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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

試験編 第二章「テストを利用するモノ」

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04-28ガレストの乙女はそこに弱い

お盆の帰郷における私的な忙しさとそれが終わってからの
盆休みをとったがゆえの公的な忙しさが例年よりひどく、
今日まで更新が遅れてしまいました。申し訳ない。


海上都市クトリアは地球とガレストの建築物が混ざった都市部と
人工的に作られた各種の大自然があるフィールドの二つに分けられる。
そしてその中間地点ともいうべき場所にガレスト学園の敷地があり、
そこが唯一フィールドと都市部を繋ぐ出入口(つながり)となっている。
他からでは強引にバリアを突破するしか内外に出入りする手段はない。
今は何者か(・・・)の手によって開いたままの状態にされてしまったために
ガードロボの軍勢はそこからフィールドに押し入れてしまったのだ。
だが野戦向けの装備や地形データを持たない機体では進行さえ難儀。
それでも大半がなんとか走行できる野道を見つけて奥に進んだが、
残りのいくらかは未だ出入口から僅かに進んだ辺りで迷走していた。

そして混成クラスは輝獣を避けてフィールド東部の川を目指していた。
名も付いてないその河川はそのまま海に流れ出る──ようにはなってない。
フィールドは特殊な環境でありガレスト技術で人工的に形成された場所。
そこから流れ出る川水を地球の海に流すことの悪影響が懸念された為だ。
無論各種の検査で問題はないと出たがクトリア建造は交流開始前後の事。
いらぬ軋轢を呼びかねない要因は出来る限り排除しようとここは設計された。
よってフィールド内の河川は山から始まっているが出入口付近まで流れてから
その後地下を通って再び山の頂上に戻るという循環形式をとっている。
つまりはフィールドの川はある意味出入口と山脈をつなぐ道といえた。

この二つの事実はこの局面において両者の遭遇を招いた。
さもありなん。一部のガードロボ群が川を遡ってきていたのである。
都市部にも河川はあり沿岸の警部も行うロボの防水機能は優秀だった。
尤もそれが指揮官の予定通りか否かは本人のみぞ知る話だ。



混成クラスはその存在を認知してから川辺で陣を組んで待ち構えた。
最初に撃破しているとはいえあれはガードロボが三機の話である。
遡ってくる一団は十四機。その後方からはさらに二十二機の反応があった。
それらを前にして指揮官(シンイチ)は事も無げにいった。罠を張ろう、と。

「足元を崩して砲塔を潰せ! 無理に倒そうとしなくていい!」

準備の時間と状況を作るために彼に率いられた前衛組は奮戦している。
敏捷が優れた者がかく乱目的で遊撃し耐久組が少なくなった後衛を守り、
後衛はスキルによる援護を行い、そして指揮官たるシンイチは──

「フォトンバースト!」

──敏捷組の遊撃に混ざって全体のフォローを続けていた。
川辺の砂利や濡れた砂地に足を取られた生徒と機体の間に入り、
左手のバンカーを突出すと四機のガードロボを衝撃と共に殴り飛ばす。
同時に右手で蛇腹剣を操って耐久組を押し潰そうとした機体を弾き飛ばす。

「今だっ、関節を狙え!」

「おうっ!」

『3時の方向に風スキル!
 ヤマナカ下がれ! 空は俺に任せて気にするな!』

「了解! 『エアショット』!」

「くっ、わかった!」

声や思念通信で各所に指示を飛ばしながら彼は生徒達の周囲を飛び回る。
まるで右手と左手、両目と頭と口が別の生き物かのように働いて、
生徒達だけでは手が回らない所や対処できない状況をカバーしていた。
面での制圧を可能とするフォトンバーストや圧縮空気銃の拡散モード。
彼の意のままにどこまでも伸びて蠢く大蛇があればこその挙動に見えた。
そして彼らはこの状況をおよそ十五分は続けている。

「どうしたお前ら、もうへばったか?」

「だ、誰が!」

「舐めないでよね!」

そのためか息が上がりかけている集団に動き回りながら声をかける。
負けん気か反発心か。もはや反射的に大丈夫だと口々に彼らは叫んでいた。

「ああ、昨日に比べればまだマシだろ。お前等はやれるさ」

「へっ、あったりまえだ!」

気合の声と彼らは機体の砲塔を潰して前足を叩き折る。
そのため地面に突っ伏すように倒れたガードロボは行動不能に。
数体はそんな状態に出来ていたが後続に合流されて総勢は三十機ほど。
小さな戦線は一進一退だが川辺と濡れた川底(・・・・・)の境界線で維持していた。

