は彼女の美貌も合わさって
どこか神話の戦乙女を思わせる神々しさと畏怖を見る者に感じさせる。

「こいつの復帰戦の相手までもお前になるとは。
 試運転の模擬戦から今日まで妙な因縁がついたものだ」

彼女自身はその嫌な縁に辟易といった表情なので色々台無しだが。

「そんな………どうして『白雪(しらゆき)』がここに!?」

だが一方で彼女はそれどころではない。
その白銀─限りなく白に近い銀─の外骨格にアリアは見覚えがある。
彼女らが起こした最初の反乱を圧倒的な突破力で粉砕した憎き姿。
頭部を覆う流線型バイザーの透過率は高く、装着者の顔はよく見えた。
しかしそれを誰が装着しているかなど確認するまでもない。
ソレが誰にしか扱えない物かも彼女はよく知っていた。

「ならあれはいったい!?」

目の前の相手から視線をそらさずに眼下の状況をモニターで表示する。
そこには相変わらず土煙の奥で倒れている彼女(フリーレ)の姿があった。しかし。

「あれはデコイ映像だよ。
 お前の変装とてトリックは同じようなものだろう?」

それで騙された経験のある彼女は咄嗟にそれを利用していたのだ。
してやったりと笑みを浮かべるフリーレに今度は彼女が唇を噛む。

「っ、まさかあなたに騙される日が来るなんて!
 それも今日に限って『白雪』を持ち込んで!!」

「お前たちのおかげだよアリア。不完全な精神スキルを
 不用意に使ってくれたおかげでこの事態を予測できた」

私が、ではないがな。
悔しげに歯噛みする彼女に胸中でだけそう呟き、不敵な笑みを浮かべる。

──近接戦闘用強襲型外骨格『白雪』

それがフリーレ・ドゥネージュ専用に用意された彼女だけの(つるぎ)
必要になると予見した少年の忠告を彼女は真摯に受け止めたのだ。

「だとしても使用制限が設けられていたはず。
 民間人となった以上、無許可で使えばいくらあなたでも処罰は!」

「ここに来る以上、緊急時の使用は元より認められている。
 いまを緊急時にした誰かさんたちのおかげだよ」

「くっ」

「さて、一応元同僚として勧告はしておこう────投降するか?」

「………するっていったら丁重に扱ってもらえるのかしら?」

「動けなくなるまで叩き伏せてからなら考える」

潜入や工作を得意とする彼女の投降など計略の手段にしか見えない。
自らの死すら偽装する女の言葉を言外に信用できないと切って捨てる。

「だと思ったわよ!」

その返答を予想してかアリアは予備動作無く雷撃のスキルを放って
隙を作るとフリーレとの距離を取ろうと一気に空を飛び退いていく。
とにもかくにも彼女のブレードの間合いに近付きたくなどない。
だが。

「得意の雷撃か、だが舐められたものだな!」

必殺ではなく牽制の為に放った雷撃では空を舞う戦乙女に当たらない。
稼げたのは僅かな距離を飛びのけるだけの数秒間だった。

「3年ぶりのくせに鈍ってはいないってわけね!」

やはりかと唇を噛みながらも稼いだ時間で空中に球体をばら撒く。
それはビー玉程のサイズだったが途端にそのサイズと形を変化させる。
その中に飛び込む危険を考え、剣を構えたままフリーレは空で静止する。
彼女の前で球体は鳥を模した形状のドローンとなった。その数四十。
全高はおおよそ大人の半分程度だが翼を広げた横幅は2m近い。

「空戦型ドローンか」

集結して立ちはだかるように空に静止するそれは壁にさえ見えた。
だがそれが鋼のそれか紙のそれかは相手による。

「精神スキルにロボ乗っ取りに通信妨害。
 次から次へとよく準備したものだ……が、その程度!」

背面の大型ウイングスラスターがフォトンの火を噴く。
驚異的な加速を与えるそれによって彼女は一筋の流星となって迫る。
アリアはあえてドローンの壁を開かせつつ上昇しその突進を避けた。
だが即座にスカートウイングが下方へフォトンを噴射し急激に上昇させる。

「相変わらずデタラメな機動を!」

その加速と直角機動で人体にかかる強力なGは外骨格で緩和しても、
易々と耐えきれるものではないがそれが問題とならないのがフリーレだ。
彼女の耐久力とGに対する先天的な耐性がこの機動を可能としていた。
だがその進路を塞ぐように十機ほどのドローンが壁となって道を塞ぐ。

「邪魔だ!」

しかしその程度は紙の壁でしかない。
フリーレの為に用意されたその加速力がもたらす突進を前に
ドローン程度は鎧袖一触とばかりに衝突の勢いだけで粉砕された。
しかしそれでも接触は接触であり刹那程度の時間でも稼げたのなら
アリアにとっては意味がある一瞬であった。

「ちっ!」

抜かせてしまったかとフリーレは激しく舌打ちする。
ドローンの壁を通りぎた先に見えたのは複数の銃口。
両手で構えたスナイパーライフルが彼女を正面から。
自立浮遊型の遠隔誘導攻撃端末・ガンビットが周囲から。
相手が並であったのならどれもこれも無視して彼女は突撃する。
しかしその狙撃の威力を知る身としては回避か防御を選びたい。
このまま進めばライフルの狙撃は確実に着弾し推力が一時落ちる。
そうなればガンビットやドローンに囲まれて蜂の巣となる。
避ける為に機動を変えればその隙をガンビットは狙ってくる。
アリアの腕ならばその瞬間のスラスターに当てるなど容易。
中遠距離の射撃を得意とする彼女相手に機動力の低下は致命的。
ならば、彼女が選ぶのは─────愚直なまでの直進だ。

「血迷ったの!?」

何が目的かと訝しみながらもアリアは引き金をひいた。
先程の放ったそれと遜色ない威力のビームは真っ直ぐに彼女を襲う。
そしてフリーレもまたそれに向かって進み、ただ剣を振り抜く。

「はあぁっ!!」

─────斬

「なっ!?」

大地を抉る程の光撃が一閃のもとに真っ二つにされ、落ちていく。
それが再び地に到達するよりも速くフリーレはこちらに肉薄してくる。
すぐに驚きを棚上げして彼女は動かせる物は全て動かして抵抗した。

「っ、はぁっ!」

横合いからドローンを特攻させ、ガンビットで背面を狙う。
そして正面からフリーレの顔面目掛けて狙撃銃を連射させる。
たまらず彼女は逆噴射で急停止し、進んだ先を狙っていたそれらから
紙一重で逃れるとその場で回転するようにしてブレードを振るった。

「ドローンやビットを操作しながら狙撃とは相変わらず多芸な」

「言ってくれるじゃない!」

心底感心したような声だったがアリアには嫌味にしか聞こえない。
特攻狙いのドローン達は狙いを外された上にビームもろとも切り裂かれた。
種類も距離も関係がないといわんばかりにどれもこれも真っ二つである。
見れば彼女の剣は色濃い濃密なフォトンを纏って長大な刀身を形成している。
フォトンのビームや間合い以上の距離を切れたのもそれが理由であった。

「そっちはより一芸に特化してきたわね。
 ついにビームまで切るようになったわけ!?」

「お前の場合避けるより切った方が手っ取り早くないか。
 と、ある奴に助言されてな………目から鱗だったよ」

「余計なことを!」

わりと本気の文句をその名も顔も知らぬ誰かに吐きながら、
ライフルを仕舞って、両手に大型のハンドガンを呼び出して撃つ。
放つエネルギー光弾に『ショットガン』のスキルをかけて。

「っ、それで即座に散弾に変えてくるのだから頭の回る!」

二つの銃口から乱射される散弾は空間を制圧するように面で彼女に向かう。
強力な剣閃を持つフリーレだがそれは『線』だ。面の一部しか崩せない。
耐えるにしろ避けるにしろその間に体勢を立て直そうとアリアは判断した。
だが。

「なにを!?」

彼女が迫る光弾に対して行った動作はまたもどれでもなかった。
フォトンに覆われたブレードを眼前に突き出すように構えた彼女は
白雪の全ての推進装備を背面に向けさせるとそのスキル名を口にした。

「『ブーストクラッシュ』!」

フォトンの強烈なフレアが白銀の戦乙女を再び流星に変えた。
しかしそれは先ほどの速いだけのものと違い、文字通り空を裂く。
散弾の壁をまるで紙のそれのようにダメージもなく突破する。
フリーレも誰かと同じく体の動きが一時操作される攻撃スキルが苦手だ。
ブーストクラッシュはその中で特殊な動きの少ない突進型の下級攻撃スキル。
だがそれに白雪の加速が重なれば下級どころではない速度と威力となる。