「とはいえ、か………おい、まだか?」

『遅くて悪かったわね!
 いま完了したって伝える所だったのよ! 下がって!』

「だとさ、全員安全ラインまで後退! 来るぞ!」

かく乱に走り回っていた生徒たちが一斉に川辺に戻り、
耐久組が全面に出て、後衛組が半球型のバリアを張って全体を覆う。
それを認識したガードロボの戦闘プログラムはどう判断したのか。
足並みを揃えてまるで壁のように前進してくるが、その瞬間。
上流から地響きにも似た音と振動が響き、機械であるガードロボも
その異常の原因を探ろうと動きを止めた。それが狙いだとも知らずに。
『轟』というような音と共に上流から押し寄せてきたのは強烈な鉄砲水。
川の流れに陣取っていた形のガードロボ群は一気に下流へと押し流される。
防水加工があっても彼らは水中での活動を想定して作られた機体ではない。
例えそうであろうとも大瀑布にも匹敵する勢いの激流が相手では意味はない。
白き機体は流れに抵抗する事もできずに数瞬で姿が見えなくなる。
そして流された先で何かに激突したのか爆音が散発的に響くのだった。

「…………天災って恐ろしいよな」

それを冷静に見詰めながらもどこか教訓のように語るシンイチに
周囲の面々はどう答えていいものかと微妙な表情を浮かべていた。

「おい、こういうの天災っていうのか?」

「かといって人災、っていうのもなんか変だよね?」

「人災でいいんじゃない? 人工天災の略ってことで」

──それだ!
誰かのそんな意見に混成クラスは大いに納得していた。
何せこれは一部の後衛組がスキルを用いて川をせき止めて水を溜め、
タイミングを見計らって解放した事によって“起こした”激流である。
川幅をバリアやシールドで狭めて固定し勢いが一方向に集中するように
した上での行為なため人工の天災という表現は言い得て妙であるといえる。
尤も苦労してこの場に押し留めていた三十機ほどのガードロボが
いとも簡単に激流に流されていく光景にやるせなさも感じていた。
げに恐ろしきは自然─を利用するこの男─である。

「よく思いつくよな、こんなの。
 もう地の利を活かすとかいうレベルの話じゃないぞ?」

「前に何度もやっ……あ、いや。
 水攻めって兵法としてはありきたりじゃないか?」

1-Dクラス委員のヤマナカが何でもアリだなこいつと呆れる中。
盛大に口を滑らせながらも当然の発想だろうと返して強引に誤魔化す。

「………俺たちの知ってる水攻めとなんか違う」

「普通、それって秀吉がやったのだよな。
 城の周りを湖にしちゃって孤立無援にして兵糧攻めにしたやつ」

彼らがイメージする水攻めは『備中高松城の戦い』のそれが強い。
決して鉄砲水あるいは人為的な洪水を起こして敵を押し流す事ではない。
ただ彼は水で攻撃するという行為だけを見て水攻めと評したに過ぎないが。

「細かいことは気にするな。
 ああ、ところでお前ら新しい武装の方は慣れたか?」

話を変える──などという意図は皆無で彼は純粋にその疑問を投げかける。
一部の生徒達が手に持つ武装は他の生徒たちと意匠や形状が違っていた。
どこか丸みを帯びているのが一般的な中でそれらは他と違う鋭さがある。

「まあ、なんとかね。
 さすが元軍人の武装だよ。威力が段違いだ」

「けどその分、要求される使い手のスペックが足りないから
 結構キツイけど、そのへんは出力調整で誤魔化してるわ」

それらはあの兵士達から奪った端末に収納されていたもの。
シンイチは武装を失った(・・・)生徒達に初期状態にして渡していた。
これによってガードロボの四肢の破壊は以前よりは楽になっていたが、
そのランクに達していない彼らには扱いにくい武装でもあった。

「悪いな、まさかあの程度で壊れるとは思ってなくてな」

奪取防止システムを利用した電撃攻撃はデメリットが無い訳ではなかった。
本来一瞬の電撃で相手に手放させるのが目的なため10秒以上の放電は
想定されておらず内部機構に過負荷がかかり全てが機能停止に陥ったのだ。
専門的な修理をしなければフォスタに収納する事すらできなくなるほどに。
ヴェルナーの作った蛇腹剣はそういった耐久性は並外れていたらしく、
それを基準に考えてしまったのがあの攻防における数少ない彼のミス。
だからその点に関しては、すまない、と彼は素直に頭を下げていた。