「バリアを鋭角状に!? しまっ!!」

そして突き出したブレードを中心にして形成された尖ったバリア。
それが彼女を守る盾にもすべてを粉砕する衝角にもなってアリアに迫る。
咄嗟に残った全てのビットとドローンで壁にするが刹那の時間も稼げない。

「くっ、があっ!?」

出来たのはなんとか体を反らして直撃を避けることだけだった。
彼女の反射神経は二重の加速によって流星となったフリーレを見事避けた。
しかしそこまで。剣先もバリアにも触れなかったが衝撃波はそうはいかない。
かすめた左腕のアーマーがそれだけで完全に吹き飛んでしまった。

「なんて馬鹿げた──」
「動くな」
「──っ!?」

衝撃で動かなくなった片腕を庇いながら体勢を整えようとした一瞬。
もう目の前には白銀の戦乙女がいて喉元に鋭き刃が突きつけられていた。
しかしそれでもアリアは反撃を諦めずに即座に全身から雷撃スキルを放つ。
彼女の前で止まることの意味をかつての同僚としてよく知っていたのだ。

「ふんっ!」

「うそでしょ!?」

自らの被害も考慮せず近距離で雷撃を牽制と目隠し目的で放つが
軽く振るわれた剣によって弾かれるように斬られててしまう。
その動作の隙を使って距離を取れたが動揺は激しい。

「リターンが速過ぎるわよ!
 え、うそ、3年前のデータより何もかも速い!?」

公式な記録上フリーレが白雪を装着した過去最新のデータ。
彼女を一番の作戦障害と認識していた彼らは苦心して手に入れていた。
だが今の戻りも含めてこれまでの動きのどれもが過去のそれより速い。
バイザー裏に表示される比較データに彼女は信じられないとこぼす。

「あり得ない。
 私の事件以降、広報課で広告塔させられてたあんたが、
 ここで3年下手っぴな教師やってたあなたがなんで!?」

何故、以前よりもさらに強くなっているんだ。
驚愕を顔に浮かべながら残っていた右手の銃からグレネードを連射する。
だがスキル名を口にせずとも弾の種別を変えてきたのを見抜いてか。
フリーレはその射線から外れるように動きながら微笑を浮かべた。

「いいえっ!
 それ以前にあなたいつから宗旨替えしたのよ!?
 戦い方も3年前と全然違うじゃない!!」

相手の動きを見てから動くなどこれまでありえなかった。
彼女の速度はそれを見る必要がなく、突撃だけでたいてい片が付く。
だからこそ付け入る隙があると考えていた彼女だが今のフリーレは違う。
思い返せば、この戦闘中ずっとアリアの動きを見てから動いていた。

「……あいつとやりあってると以前のでは勝負にもならなくてな」

旧友の指摘に思わず苦笑を浮かべる。
突撃した瞬間カウンターが入って意識を飛ばされたのは二度、三度ではない。
模擬戦相手の少年では彼女の速度はそのまま自分に返されてしまうのだ。

「誰の話よ!?」

「お前たちの運の悪さの元凶だよ。
 あいつのおかげで最近調子がよくってな、体が軽い!」

それをどうにかしようと彼女なりに模索した結果がこの変化。
やはり彼との戦いは心躍ると思いだしながら悦に浸って笑う。

「おかげで、こういうことも出来るようになった!」

そしてその笑みを浮かべたままアリアを見据え、三度流星となる。
驚異的な加速力を用いた物理法則を無視した軌跡を空に描いて。

「なっ、うそっ、こんな!?」

法則性のないデタラメな機動と直角の方向転換の連続に翻弄される。
青空に描かれるジグザグとした軌跡を目でもセンサーでも捉えきれない。
彼女に追えたのはフレアの残光と余波で破壊されるドローンの小爆発だけ。

「落ちろぉっ!!」
「ああぁっ!?!?」

だから背中を襲った衝撃にアリアは満足に対応することもできない。
驚異的な速度のままでの突進は単純ゆえに強烈な衝撃をもたらし、
彼女はフリーレに押し出されるような格好で共に地へと落ちていく。

「またっ、また邪魔するのフリーレェェッ!!」

絶叫を空に残し、彼女は自ら作ったクレーターに叩き付けられた。
轟音と共に土煙や粉塵が高く舞い上がり、その窪みはさらに深く抉れる。
アリアは落下による衝撃で意識が飛びかける中、骨と外骨格に罅が
入る音で皮肉にも意識を繋ぎとめ、まだ動く手に力を込めた。