「Bクラスの3年生が作った武器と比べると脆いのは解るし」

「外骨格相手だからむしろ少ない損害だと思うが………なんか変な感じ」

渡された時も同じようなやり取りがあって生徒達には二度目なのだが、
ここまでの彼を見てきただけにその姿に違和感しか覚えない面々である。

「壊れた武装の修理や補填については試験終了後に先生に掛け合う。
 だからお前等………終わったらちゃんと学園にでいいから返せよ?」

「わ、わかってるよ………うん、やっぱこれだよな」

一方でネコババは許さんという笑顔の圧力の方がしっくり来る辺り、
生徒達にとってのシンイチという男のイメージは固まりつつあった。
一応テロリストの武装を所持する事であらぬ疑いをかけられる可能性や
身の丈に合わない武器を使う危険性を考えての発言であったのだが。
日頃の行いを考えれば自業自得といえなくもない。

「ん?」

表情からそれらを読み取った彼は心外なと言いたげだったが、
不意に自身の感覚に引っかかるモノがあってそちらへ視線を向けた。
そこには誰も、何もない。これまで突き進んできた大地が広がるだけ。
しかしシンイチは僅かに足を進めると突然しゃがみ込んで一言。

「………余所見してんじゃねえよ、お嬢ちゃんども」

そう呟いて何でもない岩肌の地面を軽く指弾して、薄く笑うと
周囲にせき止め班(トモエたち)が戻ってくるまでの休息を命じるのだった。




────────────────────────────────





各々のクラスがゴールを目指してフィールドを突き進んでいる頃。
その中で最奥地からのスタートとなった特別科3-Aは漸く自分達が
試験領域としていたエリアを突破する事ができて少し人心地ついていた。
溶岩地帯から熱砂舞う砂漠地帯への移動ではあったが気温はいくらか低い。
外骨格を装着していても汗をかく領域と比べればまだマシといえた。

「はぁはぁ、どうなってんだ?
 輝獣の数が昨日までと段違いだったぞ」

しかしたかが隣に移動するだけでここまでの時間がかかったのは
元々高ランクの輝獣が跋扈する領域でその数が急激に増えたせいだった。
マグマで構成された巨大な獅子と鷹が大地と空を覆い尽くす光景は圧巻。
それへの突撃と突破は筆舌に尽くし難い精神的な疲労を彼らに与えている。

「ふぅ、ドゥネージュ先生が言ってた仕掛けってことじゃない?
 集束装置の設定いじって前回みたいに数増やしてるんでしょ」

「え、あれ設定ミスっていってなかったか」

「知らないの?
 先生たちの故意だったんじゃないかって話もあるのよ」

「そこっ、私語は慎みなさい!
 まだここもAランクエリア、油断できる場所ではないのですよ!」

一山超えたせいか少し気が緩んだ様子が見受けられた3-Aを
クラスをまとめる立場にあるアリステルは声を張り上げて窘める。
その叱責に言われた生徒達以外も口を閉ざして意識を切り替えた。

「体勢を立て直します。リゼット、周辺の状況は?」

「芳しくありません。今いる地点は比較的安全ではありますが
 ここからはどう進んでも輝獣か警備ロボの集団とぶつかります」

モニターを開いての女性従者(リゼット)の説明に、そう、と彼女は短く頷く。
自分達を示す光点の集まりをまるで囲むように二種類の光点がある。
どちらも軽んじていい数ではないのは3-A共通の認識だった。

「他のクラスの撃ち漏らしか。役に立たない連中だ」

あちこちで発生する輝獣はともかく都市側から侵入したロボ群が
それほどの数を残しているのは彼らより先に遭遇しているはずの
他の生徒達が戦闘を避けて撃破しなかったせいであった。

「…………後片付けは任せる、ということ?
 それともわたくしたちに後詰めを頼む、かしら?」

憤る男性従者(オルト)を余所にくすりとアリステルは僅かに微笑んだ。
ここにはいない誰かの指示が聞こえたようで彼女は胸の中で頷く。

「アリステルさま?
 っ、レーダーに反応! 他のクラスが近づいてきてます!」

場に合わない微笑みに訝しむリゼットだがすぐにその情報を伝えた。
咄嗟にそちらへ視線を向けるが砂埃舞うこの地では目視はあてにならず、
どのクラスかは判別できなかったが彼女が顔を出した事で一瞬で判明する。

「やっほー! アリちゃん元気ぃ?」

「ルオーナさん!?
 2-Aがどうしてこんなところに!?」

自分達と同じく機械の鎧を身に纏った学園生徒の集団。
その先頭で頭の上で狐耳を遊ばせながら手を大きく振る少女がいた。
いつも通り態度にホッとしつつアリステルは純粋にその登場に驚く。
彼女のクラスとは試験領域が離れていたはずだ、と。

「あははぁ、ボク一人なら無理に突破しても良かったんだけど、
 全員で進むには包囲網がきつかったから隙間を進んでたら、来ちゃった」

『ってことにしてるけどさすがにこの数は3-Aだけじゃきついでしょ?』

どこかはにかむように『来ちゃった』などとふざけた様子を表で見せつつも
アリステルだけにその真意を送り、ミューヒもまた彼の意図を読んだ事を伝えた。

『助かりました。あなたがいてくれると心強いです』

「では合流しましょう。お互いの先生方もよろしいですね?」

同じような形で礼を返しながら確認すれば教師陣はにべもなく頷く。
元々どちらのクラスの試験官も指揮官としての適性が低い自覚があった。
そのためとっくにミューヒやアリステルにクラスの指揮権を譲っていたのだ。
あるいはそうした方がクラスがまとまると判断したともいえる。
その理由はミューヒとアリステルでは180度ほど違うが。

「オルト、リゼット、彼らと合わせて編成しなおすのです。
 まずは増援がないガードロボを潰しますのでそれを念頭に」

「分かりました、すぐに」

「お任せを」

いくらか行き過ぎなガレスト人優位主義を持つ彼らも集団での試験ならば
地球人がいくらか混ざっていようが特別科の生徒を色眼鏡で見ることは無い。
そこは実力を示した者には寛容な面がある典型的なガレスト人といえた。

「少し、お話いいでしょうかルオーナさん」

「……うん、ボクもちょっと話したかったの」

前科はあれどこういう場で言葉遊びや偏見による誤魔化しはしない。
その信用はあってか編成を任せた彼女はミューヒと共に僅かに集団から外れた。
目と鼻の距離だが絶え間なく吹く風音と編成の雑音で二人の声は聞こえ難い。

「見てます?」
「見てた?」

そこで一気に顔を寄せ合った両者は向かい合ったまま最終確認をする。
尤も二人の顔には答えなど聞くまでもないという確信めいたものがあり、
実際その短い問いかけそのもので彼女らはやっぱりと再確信した。

自分達は同じ光景を(・・・・・)見ていた(・・・・)、と。

フィールドには各所に周囲に偽装された形でカメラが設置されている。
不正利用者や侵入者対策、そして輝獣の監視目的が第一ではあるが
授業の記録あるいは生徒達が自らの動きを見直すのにも利用されていた。
本来許可制だがランキング上位者は任意に視聴する事が出来る。
モニターを開いての視聴は視界が制限され他者にも覗かれてしまうが、
映像を脳の視覚情報を認識する部位に流せば本人だけが見る事が可能。
そのせいで二人は一瞬“あの”指弾を目に受けた感覚に陥っていたが、
現在その瞳にはそんなことを感じさせないキラキラとした輝きがある。
端的にいえば“ようやく語れる相手を見つけた”と興奮していた。


「ゾクゾクしましたわよねっ!!」

「ゾクゾクしちゃったよねっ!!」


だからか異口同音に二人はそう叫んでいた。
確認というよりはまるでそれが当然だといわんばかりのていで。
どちらも熱に浮かされたような陶酔した顔で興奮気味に語っていく。

「少ない言動で皆をまとめ、士気を高めて導いたあのお姿!!」

「経験や能力も劣る子達を率いておいてあの快進撃!」

教本(テキスト)にない攻略法に戦術、全てを利用する発想力!」

「そのくせ本人はサポートに回って簡易を装着もしないで
 90人全員の動向を把握して指揮してるとかなんなの!?」

「隙を見逃さず、力弱き者でも牙を持つと見せつけて非道(テロ)を圧倒!」

「そんでもって一緒に前線に立って全体指示って、もうなんなのかなっ!?
 視野広過ぎだよ! どんな頭してんのさイッチーは!?
 今すぐにでもここ放り投げて命令してほしくなっちゃったよ!!」

「あれなんですよっ、わたくしが心惹かれた所は!!
 ああもうっ! なんなんですか皆の前に立つあの背中は!?
 今すぐにでもわたくしに守らせてほしいですわ!!」

噛み合っているようでまるで噛み合ってない言葉の応酬なれど、
似通っているのはその下であるいは共に戦いたいという感情。
それは戦いに関わるガレスト人の典型的な思慕の在り方といえた。
輝獣との戦いが間近であり避けられないガレスト世界にとって
有事における対応力あるいは直接的な戦闘力は異性の魅力と直結する。
尤も地球において個人によって好む異性のタイプが違うように
ガレストにおいても個人によって求める能力の傾向に差はある。