「ぐ、ぁ、このっ!」

「………」

うつ伏せに沈みながらも離さなかったハンドガンを背後に向けて連射するが
フリーレは微塵もたじろがずに防御を白雪に任せて冷静に銃を切り落とす。

「がっ、くぅっ」

そして倒れ伏したままの彼女を蹴り飛ばして5メートルほど転がす。
偶然仰向けになったアリアの喉元に再びフリーレの刃が向けられた。

「っ!」

「『バインドロック』………まだやるか?」

体中を縛り付けるフォトンの拘束具を仕掛けながら問う。
抑揚のない事実上の勝利宣言にアリアは返す言葉が即座に出ない。
ステータス面において彼女は何一つフリーレに勝ってはいない。
多種多様な攻撃手段の同時展開と中遠距離での射撃能力ならば、
アリアの圧勝だが動けない状態で接近されれば勝ち目はないのだ。

「……ホント、くそ忌々しい強さよね。
 でも勝った気になるのは早くないかしら?
 そもそも私がここに何をしにきたのかあなた解ってるの?」

しかしクレーターの中心で倒れ伏しながらもその目に敗北はない。
むしろ不敵な笑みさえ浮かべて、自らを見下ろす旧友を見上げている。

「さてな、わからんよ。お前の考えなど私には」

「ふんっ、本当は使いたくなかったけどこうなったら仕方ないわね」

欲を言えばアリアは切り札を使わずに監督官の教師陣を排除する事で
生徒達の指揮系統や連絡網を寸断して戦況を有利に運ぶつもりだった。
だがフリーレをよく知るがゆえにこの事態でまさか彼女が動かずに
そこで待ち構えている可能性は露ほども考えてなどいなかった。
尤も目論み通りに進んでも生徒達はそも誰にも指揮されておらず、
自己判断且つ試験と誤認して抵抗しているため無意味であったが。

「させると思うか?」

「残念でした。
 フォスタと違って軍の兵装端末は頭で命じるだけでいい。知ってるでしょ?」

その発動の意思を受け取った彼女の端末は特殊コードを発信した。
それはある所で受信され、彼らの切り札を投入するために動き出す。

「………何をした?」

「ふん、いくらあなたが強くても所詮は遊撃戦力としてよ。
 単独で敵陣を突破するのは得意でも戦線の維持や防衛戦は不得意。
 けれど不幸な事にあなた以上に戦い慣れた人材は学園にはない。
 防衛隊も優秀だけど全体を統制できる“将の器”を持つ者はいない」

ならコレを防ぐことは出来ないと彼女らを良く知るからこそ不敵に笑う。
しかしその笑みはフリーレが脈絡もなく空を見上げたことで凍りつく。

「本当に大規模空襲戦力まで用意してあるとはな。
 伊達に8年も地下に潜っていたわけではないか」

「なっ!?」

何故それを、という疑問の声を無視して彼女は遙か上空を見据える。
バイザーに映る光学映像は遙か彼方にある超高高度の雲上の空がある。
そこには楕円の球体のような巨大な物体が複数機浮かんでいた。
比較対象が無いため一目では解りづらいが全長は50mにも及ぶ。

「あれは……ドローンの降下ポッドの運搬機。しかも無人機か。
 一機にどれだけ積んでいるのやら。軽く見積もっても三百以上だろうな」

やれやれと冷静に首を左右に振る姿にアリアは言葉が出ない。
何かおかしい。追い詰めたはずの相手に冷静に切り札を見抜かれた。
フリーレに待ち構えられていた時以上の嫌な感覚にアリアは苛まれる。

「なるほどな、あの高さから合計数千機以上のドローンを降下させれば
 都市の防衛線はガタガタになり抵抗している生徒達も窮地に陥る。
 そして確かに私にも防衛隊の長にもその混乱を治められる器はない」

「フリーレ、あなたなにを!?」

彼女はくすりとそうなったらお終いだな、とまるで他人事のように笑う。
しかしアリアは背筋が凍った。これはそうならないと確信した笑みだ。
即座に見抜かれたことよりもむしろ彼女が取ろうとする手段が何か。
その自信の根拠に予測すら立たないことのほうが恐ろしかった。

「訳が分からないという顔だな。
 なら奇しくも最初にお前が口にした言葉を返そう。
 お前という敵を前にしてなぜ私はペラペラと喋っている?」

「え?」

いるはずがないと思い込んでいた相手がいた驚きで気付かなかった。
アリアの知る彼女ならば潜入工作員と長々と会話している時点でおかしい。
問答無用で叩き伏せようとするのが自然だが、したのは種明かし。
しかも正体が旧知の相手だと知る前からだ。不自然極まりなかった。