「はぁ、あの御姿を思い返すだけで顔が熱くなってまた動悸が、あぁ……」

「いやぁ、ボクちょっと変わったガレスト人を自称してたけど
 そういう所は一緒なんだなぁ、ああいうのキュンってしちゃう」

クラスメイトたちが編成中なのをいいことに。
あるいはその存在すら頭の片隅に追いやられているのか。
赤い頬に手を添えながら悩ましげで熱っぽい息を吐くアリステル。
いつものそれとは違う柔らかな笑みを浮かべてミューヒは胸を押さえている。

元より彼の言動をかなり肯定的に見ていたアリステルはともかく。
そこは比較的まだ冷静に見れていたミューヒですらこのありさまなのは
二人が特に好む能力と結果を彼が見せてしまったせいである。
人を率い、守り、導く者に彼女達は惹かれずにはいられないのだ。
同じ人物を連想していることを当人同士は知らないが。

「まあ、あれでもうちょっと女の子を優しく扱ってくれれば満点だけど」

「え、ナカムラさんは充分紳士的だと思いますよ?」

「…………アリちゃん、それはない。
 イッチーはそこ()色々おかしいヒトだよ!」

そこが不満だという彼女に対して不思議そうに首を傾げるアリステル。
思わず具体的な例を出して反論するが、その内容は少し不味かった。

「だいたい紳士はいきなり人を抱き上げたりしないよ!」

まったくもう、といって両手で抱え上げられた腰回りを気にするミューヒに
アリステルはよく見ていなければ解らないレベルで僅かに眉根が寄った。
狐娘の顔にあるのが不満とはかけ離れた色であったからだろう。

「嫌がってませんでしたよね」

「………アリちゃん?」

そして抑揚のない声と共に彼女は満面の笑みでその事実を指摘する。
突如放たれた妙な迫力に思わず目を瞬かせたミューヒは固まってしまう。
確かに顔には笑みがあるのだが目の奥が全く笑っていない。

「照れてはいましたけど嫌がってはいませんでしたよね?」

そして再度─より踏み込んで─同じことを口にして地味に追い込みをかける。

「え、えっと、それは………もしかしてアリちゃんやってほしかったの?」

「わ、わたくしだって腰のくびれには自信があります!」

追及に僅かに狼狽えたもののまさかの可能性に気付いて問えば彼女は
真っ赤になりながらも見せつけるように腰元を捻ってポーズを決めた。
残念ながら外骨格の装甲に覆われているためグラビアアイドルも
真っ青なそのスタイルは隠れており、あまり意味がなかったが。

「けれどっ、やはり地球の殿方は小柄な女性が好みなのですね!
 獣耳を好む方もいると聞きますし彼はあの子(アマリリス)を連れてます。
 きっとお嫌いではないのでしょう………ずるいです」

そして勝手な自己完結と共に羨むような色を持つ目で見詰められ、
ミューヒはまたも彼女の意外な一面を見たとせわしなく目を瞬かせた。

「………なんだろう。この嫉妬のされ方は対応に困っちゃうな」

本来なら(ウエスト)の上にある凶器の差や小柄である事のコンプレックスを
刺激してくる物言いなのだが心底羨ましそうに見られては怒れもしない。
そしてここまで自ら語っておきながら自覚がないとはどういうことか。
いっそ教えてやろうかという欲求にミューヒはかられるが自重する。
そちらの方が非常に厄介だ、と。

「こうなれば移植手術を手配して!」

「色々段階飛び越え過ぎだよ!」

この一直線さに自覚が合わさるともはや暴走する未来しか見えない。
現在既にしているといえるがこれ以上は勘弁してほしいと彼女は嘆く。
笑い話では済まない手術だけは止めさせようと彼女はしばし四苦八苦する。

「あちらは話が弾んでおられるようだな」

「実力伯仲の二人ゆえ話が合うのだろう。私達が邪魔すべきではない」

幸か不幸かクラスメイト達からはそういう風に見られてしまっていた。
表情を見ていれば間違っているのは解るはずだがイメージとは恐ろしい。
あるいは実像を見ていない盲信ともいえるが。


さて突然だが外骨格で戦うには多角的な情報の並行処理が求められる。
自身本来の五感はもちろん周辺情報や戦域全体の状況に各種の指示。
また味方機の位置や軌道も認識してなければ空中衝突を起こすだろう。
ある程度は外骨格に搭載されたシステムによるサポートもあるが
脳内で別々の事を同時に処理するマルチタスクは必須の技能。
学園内でツートップを誇る彼女達にとってはもはや朝飯前といえた。
逆を言えばそれだけ習得の困難さと補助システムの恩恵を理解している。
だからこそ補助無しでそれ以上をしていた彼の姿に二人は興奮したのだ。
とはいえ、例え興奮していようが全く別のことを考えていようが、
それでも彼女達は今この瞬間も(・・・・・・)多角的な情報を処理し続けている。
だから。

「ああもうっ、折角楽しくお話してましたのに!!」
「どこがっ!? ボクは救援が来た気分だよ!!」

爆発のような衝撃と共に地表に現れた輝獣(そいつら)の敗北は避けられない。
砂の中から出てきたのは太く長い胴体のサンドワームといえる輝獣。
強固な岩で形作られた肌を持つが混成クラスを襲った個体と大差ない巨体。
それが二体。環状の大口を開けてミューヒとアリステルを呑みこもうと襲う。
既に彼女達の手には武装が握られているとも知らずに。

「ふっ!」
「はっ!」

自分を襲おうとする個体にそれぞれが己が武装を向けた。
ミューヒの手からはL字型の巨大な投擲武器(ブーメラン)を放たれ、裂く。
アリステルの手からは円錐状の突撃槍(ランス)を投げつけられ、貫く。
岩の皮膚を易々と突破されたサンドワームは頭部と口部を破壊され、
彼女らの手に放った武器が戻ったのと同時に熱砂に混じって消えた。
クラスメイト達からは事前の警告も結果への称賛もない。
当たり前だ。彼女達が気付かぬわけも負ける訳もない。
自衛の為に周囲の警戒はしているがそれだけともいえる。

「………彼らのを見た後だと、少し寂しいですねこれ」

「声掛けって思ったより士気に影響するんだね」

これまでこれが当然であったが今は僅かな寂寥感を覚える。
信頼といえば聞こえはいいが盲信になっているなら重荷でしかなく、
逆に軽く扱われているような錯覚さえ感じられ、意欲が落ちてしまう。
本来なら自分達がする側なのも理解しているが物足りなさを感じる。
とはいえその点に関して悠長に話し合っている時間はない。

「各員、一斉射!」

続くように地表に顔を出したワーム型輝獣その数15体。
しかし直前に出されたアリステルの指示に従ってビームの雨が降った。
各々が構えた射撃兵装から放たれた金色の攻撃がその躯体を貫く。
地表に出た部分だけとはいえ穴だらけにされた輝獣は音もなく霧散。

「ルオーナさん!」

「わかってるよ!」

その中を突き切るように低空で飛翔すると互いに呼び出したのは(ブレード)
輝獣の巨体に結果的に隠れていた形になった白い機体に向けて刃を突き立てる。
四肢がホバータイプだったゆえか砂漠を越えられた数少ない機体だったが、
彼女達の刃の前にバターのように容易く切り裂かれて爆散した。

「このままガードロボを一掃します。各員、低空飛行でわたくしに」

「待ったアリちゃん、来たっ!」

「っ、各員対ショック防御!」

クラスメイト達は訳が解らないまま─されど指示されるがまま─防御姿勢に。
まるでそれを待ったかのようなタイミングで今度は彼らにビームが降り注ぐ。
こちらと同じ金色のそれが砂地に突き刺さり衝撃と粉塵をまき散らしていく。
事前に構えていた彼らにはダメージらしいダメージは無かったが、
突然の攻撃への動揺の中、それらが降り注いできた空を見上げる。

「さすがは特別科といったところか。これに対応するか」

そこには青い外骨格と黒いバイザーで顔を隠した者達が鎮座していた。
その数およそ20ほどで生徒達の半分程度ではあるが全員に緊張が走る。
学園では優秀な自負はあれど元軍人相手に敵うと思う程自惚れてはいない。

「よく気付いたなちっこい学生!」

「パデュエールのお嬢も名ばかりではないみたいですね」

そんなクラスメイトたちとは別に彼女らもまた攻撃を受けていた。
降り注いだビームの雨の隙間を縫うように斬りかかってきた何者か。
刃を刃で受け止めて鍔迫り合いとなったのを感心したように呟く。

「………」

「っ……」

だが彼女らは特段声を発することもなく、黙って足を出した。
蹴り上げを狙うそれは、しかし避けられ距離を取られてしまう。

「おっと、存外足癖の悪いお嬢さんどもだな」

「その二人はステータスだけなら我ら個人より上だ。侮るな!
 それにオメガ1からの指示は特別科の捕縛、最悪でも抑えることだ」

間違えるなという指揮官らしき男の声に周囲は首肯しているが態度は軽い。

「動きを見る限り、作戦変えてベータチーム(わたしたち)を動かす意味はありそうね」

強い警戒を見せて身構えている特別科を空から見下ろしながらも
奇襲をいなされたというのにその相手を前に緊張感が足りない態度。
所詮は学生という慢心を抱いていることに彼らは気付いていない。