「まさか、時間を稼いでいたのはあなたもだったと?」

答えを言わないまま彼女はアリアに背を向けて空を睨むように立つ。

「意外だったが、クトリアは上空からの襲撃を受けた経験はなかった」

それは優れたレーダー網と交流反対派の襲撃を警戒し続けるクトリアの
防衛網を突破するのがどの世界の航空戦力や外骨格でも難しいからだ。
しかし、それは決して不可能だというわけではなかった。例えば、
防衛網外から一気に大量の戦力を送り込めば対処は追い付かない。
既に別戦力と交戦中であるなら、余計に。
現実的か否かを度外視すれば少し頭を捻れば誰にでも浮かぶ方法。

「ここへの襲撃を完全なものとするならそれを狙わない手はない。
 例え烏合の衆程度でもそんな方法で投入されたら混乱が起きる。
 それを目的とした戦力がある可能性は高い。
 追いつめて、使わせて、潰せ。だ、そうだ。
 ……ふふ、無茶をいってくれるよ」

それが彼の少年がフリーレに要求した役割。
潜入工作員と対決し、追い詰めさせ切り札をあえて使わせる。
他の者にいつ使われるか解らないよりはこちらのタイミングで
使わせるまで追い込んでしまった方が対処がしやすいのだと。

「フ、フリーレなにを?」

この8年を準備に費やしたガーエン義勇軍だからこそ用意できた代物だが
見抜いていたその誰かの言葉を楽しげに語る彼女にアリアは戦慄する。

「潜入工作員がその使用権限を持っているかは不明瞭だが、
 唯一学園側から事態を観測できる人物だ。緊急事態を想定して
 その権限を持たされている可能性は高い、とも言っていたが当たりだな」

「な、なにを……なんの話よ!? 誰の話よそれ!?」

解らなかったのだ。
8年この都市に住み、学園で働きながら様々な調査をし続けた。
障害となりそうな人物の動向把握も当然ながらその一つだった。
だがフリーレが語る人物が誰なのか候補すら彼女は思い浮かばない。

「いみじくもお前が口にした“将の器を持つ者”かな?
 下手な教師の私より余程あれは人を扱うのがうまい。
 おかげで私は一振りの剣として使われることができる」

教師の責任や重たいだけの名声を今一時忘れて彼女は気楽に笑う。
そちらの方が性に合っているのだと深めたそれを、しかしすぐに引き締める。

「さて、そろそろやろうか白雪」

〈ラジャ〉

真剣さの増した顔で自らを包む(つるぎ)に語りかけながら
その右肩部に担がれるような形でナニカが展開されていく。

「現状を使用規定第三条における特殊事項。
 許可が取れない状況下での大規模戦力との接敵と認定。
 『白雪』装着者、フリーレ・ドゥネージュの名の下に
 友軍及び民間人防衛のために『不可侵の剣』の使用許可を申請」

〈申請確認。特認される状況と判断。許可権を行使します。
 シース展開完了、セーフティ解除、フォトンエネルギーチャージ。
 初使用ですがはしゃがず平静できましょう、マスター〉

「わかっている。ただの物体相手に私が興奮するか!」

抑揚のない機械的な音声の答えに眉根を寄せる。
背面側に伸びた巨大な刀身のようなそれは正面からは空洞の内部が見える。
フリーレはその空洞に愛剣たるブレードを差し込んだ。それは巨大な鞘だ。

「納剣完了、コーティング開始。冷却機関解放……目標、捕捉!」

〈了解、すべて完璧(オールオッケー)です〉

「待てフリーレ、なにを使おうとしている!?
 いやそれがなんだろうとあの高度にある機体をどうこうなんて!」

初見の装備とそれを使うための大仰な許可申請。
しかもこの状況で出してきた以上ただの武装とは思えない。
だが白雪の加速力があっても数分はかかる超高高度にある運搬機。
今から向かっても到着する頃にはドローンを降下させ、ばらまき終えている。
そうなってしまってはソレがいかほどの武装でも全ては破壊できないだろう。
ましてやこの位置から攻撃できる超遠距離兵器などガレストにはない。
だからこそそれが地球人を恐れる理由の一つとなっているのだから。
だが。