「……アリちゃん、どうしてかな?」

「何がです?」

そんな見下されている視線にさらされながらもどうしてか。
彼女らふたりの顔にあったのは意気揚々としたものが浮かんでいた。

「イッチーに“コレなんとかしろ”って言われてる気がする」

「奇遇ですね、わたくしもそう感じます」

くすりと笑いあった少女らの顔から完全に寂寥感は消えていた。
完全に根拠のない考えなのだがそう思うと不思議と活力が満ちてくる。
経験や練度で勝る相手だろうがどうしてか負ける気さえしてこない。

『わかってるなら、わざわざ通信を入れる必要はなかったか?』

だからか。耳元から聞こえてきた声に驚く事は無かった。
彼女達の顔に浮かぶ笑みがより深くなっただけである。

『ちょっとその勘違い野郎どもを叩き潰してくれるか?
 こっちはまだ目も手も離せなくてな、頼むよ』

その言葉は内容に反して随分と軽い物言いで雑談の一部のよう。
しかし彼女らはそれに自身が高揚してくるのを感じてしまっていた。

「ふふっ、仕方ないねぇ」

「ええ、仕方ありませんわね」

『助かるよ。ヒナ、アリステル、任せた』

「パデュエールの娘よ。我らはガーエン義勇軍を名乗る者。
 出来れば無駄な戦闘は控えたい。おとなしく降伏し、くっ!?」

言葉途中でベータチームの指揮官に向けて彼女は剣を投げつけた。
間一髪で避けた彼も含めて、チーム全体が突然の行動に愕然としている。
交戦する可能性は考えていても有無を言わせずは想像していなかった。
尤も彼女達にしてみれば元より、そして彼からの通信で決まったこと。
アリステルの顔にはいっそ不敵なまでの笑みがある。

「何か仰ったようですが、わたくしはパデュエール家を継ぐ身。
 ガレストの誇り高き守護者の血を受け継ぐ者の一人として
 薄汚いテロリスト達と話すことなど微塵もありません!」

「わーお、アリちゃんカッコイイッ!」

「っ、小娘どもが!」

テロリストと交渉はしない。ましてや降伏など論外。
そう切って捨てた態度より自分達をそう評された事に彼らは憤った。
我等は世界を憂いて立ち上がったのだという独りよがりな憤慨がそこにある。

「俺たちはただガレストを元の正しい姿にっ、ぐっ下から砲撃!?」

宣言通り聞く気のないアリステルが入れた思念通信の指揮の下。
威嚇も宣戦もなく彼らは構えていた射撃兵装で再度躊躇いなく撃つ。
予期していなかった反撃の速さと正確さに彼らの陣形は乱れてしまう。
伊達に特別科に所属してはいない。当てに来る射撃は避けざるをえない。
相手も外骨格による補助(サポート)強化(ブースト)がかかっている状態での攻撃。
学生用だろうともその威力を楽観視するのは危険であった。

「バカなっ! 学生風情が我らと本気で戦う気か!?」

しかしそれでもベータの面々からすればその事実への驚愕が強い。
だが警戒していたつもりの彼らと格上と理解し慢心のない者達とでは
その緊張感と集中力、そしてなによりその本気さに差が出てしまう。
奇妙なことに試験だと思い込んでいる生徒達の方が必死だった。

「それがお似合いだよ。
 ガーエン風情に利用されるだけの愚か者にはね」

「なっ、がっ、ぐはっ!?!?」

その混乱をつく形で彼らの指揮官の眼前には狐娘は突貫していた。
対応する暇を与えずに取り出していた長槍の柄で手早く横腹を殴りつけ、
即座にその場で回転するように反対の横腹にも深く柄を叩きつけた。
途端に長槍は音を立てて折れたが逆をいえばそれが壊れるほどの威力。
肺から酸素が全て吐き出されるような感覚に彼はまともに動けない。

「空虚な理想に酔って沈め」

「っっ!?!?」

笑顔のまま相手にだけ聞こえる冷たい声色で切って捨てると
トドメとばかりにその脳天に踵を落として彼は地表に叩きつけられた。
それも狙ったかのように砂ばかりのここでは珍しい岩場に向けて。

「隊長っ!!」

それらがミューヒが突貫してから一息の間に起こった出来事。
仲間たちは誰もカバーにすら入れず墜ちた仲間を目で追うだけ。
遠目にもバイザーは砕け散り、白目をむいて気絶しているのが見えた。
救助に向かいたくとも生徒達が張る弾幕を前に未だ混乱が続いている。
その中で指揮官が早々に墜落した事はそれに拍車をかけていた。

「余所見する暇など与えません!
 これと『ホーミング』の組み合わせは凶悪ですわよ!」

アリステルは両手に手持ち式のガトリング砲を取り出した。
躊躇いなく放たれる無数の光弾一つ一つに追尾機能が付加されている。
狙いをつけないばら撒きにも近い乱射にも関わらず全てがヒットしていた。

「ぐっ、このっうっとうしい!」
「体勢を立て直す隙がっ!?」

下からは止まない弾幕。目の前からは必ず当たりに来る光弾の雨。
ここまでの動揺と混乱が合わさり彼らは防戦一方となっていた。
否、それさえも出来ていなかったといわざるを得ない。なにせ。

〈姿勢制御バランサー、異常発生、カウルウイング、中破〉

全員の(・・・)外骨格から同じ異常(・・・・)を知らす警告音が鳴り響く。
そしてそれが意味する所を理解した彼らの動揺と混乱は頂点に達した。

「なっ、おいっ、なんだ!!」
「こんなっ、こんなバカな!?」
「狙ってやった!? 嘘でしょ!?」

空中でぐらりと体が傾く。根幹たる重力制御装置に異常はなくとも
バランサーや空中機動に影響する翼を破損しては浮くのさえ難しい。

「アリちゃんったら、ガトリング砲で精密射撃とかやっるぅっ!!」

「対外骨格戦における無力化戦術は十大貴族の嗜みです」

彼女の乱射は囮の光弾を除外すればそれを狙った狙撃ともいえる。
大貴族の跡継ぎたる彼女には外骨格の構造と弱点が教えられていた。
どこにどれだけの衝撃を与え続ければどこに異常が出やすいか。
バランサーとウイングを事実上失ったそれがどれだけ操縦困難か。
それを知るアリステルの攻撃は正確でそして致命的だった。

「では皆さま、ごきげんよう」

今にも優雅に一礼でもしそうな言葉遣いで彼女は己が武装を投げつけた。
長い砲身を持つガトリング砲は幾人ものテロ兵士を巻き込んで墜落させる。
浮くのがやっとな状態に陥った彼らに抵抗する手段はなかった。
残った者達もミューヒによって地面に叩き落されていった。

「……とはいったけど、アリちゃん無理しすぎ」

「うぅ、くっ……やはりあの数の照準とスキル処理はきつかったです」

呆れたような笑顔で無茶を指摘してくる彼女に対して
眩暈を抑えるように額に手を置くが気丈にアリステルは笑ってみせた。
『ホーミング』は射撃兵装の光弾に自動追尾機能を付加するスキルだが
その際、なにを、追う(狙う)かは発射前に使い手が任意で決める必要がある。
本命どころか囮の弾でさえもそうせねばならず撃ち続ける光弾に対し、
一発ずつどこを狙うか綿密に決めなくてはいけなかった。
その対象が20名近いという事も合わせてかかった負担は大きい。
自動連射型兵装とホーミングは狙う方も狙われる方にも凶悪といえた。

「ですがここで手を休めるわけにはいきません。
 彼らに調子を取り戻されてはこちらが不利なのは変わりません」

生徒達の攻撃を前にして無様をさらしたテロリスト達だが、
結果的な奇襲と動揺を突いた勢いによるところが大きい。
落ち着きを取り戻し、連携を取られたら今の優勢は簡単にひっくり返る。
それだけ練度や装備の性能差がある事は見ただけで分かっていた。
アリステルに至っては鍔迫り合いになった際に外骨格の性能差を痛感。
ステータスの差が無ければあっさり押し負けていたと考えている。
ミューヒもまたそれらを理解してか武装を壊すほどの力を込めて攻撃したのだ。

「だからあの子らを今襲わせているわけね」

眼下を見れば、地に落ちた所を狙ってクラスメイト達が襲撃している。
落下の衝撃と混乱、そして人数差が地力の差を今だけ埋める事に成功していた。

「はぁはぁ……ふぅ。
 あの方に名指しで任されたのです。
 しくじれません、行きますよ!」

「あ、ちょっと!?
 まったくもう、ぞっこんなんだから。
 まあボクも今日は元気いっぱいだけどね!」

息を整え、外骨格を操って一直線に降下していく姿に微笑みながら
ミューヒもまた続くように混戦状態になりつつある地上に降りていく。
こうして特別科の合同チームとガーエン義勇軍の激突は地上戦に移行した。
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