「私の得意スキルがなんだっか忘れたかアリア?」

〈フォトンコンバーター稼働。補正プログラム起動。
 道草食わずにまっすぐに跳んでください〉

耄碌したな、と茶化しながらアリアの目の前にモニターを開く。
ドローンの降下準備に入った大型の運搬機がそこに映っている。

「ついでだ、よく見ておけ。
 これが現役時代は幸運にも一度も使われ無かった白雪の剣だ!」

腰をわずかに落として構えながら愛剣の柄を両手で掴む。
自らのバイザーに映る遥か遠くの運搬機を見据え、スキル名を呟く。

「『縮地(ショートランド)』」

「っ、しまったっ!?」

その言葉と共に消失したフリーレを目にして自らの失態に気付く。
確かに白雪の速さでもあの高度まで辿り着くには少し時間がかかる。
しかし短距離とはいえ空間転移を単独で可能とするそのスキルがあれば、
そしてその目標地点への距離とその間にある物体を把握しきれれば、
短距離転移の連続で僅か数秒であの高度に到達できるだろう。

「くそっ、なにっ、なんなのよっ、誰!?
 私はいったい誰を見落としたのよ!?」

モニターに彼女が映ったのを視認してアリアはわめき散らした。
その後の展開が読めるからこそフリーレに助言した誰かが憎い。
しかしその姿が浮かびもしない事に苛立ちながら縛られた体を揺らす。

「よくも、よくもっ、フリーレェェッッ!!!」

すべてが無に帰す。この8年をかけた準備と計画が潰される。
何者かも分からない誰かによって振るわれた警戒していた剣によって。
そのただただ恨みがましいだけの絶叫は雲上まで届くことはない。

〈全機影射程範囲に入りました、どうぞ〉

地上から寸分違わぬ姿勢のまま彼女はただ剣を振り抜いた。


「────『セイグリッドキャリバァァァッッーーー』!!!」


瞬間フォトン特有の金色が空を満たし、そして容赦なく裂いた。
不可侵の剣。これより先に進むことを許さない守護にして必滅の一閃。
それは白雪の専用装備でのみ使用が可能な広域斬撃型の攻撃スキル。
巨大な鞘に込められた多量のフォトンが振り抜かれた剣と共に解放され、
複数の運搬機と降下されかかったドローンの群れを濁流が如く呑みこんだ。
高濃度高圧縮されたフォトンの斬撃を前にそれらは一秒とて持たない。
まるで初めからそこには何もなかったように破片すら残さずに蒸発する。
あとには金色の粒子の残滓をまとった白銀の戦乙女だけが残るのだった。



空間を埋め尽くすような『線』の一撃ですべてを薙ぎ払ったフリーレ。
連続転移とフォトンの多量放出によって熱を持った各機関を冷却すると
ゆっくりと地上に戻ってきたが待ち構えていたようなアリアの怒号が飛ぶ。

「解ってるのフリーレ!?
 そんな威力の武装があったって地球の兵器はそれ以上なのよ!
 あなただけそれが使えたってなんの抑止力にもならない!」

彼女の目には怒りと共にわずかな諦観の色もある。
どうせこのまま連行されるのならば言いたい事を口にすべきだ。
そう考えている彼女は旧友を睨むようにしてさらに続けていく。

「地球との交流は政府最大の失敗よ。強引な手段を取ろうとも
 今の内にその間違いを正さなくてはいずれガレストに災いを呼ぶわ!
 私たちが守るべきガレストに地球なんて世界は必要ないのよ!!」

「……失敗、間違い、災い、必要ない、か。
 お前からその単語(ワード)は聞きたくなかったよ」

本気でそう考えている事が伝わる鋭く強い視線にフリーレは
一瞬その金の瞳を切なげに揺らすがすぐにそこから色を消して、一閃。

「なっ、くっ!?」

外骨格越しの兵装端末が呆気なく切り裂かれて破壊される。
維持するシステムが崩壊した事で外骨格はそのまま重石となった。

「悪いなアリア。暇があるならお前と議論するのも悪くないが
 あいつからそれが終わったら生徒たちの援護に回れと言われててな。
 今はこれ以上お前に割く時間がない。あとで迎えに行くから、寝ていろ」

言いたいことだけを一方的に口にして。
言外に話に付き合っていたのは切り札を探る為だったというように。
躊躇なくガンッと鳩尾に一撃いれてアリアの意識を刈り取った彼女は
そのまま目もくれずに次の戦場を目指して飛び去っていった。




潜入工作員──拿捕

外部大規模空襲戦力──消滅

学園遊撃戦力──活動開始

+注意+
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